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渡易水 | |
明・陳子龍 |
并刀昨夜匣中鳴,
燕趙悲歌最不平。
易水潺湲雲草碧,
可憐無處送荊卿。
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易水を渡る
并刀 昨夜匣 中に鳴り,
燕趙 の悲歌 最も平らかならず。
易水 潺湲 として雲草 碧 けれど,
憐 む可 し 處として荊卿 を送る 無きを。
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◎ 私感註釈
※陳子龍:明末清初の文学家。萬暦三十六年(1608年)~永暦元年/清・順治四年(1647年)。字は臥子、懋中、人中。号して、大樽、海士、軼符、等。南直隷・松江・華亭(現・上海松江)の人。崇禎十年の進士。明の滅亡後、抗清の蹶起に参加するが、敗れて捕まり、やがて投水して自決した。「明代第一の詞人」。
※渡易水:易水(えきすい)を渡る。 ・易水:〔えきすゐyi4shui3●●〕河北省を流れる川。太行山脈北部の五廻嶺に源を発し、大清河に合流する流れ。この畔で、戦国時代、燕(えん)のため、秦王・政(=後の秦(しん)の始皇帝)暗殺に赴く刺客・荊軻(けいか)が、この川のほとりで太子丹との別れに『易水歌』「風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還。」と詠じたところ。『史記』(卷八十六・刺客列傳第二十六
には、その場面を次のように記している:「太子及賓客知其事者,皆白衣冠以送之。至易水之上,既祖,取道,高漸離撃筑,荊軻和而歌,爲變徴之聲,士皆垂涙涕。又前而爲歌曰:『風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還!』復爲羽聲慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」と悲壮な別れで有名な荊軻の易水の別れの場面
に基づいている。なお、『易水歌』
ページには、荊軻関聯の詩を集めている。初唐・駱賓王の『易水送別』に「此地別燕丹,壯士髮衝冠。昔時人已沒,今日水猶寒。」
とある。
※并刀昨夜匣中鳴:并州(へいしゅう)で作られた鋭利な刀が、昨夜、箱の中で鳴いて。 ・并刀:并州(晋陽=現・山西省太原市一帯)で作られた刀。鋭利なことで有名。≒利剣。宝刀。 ・匣:〔かふ;xia2●〕箱。ここでは刀を納めた箱のこと。明末・張煌言の『柳梢青』に「錦樣江山。何人壞了,雨瘴煙巒。故苑鶯花,舊家燕子,一例闌珊。 此身付與天頑。休更問、秦關漢關。白髮鏡中,靑萍匣裏,和涙相看。」とある。
※燕趙悲歌最不平:(戦国時代の)燕国と趙国の悲しみをうたった歌が、最も義侠心にかられる。 ・燕趙:戦国時代の六国の中の燕と趙と。強大な秦に対抗していた国。現・河北省と山東省/山西省北部。 ・悲歌:悲しみをうたった歌。また、悲しげに歌う。晋・陸機の『短歌行』に「置酒高堂,悲歌臨觴。人壽幾何,逝如朝霜。時無重至,華不再陽。蘋以春暉,蘭以秋芳。來日苦短,去日苦長。今我不樂,蟋蟀在房。樂以會興,悲以別章。豈曰無感,憂爲子忘。我酒既旨,我肴既臧。短歌有詠,長夜無荒。」とあり、南宋・陸游の『樓上醉歌』に「我遊四方不得意,陽狂施藥成都市。大瓢滿貯隨所求,聊爲疲民起憔悴。瓢空夜静上高樓,買酒捲簾邀月醉。醉中拂劍光射月,往往悲歌獨流涕。剗却君山湘水平,斫却桂樹月更明。丈夫有志苦難成,修名未立華髪生。」
とある。 ・不平:憤りを覚える。義侠心にかられる。たいらかでない。不公平である。
※易水潺湲雲草碧:易水(えきすい)はさらさらと流れて、空は青く、草も青く。(自然はその当時と変わることがないが)。 ・潺湲:〔せんくゎん;chan2yuan2○○〕水のさらさら流れるさま。また、その音。涙のさめざめと流れるさま。 ・雲草碧:空は青く、草も青い。
※可憐無処送荊卿:ああ、残念なことに、どこにも荊軻(けいか)を見送っている姿がない。 ・可憐:あわれである。かわいそうである。同情する。あわれむべし。 ・無処:どこにも…ない。ところとして…なし。 ・送:見送る。 ・荊卿:荊軻(けいか)のこと。荊軻に対して敬意を込めての表現。荊軻は、戦国時代末期、燕から秦に派遣された刺客。秦王・政(=後の始皇帝)の暗殺を試みたが果たせなかった。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「鳴平卿」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●○●●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2017.8.3 8.4 8.5 8.6 8.9 |
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