易水歌
燕 荊軻
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風 蕭蕭(せうせう)として 易水(えきすゐ) 寒く ,
壯士 一たび去りて 復(ま)た還(かへ)らず。
私感訳注:
※荊軻:戦国時代の刺客。燕の太子丹より、強大になってきた秦を倒すべく秦王・政(後の秦の始皇帝)の暗殺を命じられた壮士。暗殺は最後の段階で失敗し、果たせなかった。〜前227年。
※易水歌:易水のほとりでの歌。『史記・刺客列傳』に出てくる歌。 ・易水:〔えきすゐyi4shui3●●〕北京の南西を流れる川で、白河に合流する。
※風蕭蕭兮易水寒:風はもの寂しく、易水は寒々としている。 ・蕭蕭:〔せうせう;xiao1xiao1○○〕もの寂しいさま。ここでは風がもの寂しく吹く様子を言う。 ・兮:〔けい;xi1○〕語調を整えるための音(字)。現代語では、確か「a」に当たるはず。取り立てた意味はない。詩経をはじめ、古代詩でよくみかける。
※壯士一去兮不復還:勇壮な男子は、ひとたび去れば、二度と再び還ってこない。 ・壯士:勇壮な男子。詩詞では勇壮な戦士の意で屡々でてくる。ここでは国士、刺客になる。 ・一去:ひとたび去る。 ・不復還:「不復…」は「二度と再び還ってこない」の意味。「復不…」であれば、「(この前行った者も還ってこなかったが。今度も)また、還ってこない」となる。
◎『史記・刺客列傳』に出てくる歌。戦国七雄の一、燕の太子丹より、強大になってきた秦王政(後の秦の始皇帝)の暗殺を命じられた荊軻は、匕首を授かり秦に向かって旅立つ。決死の旅ゆえ、太子をはじめ皆は白の喪服に身を包んで、燕の国境である易水のほとりまで見送り、惜別に際して、高漸離が筑を奏で、荊軻がそれに合わせて歌ったのがこれである。これを聞いた皆は瞑目し、髪は逆立って冠を突いたという。
史記卷八十六・刺客列傳第二十六には、その場面を次のように記している:「太子及賓客知其事者,皆白衣冠以送之。至易水之上,既祖,取道,高漸離撃筑,荊軻和而歌,爲變徴之聲,士皆垂涙涕。又前而爲歌曰:『風蕭蕭兮易水寒,壯士一去兮不復還!』復爲偵゚慷慨,士皆瞑目,髮盡上指冠。於是荊軻就車而去,終已不顧。」(羽声:音楽用語。五音の一。)
なお、秦に行った荊軻の状況はここを参照。
なお、この故事は『史記』の外に、『燕丹子』(無名氏)、『東周列国史』(馮夢龍)に取り入れられているという。現代で、これを物語にしたのに「剣侠荊軻」(李海生著:上海人民出版社1997年)がある。そこには、この詩の続きが載っており、面白いので次に紹介する。これはこの著者が作ったものなのか、前出二書のどれかに出てくるものなのかは、未確認。(『史記』には載っていない。)
風蕭蕭兮易水寒,
壯士一去兮不復還。
さらに続けて
探虎穴兮入蛟宮,
仰天嘘兮成白虹。
これに対して人々は、次のように歌った。
壯士去兮肝腸斷,
無知音兮木筑爛;
身後事兮莫念,
生死交兮義如山。
なお、秦に行った荊軻の状況はここを参照。
また、荊軻の最期は、「遂拔以撃荊軻,斷其左股。荊軻廢,乃引其匕首以(zhi4;なげる)秦王,不中(あたらず),中桐柱。秦王復撃軻,軻被八創。(荊)軻自知事不就,倚柱而笑,箕踞以罵曰:『事所以不成者,以欲生劫之,必得約契以報太子也』。」(「史記」同上述章)と伝えられている。
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荊軻は歴代の人に関心が高く、数多く詠われている。
以下のページでは、それぞれ荊軻についての詩をとりあげている。
東晋の陶淵明は「詠荊軻」(燕丹善養士)で、詠っている。
西晋の左思も「詠史詩」八首の其六(荊軻飮燕市)で荊軻の燕での日常や人となりを詠っている。
西晋の張華は、「壯士篇」(天地相震蕩)で、うたいあげている。
唐代では駱賓王に「易水送別」(此地別燕丹)がある。
高適は「酬裴員外以詩代書」(荊卿吾所悲)
王昌齡は、「雜興」(握中銅匕首)と題して独特の見解を示している。
宋の辛棄疾も「賀新郎」
清末の秋瑾も「寶刀歌」(不觀荊軻作秦客)でも、ここの詩句を使っている。
劉叉の「嘲荊卿」(白虹千里氣)では、荊軻に批判的である。
なお、本サイトに投稿された補足齋主も次のようにな作品を著しておられる。
◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「寒還」で、平水韻でいえば上平十四寒(寒)、上平十五刪(還)。次の平仄はこの作品のもの。
|
○○○○ ●●○, |
(韻) |
|
●●●●○ ●●○。 |
(韻) |
2000. 3. 6
3. 7完
4. 2補
2001.10.10
10.11
10.24
2002.11. 6
2003. 1.24
3.15
4.26
2005.10.23
2007. 9.20_c
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