上官婉児上官婉兒綵書怨　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Shangguan Wan'er

綵書怨
	上官婉兒

葉下洞庭初，
思君萬里餘。
露濃香被冷，
月落錦屏虚。
欲奏江南曲，
貪封薊北書。
書中無別意，
惟悵久離居。

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綵書怨
　　

葉は下ちる　　洞庭の初なぎさ，
君を思ふ　　萬里餘。　　
露濃くして　　香被かうひ冷ひややかに，
月は落ちて　　錦屏きんぺい虚うつろなり。
奏かなでんと欲す　　江南の曲，
貪みだりに封ふうす　　薊北けいほくの書。
書中に　　別意　無く，　　
惟ただ悵うらむらくは　　離居りきょ久ひさしきを。

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◎　私感註釈

※上官婉兒：〔じゃうくゎん・ゑんじ；ShàngguānWǎn'ér　ShàngguānWǎr〕「上官」は複姓の一。なお、「婉兒」の中国語の読みは、一文字ずつ正確に読んでいけば「ShàngguānWǎn'ér」で、「wan'er」。『中国大百科全書　中国文学Ⅱ』６９３ページには「Shangguan Wan'er」と載っている。（蛇足になるが、中国映画『武則天』では、則天武后は上官婉兒を「ShàngguānWǎr」と呼んでいた。唐代の人名の読みを現代北京語で論じるのも？？）。６６４年（麟徳元年）～７１０年（景龍四年／唐隆元年／景雲元年）。唐代の女官。唐・中宗の時、昭容の職位に就く。陝州陝県（現・河南省）の人。上官儀の孫で才媛。後に、政変のため殺された。

※綵書怨：別離の怨み言を識した（女性の書く）美しいいろどりの手紙の詩。綵書＝彩書。

※葉下洞庭初：木の葉が洞庭湖の渚（なぎさ）に落ちて。　・葉下：木の葉が落ちる。　・洞庭：岳州にある洞庭湖。北方人の上官婉兒は、恐らく江南を知らないだろう。屈原の『楚辭・湘夫人』の最初の部分「帝子降兮北渚，目眇眇兮愁予。嫋嫋兮秋風，洞庭波兮木葉下。」からその雰囲気をとっている。　・初：はし。（湖の）渚（なぎさ）。（山の）麓。はじめ。おこり。もと。「渚」。上掲『楚辭・湘夫人』の青字部分。

※思君萬里餘：遥か地の涯にいる夫を思い偲んでいる。　・思君：夫を思い偲ぶ。　・萬里餘：人為では行き難い遥かな距離。

※露濃香被冷：夜露が繁く降りて、夜も更（ふ）け、（女性の香を焚きしめた）かぐわしい褥（しとね）も（夫が不在のため、）寒々しく独り寝して。　・露濃：夜露が繁く降りている。夜が更（ふ）けたことを謂う。　・香被：（身分高い女性の香を焚きしめた）かぐわしいしとね。　・冷：（結婚しているものの、異性が不在のため、）寒々しく独り寝している。

※月落錦屏虚：月が西空に沈んで時間も随分と経（た）って、女性の部屋にある美しい屏風（びょうぶ）がむなしくうつろである。　・月落：月が西空に沈む。時間が経過したことを謂う。　・錦屏：女性の部屋にある錦を張った屏風（びょうぶ）。美しい衝立（ついたて）。　・虚：むなしい。空（から）。うつろ。夫が不在の心的情景。

※欲奏江南曲：江南で流行っている男女間の恋愛の歌曲を奏（かな）でようとして。　・欲：…ようとする。　・江南曲：江南で流行っている『江南』「江南可採蓮，蓮葉何田田。魚戲蓮葉閒。魚戲蓮葉東。魚戲蓮葉西。魚戲蓮葉南。魚戲蓮葉北。』のような、男女間の恋愛の歌曲。

※貪封薊北書：貪るように何度も、北方の辺塞の地で軍務に就いている夫の許に手紙を出すが。　・貪：欲ばる。むさぼる。　・封：封書を出す。　・薊北書：内地にいる妻が北方の辺塞の地で軍務に就いている夫の許に出す手紙。　・薊北：〔けいほく；Ji4bei3〕戦国時代の燕の国。現・北京の西南方。ここでは､北方の辺塞の地を謂う。

※書中無別意：手紙の中身は、特別な内容は無く。　・書中：手紙の中身。　・別意：特別な内容。格別の意味。

※惟悵久離居：ただ、別居生活が長いことの怨み言だけだ。　・惟悵：ただ、怨めしいの（は）。　・久離居：別居生活が長い。

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◎　構成について

韻式は、「AAAAA」。韻脚は「初餘虚書居」で、平水韻上平六魚。この作品の平仄は、次の通り。

●●●○○，（韻）
○○●●○。（韻）
●○○●●，
●●●○○。（韻）
●●○○●，
○○●●○。（韻）
○○○●●，
○●●○○。（韻）