呉宮懷古 | |
陸龜蒙 |
香徑長洲盡棘叢,
奢雲豔雨祗悲風。
呉王事事須亡國,
未必西施勝六宮。
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呉宮懷古
香徑 長洲は 盡く 棘叢たりて,
奢雲 豔雨は 祗だ 悲風のみ。
呉王の事事 須く 國を亡ぼすべく,
未だ必ずしも 西施 六宮に勝らず。
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◎ 私感註釈
※陸龜蒙:晩唐の詩人。?〜881年(中和元年)。字は魯望。号は江湖散人。姑蘇(現・江蘇省)の人。
※呉宮懷古:春秋・呉の宮殿跡にて昔を懐かしく思う。 *春秋・呉が亡んだのは、西施の女色によってではなく、呉王・夫差自身の行ったあらゆる物事にその原因があると詠う。
※香徑長洲盡棘叢:花の咲き匂う小径(こみち)や庭池の中洲(なかす)は、今は尽(ことごと)く棘(いばら)の茂(しげ)みとなってしまって。 ・香徑:花の咲き匂う小径(こみち)。 ・長洲:庭池の中洲(なかす)。 ・洲:島。 ・盡:尽(ことごと)く ・棘叢:棘(いばら)の茂(しげ)み。
※奢雲豔雨祗悲風:艶めかしい情愛の雲雨は(消え去って)、今はただ悲しげな風のみとなってしまった。 ・奢雲豔雨:艶(なま)めかしい情愛の雲雨。 ・豔:≒艷(艶)。 ・祗:ただ。≒只。 ・悲風:悲しげな風。
※呉王事事須亡國:呉王が行(おこな)ったいろいろな事が、当然ながら国を亡(ほろ)ぼすようなものであって。 ・呉王:春秋時代の呉の王で、ここでは呉王・夫差(ふさ)のことをいう。(在位前496年〜前473年)。父の闔閭(こうりょ)が越王・勾践(こうせん)と戦って死ぬと、臥薪嘗胆して復讐を誓い、やがて竟(つい)に越軍を破った。呉に敗れた越王・勾践は西施を呉王・夫差に献上、呉王・夫差がその容色に溺れた隙をついて呉を滅ぼしたと伝えられる。李白の『蘇臺覽古』「舊苑荒臺楊柳新,菱歌C唱不勝春。只今惟有西江月,曾照呉王宮裡人。」や、牛の『楊柳枝』に「呉王宮裏色偏深,一簇纖條萬縷金。不憤錢塘蘇小小,引カ松下結同心。」とある。 ・事事:よろずの事。いいろいろな事がら。あらゆる物事。 ・須:当然…すべきだ。 ・亡國:国を亡(ほろ)ぼす。
※未必西施勝六宮:必ずしも西施(の容色)が、後宮の美女たちに勝(まさ)っていたとは限らないのだ。 ・未必:…とは限らない。必ずしも…でない。 ・西施:〔せいし;Xi1Shi1○○〕春秋時代、紀元前五世紀ごろの越の国の美女。本名は施夷光。呉に敗れた越王・勾践は西施を呉王・夫差に献上、夫差をその容色に溺れさせ呉を自滅させた女性。樓穎の『西施石』「西施昔日浣紗津,石上苔思殺人。一去姑蘇不復返,岸傍桃李爲誰春。」や、五古『越中覽古』「越王勾踐破呉歸,義士還家盡錦衣。宮女如花滿春殿,只今唯有鷓鴣飛。」や、李白の『登金陵鳳凰臺』「鳳凰臺上鳳凰遊,鳳去臺空江自流。呉宮花草埋幽徑,晉代衣冠成古丘。三山半落天外,二水中分白鷺洲。總爲浮雲能蔽日,長安不見使人愁。」がある。 ・勝:まさる。 ・六宮:〔りくきゅう(りっきゅう);liu4gong1●○〕皇后の宮殿。皇后や宮女のいる奥御殿。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「叢風宮」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○◎●○。(韻)
2009.2.17 |
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