楊柳枝　

      　　　　　　　　　　　牛

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
呉王宮裏　　色　偏（ひと）へに 深く，
一簇（いっそう）の　纖（ほそ）き條（えだ）　　萬縷の金。
憤（いきどほ）らずや　錢塘の　　蘇小小，
郎を 引きて　松下に　　同心を 結ぶ。

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◎　私感註釈

※牛：晩唐の詩人。字は松卿。隴西の人。乾符五年に進士となる。

※楊柳枝：白居易が始めた歌曲様式。本来は漢の鐃歌鼓吹曲で、唐の教坊曲。白居易は古い曲名を借りて新たな曲を作った、そのことを宣言した詞。詩の形式は七言絶句体であるが、白居易が新たな曲調を附けたもの。柳を詠い込む唐の都・洛陽の民歌として作っている。やがて、詞牌として数えられる。七言絶句の形式をした例外的な填詞。七言絶句形式や七言四句体をした填詞には他に『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙（二十八字体）』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』などがある。それぞれ七言絶句体と平仄や押韻が異なる。唱うときの曲調も当然ながら異なっている。これら『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙（二十八字体）』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』の平仄上の差異についてはこちら。七言絶句体で、七言絶句とされないものに『竹枝詞』がある。七言絶句体の填詞は、填詞の発展といった系統樹でみれば幾つかある根の一になる。文字数や格律といった、外的な形式では以上の通り。填詞についての詳しい説明はこちら。内容、文字表現面では、『楊柳枝』と前出『竹枝詞』との違いを強調してみれば、前者『楊柳枝』は、都・洛陽の民歌となるだけに優雅である。それに対して『竹枝詞』は、表現が直截である。巴渝（現・四川東部）の人情、風土を歌ったもので、鄙びた風情とともに露骨な情愛を謡っていることである。相似点は、どちらも典故や格調を気にせず、近体七言絶句よりも気楽に作られていることである。七言絶句体でで、これらのような変化に富んだ詞牌のようなものがいくつもあるということは、唱われたときの曲調（メロディー）が異なる「異調同形」のものと謂える。『楊柳枝』には中唐・白居易の『楊柳枝』其一「六水調家家唱」、『楊柳枝』其二「陶令門前四五樹」、、『楊柳枝』其三「依依嫋嫋復青青」、『楊柳枝』其四「紅版江橋青酒旗」、『楊柳枝』其五「蘇州楊柳任君誇」、『楊柳枝』其六「蘇家小女舊知名」、『楊柳枝』其七「葉含濃露如啼眼」、『楊柳枝』其八「人言柳葉似愁眉」や、劉禹錫の『楊柳枝詞』「 煬帝行宮水濱，數枝楊柳不勝春。晩來風起花如雪，飛入宮牆不見人。」 がある。
柳をうたったものには初唐・郭振の『子夜四時歌六首　春歌』「陌頭楊柳枝，已被春風吹。妾心正斷絶，君懷那得知。」などがある。

※呉王宮裏色偏深：呉王（夫差）の宮殿跡は、（柳が）ひときわ深く。　・呉王宮：呉王夫差（と愛妃・西施とが過ごした）宮殿（の姑蘇台）呉王・夫差には、越王・勾践を破った時、范蠡が送った絶世の美女・西施との愛情譚がある。　・色：柳の緑の色のことであるが、呉王夫差（と愛妃・西施との情愛をも感じさせる表現である。　・偏深：ひとえに深い。ひときわ深い。

※一簇纖條萬縷金：一むらがりの細くしなやかな枝は、極めてたくさんの金の糸（のようだ）。　・簇：〔そう；cu4●〕むらがりはえる。　・纖條：〔せんでう；xian1tiao2○○〕細くしなやかな枝。　・萬縷金：極めてたくさんの金の糸。柳の新芽や若葉は黄色っぽいのか。李白の『古風・其八』でも「咸陽二三月，宮柳黄金枝。��誰家子，賣珠輕薄兒。」、白居易の『楊柳枝』其二でも「陶令門前四五樹， 亞夫營裏百千條。何似東�ｷ正二月，黄金枝映洛陽橋。」とある。　・縷：〔る；lu3〕糸。いとすじ。

※不憤錢塘蘇小小：（才媛の名妓である）銭塘の蘇小小は、憤らないのか。　・不憤：〔ふ（ふつ）ふん；bu4（2）fen4●●〕いきどおらないのか。うらまないのか。いからないのか。いきどほらずや。反問。「不聞」「不見」のどの用法に同じ。岑参に「君不聞胡笳聲最悲，紫髯�濠瘡ﾓ人吹。」、杜甫の『貧交行』に「翻手作雲覆手雨，紛紛輕薄何須數。君不見管鮑貧時交，此道今人棄如土。」とある。 　・錢塘：現・杭州。　・蘇小小：〔そせうせう；su1xiao3xiao3○●●〕南斉・錢唐（錢塘（杭州））の才媛の妓女の名。彼女が作った詩は『玉臺新詠』に残されている。『歌一首』（『蘇小小歌』『西陵歌』）「妾乘油壁車，�ｶ乘��馬。何處結同心？西陵松柏下。」 というのがそれになる。後世、蘇小小については、白居易の『楊柳枝』其五「蘇州楊柳任君誇，更有錢塘勝館娃。若解多情尋小小，�漉k深處是蘇家。」、とあり、『楊柳枝』其六に「蘇家小女舊知名，楊柳風前別有情。剥條盤作銀環樣，卷葉吹爲玉笛聲。」、とあり、同・白居易の『餘杭形勝』「餘杭形勝四方無，州傍��山縣枕湖。遶郭荷花三十里，拂城松樹一千株。夢兒亭古傳名謝，�ﾍ妓樓新道姓蘇。獨有使君年太老，風光不稱白髭鬚。」とあり、杜牧は『自宣城赴官上京』「瀟灑江湖十過秋，酒杯無日不淹留。謝公城畔溪驚夢，蘇小門前柳拂頭。千里雲山何處好，幾人襟韻一生休。塵冠挂卻知�闔磨C終擬蹉訪舊遊。」 とあり、温庭には『楊柳枝』「蘇小門前柳萬條，金線拂平橋。黄鶯不語東風起，深閉朱門伴細腰。」 、五代・梁・羅隱の『江南行』「江煙雨蛟軟，漠漠小山眉黛淺。水國多愁又有情，夜槽壓酒銀船滿。細絲搖柳凝曉空，呉王臺春夢中。鴛鴦喚不起，平鋪�告�眠東風。西陵路邊月悄悄，油碧輕車蘇小小。」 と、多くの作品が作られている。現在、杭州西湖畔（西北）に墳墓 がある。

※引郎松下結同心：男を連れて（やむを得ず）松の木の下で契りを交わした（そうだが）。　*前出・蘇小小の『西陵歌』「妾乘油壁車，�ｶ乘��馬。何處結同心？西陵松柏下。」に因る。　・引郎：男を連れて。　・松下：松の木の下で。　・結同心：男女が契りを交わす。
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◎　構成について

一韻到底。韻式は、「AAA」。韻脚は「深金心」で、平水韻下平十二侵。次の平仄はこの作品のもの。

○○○●●○○，（韻）
●●○○●●○。（韻）
●●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）

２００７．５．１１ 　　　　　５．１２完 　　　　　５．１３補

漢詩　填詞　詩餘　詩余　

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