怨詩 | |
唐・張汯 |
去年離別雁初歸,
今歳裁縫螢已飛。
狂客未來音信斷,
不知何處寄寒衣。
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怨詩
去年 離別して 雁 初めて歸り,
今歳 裁縫して 螢 已に飛ぶ。
狂客 未だ來らず 音信 斷え,
知らず 何處にか 寒衣を寄するを。
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◎ 私感註釈
※張汯:〔ちゃうこう(ちょうこう);Zhang1 Hong2〕初唐の詩人。官僚。張紘〔ちゃうこう(ちょうこう);Zhang1 Hong2〕ともする。
※怨詩:夫と別れたままの怨みや、君主の失寵をうたった詩。女性の身になって詠う。『全唐詩』では「閨怨」とする。ここでは『萬首唐人絶句』(巻十七)での詩題を採り上げた。似たイメージの詩に王昌齡『閨怨』「閨中少婦不知愁,春日凝妝上翠樓。忽見陌頭楊柳色,悔ヘ夫壻覓封侯。」や敦煌曲子詞の『搗練子』「孟姜女,杞梁妻。一去燕山更不歸。造得寒衣無人送,不免自家送征衣。」がある。
※去年離別雁初歸:去年に(愛しい男性と)別れたのは、渡り鳥のガンが(越冬の為に南の国への)渡り初めの秋の季節だった。(日本的な気候で考えれば、春先に北国へ帰っていく時だが…) *この聯は対句で構成されている。 ・離別:離れる。別離する。 ・雁:渡り鳥のガン。 ・初歸:越冬の為に初めて南の国へ渡っていく鳥の飛び出す秋の季節。
※今歳裁縫螢已飛:今年になって(愛しい男性の冬服を)縫い始めたのは、ホタルがすでに飛び始めた時(初夏)だった。 *この句は『萬首唐人絶句』に拠るもので、『全唐詩』では「今夜裁縫螢已飛」とする。 ・今歳:「今夜」ともする。 ・裁縫:〔さいほう;cai2feng2○○〕布を裁って衣服を縫う。 ・螢:(初夏に現れる)ホタル。 ・已飛:すでに飛び始めている。
※狂客未來音信斷:軽はずみな人(=夫)は帰ってくることもなく、便りも絶えて。 *この句は『萬首唐人絶句』に拠るもので、『全唐詩』では「征客近來音信斷」とする。 ・狂客:〔きゃうかく;kuang2ke4○●〕軽はずみな人。常軌を逸した人。奇抜な振る舞いをする人士。また、楊花の異名で、楊花は浮気っぽい人のことをも謂う。ここでは、夫のことになる。盛唐・李白の『對酒憶賀監』に「四明有狂客,風流賀季真。長安一相見,呼我謫仙人。昔好杯中物,今爲松下塵。金龜換酒處,卻憶涙沾巾。」とある。但し、この例の場合は賀知章の自号が「四明狂客」であることに因る。 ・未來:まだ(もどって)来ない。 ・來:ここでは、「來」は、「狂客」が「未來」なのか、「音信」が「未來」なのか、どちらともとり得る。しかし、「狂客未來音信斷」は句中の対・「〔狂客・未來〕〔音信・斷〕」を構成しているので、前者・「『狂客』が『未だ來らず』」ととるのが自然。 ・斷:絶える。関係をなくする。見捨てる。断ち切る。切り離す。 ・音信:〔いん(おん)しん;yin1xin1○○〕便り。消息。 ・斷:絶える。関係をなくする。見捨てる。断ち切る。切り離す。
※不知何處寄寒衣:(縫い上がった)冬服を、どこへ送ればいいのか分からない(で困っている)。 ・不知:分からない。 ・何處:どこ。 ・寄:郵送する。送る。 ・寒衣:寒さを防ぐ衣服。冬の衣服。綿入れ。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「歸飛衣」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○○●○。(韻)
○●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2010.2.26 2.27 2.28 |
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