楊柳枝詞 | |
唐・白居易 |
一樹春風千萬枝,
嫩於金色軟於絲。
永豐西角荒園裏,
盡日無人屬阿誰。
******
楊柳枝詞
一樹 春風 千萬枝,
金色よりも嫩に 絲よりも軟。
永豐の西角 荒園の裏,
盡日 人 無し 阿誰に 屬せん。
****************
◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。作者は、この『楊柳枝』シリーズや、『竹枝詞』、『新楽府』シリーズと詩歌、音楽上の実験に精力的に活動している。
※楊柳枝:柳の可憐な風情を詠う。また、白居易が囲っていた女性のことを詠ったともいう。
白居易のこの詩が唱われているのを帝が聞き、「この詩は誰が作った」と尋ねられ、更に永豊坊に人を派遣して柳の枝二本を採ってこさせて、宮中に挿し木させた。この風雅な天子のことばと振る舞いに感じた白居易は、更に『詔取永豐坊柳植禁苑感賦』「一樹衰殘委泥土,雙枝榮耀植天庭。定知玄象今春後,柳宿光中添兩星。」を作った。なお、中唐の盧貞はこれに基づいて、『詔取永豐坊柳植禁苑』「一樹依依在永豐,兩枝飛去杳無蹤。玉皇曾採人間曲,應逐歌聲入九重。」を作った。白居易が始めた歌曲様式。本来は漢の鐃歌鼓吹曲で、唐の教坊曲。白居易は古い曲名を借りて新たな曲を作った、そのことを宣言した詞。詩の形式は七言絶句体であるが、白居易が新たな曲調を附けたもの。柳を詠い込む唐の都・洛陽の民歌として作っている。やがて、詞牌として数えられる。七言絶句の形式をした例外的な填詞。七言絶句形式や七言四句体をした填詞には他に『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』などがある。それぞれ七言絶句体と平仄や押韻が異なる。また、曲調も当然ながら異なりあっている。これら『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』の平仄上の差異についてはこちら。白居易の一連の『楊柳枝』「六水調家家唱,白雪梅花處處吹。古歌舊曲君休聽,聽取新翻楊柳枝。」はこちら以降」にある。七言絶句体で、七言絶句とされないものに『竹枝詞』があるが、それも特別にページを設けている。本サイトでは、基本的に填詞(宋詞)を採りあげている。七言絶句体の填詞は、填詞の発展といった系統樹でみれば幾つかある根の一になる。填詞についての詳しい説明はこちら。『楊柳枝』と前出『竹枝詞』との違いを強調してみれば、前者『楊柳枝』は、都・洛陽の民歌となるだけに優雅である。それに対して『竹枝詞』は、表現が直截である。巴渝(現・四川東部)の人情、風土を歌ったもので、鄙びた風情とともに露骨な情愛を謡っていることである。相似点は、どちらも典故や格調を気にせず、近体七言絶句よりも気楽に作られていることである。
※一樹春風千萬枝:一本の(柳の)樹に春風が吹いてきて、多くの枝は。
※嫩於金色軟於絲:(柳の枝のさまは)(金属の)金の色よりもわかわかしくしっとりとした(黄金色で、)きいとよりも柔らかい(感じである)。 ・於:〔形容詞+於〕 …よりも。「A(形容詞)於B(名詞)」BよりもAい。(←「-い」は、日本語の形容詞の活用語尾としてのもの)。杜牧の『山行』に「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」とあり、白居易の『讀道コ經』に「玄元皇帝著遺文,烏角先生仰後塵。金玉滿堂非己物,子孫委蛻是他人。世間盡不關吾事,天下無親於我身。只有一身宜愛護,少ヘ冰炭逼心~。」とあり、 唐・蜀 韋莊の『菩薩蠻』に「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還ク,還ク須斷腸。」とある「於」に同じ。 ・嫩:〔どん;nen4●〕若い。若くしてしなやか。やわらかい。 ・絲:きいと。絹糸。いと。また糸のように細長い柳の枝「柳糸」。 ・嫩於金色:金の色よりもわかわかしい意。 ・軟於絲:きいとよりも柔らかい意。
※永豐西角荒園裏:(その柳(≒女性)は、洛陽の中央南寄りの)街の永豊坊の西側の角にある、荒れはてて雑草が生えているにわの中にあって。 ・永豐:洛陽の街の名。永豊坊。洛陽城中央の南よりのところ。伊水の支流と支流の間で、現在の地図と照らし合わせて見るに、相当南よりの郊外になる。『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社(1991年上海)平岡武夫(原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版の中国での復刻唐代研究地図集)の「圖版二六 第四〇圖 洛陽城圖」にあり、それに拠る。 ・荒園:あれはてて雑草が生えているにわ。 ・裏:うち。中。
※盡日無人屬阿誰:一日中誰も訪れて(愛(め)でる)者が無いが、一体誰のものなのだろうか。 ・盡日:〔じんじつ;jin4ri4●●〕一日中。終日。 ・無人-:…する人がいない。 ・屬:〔ぞく;shu3●〕属する。したがう。附く。 ・阿誰:〔あすゐ;a1shui2○○〕だれ。誰。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「枝絲誰」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●◎○。(韻)
2010.3. 9 3.10 3.11 3.13 3.15完 2015.4.20補 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |