詔取永豐坊柳植禁苑感賦 | |
唐・白居易 |
一樹衰殘委泥土,
雙枝榮耀植天庭。
定知玄象今春後,
柳宿光中添兩星。
******
詔して永豐坊の柳を取り禁苑に植ゑしむ 感じて賦す
一樹 衰殘して 泥土に委し,
雙枝 榮耀 天庭に植ゑしむ。
定めて知らん 玄象 今春の後,
柳宿 光中に 兩星を添へるを。
****************
◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号して香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。左拾遺になるが、江州の司馬に左遷され、後、杭州刺史を任ぜらる。やがて刑部侍郎、太子少傅、刑部尚書を歴任する。その詩風は、平易通俗な語彙表現を好み、この『楊柳枝』シリーズや、『竹枝詞』、『新楽府』シリーズと詩歌、音楽上の実験に精力的に挑戦し、諷諭詩や感傷詩でも活躍し、仏教に帰依した。本サイトでは、『抒情詩の頁』に多く集めている。
※詔取永豐坊柳植禁苑感賦:帝の詔(みことのり)で、永豊坊の柳が天子の庭園に植えられたことに感じて詠った詩。 *白居易が、柳の風情と自分の囲っている女性とを併せて『楊柳枝詞』「一樹春風千萬枝, 嫩於金色軟於絲。 永豐西角荒園裏, 盡日無人屬阿誰。」を詠った。帝は、この『楊柳枝詞』が唱われているのを聞き、「この詩は誰が作った」と尋ねられ、更に永豊坊に人を派遣して柳の枝二本を採ってこさせて、宮中に挿し木させた。この風雅な天子のことばと振る舞いに感じた白居易は、再びこの『詔取永豐坊柳植禁苑感賦』「一樹衰殘委泥土,雙枝榮耀植天庭。定知玄象今春後,柳宿光中添兩星。」を作ってその光栄を詠った。なお、中唐の盧貞はこれに基づいて、『詔取永豐坊柳植禁苑』「一樹依依在永豐,兩枝飛去杳無蹤。玉皇曾採人間曲,應逐歌聲入九重。」を作った。白居易が始めた歌曲様式。本来は漢の鐃歌鼓吹曲で、唐の教坊曲。白居易は古い曲名を借りて新たな曲を作った、そのことを宣言した詞。詩の形式は七言絶句体であるが、白居易が新たな曲調を附けたもの。柳を詠い込む唐の都・洛陽の民歌として作っている。やがて、詞牌として数えられる。七言絶句の形式をした例外的な填詞。七言絶句形式や七言四句体をした填詞には他に『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』などがある。それぞれ七言絶句体と平仄や押韻が異なる。また、曲調も当然ながら異なりあっている。これら『採蓮子』『陽関曲』『浪淘沙(二十八字体)』『八拍蠻』『江南春』『阿那曲』『欸乃曲』『水調歌』『清平調』の平仄上の差異についてはこちら。白居易の一連の『楊柳枝』「六水調家家唱,白雪梅花處處吹。古歌舊曲君休聽,聽取新翻楊柳枝。」はこちら以降」にある。七言絶句体で、七言絶句とされないものに『竹枝詞』があるが、それも特別にページを設けている。本サイトでは、基本的に填詞(宋詞)を採りあげている。七言絶句体の填詞は、填詞の発展といった系統樹でみれば幾つかある根の一になる。填詞についての詳しい説明はこちら。『楊柳枝』と前出『竹枝詞』との違いを強調してみれば、前者『楊柳枝』は、都・洛陽の民歌となるだけに優雅である。それに対して『竹枝詞』は、表現が直截である。巴渝(現・四川東部)の人情、風土を歌ったもので、鄙びた風情とともに露骨な情愛を謡っていることである。相似点は、どちらも典故や格調を気にせず、近体七言絶句よりも気楽に作られていることである。 ・永豐:洛陽の街の名。永豊坊。洛陽城中央の南よりのところ。伊水の支流と支流の間で、現在の地図と照らし合わせて見るに、相当南よりの郊外になる。『唐代的長安與洛陽地圖』上海古籍出版社(1991年上海)平岡武夫(原・日本の京都大学平岡武夫氏による出版の中国での復刻唐代研究地図集)の「圖版二六 第四〇圖 洛陽城圖」にあり、それに拠る。
※一樹衰殘委泥土:一本(の柳)が衰えて落ちぶれ果てて、卑しい泥にまみれていた(が)。 ・衰殘:〔すゐざん;shuai1can2○○〕おとろえてだめになる。落ちぶれる。 ・委:ゆだねる。 ・泥土:〔でいど;ni2tu3○●〕どろつち。どろ。価値のないもののたとえ。白居易の『長恨歌』に「天旋地轉迴龍馭,到此躊躇不能去。馬嵬坡下泥土中,不見玉顏空死處。君臣相顧盡霑衣,東望キ門信馬歸。」とある。
※雙枝榮耀植天庭:(その柳の)枝二本が、光栄にも天帝の宮廷(宮中)に(挿し木して)植えられた。 ・雙枝:(宮中に植えられた柳の)枝二本。 ・榮耀:〔えいえう;rong2yao4〕光栄。栄誉。 ・天庭:天上の庭。天帝の宮廷。でここでは、宮中を指す。
※定知玄象今春後:きっと、天体の奥深い現象はこの春以降に現れて。 ・定:きっと。さだめて。 ・玄象:〔げんしゃう;xuan2xiang4○●〕天体の現象。天象。天体の奥深い現象。
※柳宿光中添兩星:天の星座の柳宿の光は、ふたつの星を附け加えていることだろう。 ・柳宿:星宿の名。二十八宿の一つ。南の方の星宿。ぬりこ。ここでは、宮中に植えられた柳を指すために使われた。 ・添;〔てん;tian1〕つけ加える。そえる。 ・兩星:ふたつの星であるが、柳の枝二本を謂い、前出・「雙枝」と指す所は同じ。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「庭星」で、平水韻下平九青。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●○●,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○○●○。(韻)
2010.3.15 3.20 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |