後宮詞 | |
唐・白居易 |
涙溼羅巾夢不成,
夜深前殿按歌聲。
紅顏未老恩先斷,
斜倚薰籠坐到明。
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後宮詞
涙は羅巾 を溼 して 夢成 らず,
夜 深 けて前殿 歌聲 を按 ず。
紅顏 未 だ老 いず恩 先 づ斷 え,
斜めに薰籠 に倚 りて 坐して明 に到る。
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◎ 私感註釈
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)~846年(會昌六年)。字は楽天。号して香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。左拾遺になるが、江州の司馬に左遷され、後、杭州刺史に任ぜらる。やがて刑部侍郎、太子少傅、刑部尚書を歴任する。その詩風は、平易通俗な語彙表現を好み、新楽府、竹枝詞、楊柳枝等に挑戦し、諷諭詩や感傷詩でも活躍し、仏教に帰依した。
※後宮詞:天子の寵愛を失った宮女の悲しみを詠った詩。 ・後宮:〔こうきゅう;hou4gong1●○〕后妃や女官の住む宮殿。
※涙湿羅巾夢不成:涙は、うすぎぬのハンカチを潤して、夢を見ることが出来ない(=寝付けない)でいると。 ・湿:(涙で)うるおす。「盡」ともする。(涙が)つきる。 ・羅巾:うすぎぬのハンカチ。 ・夢不成:寝付けない。夢が成立しない。夢の中で愛しい男性と会いたいものと思っていたが、独り寝の侘びしさの為、寝付けずにいる。そのため、夢を見ることもできない、と謂うこと。後世、晩唐・温庭筠は『瑤瑟怨』で「冰簟銀床夢不成,碧天如水夜雲輕。雁聲遠過瀟湘去,十二樓中月自明。」と詠う。
※夜深前殿按歌聲:夜が更(ふ)けて(周りが静かになってくると)御殿の方から、リズムに合わせて(楽しげな)歌う歌声(が聞こえてくる)。 ・夜深:夜が更(ふ)ける。 ・前殿:正殿の前にある御殿。秦の始皇帝が作った階や陛の備わった建物。漢の宮殿の名。未央宮にあって、天子の宴するところ。清・康有爲『戊戌八月國變紀事』「歴歴維新夢,分明百日中。莊嚴對宣室,哀痛起桐宮。禍水滔中夏,堯臺悼聖躬。小臣東海涙,望帝杜鵑紅。」とうたう。 ・按歌聲:リズムに合わせて歌う歌声。
※紅顏未老恩先斷:若々しい容貌は、まだ衰えてはいないが、(天子の)恩寵の方が先に途絶えてしまい。 ・紅顏:〔こうがん;hong2yan2○○〕元気な少年の顔。朱顔。また、美人の顔。ここは、前者の意。 ・未老:まだ歳を取っていない。 ・恩:ここでは、天子の恩寵。
※斜倚薰籠坐到明:(今は、ただ独りで)薰籠(くんろう=ふせご)に寄りかかって、明け方になるまで座についている。 ・斜倚:ななめに寄りかかる。 ・薰籠:〔くんろう;xun1long2○○〕衣服に香を移すため中に香炉を置いた籠。伏せておいてその上に衣服をかけるようにした籠。香炉。薫炉。 ・坐:すわる。座に着いている。 ・到明:明け方を迎える。明け方になる。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「成聲明」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2011.3.1 |
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