平蕃曲 | |
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唐・劉長卿 |
渺渺戍煙孤,
茫茫塞草枯。
隴頭那用閉,
萬里不防胡。
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平蕃曲
渺渺 として戍煙 孤 なり,
茫茫 として塞草 枯 る。
隴頭 那 ぞ閉 づることを用 ゐん,
萬里 胡 を防 がず。
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◎ 私感註釈
※劉長卿:盛唐の詩人。709年?(景龍年間?)〜780年?(建中年間?)。字は文房。河間(現・河北省)の人。進士に合格して官吏となるも下獄、左遷された。ために、詩には失意の情感や離乱を詠うものが多い。五言詩に優れていることから「五言(の)長城」と称された。
※平蕃曲:楽府題。その意は、吐蕃(とばん)(=チベット)を征伐しての凱旋。
※渺渺戍煙孤:遥かで遠くの戍楼から立ち上る狼煙(のろし)が、ひと筋だけぽつんと上がり。 ・渺渺:〔べうべう;miao3miao3●●〕遠くかすかなさま。遥かで遠い。また、広くはてしないさま。水のはてしなくけむるさま。宋・蘇軾の『水調歌頭』快哉亭作「落日繍簾卷,亭下水連空。知君爲我、新作窗戸濕紅。長記平山堂上,欹枕江南煙雨,渺渺沒孤鴻。認得醉翁語,山色有無中。」や、北宋・晏幾道の『鷓鴣天』に「醉拍春衫惜舊香,天將離恨惱疏狂。年年陌上生秋草,日日樓中到夕陽。 雲渺渺,水茫茫。征人歸路許多長。相思本是無憑語,莫向花箋費涙行。」がある。 ・戍煙:〔じゅえん;shu4yan1●○〕国境防備の歩哨所である戍楼(望楼)から立ち上る狼煙(のろし)。 ・孤:ひとつだけぽつんとあるさま。
※茫茫塞草枯: 果てしなく広がっている国境周辺の草は枯れてしまっている。 ・茫茫:〔ばうばう;mang2mang2○○〕 果てしなく広々としているさま。遥かなさま。ぼんやりとしてはっきりとしないさま。東晉・陶潛『挽歌詩』其三に「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。嚴霜九月中,送我出遠郊。四面無人居,高墳正嶢。馬爲仰天鳴,風爲自蕭條。幽室一已閉,千年不復朝。千年不復朝,賢達無奈何。向來相送人,各自還其家。親戚或餘悲,他人亦已歌。死去何所道,託體同山阿。」とある。 ・塞草:〔さいさう;sai3cao3●●〕要塞のある国境附近に生える草。辺境に生える草。ここでは単に国境周辺の秋の枯れ草のある風景描写をだけではなく、漢民族の軍隊が国境附近の異民族を翦除・芟除したことをも暗に謂う。そのため、次の句の展開が「隴頭那用閉,萬里不防胡」となるわけである。盛唐・高適の『燕歌行』に「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉衷藻瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」とある。
※隴頭那用閉:(対西北方面の異民族との軍事前進基地)である隴山のほとりは、(もう軍事上の)閉鎖をする必要がなくなって。 ・隴頭:〔ろうとう;Long3tou2●○〕隴山のほとり。対西北方面異民族との軍事前進基地。隴山は、現・甘肅省と陝西省の境の大きな山。『中国歴史地図集』第四冊 東晋十六国・南北朝時期(中国地図出版社)54−55ページ「北朝魏 雍、秦、、夏等州」にある。毛沢東が南方根拠地を追われて、大西遷(長征)をしたとき、最後の難関となった山の六盤山のこと。毛澤東『清平樂』六盤山に「天高雲淡,望斷南飛雁。不到長城非好漢,屈指行程二萬。 六盤山上高峰,紅旗漫捲西風。今日長纓在手,何時縛住蒼龍?」とある。梁詩の『隴頭歌辭』に「朝發欣城,暮宿隴頭。寒不能語,舌卷入喉。」とある。 ・那:〔な;na3●〕なんぞ。いかんぞ。いかん。蛇足になるが、「那」は、疑問詞の「那」〔na3●〕の外に、「あの」「かの」といった遠称の指示詞もあり、現代語では両者を区別するために、疑問詞は特に“哪”〔na3●〕と表記し、遠称の指示詞は“那”〔na4●〕と表記している。
※萬里不防胡:遥か彼方まで、西方異民族の(侵入を恐れての)防禦をすることがなくなった。 ・胡:〔こ;hu2○〕漢民族から見た、西方(または北方)の周辺異民族。えびす。ここでは吐蕃(=チベット)を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「孤枯胡」で、平水韻上平七虞。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,(韻)
○○●●○。(韻)
○○●●●,
●●●○○。(韻)
2011.4.22 4.23 |
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