荒草何茫茫,
白楊亦蕭蕭。
嚴霜九月中,
送我出遠郊。
四面無人居,
高墳正嶕嶢。
馬爲仰天鳴,
風爲自蕭條。
幽室一已閉,
千年不復朝。
千年不復朝,
賢達無奈何。
向來相送人,
各自還其家。
親戚或餘悲,
他人亦已歌。
死去何所道,
託體同山阿。
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挽歌の詩
其の三
荒草 何ぞ 茫茫たる,
白楊 亦た 蕭蕭たり。
嚴霜 九月の 中,
我を 送りて 遠郊に 出づ。
四面 人居 無く,
高墳 正に 嶕嶢(せうげう)たるべし。
馬は 天を 仰ぎて 鳴きを 爲し,
風 自(おのづか)ら 蕭條 爲(た)り。
幽室 一たび 已に 閉さるれば,
千年 復(ま)た 朝(あした)せず。
千年 復た 朝せざるを,
賢達 奈何(いかん)ともする無し。
向(さき)に來りし 相ひ 送れる人は,
各自 其の家に 還(かへ)る。
親戚 或は 餘悲あらんも,
他人 亦た 已(すで)に 歌へり。
死去せば 何の 道(い)ふ 所ぞ,
體を 託して 山阿に 同うせん。
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◎ 私感註釈
※陶潛:東晉の詩人。隠者。。。
※挽歌詩:葬儀の歌。葬送の車を挽(ひ)く歌。霊柩車を挽(ひ)く時の悲しみの歌。自分の臨終の場から始まり埋葬に至るまでの葬儀の情景を歌った絶命詩。三首からなるが、これは其の三になり、野外の墓地に葬られる埋葬のようすとその前後の情景を詠った鬼気迫る作品である。この作品は、或いは『古詩十九首』之十一首「迴車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」、『古詩十九首』之十三首「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。潛寐黄泉下,千載永不寤。浩浩陰陽移,年命如朝露。人生忽如寄,壽無金石固。萬歳更相送,賢聖莫能度。服食求~仙,多爲藥所誤。不如飮美酒,被服與素。」や『古詩十九首』之十四首「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。思還故里閭,欲歸道無因。」に基づいていよう。『輓歌詩』、『挽歌辭』また、『擬輓歌詞』(写真右:『古詩源』)ともする。
※荒草何茫茫:墓場に到るまでの葬送の道筋は荒茫としたさまである。『古詩十九首』第十一首に「所遇無故物,荒草何茫茫。」とある。『古詩十九首』第十一首のここは、(疲れた人生の)長い道のりを歩いて行く時の途上の情景である。
※白楊亦蕭蕭:(墓場に植えられる)ハコヤナギに蕭蕭と風がもの寂しく吹いている。墓場の情景である。『古詩十九首』第十三首にはそれを描いて「驅車上東門,遙望郭北墓。白楊何蕭蕭,松柏夾廣路。下有陳死人,杳杳即長暮。」『古詩十九首』の第十四首には「去者日以疎,來者日以親。出郭門直視,但見丘與墳。古墓犁爲田,松柏摧爲薪。白楊多悲風,蕭蕭愁殺人。」と、墓場の情景としてよく使われている。ここの「荒草何茫茫,白楊亦蕭蕭。」で地上の蕭条たる光景を描き、次の「嚴霜九月中」で、天象の蕭殺とした感じを詠っている。 ・白楊:ハコヤナギ。 ・蕭蕭:風がもの寂しく吹くさま。荊軻『易水歌』「風蕭蕭兮易水寒。」という具合。
※嚴霜九月中:草木を枯らす厳しい霜の季節の旧暦九月に。天気(天象、季節)の蕭殺とした感じを述べている。 ・嚴霜:激しい霜。草木を枯らす厳しい霜。『楚辞』中、宋玉の『九辯』「白露既下百草兮,奄離披此梧楸。去白日之昭昭兮,襲長夜之悠悠。離芳藹之方壯兮,余萎約而悲愁。秋既先戒以白露兮,冬又申之以嚴霜。」と、冬の訪れを知らせるもの。 ・九月中:旧暦九月に。秋の終わりに。晩秋に。彼はその作品に「…歳五月中」「…歳八月中」「…歳十二月中」「…歳二月中」という風に、「□月中」という表現をよく使っている。
※送我出遠郊:わたしの葬送で、(墓地のある)郊外まで出かける。前出『古詩十九首』第十三首の「驅車上東門,遙望郭北墓。」に該たる。・送我:わたしを見送る。わたしの野辺の送りに参列する。 ・出遠郊:(墓地のある)遠くの郊外に出かける。
※四面無人居(墓所の)周囲には、人家がなく。 ・四面:周り。周囲。 ・無人居:人家がない。『古詩十九首』第十一首に「四顧何茫茫」とあり、その表現に同じ。
※高墳正嶕嶢:高く盛り上がった墳丘がちょうど高く聳えている。 ・高墳:高く盛り上がった墳丘。 ・正:ちょうど。 ・嶕嶢:〔せうげう;jiao1yao2○○〕(山の)高く聳えるさま。
※馬爲仰天鳴:馬は天を仰いで嘶いている。古代、死者を埋葬する時、故人が生前騎っていた馬を殉葬したという。
※風爲自蕭條。:(馬の悲鳴が)風に乗って、その場の空気自身は、ものさびしげである。 ・蕭條:〔せうでう;xiao1tiao2○○〕ものさびしい。
※幽室一已閉:墓の玄室が一旦、閉じられてしまったら。 ・幽室:陵墓の中にある棺を収める部屋。玄室。
※千年不復朝:永遠に、二度と再び日の目を見ることはない。ここの句は繰り返して詠われており、強調したい。前半の聯での意は、「(墓の玄室が一旦、閉じられてしまったら)、永遠に、再び日の目を見ることはない」で、後半の聯での意は「永遠に、再び日の目を見ることはないのは、賢者であろうともどうしようもない」になる。潘安仁の『悼亡詩』其三には「千載不復引」とあり、前出・『古詩十九首』之十三首「潛寐黄泉下,千載永不寤。浩浩陰陽移,年命如朝露。」とある。 ・千年:長大な年月。永遠に。 ・不復朝:二度と再び日の目を見ることはない。二度と再び朝日を拝むことはない。 ・不復:二度とはない。再びはないこと。また(とは)…せず。ふたたびは…せず。部分否定の形とは似ているが、部分否定ではない。 ・朝:朝を迎える。動詞。
※賢達無奈何:才知が多く、徳行を積んだ名士も、この(「幽室一已閉,)千年不復朝」という)ことだけは、どうしようもない。人間の世の成功者、指導者も、このことだけは動かせない。『古詩十九首』第十三首「萬歳更相送,賢聖莫能度。」に基づく。 ・賢達:才知多く、徳が高い人。賢明な人士。名士。=賢才達士。 ・無奈何:どうしようもない。どうできようか。いかんともしがたい。いかんともするなし。
※向來相送人:今し方、野辺の送りに参列した人(たち)は。 ・向:さきに。初めに。今しがた。たった今。この意味の用法は、やはり陶潛の『桃花源記』で「既出,得其船,便扶向路,處處誌之。來相送人。」と、使われている。ここは、「向來」(これまで、従来)とみるところではない。 ・相送人:野辺の送りに参列した人(たち)。
※各自還其家:(各人は)、各自の生活の場である自宅へ戻っていく。(そして、日常生活を続けていく。しかしながら、死んでしまった自分は、この蕭条としたところに留まっている)。 ・還:返る。Uターンして戻ること。ここでは、各人が自宅へもどることをいう。蛇足になるが、「歸」は本来帰るべき所・自宅、故郷、墓所へ行くことで、場合によっては「歸盡」のように「死」をも指す。 ・其家:各人の生活の場である自宅。
※親戚或餘悲:身内は、あるいは、後に悲しみを残すかもしれないが。 ・親戚:身内。肉親。 ・或:あるいは、……かもしれないが。 ・餘悲:後に残った悲しみ。
※他人亦已歌。:他人は、もうとっくに陽気になって歌を歌って、死者のことなどは、忘れてしまっている。 ・他人:前出「親戚」に対して使われる。他人。 ・亦:語気助詞。特段の意味はない。 ・已:すでに。とっくに。 ・歌:歌う。ここでは、死者のことを忘れてしまって、陽気に振る舞っていることをいう。
※死去何所道:死んでしまえば何をか言うことがあろう。それまでである。 ・道:言う。
※託體同山阿:(屍)体を山腹に埋めて、山のくまと一体になる。 ・託體:屍体を(山腹に)埋めることを指す。 ・山阿:〔さんあ(さんお);shan1e1○◎〕山のくま。山のくぼんでいるところ。墓所となるところでもある。
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◎ 構成について
換韻。韻式は「AAAAABBBB」。韻脚は「蕭郊嶢條朝」「何家歌阿」。第十一句めの方の「千年不復朝」の「朝」は、韻脚ではない。後世の平水韻で見れば、下平二蕭、下平五歌になる。この作品の平仄は次の通り。
○●○○○,
●○●○○。(韻)
○○●●○,
●●●●○。(韻)
●●○○○,
○○●○○。(韻)
●○●○○,
○○●○○。(韻)
○●●●●,
○○●●○。(韻)
○○●●○,
○●○●○。(韻)
●○○●○,
●●○○○。(韻)
○●●○○,
○○●●○。(韻)
●●○●●,
●●○○○。(韻)
2003. 7.17 7.18完 7.19補 2005.12.29 2006. 1. 8 2007. 4.25 2020. 8.22 |
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