送別魏三 | |
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唐・王昌齡 |
醉別江樓橘柚香,
江風引雨入船涼。
憶君遙在湘山月,
愁聽清猿夢裏長。
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魏三に送別す
醉 ひて 江樓に別るれば橘柚 香 しく,
江風 雨を引 きて 船に入 りて涼し。
憶 ふ 君が遙 かに湘山 の月に在 りて,
愁 へ聽 かん清猿 の夢裏 に長きを。
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◎ 私感註釈
※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。
※送別魏三:魏家の三男、魏三の旅立ちを見送る。 *この詩、『送魏二』ともする。 ・送別:旅立つ人に惜別(の意を表すために暫(しば)し同行し、宴席を設けて詩の贈答を)する。 *この詩、「江楼」「橘柚」「江風」「涼」「湘山」巫峡を思わせる「清猿」と、長江流域の風情を漂わせた詩である。 ・魏三:魏家の三男。「魏」は姓で、「三」は排行で、宗族の兄弟等での年齢順の称呼。
※酔別江楼橘柚香:河辺のたかどので(酒宴を開き、)酔いの中で(あなたを)送別しようとする時、柑橘類の香りがする(季節である)。 ・酔別:酔って別れる意。酔いに別れの辛さをごまかすこと。 ・江楼:川のほとりにあるたかどの。 ・橘柚:〔きついう;ju2you4●●〕タチバナとユズ。みかん類。
※江風引雨入船涼:川風が雨を吹き込ませて、船に入ってきて涼し(く感じられる)。 ・江風:川風。 ・引雨:雨を吹き込ませる。 ・入船:船に入ってくる。「入舟」ともする。
※憶君遥在湘山月:(別れて後、)あなたのことを思い起こせば、あなたは遥かな君山の月の…の下にあって。 *この句・「憶君遥在湘山月」は、「憶君・君遥在湘山月」の意。このような位置での「君」は、目的語であり、主語となる。この表現は、現代語(=中国語)では、普通に見られる表現であり、現代(の中国)人は、(適切かどうかは別として)この意でとる。 ・憶君-:あなたを思い出すと、あなたは…。 ・君:この詩で謂う魏三のこと。 ・湘山:〔しゃうざん;Xiang1shan1○○〕君山のこと。洞庭湖中の西北岸の山(小島)の名。現・湖南省岳陽市の西南にある。「湘山月」を「瀟湘月」ともする。盛唐・王昌齡の『送薛大赴安陸』に「津頭雲雨暗湘山,遷客離憂楚地顏。遙送扁舟安陸郡,天邊何處穆陵關。」とある。
※愁聴清猿夢裏長:(あなたが)もの悲しげな猿(の鳴き声)を、夢うつつのままに、愁いの心をもって耳をすませて聴いている(ことなのだろう。 ・愁聴:(君=魏三は)愁いの心で耳をすませて聴く。 ・聴:ここでの「聴」は、●(仄韻〔てい(ちゃう);ting4●(現代語ではting1のみ)〕)の意で使われている。(きこうとして)きく。念を入れて詳しく聞く。待つ。伺う。さばく。うけいれる。 ・清猿:サル。もの悲しげな鳴き声を出す猿。後世、中唐・劉禹錫の『竹枝詞』に「巫峽蒼蒼煙雨時,C猿啼在最高枝。箇裏愁人腸自斷,由來不是此聲悲。」とある。 ・夢裏:夢の中(で)。後世、晩唐・陳陶は『隴西行』で「誓掃匈奴不顧身,五千貂錦喪胡塵。可憐無定河邊骨,猶是春閨夢裏人。」と使い、南唐後主・李Uは『浪淘沙』で「簾外雨潺潺,春意闌珊。羅衾不耐五更寒。夢裏不知身是客,一餉貪歡。 獨自莫憑欄,無限江山。別時容易見時難。流水落花春去也,天上人間。」と使い、南宋・陳與義は『雨過』で「水堂長日淨鴎沙,便覺京塵隔鬢華。夢裏不知涼是水,卷簾微濕在荷花。」と使う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「香涼長」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2012.2.19 2.20 2.21完 12.28補 |
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