思婦詞 | |
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唐・無名女子 |
一別行千里,
來時未有期。
月中三十日,
無夜不相思。
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思婦詞
一 たび別れて 千里を行 く,
來 る時は未 だ期 有らず。
月中 三十日,
夜に相 ひ思はざること無し。
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◎ 私感註釈
※作者:作者不詳。唐代の女性の作品。『中国女性詩歌粋編』班友書編注 中国文聯出版公司1996年北京)は、この詩の作者を女性と看る。この作品は、唐代の銅官窯の窯址(かまあと)(現・湖南省長沙の銅官窯窯址)から発掘(1974年〜1978年)された陶磁器に書かれていたもので、その飾り気のない作風から、陶工の自作か当時流行していた巷間の歌謡とも見られる。
※思婦詞:夫を思う妻のうた。 ・思婦:夫を思い慕う妻。
※一別行千里:(夫は、わたし(=女性)と)ひとたび別れてより、遥かな旅路についたが。 ・一別:ひとたび別れる。 ・千里:遥か厖大な里程。
※來時未有期:(夫が再び戻って)来る時については、まだ日時が決まっていない。(=夫の帰りは、いつになるか分からない)。 ・來時:(別れて行った男性が再び戻って)来る時。 ・有期:一定の期限がある。間近である。 ・期:契(ちぎ)る。日時を決める。会う。待ち設ける。
※月中三十日:月(つき)の内(うち)、三十日は。(=毎日)。 ・月中:一月(ひとつき)の内(うち)。月(つき)の内(うち)。陰暦では、一月(ひとつき)は三十日。
※無夜不相思:(夫に)思いを寄せない夜は無い。(=毎夜、思い慕っている)。 ・無夜-:…の夜は無い。…の夜とて無い。 ・相思:(…に)慕情が募っていくこと。(…が)慕わしい。(…に)思いを寄せる。ここでは、互いに思慕することを意味しない。「相−」は動作が対象に及ぶときの表現。「…ていく。…てくる」。ここは「相互に」の意はない。白居易の『勸酒』「昨與美人對尊酒,朱顏如花腰似柳。今與美人傾一杯,秋風颯颯頭上來。年光似水向東去,兩鬢不禁白日催。東鄰起樓高百尺,題照日光相射。」、李白に『把酒問月』「天有月來幾時,我今停杯一問之。人攀明月不可得,月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕,拷喧ナ盡C輝發。但見宵從海上來,寧知曉向雲陝刀B白兔搗藥秋復春,娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月,今月曾經照古人。古人今人若流水,共看明月皆如此。唯願當歌對酒時,月光長照金樽裏。」や、陶潜の『飮酒二十首』其一「衰榮無定在,彼此更共之。邵生瓜田中,寧似東陵時。寒暑有代謝,人道毎如茲。達人解其會,逝將不復疑。忽與一觴酒,日夕歡相持。」 、陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運頽,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」や張説の『蜀道後期』「客心爭日月,來往預期程。秋風不相待,先至洛陽城。」、杜甫の『州歌十絶句』其五に「東西一萬家,江北江南春冬花。背飛鶴子遺瓊蕊,相趁鳧雛入蒋牙。」とあり、送王永 唐・劉商 君去春山誰共遊, 鳥啼花落水空流。 如今送別臨溪水, 他日相思來水頭。」とあり、李U『柳枝詞』「風情漸老見春羞,到處消魂感舊遊。多謝長條似相識,強垂煙穗拂人頭。」 、范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天,黄葉地,秋色連波,波上寒煙翠。山映斜陽天接水,芳草無情,更在斜陽外。 黯ク魂,追旅思,夜夜除非,好夢留人睡。明月樓高休獨倚,酒入愁腸,化作相思涙。」 前出・韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。」などとあり、下図のように一方の動作がもう一方の対象に及んでいく時に使われている。
もっとも、李白の『古風』「龍虎相啖食,兵戈逮狂秦」、「遠別離」の「九疑聯綿皆相似,重瞳孤墳竟何是。」や『長相思』「長相思,在長安」や王維の「入鳥不相亂,見獸皆相親。」などは、下図のような相互の働きがある。
A B
また、これらとは別に言葉のリズムを整える働きのために使っていることも詩では重要な要素に挙げられる。
A B
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「期思」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2012.12.5 |
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