王維竹里館詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 wangwei

　　　
      竹里館
   　
      　　　　　　　　　　　唐　王維

獨坐幽篁裏，
彈琴復長嘯。
深林人不知，
明月來相照。

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竹里館

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
獨り坐す　　幽篁の　裏（うち），
琴を弾じて　　復（ま）た　長嘯す。
深林　　人　知らず，
明月　　來りて　相ひ照らす。

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◎　私感註釈

※竹里館：地名に基づく建物名。この詩は、『川集』にある。王維と裴迪が川（川の名に基づく。長安西南の終南山の麓、藍田にある。）の別荘で唱和した絶句集。それぞれ二十首ずつ同一詩題で詠んでいる。五言絶句ばかりであるが、王維は主として仄韻を採用し、裴迪は平韻を採用しているところがおもしろい。『川集』の序文に「余別業在川山谷，其遊止有孟城、華子岡、文杏館、斤竹嶺、鹿柴、木蘭柴、茱萸、宮槐陌、臨湖亭、南、欹湖、柳浪、欒家瀨、金屑泉、白石灘、北、竹里館、辛夷塢、漆園、椒園等，與裴迪閒暇，各賦絶句云爾。」とあり、ここの中で述べられている地名に基づく。他の地名と比較して見ると、普通名詞から転化した経過が分かりやすい。「竹里館」とは、おそらく「竹の多い里（さと）の館（やかた）」からきているのだろう。現代語表記では、“里”は「裏（裡）、里」の全てを“里”で表すが、ここでは真正の「里」（さと、村、閭）の意。後出の「幽篁裏」中の「篁裏」と、「竹里館」中の「竹里」とは、別な異なる意味になる。なお、『川集』で裴迪が詠んだものは、次の通り。

來過竹里館，

日與道相親。

出入惟山鳥，

幽深無世人。

※王維：７０１～７６１年。字は摩詰。河東人。書画が巧みであり、詩の描写にもその影響があり、絵画的な美しさのある作品が多い。開元年間に進士となり、出世するが安禄山の乱で、一波瀾に遭う。

※獨坐幽篁裏：一人で奥深い竹藪の奥に坐り。　・坐：すわる。＝座。「坐」は動詞の場合に主として使う。・幽：ひそやかな。　・篁：竹。竹叢。竹藪。たかむら。幽篁・裏：うち。なか。「中」に近い。「中」は○で硬く、「裏（裡）」は●で、より口語的な表現とも謂える。

※彈琴復長嘯：琴を弾いて、ふたたび長く声を延ばして嘯く。　・彈：はじいて、（弦楽器を）ひく。　・琴：こと、きん。机上に置く大型のもので、「箏」「瑟」の類。隠者が好んで弾く楽器。（また、三味線、ギターのように抱えてひくもの。ここは、前者の机上に置く大型のもの。）東晋・陶淵明の『歸去來兮辭』に「歸去來兮，請息交以絶遊。世與我以相遺，復駕言兮焉求。悅親戚之情話，樂琴書以消憂。農人告余以春及，將有事於西疇。或命巾車，或棹孤舟。既窈窕以尋壑，亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮，泉涓涓而始流。羨萬物之得時，感吾生之行休。已矣乎，寓形宇内復幾時。曷不委心任去留，胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願，帝鄕不可期。懷良辰以孤往，或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯，臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡，樂夫天命復奚疑。」とあり、白居易の『訪陶公舊宅』に「我生君之後，相去五百年。毎讀五柳傳，目想心拳拳。昔嘗詠遺風，著爲十六篇。今來訪故宅，森若君在前。不慕樽有酒，不慕琴無絃。慕君遺榮利，老死此丘園。柴桑古村落，栗里舊山川。不見籬下菊，但餘墟中煙。子孫雖無聞，族氏猶未遷。毎逢姓陶人，使我心依然。」とある。　・復：その前にもしていて、またもう一度。　・長嘯：長く声をひいて詩歌をうたう。東晋・陶淵明の『歸去來兮辭』に「歸去來兮，請息交以絶遊。世與我以相遺，復駕言兮焉求。悅親戚之情話，樂琴書以消憂。農人告余以春及，將有事於西疇。或命巾車，或棹孤舟。既窈窕以尋壑，亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮，泉涓涓而始流。羨萬物之得時，感吾生之行休。已矣乎，寓形宇内復幾時。曷不委心任去留，胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願，帝鄕不可期。懷良辰以孤往，或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯，臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡，樂夫天命復奚疑。」とあり、唐・上官婉兒の『遊長寧公主流杯池二十五首之十』に「霽曉氣清和，披襟賞薜蘿。玳瑁凝春色，琉璃漾水波。跂石聊長嘯，攀松乍短歌。除非物外者，誰就此經過。」とあり、後代、宋の岳飛は『滿江紅』「怒髮衝冠，憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯，」と使う。

※深林人不知：奥深い（竹）林は（他の）人々からは知られることなく。　・深林：前出の「幽篁」のこと。　・人：ここでは、他人。ほかの人。　・不知：分からない。知らない。見つからない。

※明月來相照：明るく輝く月だけが来て照らしかける。　・明月：（明るく）澄みわたった月。皎々とあかるく照る月。日本語で云うところの「名月」。李白の『憶東山』「不向東山久，薔薇幾度花。白雲還自散，明月落誰家。」、李白の『哭晁卿衡』「日本晁卿辭帝都，征帆一片遶蓬壺。明月不歸沈碧海，白雲愁色滿蒼梧。」や、後出・李白『把酒問月』「人攀明月不可得」や、後出・范仲淹『蘇幕遮』「明月樓高休獨倚」や李白の『靜夜思』「床前明月光，疑是地上霜。舉頭望明月，低頭思故鄕。」や、晩唐／蜀・韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。傷心明月凭欄干。想君思我錦衾寒。咫尺畫堂深似海，憶來唯把舊書看。幾時攜手入長安。」と多い。蛇足だが、「明月」「名月」ともに〔めいげつ；ming2yue4〕と言うが、詩詞では「名月」は使わないで、「明月」を使う。「名月」は陰暦八月十五夜の月だが、使われた実績がないようだ。　・明：澄み切った。「明鏡」の「明」に同じ。　・來：（月が昇って）きて。　・相照：照らしかける。照らし出す。「相」は、動作が対象に及んでくる時に使う。「…てくる」「…ていく」の意。「相互に」の意味はここではない。白居易の『勸酒』「昨與美人對尊酒，朱顏如花腰似柳。今與美人傾一杯，秋風颯颯頭上來。年光似水向東去，兩鬢不禁白日催。東鄰起樓高百尺，題照日光相射。」、李白に『把酒問月』「靑天有月來幾時，我今停杯一問之。人攀明月不可得，月行卻與人相隨。皎如飛鏡臨丹闕，綠煙滅盡淸輝發。但見宵從海上來，寧知曉向雲閒沒。白兔搗藥秋復春，娥孤棲與誰鄰。今人不見古時月，今月曾經照古人。古人今人若流水，共看明月皆如此。唯願當歌對酒時，月光長照金樽裏。」や、陶潜の『飮酒二十首』其一「衰榮無定在，彼此更共之。邵生瓜田中，寧似東陵時。寒暑有代謝，人道毎如茲。達人解其會，逝將不復疑。忽與一觴酒，日夕歡相持。」、陶淵明の『雜詩十二首』其七の「日月不肯遲，四時相催迫。寒風拂枯條，落葉掩長陌。弱質與運頽，玄鬢早已白。素標插人頭，前途漸就窄。家爲逆旅舍，我如當去客。去去欲何之，南山有舊宅。」や張説の『蜀道後期』「客心爭日月，來往預期程。秋風不相待，先至洛陽城。」、杜甫の『州歌十絶句』其五に「東西一萬家，江北江南春冬花。背飛鶴子遺瓊蕊，相趁鳧雛入蒋牙。」とある。李煜『柳枝詞』「風情漸老見春羞，到處消魂感舊遊。多謝長條似相識，強垂煙穗拂人頭。」、范仲淹の『蘇幕遮』「碧雲天，黄葉地，秋色連波，波上寒煙翠。山映斜陽天接水，芳草無情，更在斜陽外。　　　黯鄕魂，追旅思，夜夜除非，好夢留人睡。明月樓高休獨倚，酒入愁腸，化作相思涙。」前出・韋莊の『浣溪沙』「夜夜相思更漏殘。」など、下図のように一方の動作がもう一方の対象に及んでいく時に使われている。

Ａ B

もっとも、李白の『古風』「龍虎相啖食，兵戈逮狂秦」、「遠別離」の「九疑聯綿皆相似，重瞳孤墳竟何是。」や『長相思』「長相思，在長安」や王維の「入鳥不相亂，見獸皆相親。」などは、下図のような相互の働きがある。

Ａ B

勿論、これらとは別に言葉のリズムを整える働きのために使っていることも詩では重要な要素に挙げられる。
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◎　構成について

五言絶句。仄韻（どちらも去声）。韻式は、「ａａ」。韻脚は「嘯照」で、平水韻去声十八嘯。次の平仄はこの作品のもの。

　　　●●○○●，
　　　○○●○●。（韻）
　　　○○○●○，
　　　○●○○●。（韻）