夏晝偶作 | |
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唐・柳宗元 |
南州溽暑醉如酒,
隱几熟眠開北牖。
日午獨覺無餘聲,
山童隔竹敲茶臼。
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夏晝 偶作
南州 の溽暑 醉 ひて酒の如く,
几 に隱 り熟眠 して北牖 を開く。
日午 獨 り覺 めれば餘聲 無く,
山童 竹を隔 てて茶臼 を敲 く。
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◎ 私感註釈
※柳宗元:中唐の詩人。773年(大暦八年)〜819年(元和十四年)。字は子厚。任地に因んで、柳河東、柳柳州とも呼ばれる。河東(現・山西省)の人。韓愈と並んで古文運動を提倡、その勃興に寄与した。政争に巻き込まれ、永州司馬、更に柳州司馬に左遷された。『江雪』「千山鳥飛絶,萬徑人蹤滅。孤舟簑笠翁,獨釣寒江雪。」は、特に有名。
※夏昼偶作:夏の昼に、たまたま(詩を)つくった。 *暑さにたまりかねて、昼寝でやり過ごそうとしたが、勤労人民は暑さにめげることなく働いていた、ということを詠う。 ・偶作:たまたま(詩を)つくる。
※南州溽暑酔如酒:南国(の永州)の蒸し暑さ(からくる酩酊感)は、酒に酔ったかの如くである。 ・南州:南国の永州。作者が左遷された先の地。 ・-州:行政区画の称。郡の上に位するが、後に、時により、郡を州に改めた。本来の義は、河流によって区画された部分(=なかす)。なお、『書経・禹貢』には、冀(き)・兗(えん)・青・徐・荆・揚・予・梁・雍の九州がある。 ・溽暑:〔じょくしょ;ru4shu3●●〕蒸し暑いこと。 ・酔如酒:(暑熱による)酔いのさまは、酒に酔ったかの如くである。
※隠几熟眠開北牖:(激しい蒸し暑さから逃れるために、)机に寄りかかって熟睡し(ようとし)て、(陽が射さない涼しい)北側の窓を開けた。/机に寄りかかって熟睡したのは、北側の窓を開けた(ことによる)。/北側の窓を開けて、机に寄りかかって熟睡した。 *倒置法。中唐・白居易の『杭州春望』に「望海樓明照曙霞,護江堤白蹋晴沙。濤聲夜入伍員廟,柳色春藏蘇小家。紅袖織綾誇柿蒂,青旗沽酒趁梨花。誰開湖寺西南路,草榊纃一道斜。」とある。『和漢朗詠集』にも採られた白居易の『送王十八歸山』に「林間煖酒燒紅葉,石上題詩掃国ロ。」の聯も因果関係は逆転して表現している。「酒を暖めて(から)、紅葉を焼く」のではない。同様に寇準の『江南春』「杳杳煙波隔千里,白蘋香散東風起。日落汀洲一望時,柔情不斷如春水。」や、康有為の「半歳看花住三島」も「半年の間、花を見るために日本にとどまった」のであるが、「半歳 花を看て 三島に住(とどま)る」が普通の読み方」になる。梁啓超の『奉懷南海先生星加披兼敦請東渡』「萬事忘懷惟酒可,十年有約及櫻開。何時一舸能相即,已剔沈槍掃国ロ。」とある。蛇足になるが、「已剔沈槍」してから後に「掃国ロ」をするのではない。表現上の效果と制限のためにこうなった。ただ、伝統的に文字順を尊重した読み下しが行われてきた経緯があるので、解釈時に時間順になおして考える必要がある。 ・隠几:机に寄りかかる意。 ・隠:〔いん;yin4●〕よる。よりかかる。机に寄りかかる意。 ・几:〔き;ji1/ji3◎〕つくえ。=机。 ・熟眠:じゅうぶんによくねむる。=熟睡。 ・北牖:北側の窓。*陽が射さない涼しい窓辺である。 ・牖:〔いう;you3●〕(壁の)窓。れんじ窓。
※日午独覚無餘声:真昼に、ひとり目覚(めざ)めたが、ほかに物音がしないで。 ・日午:〔にちご;ri4wu3●●〕真昼。正午。=亭午。 ・独覚:ひとり目覚(めざ)める(「-覚」は「…jue2」)。ひとりで眠る(「-覚」は「…jiao4」)。なお、仏教用語として:師につかず一人で悟る意(「-覚」は「…jue2」)。ここは、前者の意。 ・餘声:ほかの物音。
※山童隔竹敲茶臼:山に住む子供が(暑さにめげないで)、竹藪の向こう側で茶臼(ちゃうす)を搗(つ)いている(音だけが聞こえて来る)。 ・山童:山中に育った子。山に住む子供。 ・隔竹:竹藪を隔てて。竹林の向こう側で。 ・敲:〔かう;qiao1◎〕たたく。打つ。とんとんと軽くたたく。 ・茶臼:〔さきう;cha2jiu4○●〕ちゃうす。茶の葉をひいて抹茶にするのに用いるひき臼(うす)。=茶磑。
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◎ 構成について
韻式は、「aaa」。韻脚は「酒牖臼」で、平水韻上声二十五有。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○●,(韻)
●◎●○○●●。(韻)
●●●●○○○,
○○●●○○●。(韻)
2014.12.30 2015. 1. 1 1. 3 |
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