從軍行 | |
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唐・王昌齡 |
大漠風塵日色昏,
紅旗半捲出轅門。
前軍夜戰洮河北,
已報生擒吐谷渾。
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從軍行
大漠 の風塵 に 日色昏 く,
紅旗 半 ば捲 きて轅門 を出 づ。
前軍 夜に戰ふ洮河 の北,
已 に報 ず吐谷渾 を生きて擒 へりと。
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◎ 私感註釈
※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。
※従軍行:樂府相和歌辞。辺疆塞外を詠う。この詩は、本拠地にあって戦闘に行く部隊を見送っての作。『従軍行』は七首あって、その第五首。他に盛唐・王昌齡の『從軍行』では「青海長雲暗雪山,孤城遙望玉門關。黄沙百戰穿金甲,不破樓蘭終不還。」などがある。
※大漠風塵日色昏:広大な砂漠の砂ぼこりは、日の光を暗くして。 ・大漠:〔たいばく;da4mo4●●〕広大な砂漠。ゴビ砂漠。 ・風塵:兵乱。戦乱。また、風と塵(ちり)。砂ぼこり。わずらわしく穢らわしい物事の喩え。浮き世。俗世界。俗事。地方官の務め。旅行の辛苦。遊女の身の上。ここは、前者の意。呉偉業の『遇南廂園叟感賦八十韻』に「薄暮難再留,暝色猶蒼。策馬自此去,悽惻摧中腸。顧羨此老翁,負耒歌滄浪。牢落悲風塵,天地徒茫茫。」とある。 ・日色:日の光。太陽。 ・昏:〔こん;hun1○〕暗い。暮れる。
※紅旗半捲出轅門:(風が強いので)軍旗は半ば旗竿に絡みついたまま、軍営の門を出た。*先発部隊の出陣のさま。 ・紅旗:赤い旗。王事の象徴。天子や宮廷を象徴するもの。中唐・白居易の『劉十九同宿』に「紅旗破賊非吾事,黄紙除書無我名。唯共嵩陽劉處士,圍棋賭酒到天明。」とあり、 中唐・李賀の『雁門太守行』に「K雲壓城城欲摧甲光向日金鱗開。角聲滿天秋色裏,塞上燕支凝夜紫。半卷紅旗臨易水,霜重鼓寒聲不起。報君黄金臺上意,提攜玉龍爲君死。」とあり、現代・毛澤東の『清平樂・六盤山』一九三五年十月に「天高雲淡,望斷南飛雁。不到長城非好漢,屈指行程二萬。 六盤山上高峰,紅旗漫捲西風。今日長纓在手,何時縛住蒼龍?」とある。 ・半捲:旗が半ば旗竿に絡みついているさまを謂う。 ・轅門:〔ゑんもん;yuan2men2○○〕軍営の門。陣中で車の(轅)ながえを向かい合わせて門のようにしたもの。また、役所の外門。ここは、前者の意。なお、「轅」は韻脚と同一の韻目。
※前軍夜戦洮河北:(強い風の中を進軍した)先陣(部隊)は、洮河(とうが)の北の方で野戦をして。 ・前軍:前方にある軍隊。先陣。 ・洮河:〔たうが;tao2he2○○〕現・内蒙古に源を発し、甘肅省西南部を流れて黄河に注ぐ黄河の支流。=洮(とう)水。
※已報生擒吐谷渾:吐谷渾(とよくこん)(=異民族の国)(のリーダー)を生け捕りにしたと、(本部に)もう知らせがあった。 *現代・毛沢東に、『漁家傲・反第一次大“圍剿”』一九三一年春「萬木霜天紅爛漫,天兵怒氣冲霄漢。霧滿龍岡千嶂暗,齊聲喚,前頭捉了張輝瓚。 二十萬軍重入贛,風煙滾滾來天半。喚起工農千百萬,同心幹,不周山下紅旗亂。」とある。 ・已:もう…。すでに。 ・生擒:生け捕りにする。*この出来事は、高宗の時と云う。 ・吐谷渾:〔とよくこん;Tu3yu4hun2●●○〕遊牧民族の国家名。五胡十六国時代から唐代までの間、元は遼東にいたが、青海地方に遷った遊牧民族の国家。四世紀初めに鮮卑系の一部がチベット系の土着の羌族を支配して成立した。南北朝時代に隆盛をきわめたが、唐代に吐蕃(とばん=現・チベット)に滅ぼされた。ここでは、その指導者を指す。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「昏門渾」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2015.4.11 4.12 4.13 |
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