絶句漫興九首 |
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盛唐・杜甫 |
舍西柔桑葉可拈,
江畔細麥復纖纖。
人生幾何春已夏,
不放香醪如蜜甜。
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絶句漫興九首
舍西 の柔桑 葉拈 む可 く,
江畔 の細麥 復 た纖纖 たり。
人生幾何 ぞ 春已 に夏なれば,
放 たず香醪 蜜 の如く甜 きを。
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◎ 私感註釈
※杜甫:盛唐の詩人。712年(先天元年)〜770年(大暦五年)。字は子美。居処によって、少陵と号する。工部員外郎という官職から、工部と呼ぶ。晩唐の杜牧に対して、老杜と呼ぶ。さらに後世、詩聖と称える。鞏県(現・河南省)の人。官に志すが容れられず、安禄山の乱やその後の諸乱に遭って、流浪の一生を送った。そのため、詩風は時期によって複雑な感情を込めた悲痛な社会描写のものになる。
※絶句漫興:とりとめのないおもむき。 *これは、九首からなる第八首。成都へ流れていったときの作。杜甫の『絶句漫興九首』は第四首に「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」があり、第六首は「懶慢無堪不出村,呼兒日在掩柴門。蒼苔濁酒林中靜,碧水春風野外昏。」がある。 ・漫興:とりとめのないおもむき。
※舎西柔桑葉可拈:建物の西側の柔らかなクワの若葉は、つまんで(収穫する)ことができ(晩春・初夏のさまとなり)。 ・舎西:建物の西側を謂う。 ・柔桑:柔らかなクワの若葉を謂う。 ・可-:…することができる。…することが可能だ。 ・拈:〔でん/ねん/せん;nian2nian3○●〕ひねる。つまむ。つまみとる。
※江畔細麦復繊繊:川辺の細い麦は、また再び、細く伸びた(初夏の)さまになっている。 ・江畔:(南方の)川辺。 ・復:また。二度と。もはや。再び。 ・繊繊:〔せんせん;xian1xian1○○〕細(こま)かいさま。細(ほそ)いさま。かよわいさま。か細いさま。
※人生幾何春已夏:人生は、(あと)どれほどあるだろうか、(今もいつの間にか)春が夏になった。 ・人生:人の命。人生。魏・曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。 慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。 青青子衿,悠悠我心。但爲君故,沈吟至今。 鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。 明明如月,何時可輟。憂從中來,不可斷絶。 越陌度阡,枉用相存。契闊談讌,心念舊恩。 月明星稀,烏鵲南飛。繞樹三匝,何枝可依。 山不厭高,水不厭深。周公吐哺,天下歸心。」とある。 ・幾何:どれほど。いくばく。 ・已:すでに。とっくに。 ・夏:夏になる。動詞的な使用。
※不放香醪如蜜甜:(移り行く人生と季節、)蜜のように甘い美酒を、(飲まないで)捨て置くことはあるまい。 *前出・『絶句漫興九首』第四首の「二月已破三月來,漸老逢春能幾囘。莫思身外無窮事,且盡生前有限杯。」と同じ詩趣。 ・放:ほうりだす。すておく。しりぞける。はなす。はなつ。なお、「放-」を使役と見て、「(…をして)…しむ」と読めば:「香醪をして蜜の如く甜(あま)から放(し)めざらんや」になるが、意味は:「香醪を蜜のように甘くさせずにはおけるものか」となるが…。 ・香醪:〔かうらう;xiang1lao2○○〕香しい美酒、芳醇な酒。また、濁酒。ここでは前者の意。(日本酒の作り方になるが、醪(もろみ)を上槽で濾して清んだ酒にするが、その一つ前の醪は、できたての香りの高い、通の好む酒と。) ・如蜜甜:蜜のように甘い、意。また、「香醪」は○○で、「濁酒」は●●。平仄で使い分ける場合もあろう。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「拈繊甜」で、平水韻下平十四鹽。この作品の平仄は、次の通り。
●○○○●●○,(韻)
○●●●●○○。(韻)
○○●○○●●,
●●○○○●○。(韻)
2020.9. 7 9. 8 9. 9 9.10 |
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