辛棄疾詞阮郎歸　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩

　　辛棄疾詞
xinqiji　XinQiji　xin qiji　Xin Qiji　Shici Shijie　shicishijie

　　　阮郎歸
耒陽道中爲張處父推官賦

山前燈火欲黄昏，
山頭來去雲。
鷓鴣聲裡數家村，
瀟湘逢故人。

揮羽扇，
整綸巾，
少年鞍馬塵。
如今憔悴賦招魂，
儒冠多誤身。

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阮郎歸
耒陽道中爲張處父推官賦
　　　　　　

山前の　燈火　　黄昏にならんと欲（し），
山頭に　　雲　來去す。
鷓鴣　聲裡　　數家の　村，
瀟湘に　　故人に逢ふ。

羽扇を　揮ひ，
綸巾を　整へ，
少年　鞍馬に　塵す。
如今　憔悴して　　「招魂」を賦す，
儒冠　　多くは　身を誤らす。

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◎私感註釈

※阮郎歸：詞牌の一。詞の形式名。詳しくは下記の「構成について」を参照。
※耒陽道中爲張處父推官賦：。　・耒陽：湖南省南部にある地名。辛棄疾が湖南省に赴任して巡視して、ここに到った。　・張處父：人名。作者の昔なじみ。　・推官：張處父の官位で、推薦で就く官。
※山前燈火：山すその（家々では）灯火が点き。燈火は動詞として使われ、灯火がつく、の意。
※欲：…しようとしている。…になりそうだ。動詞の前に付き、前記の状態を表す。
※黄昏：たそがれ。ここでは動詞として使われ、暮れる、たそがれる、の意。
※山前燈火欲黄昏：山すその（家々では）灯火が点いて、たそがれようとしている。
※山頭：山上。
※來去雲：雲が流れていく。雲來去とすべきところだが、雲は韻脚のため、こうなった。
※鷓鴣：鳥の名。しゃこ。キジ科の鳥。
※聲裡：鳴き声が聞こえるところに。
※數家村：数軒の家が見える村落。「數家＋村」になる。「數＋家村」では數は動詞になるが、「家村」はないだろう。
※瀟湘：清らかな湘江の流れ。瀟水と湘水。湖南省を流れる川の名で、瀟江と湘江のこと。瀟水と湘水は零陵で合流後、瀟湘ともいう。しかしながら、後者の解釈では、地図を見る限り無理がある。耒陽と瀟江とは、かけ離れている。ここは前者の意。　蛇足だが、毛澤東が沁園春「長沙」で「湘江北去」と詠った湘江は、この辛棄疾のいたところの川下となる。　・瀟：水深く清らかなさま。無理をして考えて、瀟は蕭に通じ、「蕭（ものさびしい）湘江の流れ」とするのは、やはり行き過ぎか。
※逢：（偶然に）あう。であう。「会」とは、意味が少し違う。「逢」は向こうから来る人と（偶然に）出逢あうこと。「会」は、場所・時間等を決めて（意図的に）集まりあうこと。
※故人：昔からの知り合い。古い友人。
※瀟湘逢故人：清らかな湘江の流れのほとり（の耒陽）で、昔の知り合いに出あった。
※揮羽扇：羽扇を揮って戦闘を指揮する。戦争を指揮する。作戦を練る。蘇軾の念奴嬌に「羽扇綸巾，談笑間、檣櫓灰飛煙滅。」と、おそらく、ここの句の　以下、前掲の蘇軾の念奴嬌のページより：・羽扇：羽毛で作った扇子。日本の天狗の持っている団扇に似ている。センスの形ではなく、うちわの形をしている。
※整綸巾：綸巾を整える。戦闘にに従事する。・綸巾：（くゎんきん；ｇｕａｎ1ｊｉｎ1）黒（青）の絹ひものついた頭巾。綸は、りんlun2とも読めるがここではそう読まない。・羽扇綸巾：当時の貴族のくつろいだ服装。また、武官でない学者の従軍の服装。（映画で三国演義を見る限り！？）諸葛孔明などが身につけている。彼は常にめだつ下面絵のような冠のようなもの（葛巾）を頭のてっぺんあたりにつけている（ドラマ三国演義第三十八集「赤壁懐古」では）。
※少年鞍馬塵：年若かった張處父（とわたし）の馬の鞍には、戦塵が積もっている。若い頃は、敵とよく戦ったものだった。
※ 如今：（過去の戦闘に従事していた頃と対比しての）当世。いまのところ。
※憔悴：やつれる。
※賦：詩を作る。詩をうたう。
※招魂：「楚辞」の篇名。魂を招く。
※ 如今憔悴賦招魂：今では、やつれ果てて、（昔を思いやり、自ら）魂を招く歌を歌って（慰めている）。
※儒冠：文官のかぶる冠。下の「儒冠多誤身」の註を参照。
※多誤身：多くは、身を誤る。下の「儒冠多誤身」の註を参照。
※儒冠多誤身：杜甫の詩句「奉贈韋左丞丈二十二韻」の「袴不餓死，儒冠多誤身。丈人試靜聽，賤子請具陳。…」や陸游の謝池春「笑儒冠、自來多誤」からきている。

◎　構成について
　　
　双調。四十七字。　　平声一韻到底韻。　韻式は「ＡＡＡＡ　ＡＡＡＡ」。韻脚は「昏雲村人　巾塵魂身」で第六部平声十一真ほか。

　　　○●●○○（平韻）。
　　　○●○（平韻）。
　　　○●●○○（平韻），
　　　○●○（平韻）。

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　　　○●○（平韻），
　　　○●●○○（平韻），
　　　○●○（平韻）。
　