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  「精霊」は人間を、いや、世界を守護する神と言われている程の存在だ。

  そんな「精霊」がたかが人間にあごで使われているはずがない。

しかも、一介の僧侶に過ぎない自分の父親などに。

  颯樹(さき)がそう考えるのも別に不思議な事ではない。

「あ、あの……颯樹(さき)様……。重樹(しげき)様のおっしゃっている事は本当です……。」

  妙に自信なさげな表情を浮かべながらボソッとノームが呟く。

「口先だけでそう言われてもはいそうですかってあっさり信用できないわよね……。

ひょっとしたら『精霊』なんかじゃなくて化け物なのかもしれないし。

第一、単なる僧侶のパパが何で『精霊』を使えるの!?

第一、『精霊』を使う魔法って何万年も前に失われたって聞いたわよ!?」

  そう。人々の記憶にも残らぬ遥か昔。よくありがちだが、やはりこの世界でも

神魔の戦争が起こったらしい。最も、伝説としてだけなので、信じていない人も大勢いるが。

その神魔の戦争以前には、人は「精霊」と心通わせその力を借りることで、

「精霊魔法」という強力な魔法を使う事ができた、という伝説が残っている(解説3)。

「ふむ。寺子屋の授業はサボらずに聞いていたようだな。颯樹(さき)。」

  重樹(しげき)は、寺を破壊されてうろたえているただのハゲ野郎の顔から、

父親の顔に戻って、颯樹(さき)に優しげに語り掛けた。

「皆は知らない事だが、実は『精霊魔法』はこの世界から失われてなどいなかったのだ。

私も初めてその事を知った時には驚いたがな。」

「そんな!!そんなことって……。」

  「精霊魔法」がこの世界から失われている、というのは、何も颯樹(さき)だけではなく、

世界中の殆ど全ての人々が認めている事実だったはずだ。

  そう。それは決定的な事実であって、もはやこの世界に

「精霊魔法」の使い手はただの一人も存在しない、ということに疑問を

差し挟む余地などない、と、颯樹(さき)は今まではそう思っていた。

「びっくりしたでしょー。颯樹(さき)ちゃん。あたしは「風」のシルフィード。

 本当の名前はシルフィードなんだけど、シルフィーヌって呼んでくれると嬉しいかな。

 だって、『シルフィード』って名前、可愛くないんだもん。」

  風の精霊シルフィードと名乗ったその女性は颯樹(さき)に軽くウィンクしてみせた。

「わ、私は、「土」のノームです……。颯樹(さき)様、しばらく見ない間に立派になられましたね……。」

  土の精霊ノームと名乗った女性はうつむきながら遠慮がちにそう言った。

「しばらく見ない間?って、ひょっとして私、あなた達に昔に会った事あるの?」

「ああ、お前がまだ赤ん坊の頃、よく精霊達がお前の世話の手伝いを

 してくれたものだからな。お前自身は覚えてないかもしれないが。」

  自分の母親の顔すら覚えていないのだから、そんな事を覚えているはずもない。

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