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「颯樹(さき)殿!!許せ!!」

  そう叫ぶと、サラマンダーは手をかざし、颯樹(さき)を狙った。

「サラマンダー、やめろ!」

  重樹(しげき)の制止の声も間に合わず、かざされた手の平から

再び火球が生み出され、颯樹(さき)めがけて一直線に飛ぶ。

「そんなもので落とせはしないっ!!」

  が、颯樹(さき)はわずかに身を横に動かし事も無げに

その火球の一撃をかわすと、反撃の体勢を取った。

「ふう。ぎりぎりだったな……。」

  サラマンダーが額の汗を拭うしぐさをした。

(もちろん、サラマンダーが汗などかくわけはないからただのしぐさに過ぎないのだろうが)

「当たってたらどうするつもりだったんだ!?」

  重樹(しげき)が悲鳴に限りなく近い絶叫をしたが、無論そんなことは誰も聞いていない。

  ドオオオオオオオン!!

  どうやら、今サラマンダーの放った火球の流れ弾がまた寺の一部を吹き飛ばしたようだ。

「火球は避けたからと言って消えてなくなるわけではないですから……。」

  ノームが一人でやけに冷静に状況を判断している。

「どうしてお前達はそういうふうにやたらと物を壊したがるんだ!!

 ああ……修繕費用の事を考えるだけで頭が痛くなる……。」

「っていうか、颯樹(さき)ちゃんが無事だっただけで十分じゃない?」

「うむ。結果よければ全てよしだ。」

  寺の境内が半壊しているような状況を指して「結果がいい」と

あっさり言い切るサラマンダーの感覚についていけないものを

常日頃感じている重樹(しげき)が、ボソッと呟いた。

「(これ以上ツッコミを入れているとこっちの方がおかしくなりそうだ……)

 ま、まあ、そういう事にしておこうか。サラマンダー、消火を頼むぞ。」

「ねえ、パパ。これって一体どういう事なの?この人達、普通の人じゃないのよね……。」

  颯樹(さき)は、これ以上戦う理由はないと思い、手に持っていた練習用の剣を

とりあえず降ろした。さすがに、一瞬で火を消火したり呪文もなしに

火球を放ったりするような人間(ではないのだが)はマトモではない、

と分かったらしい。

「うむ。普通の人じゃない、というより、人間ですらないのだがな。

 今お前に向かって火を放ったのが『火』の精霊サラマンダーだ。」

「せ、精霊っ!?嘘でしょ!?」

  人外の力を見せ付けられた颯樹(さき)も、目の前に立っている人間(に見えるもの)が

精霊だと言われて素直に信じる事はできなかった。

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