「心があったおかげ、か……。なあ、サラマンダー。なんで我々には心があるんだと思う?」
サラマンダーは、一瞬の躊躇(ちゅうちょ)はあったが、音もなく重樹(しげき)から身を離した。 「……難しいですね……。」 「私にも答えはまだ見つからないのだが、ひょっとしたら、我々が心を持つのは 試練を乗り越えるためなのかも、と思ってな……。」 「ならば、颯樹(さき)殿の心配をなさる必要はありますまい。颯樹(さき)殿は、 重樹(しげき)様の奥方によく似て、強い心を持っております。」 「……だが、強さと脆さ(もろさ)は表裏一体。誰かがあの子の側で あの子を見守っていてくれぬものかな……。」 「私は、自分が精霊であることをこれほど不自由に感じたことはありません。」 精霊は、人間の上に立つ神とも言われている存在だが、実際のところは人間に対して 直接何かをしてやる、ということはできないに等しい。 主である「精霊使い」の命令があったときは別だが。 「サラ、私はおまえを責めるつもりはない。だから……。」 「私がもし人間だったら…………。」 その先のセリフを言うことはサラマンダーの誇りにも反し、そして精霊の掟にも反することだった。 「誰か、あの子の背中を守ってくれるものはいないものか……。」 第一話「Over Beginning‐完‐」 (22) |
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