Over Beginning第16ページ目
「颯樹(さき)ちゃん、さすがね。重樹(しげき)の娘ってだけはあるようね。驚いたわ。」

  シルフィードは重樹(しげき)に召喚された時のように、再び風景からにじみ出るようにその姿を現した。

  が、颯樹(さき)は油断なく身構えたままだ。

  真剣勝負など殆どした事がない颯樹(さき)にも、少しでも手を抜いたら確実に自分が倒される、

という事が半ば本能的に分かっていた。

  シルフィードに、これまでに一度も見た事もない不思議な術の力を見せ付けられた

颯樹(さき)の脳裏にはいまだにシルフィードに対する危険信号が鳴り続けている。

  少なくとも、颯樹(さき)の頭の中からはシルフィードに対する疑惑はきれいさっぱりと消え失せていた。

目の前にいるのが人外の力を持った精霊であると……いかに魔物であろうともあのような

不思議な力を発揮する事は出来ない、という事は颯樹(さき)にも分かっていた……

いうことにもはや一片の疑いも抱いてはいなかった。

「はぁっ!!」

  颯樹(さき)の体はシルフィードが再び表わした瞬間、バネに弾かれたような凄まじい勢いで

シルフィードに向かって突っ込んでいた。

「ちょ、ちょっと!!颯樹(さき)ちゃん!?」

  慌てたシルフィードは颯樹(さき)の剣がその体にめり込む前に再びその姿を消す。

「くっ!?また姿を消した!?でも、もうさっきの変な術はもう通じないわよ!」

「違うのよ、颯樹(さき)ちゃん。お願い、剣を収めてあたしの話を聞いて。」

「なによ!?あなたが精霊なら鉄の剣で殴られたって平気なはずでしょ?」

「そりゃあ、死にはしないけど、やっぱり殴られるとすごく痛いのよ!」

  颯樹(さき)はシルフィードの言葉を半信半疑に思いながらも、とりあえず剣を収めた。

「ふう。これで話ができるわね。」

「で、話ってなんなの?」

  颯樹(さき)は剣だけは収めたものの、油断なくいまだに戦いの構えを解こうとはしなかった。

「颯樹(さき)ちゃん、あたしは颯樹(さき)ちゃんとは戦いたくなかった。でも、あたしが

颯樹(さき)ちゃんを新しい主人と認めるためにはどうしても颯樹(さき)ちゃんの力を

見極めなきゃいけなかったの。ごめんね。いくら力を見極めるためとはいえ、

颯樹(さき)ちゃんに変な術をかけたりして。」

  シルフィードの語る言葉には颯樹(さき)にはよく分からない部分も多くあったが、

とりあえずこれ以上戦う必要がない、ということだけは理解できたのか、颯樹(さき)の体から

少し力が抜けたように見えたが、やはりその構えは崩れない。

「あたしが新しい主人……って、もしかしてあたしが『精霊使い』になるってことなの?」

「重樹(しげき)は颯樹(さき)ちゃんがあたし達の新しい主人になる事を望んでるわ。

今度の旅にあたし達の力が絶対に必要になると思ってるのよね。あたしも、あの剣のことは何度か

見た事があるわ。颯樹(さき)ちゃん、あの剣の威力はあなた達人間から見れば限りなく非常識よ。

あたし達の力でもあなたを守り切れるかどうか、正直言って自信がないぐらいなんだから。」

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