「いやああああっ!!」
裂帛の気合と共に颯樹(さき)はシルフィードに斬りかかった。 この斬撃をまともに浴びればどんな人間もただでは済まない……はずであった。 「まだよ♪まだまだ♪」 だが、颯樹(さき)の剣がシルフィードの体に触れた……と思われた次の瞬間、 シルフィードの肉体はまるで空気のように掻き消えてしまった。 「なっ!?」 颯樹(さき)は思わず驚きの声を上げる。 「うふふふふ……ふ……ふふ……。」 シルフィードの姿は颯樹(さき)の目には映らないが、そのハープの音のように 美しい声だけは確かに颯樹(さき)の耳に届いていた。 「うっ……。」 何も見えないのに、声だけがはっきりと聞き取れる、という状況は 怪奇現象以外の何物でもなかった。颯樹(さき)は親の仕事上こういうものには よく慣れているはずだったのだが、その声を聞いていると颯樹(さき)の頭は激しく乱れ始めた。 「ふふふふ……うふふふ……。」 頭がぼんやりして考えが一つにまとまらない。 颯樹(さき)は、自分がなぜここに立っているのかすら 分からなくなりそうな異常な感覚に襲われていた。 「やはり颯樹(さき)殿では勝てぬか……。」 サラマンダーが立っているのもやっと、という様子の颯樹(さき)を見ながらそっと呟いた。 その間もシルフィードの美しく妖しい声は颯樹(さき)の心を迷わせ続けている。 「こ、これは……!?」 その美しい声は颯樹(さき)の心に染み渡るようだった。いや、この声は恐らく どんな人間も虜に出来るに違いない。人間ではありえぬほどの美しい声……。 その魂を奪い去るような美しい声は……。 「はっ!?」 「『魂を奪い去るような』美しい声」。 その想像に思わず颯樹(さき)は正気に返った。 「そう簡単にはあなたの術には落ちないわ!!」 颯樹(さき)は自らの頬をぴしゃりと叩き、自らに気を入れなおした。 そして、シルフィードの居場所を気配から感じ取ろうとしたが……。 「(確かに私のそばにいる……どこかにいるはずなのに……)」 颯樹(さき)にはシルフィードの気配がうまくつかめなかった。 「卑怯よ!!姿を見せなさい!姿を!!」 (15) |
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