MKSeries | Square−Shoulder | Slope−Shoulder | |
Upper bout | 11 3/4” | 11 5/8 | 11 5/8 |
Waist | 10 3/16” | 11 1/8 | 10 11/16 |
Lower bout | 16 3/16” | 15 15/16 | 16 1/8 |
Body length | 20 5/32” | 19 7/8 | 20 3/8 |
Sides depth | 5 3/64” | 4 15/16 | 4 7/8 |
シリーズの仕様は
MK35 2ピーススプルーストップ・マホガニーサイドアンドバック・ウォルナットステインフィニッシュ3ピースメイプルネック・ローズウッド指板・ドットポジション・ブラックバインディング・ニッケルチューナー $439
MK35−12 MK35の12弦。12本しか作られていない。全てプロトであり正式出荷されていないとのこと。
MK53 2ピーススプルーストップ・メイプルサイドアンドバック・ナチュラルフィニッシュ3ピースメイプルネック・ローズウッド指板・ドットポジション・ブラック/レッドバインディング・ニッケルチューナー $549
MK72 2ピーススプルーストップ・ローズウッドサイドアンドバック・ウォルナットステインフィニッシュ3ピースメイプルネック・ローズとエボニーの3ピース指板・ドットポジション・ブラック/ホワイトバインディング・ゴールドチューナー $659
MK81 2ピーススプルーストップ・ローズウッドサイドアンドバック・ウォルナットステインフィニッシュ3ピースメイプルネック・ブロックポジション・エボニー指板・ブラック/レッドバインディング・ゴールドチューナー $879
MK99 オーダーメイドによるシュナイダーの手工ギター。2ピースジャーマンスプルーストップ・ハカランダサイドバック。出荷本数1本。作られたのは12本らしい。うち2本をシュナイダー自ら壊してしまったという。現存本数9本と言われている。価格はJ200の倍以上、銀のインレイやブリッジピン。ブレーシングパターンも他のマークシリーズとは異なる。 $1,999 (J200は当時$899)
トータル出荷本数8323本。これは、当時のギブソンアコースティック全体のおよそ1/3にあたる数と言われますが、当時のギブソンが期待した数字には程遠いものであったと思います。また、日本にはほとんど輸入されることはなかったといいます。
私の正規輸入品であるMK53は、ネックリセットして頂いたリペアマンの方に確認して頂いたところ、’75.2月に作られたということです。’75末発売開始ですから、発売半年以上前に作られたものということになります。サイドブレースがあったり細かな部分で以後のものとやや違う仕様がされています。J50タイププロトにもシリアルがついていたことを考えると、私のMK53もプロトに間違いなさそうです。
作りの違いから’76年以降には既にカラマズー工場で作られているような気がします。細かな仕様(トップやサイド、バックの木の産地)や仕上げ方も違っているようです。バインディングのパターンについては、資料と実物と食い違う部分もあります。MK81は赤・黒・赤・黒・赤というレスポールのバインディングに近いパターンを使っていたり、私のMK53は、外から黒・赤・黒・白となっていたりします。
なぜ途中で生産工場が変わったのかについては、確認がとれていませんが、幾つかの可能性が考えられます。ひとつはマスタールシアーであるシュナイダーが、途中でナッシュビルを離れたこと。もう一つはカーシャがギブソンに求めた工具の導入がされなかった為、生産効率やギターのできの面で支障が起きたこと。もしくは、新製品の売れ行きの悪さを、ギターの仕上がりの悪さのためと考えて、熟練職人のいるカラマズーに移したのかもしれません。初期のマークシリーズは、ブリッジの厚み等、カーシャの設計に忠実に感じますが粗悪品も多い印象があり、後期のマークシリーズは、ギターのできはいいものが多く感じるものの、普通のギターの仕上げに近づいているように思います。ただ、これは私個人の全くの個人的な見解です。
4.MKシリーズが売れなかったわけ
マークシリーズが「なぜ、売れなかったのか」についても、いろいろな見方があります。「シュナイダーとカーシャがクラシック畑の人達だった。」「過度にセンシティブな音を当時のプレーヤーが求めていなかった。」「残響時間が他の鉄弦ギターより短かったためだ。」「アコースティック製作経験のないナッシュビルで始めたのがよくない。」「ギブソンらしくなかったから売れなかった。」「ボディの厚みの為にふれこみほど反応がよくないギターが多かった。」等々。
マークシリーズの開発に当たってはブラインドテスト(目かくし状態での聞き分けテスト)による音作りが幾度となく繰り返されており、当時のギブソンスタッフ達の作った最高の音のひとつであったと言えます。実際、よく調整され弾きこまれたマークシリーズの残響は短くありませんし、レスポンスやバランスもよく、シュナイダーのクラシックギターの音と比較すると、見事に鉄弦ギターとしてアレンジしていると感じられます。ですが、その音色はブルースなどには似合わないもので、当時、この音を使える音楽のジャンルはなかったようにも思います。
立体的なサウンドホールロゼッタにも象徴的な意味があります。ロゼッタを含むマークシリーズのボディシェイプは、シュナイダーの個人製作のクラシックギターに酷似しています。この事実は、その音色とともに、シュナイダーが「鉄弦化されたクラシックギターをプレーヤーへ提案すること」をねらっていたのではないかと想像させる根拠の一つです。しかし、それは当時のプレーヤーが求めていたものではなかったと言えます。ガンガンとストロークをするギブソンファンにとって、あのロゼッタは「ストロークするな」と言っているようなものです。ですがもし、このギターの音を使う偉大なプレーヤーが現れていたら、状況は変わっていたのかもしれません。
一方、製造したのはたった4年間なのに途中で製作工場が変わるなど、同じマークシリーズでもギブソンらしく(?)大きな個体差が生じ「できの悪いマークシリーズも多く作られてしまった」ことも想像できます。これまで弾かせてもらったものの中でさえ、ネック周り(特にフレットはフィンガー向けのギターとしては厳しい状態のものも多い)やブリッジ、音色そのものも「ずいぶん違うものだな」と思わせられるものがありました。カーシャブレーシングやインピーダンス・マッチング・ブリッジなど、本当は量産しにくい面を持っていたのかもしれません。当時のギブソンのギター職人たちが、マークシリーズを本当に快く製作していたのかも疑問があります。
ただ、売れなかった最大の理由は、マークシリーズの生産に時期を合わせるようにしてフォークブームが去ってしまったことだったのではないかと思います。’77年頃から急激にアコースティックギター全体の生産は落ちていき、’80年代初期には、マーチンでさえ年間3000本程度しか出荷できなかった年もあります。縮小していく市場の中で新しい製品は、そのできは別にして、売れる確率よりも売れない確率のほうがもともと大きかったのだと思います。分離生産体制をとってまで拡大生産を図ろうとしたギブソンにとって、この「市場の縮小」は致命的なものであったに違いありません。
けれど、このカーシャとシュナイダーの試みは一部に熱狂的なファンを生み、クラインギターなど多くのビルダーに影響を与えつづけてもいます。もしもマークシリーズがギブソンブランドでなくカーシャブランドかシュナイダーブランドであったならば、サンタクルズやコリングスなどに匹敵するブランドになったかもしれない、という考え方もあるそうです。製作本数を無理せず、質の高いギターを製作し続けることこそ大切なことだったような気もします。
マークシリーズのプロジェクトは、見事に失敗し、ギブソンのアコースティック工場は、’84年に一時閉鎖されることになります。未来を見つめながら、足元が崩れてしまった当時のギブソンを否定されることも多いですが、そうした中で、大きな情熱を傾け続けた当時のギブソンスタッフがいたことと、彼らの作った不遇なマークシリーズから学べることは多くあるような気がします。
マイケル・カシャ・スパイダー・ブレーシング
上のカーシャ・ブレーシングは代表的なものでA−1Pと呼ばれるものですが、他にもいくつか考案されたそうです。D−2と呼ばれるものは12弦用でMK35−12にのみ使用されました。A−1Pよりも縦方向に対しブレーシングの本数・太さ・組み方も強く作られています。MK99は、シュナイダーのオリジナルブレーシングとなっています。私のMK99は“seriesA”とされており、A−1Pを基本としていますが、違うものもあるかもしれません。B−2パターンという、ウエストバー(ウエスト部分の横棒)をなくして振動部分をより広く取ろうとしたパターンもあるようですが、採用されたギターは確認できていません。
*シンコー・ミュージックさんに電話して、Yさんから「洋書を調べるしかないですよ。今のギブソンにも資料は残っていないでしょう。」というアドヴァイスを頂きました。有難うございました。
*’99.8.22 shirabeさんから資料を頂き、一部訂正や追加しました。有難うございました。
*’99.9.19 三ツ井さんから頂いた情報を一部追加しました。有難うございます。
*’00.10.22 内田ギターの内田さんから資料を頂き、一部追加・修正しました。有難うございました。
*’02.8.25 一部これまでの文章表現等修正を行いMK99に関する内容を付け加えました。
*’04.11.21 これまでの資料を見直して、全面的に内容を修正しました。Player誌のT氏、本当に感謝しています。