作品集20をつくるのに一本1000字らいの小説を書き下ろすことにしました。
で、極力くだらないやつ。一緒に掲載される予定の「11.09.11(無修正)」がそれなりにディープですので、とんでもなくくだらないやつ。チンチラとパンチラとマンチラがでるもの、ということで書いたんですが、これが死ぬほどつまらない。
でも面白くなるはづなんです。チンチラとパンチラとマンチラですから。以下に初稿を全部流して、面白くしていく過程を記録しておこうと思いました。
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「青葉繁れる」
十三日に起きた猟奇殺人事件に関連して、容疑者の通っていた癲狂院に行くこととなった。なんでも明治時代に西洋医学が本格的に入ってきた頃に開業した古い醫院だ。椎橋の駅から商店街をずっと抜けると十字路の片側、頑強な石塀を押しつぶさんばかりに青葉が茂っている。阿知羅醫院と金字で窓ガラスに銘されていたものも剥がれかけている。 開業当時の老先生が独りで頑張っているというが、事前に電話をしても一向出る様子がない。草と苔に乱れた飛び石は醫院とその奥の住居に続いていて、足元壁際にはおびただしい数の植木鉢がひしめいている。今現在、金曜の午前十時には開院していることを確かめて、ぐっと入口の戸を引き開ける。 五月の陽光に透いて白く埃の浮く待合室、長いベンチに座っているのは小学生くらいの女の子が独り。それよりもなによりも異質さが勝つのは、床を跳びはねる一匹の小動物である。小動物は入口から光が差したのに気がついたのか、まっすぐに私の方に向かってくる。駄目、逃がしちゃ、という甲高い声がして慌てて後ろ手に戸を閉める。見下ろせば小動物の表情は窺い知れないが、ちっ、という舌打ちの聞こえてきそうな素振りで脛に蹴りを入れてきた。 時計の音が人の気配のなさを際立たせる。無人の受付窓を覗くと衝立があって、カレンダーはちゃんと今年今月なのに安心する。 「あの、すみませんがお嬢ちゃん」 にべもなく顔を背ける女の子を逃すまいと、私はそむけた顔の方に回りこむ。 「ここの病院は看護婦さんとかそういう人はいないのかな。先生だけ?」 女の子はうんうん、と二回頷いた。先生は別の誰かを診療中なのだろうか。 土間をみると、自分のどた靴の他に女性物のヒールがある。 「お嬢ちゃんはここの病院の子?」 「わたしはまー君を直してもらいにきただけです」 「まー君」という単語に反応したのか、さんざん跳ねまわっていた動物が女の子のもとに戻ってくる。 「これは何の動物? ネズミ?」 「ネズミじゃないよ、チンチラだよ」 チンチラのまー君は女の子の膝の上でしばらくくつろいでいるふうだったが、急に身を翻すとスカートの中に潜り込もうとする。途端にきゃあきゃあ云いながらベンチから立ち上がると、図ったように「いぬにさん、いぬにてまりさん」としわがれた声がかかる。 (今の子、下に何も履いてなかったな) はっとして顔を挙げると、診察室に通じる扉がうっすら開いていて、中からパンダが顔をのぞかせているのだ!
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