著者インタビュー「ここがポイント」

このインタビューは、初秋の東京渋谷区某所にて行われた。現在は大学院に通っていらしゃる横田和子さんはずいぶん大きなバッグをもって時間より少し前にあらわれた。今度はモンゴルの草原で話をきいてみたくなるような人でしたよ。以下、「よ」は横田さんです。(1999年10月)
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今日はお忙しいところ、ありがとうございます。横田さんにこの本を書かれたきっかけや馬頭琴にまつわる思いでなど、お話していただけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。
よ:
こちらこそよろしくお願いいたします。ええっと、これってインターネットにのせるんですよね。
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そのつもりですが…
よ:
それじゃ、はじめて馬頭琴を弾こうと思っているみなさん、馬頭琴をもうすでにかなり上達されたみなさん、どうもはじめまして、ということで…
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ではちょっと質問に入る前に、モンゴルのことを少しうかがいたいのですが。
よ:
は、なんなりと。
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よく聞かれる質問だと思うんですが、モンゴル人って日本人とそっくりっていわれますよね。で、逆に一番モンゴルと日本で違うところってなんでしょうかね。
よ:
うーん。そうですね、それは−−ー「時間」ですかね。
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「時間」ですか。
よ:
空間とかの感覚ももちろん違いますけど、空間は、いってしまえばなんとか慣れると思うんですよ。ゲルからゲルへの距離、建物から建物への距離。あるいは十時間くらいドライブしても、あんまり風景が変わらないようなドライブとか。でもね、時間だけは。時間は、やっぱり日本人だからかな。こう、でーんとかまえていられない。ついつい、パンクチュアルになってしまいます。
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相対性理論…???
よ:
ハハ。難しいことはよくわかりませんが。ほら、モンゴルにいたからっていわれたくないから、かえって時間を守るようになったと、自分では思っているんですが。
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今日も時間前行動でした。
よ:
そうでしたか?…まあモンゴルの社会自体がね。ひとくくりにしたくはないけれど、どちらかというと、計画とかたてずらいんですよね。モンゴル人が悪いってことじゃないですよ。
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それはそうですよね。
よ:
日本人が彼らから学ぶことはたくさんあります。時間のことは、本にも少し書いたんですが、私たちがモンゴル人と関わることによって、その、私たちが今度は「時間泥棒」になっちゃうという、皮肉なことになる。
−−
「モモ」ですね。
よ:
でも最近はモンゴル人のなかにも「時間泥棒」はもちろんいますよね。私は、モンゴル人の友達に「モモ」のことを話したら、「すごい文明批判だ」と感動してくれたんですね。いつかモンゴルの人にも「モモ」を読んでほしいような、でもそうなってほしくないようなフクザツな気分です。
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さっそくなんですが、なんでまた、「馬頭琴」を?
よ:
うーん、それ、よくテレビとかでタレントとかがいいません?聞かれるたびに答えがちがっちゃうってやつ。まあ簡単にいうとなりゆきってやつですよ。この本も、馬頭琴も、自分で目標を立てて努力するっていうのが昔から苦手で、だからこう、自分の意志は、もちろんあるんだろうけど、それより出来事が外から自分に起こってくるような、そんなかんじで。
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わかるようなわからないような。そんなもんなんですか?
よ:
そんなもんです。モンゴル人だって、あまりこう、物語になるようなきっかけはもってないですよ。これやれば外国行けるんだ、とか、そんな理由ではじめたり。
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なるほど。まあきっかけなんてなんでもいいですからね。
よ:
ほんとほんと。だから、興味があって、条件というか環境がそろうなら、それで(馬頭琴をやって)どうなるとか、先のことは考えないで、はじめてみるのがいいと思うんですよ。はじめてみてだめだったって、命までとられるわけでなし、急ぐ旅ではなし、ゆっくりね、お馬さんとの相性をみていけばいいんですよね。
−−
我が家にも馬が眠りつづけているんですがね…
よ:
それはまあ、寝たいだけ寝させておきましょう。そのうち馬のほうから弾いてっておねだりしてくるかも。
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それもコワいですねー
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音楽は何かやっていらっしゃったんですか?
よ:
いや、何も。ピアノを習ったこともあったけど、月謝だけ払ってレッスンにいかないという、先生にしたらラッキーな生徒だったんですよ。
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弦楽器は…
よ:
馬頭琴がさわったのがはじめてでした。だからね、この本、タイトルに「はじめての」ってつくじゃないですか。「はじめての馬頭琴」っていうたびに、もうひとりの自分が「あたりまえだろ」ってつっこんでます。わかります?この気持ち。
−−
はあ、なんとなく。
よ:
音楽は好きだったけど、音楽の授業は嫌いだったですよ。なんか、うたとかって、テストされたり、するもんじゃないと思う。特に子どもの頃はね。歌いたくないときになんで歌わなきゃいけないのって思ってた。それに、ナゼか私が習った音楽の先生って、もちろんいい音楽とたくさんであわせてくれて感謝しているけど、全般的に見て、意気込みがないというか、どうも御自分が楽しんでいらっしゃらなかった感じでした。まあこれってときどき自分にもだぶるんですけど。
−−
音楽の授業は、私も苦手でした。
よ:
授業だけじゃなくて、クラブ活動とかも、はじめたらすぐやめちゃう。ほんとに見事に何にも続かなかったですね。あ、そうそう今思い出したんだけど、高校生のとき、アメリカの高校に一ヶ月だけいったんですよ。
−−
アメリカ?
よ:
そんな意外ですかあ?まあとにかく、でね、授業にでるんだけど、英語がぜんぜんなもんだから、とりあえず一番印象に残った授業ってのが、音楽の授業だった。これが授業かって思うぐらい、みんなリラックスして、身体を動かして、手拍子とって、即興なんかも入る感じで圧倒されました。涙がでそうになりましたよ。そのときは「ジーザス・クライスト・スーパースター」をやっていましたが、あれは劇団四季とかそういうのよりも迫力があったかもしれない。
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うらやましいですね。
よ:
白人もいれば黒人もいて、当然だけど。今思えば、アメリカはきっとすごく病んだ部分をもっていると思うけど、いろんな要素が融合して、やっぱりすごいパワーを持っているなって思いますよ。当時は、もう純粋に感動しました。
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それにひきかえ日本は…
よ:
これも、今から思えば、ってことなんですけど、私が小・中と受けてきた音楽の授業は、リラックスよりも緊張を強いるようなかんじだったかなあ。
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ええと、ちょっと話をモンゴルのほうに戻したいのですが、モンゴルではそういう教育なんかはどうなっているんでしょう。
よ:
私もあまり詳しくはないので、これから調べてみたいと思っています。日本みたいになっていないといいですけどね。
−−
現在大学院で勉学に励まれているということですが…
よ:
励まねばと思っておるところです。
−−
御専門はモンゴル語ですか?
よ:
いや、違うんです…ウチの大学にはモンゴル語専攻というのはないんですよ。残念ながら。あったらよかったのになあと昔から思ってました。これを見た人、作ってくれないかな。でも私のモンゴル語は相当あてになりませんが。
−−
そんなことないでしょう。そうすると御専門はなにになるんでしょう。
よ:
なんとご説明したものか…学部のときは、なんと日本文学だったんですよ。いやー、まあそのへんはいいじゃないですか。私はとても破綻しているんですよ。
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にしてはなんだかうれしそうですけど。
よ:
そんなことないない。悩んでいるつもりなんですよ−−
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まあ無理にききださずともよいでしょう。ええと、ところで今後の活動などの御予定は…
よ:
さすらいの吟遊詩人。まだまだ旅はつづきます。
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???
よ:
いえいえ、これからも馬頭琴がみなさんに愛されていけばいいなと。だから、そのために自分ができることを模索中です。
−−
どうぞがんばってください。
よ:
ありがとうございます。
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実はこのインタビュー、馬頭琴を弾くポイントを伺おうと思って、そういうタイトルにしちゃったんで、最後になっちゃうんですけど、なにかポイントってありますか?
よ:
いえいえ、私はまだまだ修行中の身なので、たいそうなことはいえないんですが、しいていえば、とにかくリラーックスすること。なんにも考えないで、からっぽになると、気持ちいい音がでていたりするんです。でもうまく弾いてやろうとか、なんか欲がでてくると、もうだめですね。。。
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そのへんは難しそうですね。
よ:
私も困っているんです。
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あと何かありますか?
よ:
私はすごくあがり症で困っているんですが、でもあえていえば、人に聞いてもらうといいかもしれないですね。なんか無我夢中になりますよ。
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とりあえずリラックスし、気分が昂揚してきたら人にも聞いてもらい…
よ:
きっとすぐ上手になりますよ。
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そうかなあ。難しくないんですか?
よ:
意外と簡単ですよ、きっと。
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最後になりますが、今からはじめる人にメッセージをどうぞ。
よ:
本の中で、小島先生がおっしゃっているように、馬頭琴を弾くと、本当に気持ちがゆったりしますよ。そういう楽器は馬頭琴だけじゃないと思うけど、人も、動物も、一緒になって協力して、音楽つくるって、やっぱり素敵なことだと思います。
 

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