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ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター /
Auto Focus

Paul Schrader

2002 USA 105Min. 劇映画

出演者

Greg Kinnear
(Bob Crane - 俳優)

Rita Wilson
(Anne Crane - ボブの最初の妻)

Shawn Reaves
(Bob Crane Jr. - ボブの息子、20才)

Michael Tachovsky
(Bob Crane Jr. - ボブの息子、12才)

Christopher Hagard
(Scotty Crane - ボブの息子)

Jacob Hagard
(Scotty Crane - ボブの息子)

Willem Dafoe
(John Carpenter - 電気関係の技師)

Maria Bello
(Patricia Olson/Patrica Crane/Sigrid Valdis)

Ron Leibman
(Lenny - 芸能エージェント)

Robert David Crane
(インタビューアー)

見た時期:2003年6月

ストーリーの説明あり

失敗と成功の混ざった作品です。キャスティングが失敗か成功か分からないのです。この2人ぐらいでないと演じられないという意味では正しい選択。しかし年のいった俳優にやらせるにはちょっと肉体的に限界を超えているのも事実。利点と欠点を相殺してゼロなる映画ではなく、両方の特徴がそのまま残っています。

個性派という点ではかなり個性の強い人を選んでいます。何よりもまずウィレム・ダフォー。この人は他の俳優からうらやましがられるほどいろいろな役が貰える人です。嫌な奴をやらせると上手いですが、頭の切れる FBI でかっこいい所も見せてくれます。コメディーからシリアスまで何でもできてしまう。スタローン、シュヴァルツェンエッガー、ウィリス、セガールに比べ 小柄で痩せている肉体的なハンディーを個性ある演技パワーで補う人と思い込んでいました。ですから最近、スパイダー・マンに筋肉剥き出しで登場したのでびっくりしました。何にでも挑戦する精神は偉い!

対するはグレッグ・キニア。この人は1人で主演を張ることはあまりないようですが、ジャック・ニコルソンと恋愛小説家で共演した時に強い印象を残しています。ほぼ2人だけのドラマですが、加えて興味深いのは2人が演じているストーリーが事実らしいこと。日本でナチの収容所をおちょくったOK捕虜収容所というコメディーを放映していました。随分前の話です。あまりおもしろくないので数回見て止めてしまったのですが、その時主演だった人がキニアの演じるボブ・クレーンです。あのテレビではボブ・クレーンは顔だけしか覚えておらず、むしろナチの収容所所長の方がおもしろかったと記憶しています。はげていて片眼鏡をかけた大柄な人です。このシリーズはアメリカでは日本よりヒットしたらしく、クレーンは一躍有名人になったようです。その頃クレーンが知り合ったのが、裏方で技術に強いジョン・カーペンター。あの有名なカーペンターではありません。普通のカーペンター。

話の汚さから言うともったいないようなモダンな、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンと似た、60年代風のアニメで始まります。

この2人が運命の出会いをし、その後2人は組んで、当時のモラルに大きく外れる稼業に乗り出します。 最近有名大学で起きた事件に比べると軽い方に入るのかも知れませんが、40年近い時代の差は考慮すべきでしょう。別な見方をすれば当時も現代もハリウッドでは似たような事をやっていると言えるのかも知れません。表に出ない部分は似たり寄ったりで、表に有名人の名前が出た時の世間の反応だけが違っているのかも知れません。

ここから後は話がばれますので見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

2人が何を始めたかというと、 クレーンが駆け出しの女優などきれいな若い女の子を調達し、カーペンターが乱交パーティーをビデオに撮影するのです。60年代ではスキャンダルになりかねないです。クレーンは家ではまじめな夫で父親。しかし若い女の子の胸が大好きという面があり、ハリウッドのような所では両方手に入ってしまうのです。カーペンターはどちらかと言うと技術フリークで、当時まだ新しかったビデオ・システムなどにのめり込んで行きます。ホーム・ビデオなどを個人で開発し、ボブに贈ったりしています。女に対する関心はボブより少なく、もしかするとゲイかもしれないというニュアンスも出て来ます。ゲイというのはつい最近までハリウッドではご法度。ゲイの噂が出るとあの手この手で否定して回る超有名スターが今でもいます。60年代は 俳優にゲイの噂が立つと致命的な時代だったため、ひた隠ししていた人もいたそうです。ゲイでない人は毛嫌いし、侮蔑の言葉もかなりきつかったようです。 自分はゲイではなく子供もおり一家の父親として家の中ではまあお父さんらしくしていた人ですから、クレーンはゲイに対してきつく当たるようです。

ベルリンは今でこそ人口の x 割がゲイだなどと言われる町になっており、市長にも初めてゲイの人が当選しましたが、60年代といえばドイツでもまだそういう環境ではありません。2人の主演俳優はゲイの役もやったことがあり、今回の役でもその辺は軽くこなしています。某大学事件に比べまだ善良だと思えるのは、やっているのがあくまでも乱交パーティーで、暴行事件ではないところ。そしてどうやらフィルムで脅しやゆすりはやっていないようなのです。少なくとも映画にはそういう話は出てきません。60年代は現代と性風俗もモラルも違いますが、その辺は映画の焦点ではありません。

焦点はクレーンという男の矛盾と2人の依存関係。こういう役にはキニアとダフォーぐらい達者な俳優を連れて来ないとだめだでしょう。キニアはメイクでかなり本物のクレーンと似せていますが、キニアの顔の方が明るくて健全に見えてしまい、今一。本物のクレーンは雑誌に載っている写真などを見ると、あまりお近づきになりたくないようなタイプでした。ですが役を演じられる俳優という面を容姿より優先したのは正解だと思います。キニアはけろっと笑って一家の父親と乱交パーティーが頭の中で矛盾しないという矛盾したキャラクターを演じています。後半年を取り、結婚生活も破綻してからは鬱状態で、これが彼の矛盾のつけなのだと観客には分かります。本人にはそれが分からず、徐々に世間が理解できなくなって行くところが芸能エージェントとのやり取りのシーンに出ています。

ダフォー演じるところのカーペンターはずっと希望がかなえられない人生を歩んで来た人で、屈折しています。シンボル的、衝撃的に描かれているのは、新しいカラーの時代に入り、ソニーのために新型のシステムを紹介する時に、色の調合を間違えるシーン。色盲だったのです(恐らく赤緑色盲でしょう)。まだショービジネスは白黒が大勢を占めていた時期。カメラ関係の仕事ではあまり問題はありませんでした。それがちょうど大々的にカラーに変わっていく過渡期に入り、そのハンディーを職場で雇い主に面と向かって言われてしまい、衝撃を受けます。不幸な星の元に生まれた人です。この時の惨めな立場をダフォーは的確に出しています。各社業界での役割が違うので一流、二流という言い方は私にはぴんと来ませんでしたが、ソニーが一流となっていて、この出来事の後、ダフォーは後退して行くということで、ソニーからアカイだか AIWA に下がったいうことになっています。

このシーンだけでもダフォーを連れて来た甲斐があったとは思いますが、彼は皺の寄りやすいタイプの人で、若い人間を演じるにはちょっと無理もあります。しかしでは誰か他の俳優にこの役をまわすか、と考えてもちょっと候補者が思い浮かばないのです。俳優は層が厚いから無名、中堅の俳優に演じられる人はいるかも知れません。しかしネームバリューも無いと観客が集まりません。その辺の決断が難しいところ。

最近ブギーナイツオルガスモなどセックスを扱った映画がちゃんと市場に乗ることがあり、これもその1つです。芸能界の裏の汚い面を扱った映画で、2人の俳優もそれらしい手つき、体つきをして見せるのですが、なぜか汚らしくならない、不思議な作品です。少なくともドイツ版ではえげつないシーンは出ません。ドイツはあまりセックスだからといってカットをしない国です。カットの対象になるのは暴力シーンか、時間を2時間に収めるために無駄そうに見えるシーンを切るかのどちらか。ちなみに友達が一団になってファンタに行くのは、ノーカットだからです。ファンタの後でただ券が当たって試写に行き、見終わって暫くして「なんか変だな」と思ったらたいていどこかシーンがカットされています。

この映画ある意味でスキャンダル映画ですが、どういうわけか地味でもあり、興行的にどのぐらい行くか。上映されたのは3日間映画割引ウイークエンドで、1本3ユーロという日。小さいホールは全然埋まらずガラガラでした。

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