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ボディスナッチ /
Corps à corps /
Body Snatch /
Zu schön zum Sterben

François Hanss

2003 F 101 Min. 劇映画

出演者

Emmanuelle Seigner
(Laura Bartelli - ストリップ・ダンサー)

Philippe Torreton
(Marco Tisserand - 建築家?)

Clement Brilland
(Jeannot - 息子)

Vittoria Scognamiglio (Doris)

Yolande Moreau
(L'institutrice)

Christian Pereira
(Prof. Marcellin)

見た時期:2003年8月 ファンタ

2003年 ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

今年のファンタでは大きな作品に当たりませんでしたが、中ぐらいの規模の佳作は多かったです。そういう作品の1つ。ファンタ速報にも書いたように国際色がいくらか減退したようでした。その中で珍しくフランスの作品を何本か見ることになりました。去年はフランスの作品としてはかなり規模の大きいヴィドックがあり、1997年にはフィナーレにカッセル、ベルッチ夫妻のドーベルマンがあったりと、かなり力強かったです。今年来ているのはそういった作品に比べると規模がかなり小さく、スタントや特殊効果は全然必要ないようなストーリー。地味と言えば地味です。しかし悪い作品ではありません。Body Snatch はそういう作品の1つです。

よく考えると的を外れているわけではないのですが、このタイトルですと全然違うタイプの作品を想像してしまいます。血が滴り、内臓見え見えのホラー映画とか、ドイツのアナトミーなど。原題の Corps à corps の方がいくらか筋に近いかとも思われます。

言葉の持つイメージを忘れ、ごく簡単にまとめて筋を語ると Body Snatch というタイトルで間に合ってしまいます。これでネタばれ完了。その中心テーマに 寒々とした雰囲気を出す俳優を連れて来て、寒々とした景色で肉付けしてあり、雰囲気で格を上げてあるので、あまりホラー映画風のタイトルにしたくないというのが私個人の意見。最後まで見るとタイトルに納得しますが、かなり後半になるまでは、なぜこんなタイトルにしたのかが分からず、見ているうちにタイトルを忘れてしまいそうになります。ですから全然違う名前をつけても良かったなあと思うのです。ホラー映画のカテゴリーに入れても良いですが、愛情ドラマ的な要素も強いです。

要注意: ここから本格的にネタがばれます!

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ストリップ・ダンサーをしているローラは、ダンサーのほとんどが最後は街角で男を取るようになることを自覚しています。自分はもう若さだけで売る時期は過ぎた・・・。それで金持ちの建築家マルコに結婚を申し込まれたのを機にダンスからは足を洗うことにしています。マルコは妻を亡くしでもしたのか、離婚でもしたのか、ちょっと年配です。ハンサムでもなく見かけはぱっとしませんが、優しく、ストリップ・ダンサーという職業のローラにちゃんと結婚を申し込んでいます。

いよいよこれで仕事を辞めて家庭生活に入ろうという最後の夜に事故に遭い、長い間昏睡状態。目を覚ましたら病室。耳が聞こえなくなっていました。かなりの大怪我だったようです。胸から腹にかけてかなりの大手術を思わせる傷跡が。しかし一旦婚約したマルコはそういう傷がついてもローラを傷物扱いにせず、無事結婚。田舎にあるお城のような大きな家にローラを連れ帰り、かいがいしく世話をするマルコとの間には息子も生まれ、その子も育ち小学校ぐらいの年齢になります。マルコが手話を教えたのでコミュニケーションも何とかやれます。

このあたりのシーン、欧州の雰囲気が出ています。お城のような大きい家と言いましたが、こういうのは欧州には時々あり、別に特別な家ではありません。ちょっとお金があれば、特別の大金持ちでなくても買えるか、借りることができます。私にはお金が無いからそんな事はできませんが、仮にあっても私なら借りません。なぜか。家が大き過ぎて掃除をするだけで大変。人を呼ぶにも人を訪ねるにも車が無いとだめ。がらんとした家に小さな息子と2人だけ。その息子も学校に上がれば朝から昼まで1人きり。でなければ使用人を使う術に長けていなければだめ。ぽっと町から来た人にはなかなか務まりません。その点ローラは良くがんばっています。ストリップをやっている時から、このままでは行けないと自分の方針をきちんと決める女性。映画の中では目立ちませんが、本当の意味で自立している人です。この作品は女性の自立を描く話ではありませんが。

息子が学校に入った頃からマルコの様子がおかしくなって来ます。ローラが質問をすると怒りっぽくなり、答は得られません。1人ではだめと悟り、昔の仲間を訪ねます。元のストリップ小屋は閉鎖。やっと友達を捜し当てたのは裏通り。この女性に当時ローラは、最後に売春婦で終わるのは嫌だと語っています。友達は現在では夜道で客を取っています。しかし友達の急場と知り、仕事を放り出して助けることになります。女2人で図書館で医学書などを調べているうちに謎は解けないながらも、漠然としていた話が具体的になって来ます。元ストリッパーと現売春婦が図書館に行き資料を調べるというところがユニークです。これまた画面に上手に溶け込んで違和感がありませんが、例えばドイツには2通りの図書館があり、1つは町の人が気軽に行って、週刊誌などが読める場所。もう1つは主に国立で、何でもあるかわりに、いかめしくて近づき難い雰囲気の所。2人はそういう図書館でがんばって資料をあさります。見つかった資料も医学などの専門用語があったりして、そう簡単にこなせるものではないのですが、司書の助けを借りたりしてがんばって食いつきます。偉い、そうでなくっちゃ。図書館には助けを求めれば、必ず助けてくれる係員がいるのです。皆公平に税金を払っているのですから、誰が使ってもいいのです。

さて、そうやって探っているうちに、夫の職業は本当に建築家なのか、夫には前に妻と娘がいたらしい、というところから、自分は本当に事故に遭ったのか、なぜ警察では調書を取っていないのか、彼女の体にある傷は事故の規模と比例しているのか・・・そしてしまいにはストリップ・ダンサーに本当にブルジョワの男が恋をしたのかというところまで疑問がエスカレート。ローラの人生はマルコに支配された形で、息子を人質に取られたに近い状態になります。そして夫は学校や近所にはローラが最近混乱しているといった印象を与えて回ります。果たしてローラは謎を解けるのか、夫と対決して勝ち目はあるのか・・・。

耳が不自由にしてはちょっとそのあたりの演出が徹底しておらず、少し腹も立ちますが、とにかく寒そうな雰囲気がよく出ています。経済的には恵まれ、夫とは6年も信頼して一緒に暮らし、息子までできている上、ストリップという商売からは完全に足を洗うことができ、誰にでも顔向けのできる立派な母親になっているのに、幸福は足元から徐々に崩れて行きます。それが曇りや雨の多い画面とマッチ。ローラがストリップを引退する日も夜で、からっと明るい太陽は出ません。この雰囲気は無論撮影した日の天候、撮影した場所からも出ているでしょうが、ローラを演じる Emmanuelle Seigner、ポランスキー夫人の功績もあります。そして、ストリップ・ダンサー、売春婦などの商売をしている人たちのがんばりも出ています。偶然でしょうが、同じくファンタで見た 謎の薬剤師にも似たような底辺で生活している人に人間的な目を向けるシーンがありました。

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