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チューブ / Tyubeu / Tube

Baek Woon-Hak

2003 Korea 112 Min. 劇映画

出演者

金錫勲
(チャン・ドジュン - 地下鉄担当の刑事)

朴尚民
(カン・ギテク - テロリスト)

ペ・ドゥナ
(ソン・インギョン - すり)

Kwon Oh-jung (すり)

イム・ヒョンシク

孫炳昊

キ・ジュボン

見た時期:2003年8月、ファンタ

2003年 ファンタ参加作品

フォーン・ブースと同じく、現実がフィクションを追い越し、韓国の地下鉄で火災惨事が起きてしまいました。韓国国内の事件が日本のメディアに大きく取り扱われることはそれほど多くありませんが、この事件は遠くにいる私にも他人事ではなく思え、日本のメディアが報道する気持ちも分かります。

まずはその本当にあった事件の方から。2月18日午前10時前韓国大邱市地下鉄車両から火が出、死者は翌日の報道ですでに125人、126人という数字になっています。また、警察、消防関係者からは198人という数字も出ています。それとは別に負傷者がさらに145人。自殺を試みた男が死に場所を地下鉄にし、死に方を火災と決めたのが原因で、大勢が巻き添えを食い、自殺志願者本人は生き残るという皮肉な結果に終わりました。

被害が大きかったのは使われたのが揮発性物質だった上、対向車線の列車にも火が回ったためです。それに加え、地下鉄路線コントロール室では反対側から来る列車を止められなかったのと、事件を小規模に押さえられると判断して流したアナウンスのためにすぐに逃げなかった人がいたためと思われます。その上中央が送電を中止したので列車は動けなくなり、現場から去ることもできなかったそうです。助かってしまった男は「できるだけ大勢を道連れに死にたかった」とけしからん事を言っています。

蛇足ではありますが、火傷治療の技術は近年非常に発達しています。入院直後は大変、その後も長期戦ですが、重傷でもかなり治ります。

この事故のためにチューブは公開が見合わされたのだそうです。納得。本来大ヒットしそうなアクション映画であるため、遺族や怪我人の神経を逆撫でしかねません。というのはこの作品の前半のシーンを見ると、「んんん、すばらしい近代的な設備を整えた地下鉄網だ」と納得し、「その後起こる話はフィクションだから、ポップコーンでもかじりながらゆっくり椅子に座って見物していればいい」という作風なのです。事故がなければ誰も文句は言わないでしょう。

しかし大邱市の現実に起きた事故の後では、「あれほど近代技術を集めて作られた地下鉄なのになぜ止められなかったのか」、「なぜ通報でごたついたのか」、「なぜすぐ逃げろとアナウンスしなかったのか」などと疑問、非難も集中しかねません。普段事故防止に尽くしている人たちは、仕事が成功すれば何事もなく済み、うまく行った時は誰にも知られず誉めてもらえない、惨事が起きた時は責められるという報われない立場にいます。その点日本ではまだ無事故ということに感謝する一般人が多く、「無事故連続 xx 年」というのもニュースになりますから良い方です。韓国でもそういう意味では日本人と似た考え方をする人も多いでしょうから、気を取り直して新しく無事故記録を作るべくがんばってもらいたいところです。

さて、ここからは映画ですから、フィクション。

元は国のためにややこしい仕事をやっていた人たちが、政治の成り行きで国からお払い箱に遭い、頭に来てテロリストになってしまうというところから話が始まります(そういうテーマで1つ新しい映画もできています)。首領のカン・ギテクは腹心の部下と一緒に地下鉄に乗り込み、乗っ取りを図ります。フィクションですのでその地下鉄に色々因縁のある人が集まって来ます。

日本で言うと刑事と鉄道公安官を混ぜたような仕事をしているチャン・ドジュンは恋人をカンに殺されたという過去があります。彼は乗っ取り事件発生直後無理をしてその地下鉄に乗り込みます。地下鉄専門にすりをやっているソン・インギョンはチャンに恋心を抱いています。彼女も車内に。地下鉄のコントロール・センターに勤務する若い男の奥さんは妊娠中。彼女もカンが乗っ取った地下鉄に居合せます。彼は仕事場に奥さんの写真を飾っていてルンルン気分。奥さんはご主人の顔を描いた刺繍をしています。愛情たっぷり、幸せ一杯の夫婦。ところが列車には大爆発を起こすだけの量の爆弾がつんであり、乗っ取り犯の指示で発電所に向かっています。時速140キロ、これはもうスピードの世界です。大体地下鉄なんて物が100キロ以上のスピード出せるんだろうか。韓国の地下鉄はドイツ製と聞いていますが、ドイツの地下鉄はそんなスピード出しません。出せないように作ってあることを祈ります。乗っ取り犯の恨みはそのぐらい凄いのですが、それも納得。この男は金が欲しいとか言うのではなく、自分の部下や同僚がお偉いさんに見殺しにされたのを恨んでいるのです。部下を思う辛い立場に立たされたテロリストを朴尚民は渋く演じています。カンの腹心の部下を演じている寡黙な俳優も、松田優作を思わせるタイプ。なかなかムードがいいです。

映画の構成から言うと、前半は近代技術を駆使して作られたすばらしい韓国の地下鉄ネットを世界にアピールするために色々な説明があります。退屈だと文句を言う人が出るかも知れませんが、ここはPR映画と見ていいでしょう。日本でも新幹線ができた後、調整室などを紹介しながら進むアクション映画が作られたりしています。どの国でも最新鋭の施設を誇りたい気持ちは分かります。ですからストーリーとしてはそれほどおもしろくありません。しかし、色々な警報システムなどは事件の進行上知っておいても無駄にはなりません。

これまで見た作品でも、韓国のアクション映画にはメロドラマがたっぷり入っていて、他の国の作品と多少趣きが違うのですが、チューブにもそういう人間ドラマが入っています。焦点は他の作品に比べ散漫になっています。主役の刑事は明るく振舞っていますが、心の中は彼女を亡くしてから真っ暗。どうも死ぬきっかけを自分で探して歩いているようです。ところがそれにしては金錫勲は明る過ぎます。すりという職業でありながらわりと正義感の強いソンもチャンの上辺をかするだけで、チャンの心を奪うところまでは行きません。なぜ自分の命をかけてまでチャンを救いたいのかが分かるようなストーリーは出て来ません。この辺のドラマは弱かったように思います。どうせメロドラマの伏線が弱いのなら、元国家に仕える身だった人が国を脅かす悪漢に至るまでの事情を大きなドラマにした方が力強い話ができたかも知れません。ブームだからと言って急いでたくさん作り過ぎると、脚本の弱い映画もできてしまいます。もう少し数を絞って、力作を出した方が戦術としてはいいのではないかと思います。力作を出す力はあるというところを去年、一昨年と見せてくれた国ですから。

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