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斬る、ビル! /
Kill Bill: Vol. 1

Quentin Tarantino

2003 USA 111 Min. 劇映画

出演者

Uma Thurman
(花嫁、Black Mamba、元殺し屋組織毒蛇のメンバー)

Vivica A. Fox
(Vernita Green - Copperhead、殺し屋組織毒蛇のメンバー)

Lucy Liu
(石井レン - Cottonmouth、やくざのボス、殺し屋組織毒蛇のメンバー)

Julie Dreyfus
(Sofie Fatale - 石井レンの部下)

栗山千明
(ゴーゴー夕張 - 石井レンの部下)

Daryl Hannah
(Elle Driver - California Mountain Snake、殺し屋組織毒蛇のメンバー)

千葉真一
(服部半蔵 - 寿司屋のおやじ、元刀鍛冶)

David Carradine
(Bill - 殺し屋組織のボス)

Michael Madsen
(Budd - Sidewinder、殺し屋組織毒蛇のメンバー)

真瀬樹里 (石井レンの部下)

見た時期:2003年10月

号外! 速報!

予定外の Kill Bill が飛び込んで来ました。凄い!おもしろい!

気合が入っている!

後半が見たい!

2004年まで待てない!

女の子に見て欲しいとタランティーノが言ったの、納得。

後で時間ができたら、このページにコメント入れます。

ストーリーの説明あり

うーん、これは一流以上、それよりずっと上の B 級作品。これぞタランティーノとうならせるアクション映画に仕上がっています。巷の記事を読んでいた時は B 級作品を世界でも有名な映画祭に持ち込むのか・・・と考えてしまったのですが、これは一流の A 級作品より遥か上を行っています。これぞ映画、これぞエンターテイメント。至る所オマージュだらけ、タランティーノが自分を育ててくれた恩師に当たる数々の映画(スタッフ、キャスト)とウマ・サーマンに捧げた愛の映画です。

タランティーノが日本、香港、中国などの映画に造詣が深いだけでなく、直接その筋の専門家とも親交をあたためていることは知られていますが、最近作品が無いので、天才も才能が枯れたかなどと思われていました。しかし Kill Bill の構想は3年前から具体化しており、ウマ・サーマンの出産に合わせてスケジュールを変更したので、完成が今になったそうです。

タランティーノという人は恐ろしくロマンチックだという印象を持ったのがジャッキー・ブラウンパルプ・フィクションに比べるとヒットの度合いが違ったそうですが、私はジャッキー・ブラウンは丹念に作ってあり、本人の言葉通りパム・グリアに対する感謝と愛情があふれた作品に仕上がっていると思います。共演にロバート・フォースターを連れて来ていい味を出していました。

その後目立った動きが無いまま6年。お金も儲かったし、早期年金生活か、などと思っていましたが、ウマ・サーマンをマドンナにして一発と考えていたんですね。Kill Bill を見ると至る所に、ファンなら分かるメッセージがちりばめてあり、これは早書き脚本家タランティーノでも準備に時間を要したなと思わせます。そしてタランティーノはマドンナを中心に持って来ると、蛙が王子になるがごとく燦然と輝くようです。1人の女性のために映画を1本捧げるというのは並のロマンチストではできない。彼は並外れたロマンチストです。

筋は至って簡単。後半複雑になるのかも知れませんが、その展開はまだ知りません。チャーリーズ・エンジェルズを悪人にしたようなビルと3人の女たちが、かつての仲間、花嫁の結婚式を襲います。彼女は妊娠しており、テキサスの小さな教会で式を挙げるところでした。9人が死に、彼女は九死に一生を得ますが、昏睡状態。頭に弾丸を食らっています。

殺し屋という職業柄危険は承知のはずですが、襲ったのはかつての同僚。何があったのかは後半になるまで分かりません。4年後蚊に刺されて目を覚ました花嫁は新郎と子供を失い、復讐を誓います。ここで常人なら「何もかも失った」と元気をなくして、そのままいじけてしまうところですが、花嫁は俄然元気を出して、1人、また1人と相手の居所を突き止めて片づけ始めます。これが実に分かり易い。大きなノートに大きな字で名前を書いておいて、片づけるたびに横線で消していく。まるで小学生が宿題を片づけているかのようです。

ジェニファー・ロペスのイナフでは失敗しましたが、Kill Bill では経過を短く説明する方法は 成功しています。いつ、どこ、誰などとテロップが出て、前後関係の説明はあっという間に終了。でないと200分でも話は収まらないでしょう。パルプ・フィクション同様時間は前後しますが、ややこしくなく、「ここに至るまでに前に何があったか」は観客にも簡単に理解できます。メメント・シンドロームは起きませんのでご安心を。

まずやられるのは銅頭と呼ばれるベルニータ・グリーン。最近は結婚して家庭を持っていますが、自宅を訪ねて女殺し屋の一騎打ち。そこへ4才ぐらいの女の子が帰宅します。私には小学生に見えましたが、4才だとかで、花嫁が失った子供と同じぐらいの年です。相手の事情も尊重して、2人はナイフを後ろに引っ込めて、子供の前では「古い友達とお話をしているところだから、部屋に行っていなさい」。子供がいなくなると「子供がいるから、この勝負は預ける」ということで取り敢えず話がつきます。その後ドタバタしますが、映画を見終わって家に帰ろうという時にふと以下のようなことを感じました。

映画の中でこのシーンはユーモアがありますが、何か特殊で、残酷さと笑いをミックスしたタランティーノ的新趣向に思えました。ところが後でゆっくり考えて見ると違う。この3人が男だったら、こういうシーンは映画に時々出て来ます。大人が2人命をかけて戦っている時に、少年がそれを目撃。それは片方の男の息子だった・・・というの、時たまありますよね。私は見慣れて、別に何とも思わなくなっていました。それを女性に変更しただけ。ところがそれに大きな違和感を感じ、このシーンが目立ってしまうのは、見慣れていないから。タランティーノはフェミニストなのかと思い始めたところです。

ここで思い出したのが先日読んだ記事。 Kill Bill は再三の暴力シーンが災いしてか、年齢制限が高くなってしまったのですが、監督は「入場料なんかどうでもいいから映画館に忍び込んで是非見て欲しい」と女性軍に呼びかけています。花嫁は女性。女性ががんばっている。しかし花嫁を攻撃して来る輩のうち3人も女性。職業はいずれも殺し屋。ですから清廉潔白という人はまだ出て来ません。この先どういう風に展開するのか楽しみです。

次にやられるのが綿口といわれるルーシー・リウの顔をした石井蓮。勝手に漢字をつけましたが、これは創作。石井は恐らくこれで良いでしょうが、蓮の方は色々な漢字が当てはまりますし、ひらがなやかたかなも可能。きれいそうな名前なので私が勝手につけました。本当はタランティーノが日本の三大イシイの名前を折衷にしてつけた名前なのだそうです。彼女は子供の時に目の前で親を殺されたやくざの娘。その後10年ほどで自分自身がやくざの大物にのし上がります。このシーン、かなり残酷なのですが、どういうわけかアニメ。その後に来る残酷シーンの準備です。

蓮は中国、アメリカ系日本人で、日本語はあまりしっかりしていません。彼女がのし上がったことに不満を抱く男があいのこと言ったことに腹を立て、自分の手で始末しています。ドイツに住んでいると混血だからといって不利になるという話は聞きませんし、逆に両方の文化が分かるというので有利になることも多いです。日本の社会はそういう風になっている部分と、なっていない部分があり、その辺を脚本に盛り込んであります。

最近マスコミをにぎわせている女性が中国系ドイツ人なのですが、私はある雑誌がわざわざそれを書くまで、全然知りませんでした。ドイツで1番有名なエンターテイナーの夫人なのですが、ご主人の病気のために長い間苦労をしているという記事がちょうど今月出たところです。私たちはその人をエンターテイナーの奥方としてしか知らなかったのですが、最近彼女が回想録を出したので、初めてお父さんが中国人だと知ったわけです。50年代、60年代にはもしかすると差別があったのかも知れませんが、私が知っている80年代以降はとんとそういう話は聞きません。私の家にも時々外国系の人が住みますが、周囲の人が気にしている様子もありません。「俺、イタリア人の所へ行って来る(イタリア・レストランへ行くという意味)」とか、「中国人の所で焼きそばを買おう」とかいう言い方が普通で、「誰が何人(なにじん)でも構わない、親が何人でも関係ない」といった感覚、あるいは誰かに「親は何人か」と聞かれても、「それがどうした」という感覚があるので、あいのことか混血という言葉があまり大きく取り上げられません。国民の1割以上が外国人になると、だんだんそういうこだわり方が無意味になって来るのかも知れません。かなり前に7人に1人が外国人で、10人に1人がトルコ人だという話を聞きました。その後他の国からも大勢来て定着していますから、かなりのパーセントになります。今でこそドイツ人だと自分で思っているいわゆる白人の人たちも、3世代ぐらい元をたどるとポーランドやロシアに行き当たります。ベルリンの場合この人口比率は1割どころかかなり高いです。ですから純正ドイツ人を自称しようとするネオナチなどの話を聞いていても、「この人よく考えて物言ってるんだろうか」と思うことがあります。日本も少しずつその方向に向かっているのでしょう。各国とも速度が違うようで、この点は日本の方がドイツよりゆっくりしているようです。

ルーシー・リウの演技力については私はまだ懐疑的なのですが、Kill Bill では少し株が上がりました。衣裳はほぼ着物で、下半身は決まっているのですが、襟元が今一つ決まらず、だらしなく見えます。しかしこれは彼女の責任ではなく、着付け担当者の責任でしょう。歩き方はアメリカ育ちのヤンキー・ガールにしては随分良く勉強しています。ヘアー・スタイルが今一なのも本人の責任ではないでしょう。仁侠映画に出てくるような粋な髪形にすれば良かったのにと、ちょっと残念。これとは反対にぴたっと決まっているのが目線。蓮の意思が目に強く現われています。

日本語は彼女1人でなく、サーマンもかなりひどいです。これはドイツ語に吹き替えてあるので、責任が俳優本人に行くのでなく、ドイツ側の問題かも知れません。リウはかなり練習をしたと聞いています。千葉真一と、もう1人の日本人の男性の吹き替えをできる人を知らないかと吹き替え会社から私の所へ電話がかかって来たぐらいで、日本語とドイツ語の両方をすらすら発音できる人をみつけるのは大変だったらしいです。ここはぜひ日本で吹き替え無しで見た人に感想を聞きたいところ。

このほかにまだ一騎打ちになっていませんが、カリフォルニアの山蛇ことエレ・ドライバーを演じるダリル・ハナーがいます。彼女は最近ジョン・ジョン・ケネディーとのゴシップ以外ではあまりドイツで話題にならなかったのですが、どうやら第2部に見せ場があるようです。ちょっと危ない女性を演じています。

チャンバラ・シーンで気になるのが体に隙があること。あまり剣術がうまくない若い人でも上段の構えをするので、「危ない!」と思ったら、やはりばっさりやられてしまいます。マトリックスのフィッシュバーンとウィーヴィングはかなり気合が入っていて、後ろから襲われても身を守れそうでした。外国人でもちゃんと構えをマスターできるという見本でしょう。2人の女性がいとも簡単に刀を振り回すのもちょっと気になります。あれ、凄く重い物なんだけれど。重いだけでなく、バランスを考えて作ってあるものだから(ここが西洋の剣と全然違う)、下手に振り回すとあまり力入れなくてもスパっと行ってしまいます。 でも、そこは B 級作品の重み、竹光で行くのでしょう。危ないものね、本物振り回したら。だめですよ、そんな事しては・・・。ところでああいう物は警察にちゃんと届けることになっているれっきとした人殺し用の武器。飛行機の中に手小荷物として持ち込むのだめなんだけれど・・・。

蓮を片づけるのは簡単な仕事ではなく、花嫁はかなりてこずります。そうです。やくざには用心棒がついているのです。この数が半端ではない。千と千尋の神隠しそのままといった感じの店で大立ち回り。 蓮の近くには危ない女性が用心棒としてついています。嫌なソフィーとゴー・ゴー・夕張も強敵。

この大仕事が片付いたところで、謎の言葉を残して第1部終了。パチパチパチ。

ありゃ、千葉真一は2時間近く何をしているんだ?そうです、彼は特別ゲスト出演。大きな文字で特別に名前が出ました。彼は刀鍛冶の服部半蔵。服部半蔵がなぜ沖縄なんかにいるんだ?寿司屋をやっているのです。なぜ寿司屋なんかやっているんだ?人斬り包丁を作っているうちに虚しさを覚えたのです。彼の作った刀を持っている人が事件に絡んでいるんですよ。死人も出る・・・。

ちなみにデビッド・キャラダインの役は元々ウォーレン・ビーティーに行くはずだったそうです。タランティーノがビーティーに「キャラダインのような演技をしてくれ」と言ったら、ビーティーが「なら、キャラダインに頼め」と言ったのがきっかけで、本人に役が回ったのだそうです。最初から本人に頼めば良いのにと思いますが、たまにはタランティーノもぼーっとしていることがあるんですね。

このほか音楽に凝っている、マカロニ・ウエスタン風のシーンが出る、など探し始めたら切りが無いほど盛りだくさん。深作に詳しい井上さんの方からもいくらでもコメントが出るのではないかと思います。

滅多斬りシーンに慣れていない一般のドイツ人観客にはちょっとショックだったかも知れません。ところがこの日会場では普段と違う事も起きていました。普通はクレジットが出ると皆そそくさと帰ってしまうのですが、第1部終了の表示の後出演者の名前が出て、館内が半分明るくなっても座って帰らない人が多かったのです。半分以上。中には余りの殺戮にげんなりした人もいたでしょうが、そうでない人の方が多い。そしてロビーに出るとまたちょっとショックを受けたような表情ながら、肯定的な反応の若い男性がたくさん立っていました。ザッツ・エンターテイメントと臆面もなく喜んでしまったカバは私ぐらいなものですが。

一部のユーモアは言葉の関係もあり、通じていない。音楽にもユーモアが盛りこんであるのですが、それも知らない人がいる。ですからこの作品どちらかと言えば年寄り組に向いているかも知れません。梶芽衣子の恨み節なんて今時知っている人どのぐらいいるだろう。タランティーノが彼女の主演作を参考にしているかも知れないので、一見の価値はありそうですが。

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