映画のページ

シービスケット /
Seabiscuit /
Seabiscuit - Mit dem Willen zum Erfolg

Gary Ross

2003 USA 141 Min. 劇映画

出演者

Jeff Bridges
(Charles Howard - 自転車屋、後馬主)

Valerie Mahaffey
(Annie Howard - チャールズの妻)

Dyllan Christopher
(Frankie Howard - チャールズとアニーの息子)

Elizabeth Banks
(Marcela Howard - チャールズの後妻)

Chris Cooper
(Tom Smith - カウボーイ、後トレーナー)

Kingston DuCoeur (Sam)

Michael O'Neill (ジョンの父)

Annie Corley (ジョンの母)

Michael Angarano
(John Pollard - 子供時代)

Tobey Maguire
(John Pollard - 青年、ボクサー、ジョッキー)

Gary Stevens
(George Woolf - ベテラン・ジョッキー、ジョンの友達)

William H. Macy
(Tick Tock McGlaughlin - 競馬中継をやるラジオ・レポーター)

Gary Ross
(競馬場の実況アナウンサー)

見た時期:2003年9月

ストーリーの説明あり

競馬のことは専門家の井上さんに聞かないと何も分かりません。最初に正直に無責任に言ってしまってから話に入ります。私は競馬なぞには元々全然興味がなかったのです。井上さんがおもしろい記事を書いた行きがかり上、最近は馬券の形、色などを知ったり、競馬場の外でも切符が、いえ、馬券が買えると知ったり、ま、知識は今もって限りなくゼロに近いです。

素人の頭にまず最初に浮かんでくる疑問は、馬の命名方。何であんな長い、へんてこりんな名前をつけるんだろう。この作品の主人公の名前もシービスケットといいます。ビスケットでは足りず、少なくとも2つの単語をくっつけます。日本の馬の名前も大体こういう感じ。モリノフクロウとかヤマタノオロチといった具合に長い。日本語の単語を並べるにしろ、英語を並べるにしろ(スマイルトゥモロー)、折衷にしろ(シシミラクル、この馬券是非ごらんになって下さい)、とにかく、エイリアンとか、スピードなどという簡素な名前にはあまり頻繁にお目にかかれません。

次になぜ馬を走らせておいて大金賭けるおじさんたちが殺到するんだろうという疑問。男性が圧倒的で、おばさんの出る幕はほとんどなし(とは言うもののシービスケットにはきれいなお姉さんも登場)。

そして最後になぜ他人の持っている馬なぞに自分の運命を賭けるんだろうという疑問。全財産を賭けてすってしまう人もいます。この疑問は馬に限らず、賭け事は何でもということで、おあとは10億分の1の男を見ていただくとして、最近馬が出てくる映画を2つ見ました。馬が主人公というのがシービスケット。もう1つは 本題は別な所にありますが、競馬シーンがちょっと出て来ます。

シービスケットを見るまでは馬に対する認識も競馬に対する認識も限りなくゼロに近かったのですが、この映画を見た後、馬に対して優しい気持ちが沸いてくるようになりました。ま、本当の事を言うとらくだと比較して、ああ、馬もらくだと同じなんだと考えていただけのことですが、シービスケットには感じのいい人たち、感じのいい馬が出演しています。この映画、数年経ったららくだ版を作って、アラビア語圏で公開したら成功間違いなし。

映画が作られた目的が不況にあえぎ、参戦にまでなってしまった国民を励まそうということなのは見え見え。こういうタイプの映画は普通押し付けがましいのですが、シービスケットはそういうのが無く、見終わってああ、感じのいい映画だったというのが第一印象。

これは人生に失望した人、落ちこぼれた人の映画です。その人たちが集まって、赤信号みんなで渡れば恐くない。いえ、悪い事をするのではありません。いや、賭け事は悪いことか。ま、当時は禁酒法などがあり、お酒と賭け事は法律で禁止されていました。

連れて来た俳優がいい組み合わせで、わざとらしさがありません。啓蒙、激励、キャンペーンなどのために作った映画でも、押し付けがましさが控えめだと楽しめます。時間をたっぷり貰って作っていますが、長い割に退屈しません。これは俳優の功績でしょう。味のあるベテランを集め、そこへ若手と馬を上手に配置してあります。そして驚いたことに俳優ではないゲーリー・スティーブンスの上手なこと。この人は本物の記録破りのジョッキーなのです。結構ハンサムで、職業柄非常に小柄。ジョンが目指す手本のジョッキーだったのが、ジョンが頭角を現わしてからはライバルにならず友達になってしまうという役どころ。そしてジョンが友を必要としている時に助っ人に現われる役です。

そして生涯1度のはまり役にクリス・クーパー。皮肉なことにこの作品でなく、アダプテーションで彼はオスカーを貰っています。なぜこちらの役であげなかったんだろうと思ったのは私1人でしょうか。ありますよね。こういうの。ニコール・キッドマンでも体当たりであでやかに演じたムーラン・ルージュでなく、鬱でどこまでも暗い、へんてこりんな付け鼻のめぐりあう時間たちで貰ってしまった。

ブリッジズはこのところずっと調子が良く、どの役でも彼の人柄がにじみ出ています。マンネリなのかも知れませんが、彼のかもし出す雰囲気が好まれているのだと思います。彼は自転車から自動車に乗り換え、子供を失った後、馬に乗り換えるという役どころ。子供を失った悲しみから自動車はもう嫌だという風になって行きます。馬を通して彼は2度目の夫人、生涯の友となるカウボーイとジョッキーを得ます。

敗者復活戦の物語ですが、ティームワークの勝利という見方もできます。子供を失ったチャールズにとってはジョンは息子の代わり。行き場を失ったカウボーイは競馬馬のトレーニングという形で仕事を止めずに済みます。貧困から子供1人でも救おうと考えた子沢山の両親に半分捨てられたようなジョンは、チャールズが息子代わりに扱ってくれるのを受け入れます。しかもジョッキー仲間に信頼の置ける友達ができます。

皆が何かを失った時代を経てアメリカが復興するという時代と平行して語られる物語は当時の歴史のおさらい。現在の不況の状況が違い、政治家が違うので、この話が今日そのまま通用するとは到底思えませんが、そういう話とは切り離して見ても感じのいい作りになっています。神経を逆撫でするようなストーリーも多い中、時にはこういうさわやかな話も良いでしょう。

マクガイヤーもゴシップ雀があれこれ言っていましたが、この作品ではこれまでと違う味をとてもいい形で出しています。スパイダー・マンだと思って行くと期待は見事に外れます。

★ 有名ジョッキーの訃報

ジョッキーとしてはあまり知られていませんが60年代にはビートルズと同じぐらい有名だったザ・モンキーズのメンバーのデイヴィー・ジョーンズが亡くなりました。彼は正式なライセンスを持ったれっきとしたジョッキー。芸能人になる前、ジョッキーとして頭角を現わすかどうかと言う時に、厩舎に出入りしていた人物が芸能界にコネを作ってくれたため、芸能人として活躍を始めます。

経済的に恵まれなかったため、ジョッキーでも芸能でもとにかく早くからお金を稼ぐ必要があったようです。たまたま才能があったので、子役として頭角を現わし、そのまま渡米。そこでザ・モンキーズのオーディションに受かる前にすでにエド・サリバン・ショーに出るぐらいの力をつけていました。ブロードウェイを経てザ・モンキーズのメンバーに抜擢され、解散後もリユニオンなどで芸能活動続行。

1度始めた事をないがしろにしない性格だったのか、ジョッキーとしての修行が始めっぱなしで終わっていなかったことを思い出したのか、本当に馬が好きだったのか、理由は分かりませんが、モンキーズ・ブームが終わってからちゃんと試験を受けて正式のジョッキーになり、優勝もしています。小柄な人はどの世界でも有能な人物が多く、成功する例が多いですが、デイヴィー・ジョーンズも多才でした。仲間内では健康な食事を取ることでも有名だったそうですが、ある日突然病死してしまいました。2012年で66歳でした。子役から大人の俳優に脱皮するのも難しいと言われた芸能界で成功し、一時的な大ヒットの後身を持ち崩す人も多い中最後まで現役。加えてジョッキーとしてもちゃんとした試合に出場。今は天を翔る馬に乗っているのでしょう。

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