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カンパニーマン /
Cypher

Vincenzo Natali

2002 USA 95 Min. 劇映画

出演者

Jeremy Northam
(Morgan Sullivan - 平凡なサラリーマン、産業スパイ、ジャック・サーズビーに変身)

Lucy Liu
(Rita - 謎の女)

Nigel Bennett
(Finster - サリバンが応募した会社のエージェント)

Timothy Webber
(Calloway - 会社の警備担当者)

David Hewlett
(Vergil Dunn)

Kari Matchett
(Diane Thursby)

見た時期:2003年8月 ファンタ

2003年 ファンタ参加作品

★ ナタリへの期待

期待は大いに膨らましていたのです。が、話はつまらなかったのです。出演者は1人を除いてバランスが取れていて良かったのです。セット、画面はかなり凝っていてすばらしかったのです。しかしインパクトに欠けていたのです。タイトルは日本が選んだカンパニーマンの方が最終決定された原題より良かったのです。

期待を膨らませた理由は、前作キューブが凄かったからです。キューブを見たのはほぼ偶然。ちょうどその時にそこにその映画があったから。カナダなどという映画ではまだそれほど有名でない国の作品。出演者は全然知らない。そして低予算と聞いていたので、そこそこの作品だろうと思ったら、大違い。最初の数分で、ばっさりやられてしまい、これは凄い、これはホラーだ、これはショッカーだ、これはファンタだと感心したのです。その監督だったので期待するなと言う方が無理。

単純なテーマを取り上げて、深い恐怖を味あわせてくれたキューブ。それに比べカンパニーマンの筋は単純さを減らした割にメリハリが無いのです。主人公が自分を探すというありきたりなテーマでも、多くの監督がすばらしい作品に仕上げている中、カンパニーマンは不発に終わっています。ナタリ監督にはすばらしい才能があるように思います。それには疑いはありません。今回はしかし才能の使い方が下手だったように思います。

★ プロットと現実

ある二枚目でもない目立たない退屈男が、人生に少しスリルを付け加えるために、産業スパイになることを決心。どこかの組織に応募して採用されます。二重生活を送るというだけで十分満足していたのですが、間もなく二重スパイになれというリクルートがあり、参加。そうやっているうちに誰がどちらの側で、何が何だか分かりにくくなってしまい、迷路状態。(後記: 2005年も終わりに近づいた頃から見ると、誰がどちら側か分からないというのは先を見たテーマ選択だったと思います。何しろ与党・野党に分かれているのかと思っていたら、1つの政党の中が2つに分かれていて、与野党の半分が似たような考え方をしていたなどという状態に突入しています。いっそのこと政党を解散して、もう1度似たような考えの人を集めてやり直したらどうだろうと考えるこの頃です。後記の後記: 2011年に入った今、与党の中がこんな状態で、ますますナタリの言うことが正しかったと納得。)誰がどちら側か分からないという話ですと、最近リクルートという作品もできていますが、カンパニーマンはああいう騒がしい話ではなく、非常に静かなトーンです。そこは監督のスタイル。あと一息でそのスタイルも上手く生きたな、と返す返すも残念。もうちょっと手際良く演出すれば何とかなったのかも知れませんが、映像に凝り過ぎたせいか、ストーリー全体が平たくなってしまい失敗。

プロットはディーン・クーンツが試みたような薬物と催眠両用で人を洗脳するという話。カンパニーマンは SF 調で、クーンツの犯罪調と趣きがいささか違います。そして最後は 007 のパロディーかと思わせる展開になります。記憶を消して人間を道具として何かに使う、あるいは何かやらせておいて後で記憶を消すというストーリーは最近流行っているようで、ベン・アフレックも似たような作品に出演したと聞いています。人間の記憶を消してしまうのはフィクションの世界でもそう容易な事でないと見え、偏頭痛が起きたというプロットがあちらこちらで見られます。これが副作用も無く鮮やかに成功してしまうと、主人公が記憶を消されたことに気付かず、話の筋が先に進まないという進行上の不都合もあるからでしょう。

後記: ★ 現実の方が怖い

2011年に入り、思い起こして見ると、時々変な話がありました。

2008年気の弱そうな青年が突然ナイフを振りかざし、7人死亡、10人負傷という大事件を起こしてしまいました。捕まえて見るとそれほど反抗的でも反社会的でもない人物で、答えられる質問には答えている様子。所々記憶が途絶えており、そこだけ答えていませんが、隠そうとしている様子も無し。記憶が途絶えているという点がちょっと引っかかっていました。

起きた当時は大勢の人が毒で殺されそうになった、井上さんが危ないところで地下鉄に乗り合わせずに済んだという視点で見ていた1995年の大事件。長い年月の後、インターネットを見ていると、この人たちはカンパニーマンで使われるような技術を本気で研究していたとありました。まさかと思ってあれこれ見たのですが、見れば見るほどその話が本当のようで・・・、ぞ〜っとしました。

最近は規制されているのかも知れませんが、80年代、90年代の教授法に横になって音楽を聴きながらというのがありました。私は教える側になるように勧められたのですが賛成しかね、断わったためか、以後全く豊かな生活とは縁のない所で暮らすことになりました。しかしその時使われた音楽は今も鮮明に頭に残っており、同じ曲が流れると、私の頭は「受け入れる準備ができていますよ、何でも言ってください」風になってしまいます。たまたま私が音に敏感な体質なのでしょうが、うれしくない状態で、その曲だけは避けて通らなければなりません。この時は音楽だけだったのですが、最近ある番組で視覚、聴覚を利用した方法について討論していました。日本人にかなりの数被害が出ているようなのですが、十分な規制はされていない様子。

・・・といった具合で、ニュースを見聞きして大分経ってから、変だなあと感じる時があります。変な映画を見過ぎたのでしょう。

★ ルーシー・リウ

出演者に有名人を呼んで来なかったのは成功。名のある作品に出ているけれど、目立たない人が主演。他はイギリス、カナダ系の人が多いです。その中で有名過ぎて目立ってしまったのがルーシー・リウ。この人根性があるらしく、色々な作品に顔を出していますが、これまで演技でも姿でも感心したことが無いのです。やる気だけはいつも感心しています。ドイツでも「何が何でも新聞雑誌の見出しに飛び出す才能がある」と評価されています。競争も激しく、タフな神経を要求されるアメリカの映画界に殴り込みをかけた中国系アメリカ人という意味では評価していますが、強引なマネージャーの勝利という感じで、本人の資質を生かす作品にはまだ恵まれていないのではないでしょうか。チャーリーズ・エンジェルズのように参加する事のみに意義のある映画に出ておくのも良いでしょう。しかしそろそろ「これぞルーシー・リウ」という映画を作らないと行けません。キル・ビルではやや趣きを変え、ここは彼女でないと・・・と感じさせるものがチラッと見えました。かなり有名になったのだからそろそろ役を選べるのではないでしょうか。

例えばウマ・サーマンの演技も高く評価していないのですが、彼女は出て来るだけで絵になるという作品をまず最初にド〜ン(パルプ・フィクション)。その後いくつもつまらない映画作っておいて、最近また予告だけで既に絵になっている作品をド〜ン(キル・ビル)。こういう風に演技でなくてもサマになる格好を見せてくれれば映画界では存在価値があるというものです。リウ嬢がどの道を選ぶのかはまだ分かりません。あの根性でマネージャーに「次は演技で行こう」と言われればこなせるのではないかという気がしないでもありません。リウ嬢、そろそろ名前を出すだけでなく、出演し甲斐のある作品見つけないとだめです。容姿に最高に恵まれているというわけではなくても、メイク、鬘、衣裳の具合で素敵に見せることができるのは多くの女優でもう証明済み。カンパニーマンでもバーの場面など、あと一息でうまく行きそうなシーンがあるのです。謎の女を演じているのですが、少年ぽく見えてあまり謎にならないのです。その辺をもう少し追求してみてはどうでしょう。

画面、セットはかなり凝っています。色を制限して、調度品も趣味を強調しています。美術さんの勝利。ナタリ監督、リウ嬢、今回は湿った花火でしたが、次の作品期待しています。

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