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ファイティング×ガール /
Against the Ropes /
Die Promoterin

Charles Dutton

2004 USA/D 111 Min. 劇映画

出演者

Meg Ryan
(Jackie Kallen -ボクシングのプロモーター )

Skye McCole Bartusiak
(Jackie Kallen - 子供時代)

Dean McDermott
(Pete Kallen - ジャッキーの父親)

Sean Bell
(Ray Kallen - ジャッキーの叔父、ボクサー)

Joseph Cortese
(Irving Abel - ジャッキーの上司)

Kerry Washington
(Renee - アベルの部下、ジャッキーの同僚)

Omar Epps
(Luther Shaw - ジャッキーに言われてプロ・ボクサーになった男)

Adrian Devine
(Crisco - 父親の知り合いのボクサー)

Jared Durand
(Crisco - 少年時代)

Charles Dutton
(Felix Reynolds - ルーサーのトレーナー)

Tony Shalhoub
(Sam LaRocca - 巾を利かせているプロモーター)

Timothy Daly
(Gavin Reese - 地元のレポーター)

Tory Kittles
(Devon Green - サムの配下のボクサー)

Juan Hernandez
(Pedro Hernandez - サムの配下のボクサー)

Jackie Kallen (レポーター)

見た時期:2004年6月

★ ボクシングを仕切るのは誰

実話風に作ったボクシングのサクセス・ストーリー。アリではムハメッド・アリに集中して、あまりドン・キングのサクセス・ストーリーは大きく取り上げていませんが、当時までボクシングと言えば黒人に戦わせ、裏で試合を仕切るのは白人と相場が決まっていました。それがムハメッド・アリと一緒に登場したドン・キングの頃から、黒人も試合のマネージメントをやるようになりました。

キングに関してはあれこれ言われていますが、白人の牛耳る世界に黒人が割り込んだという意味では画期的です。アングロサクソン以外の人がアメリカの大統領になるとすれば誰が1番早いだろう、女性か、特定の民族に属する人か、などとよく言われますが、同じようにボクシングのプロモーターに黒人が来るのか、女性が来るのか、などという予想を立てる人もいます。ドン・キングが登場した後、次に来るのは女性だろうと予想できますが、実際にプロモーションをやるとすれば、女性としては困難を計算に入れなければなりません。少なくとも女性第1号は。その彼女の戦い、挫折がテーマです。

★ ストーリー

幼い頃からボクシングの世界で育ったブロンドの女の子、それがライアン演じるジャッキーです。業界は知り尽くしています。ですから男尊女卑の世界だということは承知しています。それでも彼女はボクシングのプロモーターになりたかったのです。今でこそ女性ボクサーもおり、ムハメッド・アリの娘の1人もボクシングをやります。ちょっと前にはガール・ファイトで若い女優ロドリゲスが映画撮影のために本当にボクシングのトレーニングをやっています。ジャッキーは最初ボクシング関係の会社にいましたが、ある日意を固め旅立ちます。

ボクシングの世界は男でもそう簡単ではありません。業界を牛耳る人間に歯向かうと試合をさせて貰えなかったりします。誰かが「あいつは才能がある」 と言っても、ボスの気に入らなければだめです。ある日偶然ジャッキーは殴り合いをしている若者ルーサーを見ます。相手デヴォンは物のはずみに喧嘩になって 1 ドルで大物プロモーターから買い取ったプロのボクサー。そのプロと互角に遣り合っている若者ルーサー。才能が見えたので、独立してこの若者を育ててみようという気になります。

有り金はたいてこの若者を援助し、昔知っていた有能なトレーナーを探し出し、2人で特訓を始め、徐々に力をつけて来ます。この無名の男を演じているのが北野武の作品にも出たオマー・エップス。昔知っていた有能なトレーナーというのがこの間ゴシカで悪役をやっていたチャールズ・ダットン。その上ダットンはこの作品の監督です。監督歴はそう長くありませんが、俳優としてはベテランで、有名どころではシークレット・ウインドウゴシカランダム・ハーツニック・オブ・タイムSe7enエイリアン 3 などを見ました。

ボクシングの話に戻りましょう。Elefantenherz でもトルコ人のトレーナーがドイツ人の主人公に言っていましたが、タフに殴るだけではボクシングはだめです。ムハメッド・アリが強かったのは体が大きくて丈夫だったという理由ではなく、頭が良く、作戦を練って相手と対戦したからです。そういう事をこのトレーナーも言います。自分の腕力を効果的に相手に浴びせなければ行けないと言うのです。トレーナーはいつ聞いても同じ事を言っているようですが、それをマスターしたボクサーが上へ上がって行くのでしょう。

さて、ルーサーを取り敢えずプロで通用する程度に育ててはみたものの、今度は縄張り争いがあります。自分のボスに逆らって独立したので、これまでの縄張りでは仕事ができないのです。これは女だからという問題ではないでしょう。マフィアでも島というのがあるぐらいですから、ボクシングでも上下関係や周辺の縄張り関係ががあるでしょう。それで最初苦労します。しかし子供の時からボクシングの世界を知っているジャッキーはこういう困難も承知しており、パブリシティーが必要なことも良く知っています。それで信頼できるスポーツ・レポーターを自分側に確保しておきます。

このレポーターの役におもしろい人を連れて来ています。ティモシー・ダリーは外見を見ると端正な顔の普通の俳優、ただそれだけですが、なかなか個性のある仕事をしています。以前ドキュメンタリー映画ハーヴェイ・ミルクがあり、政治家ハーヴェイ・ミルクが殺されるまでの状況を追っていました。それから暫くしてExecution of Justice という作品を見ました。こちらはテレビ用の劇映画です。ここでミルクを演じたのはピーター・コヨーテ。そのミルクを暗殺した男がダン・ホワイトで、その役を演じているのがティモシー・ダリーです。この人は舞台裏ではこの番組のプロデュースもやっていました。ドキュメンタリーは、《一体どうなっていたのか》という話で、劇映画の方は《なぜこうなったのか》という話です。

さて、そんなこんなでジャッキーたちはとにかく試合にこぎつけ、ルーサーを徐々に勝たせて行きます。ボクシングがティームワークだというのが良く分かるように説明されいます。例えば対戦相手の誰かが、ルーサーに下剤の入ったジュースを飲ませようとするので、事前に気づいたジャッキーがそれをすり替えるというシーンがあります。ぽっと出て来て、殴るのが上手だというだけではだめで、マネージャーやスタッフが契約に目を通すだけでなく、パーティーなどでも目を光らせて自分のボクサーを守らないとだめだということです。

ルーサーはどんどん成功して行きますが、ジャッキーも成功して行きます。ルーサーはあまりうぬぼれの強い人間ではないのでかなり長い間うまく行きますが、ジャッキーの方にボクサーのルーサーよりたくさんスポットライトが当たっています。女性のプロモーターは業界で初めてなので、周囲も珍しがってイン タビューをたくさんしますが、時にはジャッキーがルーサーの答までさえぎって言ってしまいます。ルーサーを子供扱いして、母親が未成年の子供に代わって答えるみたいになってしまいます。

徐々に2人の間には溝ができ、ルーサーは去って行きます。ルーサーは新しい契約の中で、苛めに遭い、不利な条件でこの地方のボスが仕切る試合に臨む羽目に陥ります。準備期間が短か過ぎて勝ち目がありません。ジャッキーはボクシングの世界からすでに足を洗っており、普通の女子事務員になっていました。クライマックスで、ルーサーの悪条件に気付き、不利に運んでいる試合の最中に、ジャッキーはルーサーに一言忠告をするためリングに乗り込みます。この辺は目を覆いたくなるようなばかげた演技になります。結局最後はハッピーエンド。

★ ライアンのシリアス・ドラマ

ちょっと前ハッピーエンドで良かったという記事を書きましたが、この作品のハッピーエンドは、もう少し演技で内容を濃くしてもらいたかったです。ムハメッド・アリでもハッピーエンドですから、別に最後にルーサーが勝つという筋運びでもいいのですが、もう少し内容を掘り下げてもらいたかったです。

監督の責任と言いたいところですが、そういうわけではありません。私にはミスキャストだと思えました。アメリカはシステムがややこしくて、監督といえどもキャストを勝手に変更できないのかも知れません。全く同じ脚本を使ったとしても、例えばケイト・ブランシェットにやらせたらずいぶん良くなっただろうと思います。シャーリーズ・セロンでも良かったかも知れません。メグ・ライアンはシリアス・ドラマをやりたがっているようですが、というか本人がよくインタビューでそう言っていましたが、せっかく貰えたチャンスを無駄にしたように思えます。

タイトルは《ロープに逆らって》ですから、ライアンの現状を表わしているという感がないでもありません。しかし、彼女はこの役に乗っていないのか、全然精彩がありません。その上、演技と言える演技をしていません。私は見た本数が少ないので、これがいつもの彼女なのかも知れません。しかしロマンチック・コメディーでは絶妙な演技をやっているという評判を聞いたこともあるのです。

脇はトレーナーを演じている監督も含めて皆でしゃばらず、引っ込み過ぎずバランスの取れた演技をしています。まるでメグ・ライアンを引き立てるためにお膳立てされたかのようですが、良いアンサンブルです。こういう枠をセットしておいて、そのトップにどの輝くスターをはめ込むか、それが成功するかどうかの分かれ道。知名度はライアンがダントツ。ですから彼女はここでのびのびと演技をすればそれで良かったのですが、うまく行っていません。お定まりのハッピーエンドでも、ブランシェットなら、《最後はうまく行ったが、途中が大変だった》というような中身の濃い演技ができるでしょう。ケイト・ウィンスレットでも存在感のある演技ができたかと思います。(乗っていない)メグ・ライアンが演じると重みがなく、まるでお人形のようです。これまでのロマンチック・コメディーのイメージが私に偏見を与えているというのではありません。なんせ、私は彼女の有名な作品はほとんど見ていないのですから。これまで彼女の手足にあまり注目したことがなかったのですが、この作品では彼女のおみあしが見えます。恐ろしく細い骨格に、贅肉はゼロ。そこへかなりのトレーニングをしたと見え、筋肉のみという脚が見えます。何だか痛々しく思えました。

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