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クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たち /
Les Rivières pourpres 2 - Les anges de l'apocalypse /
Die purpurnen Flüsse 2 - Die Engel der Apocalypse/
Crimson Rivers 2: Angels of the Apocalypse

Olivier Dahan

2004 F/I/UK 100 Min. 劇映画

出演者

Jean Reno
(Pierre Niemans - 警部)

Benoît Magimel
(Reda - 麻薬捜査官、ニーマンの教え子)

Camille Natta
(Marie - 警察官、宗教関係の専門家)

Gabrielle Lazure
(Jésus の妻)

Augustin Legrand
(Jésus)

Serge Riaboukine
(Vincent - 僧侶)

André Penvern
(Dominique - 僧侶)

Eric Chevallier (Mathieu)

Cyril Raffaelli
(牧師を殺した男)

Victor Garrivier
(戦対独防衛基地の管理人)

Olivier Brocheriou
(Barthélémy)

Wilfred Benaïche
(十二使徒の1人)

Marc Henry
(新しく到着した僧)

Frédéric Maramber
(工事現場主任)

Fosco Perinti (税官吏)

Christopher Lee
(Heinrich von Garten - 戦時中のドイツ人兵士、後ベルリン政府の宗教関係権威)
Johnny Hallyday
(壁に埋め込まれた男の兄弟)

見た時期:2004年7月

要注意: ネタばれあり!

前回も自然が美しい地方で起きた事件を扱っていたのですが、今回もロートリンゲンというドイツとの国境地域から物語が始まります。そのため自然がたくさん出て来ますが、カメラがだめで、地方の良い所が画面に上手に出ていません。

すぐストーリーに入りましょう。この地方の由緒ある修道院の13号室は使わないことになっていたのですが、そういう規則を知らずに到着した新任の僧侶が、自分の個室として使い始め、早速十字架を壁に打ち付けます。するとそこから血が流れ出し、びっくり仰天。警察が呼ばれます。

やってきたのがご存知ニーマン警部。古い修道院の建物、信心深い修道僧を相手に、最新科学捜査をやり、あっという間に壁に死体が埋め込まれているのを発見。死体はまだ新しかったと見え、血はまだ液体。もしかしてこの人は生き埋め・・・?十字架を壁に打ち付けるのにそんなに長い釘を使ったのか・・・?このあたりの矛盾を突く雑誌の記事も出ていますが、与太話は無視して先へ。

無論この血がスティグマータ 聖痕のように液体で流れ出してくれないと誰も血に気付かず、死体は壁に埋め込まれたまま誰も気付かない、あるいは腐乱してからようやく変だと思い始めることになり、映画の進みが遅くなります。ですからまあ、ここはいいことにしましょう。ゴシカに比べれば与太ぶりは押さえてある方です。ちなみにクリムゾン・リバー  深紅の衝撃の監督はハリウッドへ行ってしまい、交代。新しい監督オリビエ・ダーンはまだキャリアは浅いようですが、結構上手に話をまとめています。壁から鮮血が出て来たのは監督のせいではなく、ジャン・レノーの長年の友人リュック・ベソンの責任。2人のコンビで作った作品は以前の方が出来が良く、クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちは2人にしては手抜きです。しかし作品全体はベソンとかレノーという名前を無視して考えると、楽しい活劇になっています。

監督が代わり、ニーマン警部も新しい事件担当になったとはいえ、前の作品を踏襲しており、舞台はまたしてもフランスの地方。小さな事件を掘り起こして行ったら、とんでもないものにぶつかってしまった、連続殺人だ、殺された人間の死体の傷がリアルに出るシーンがあるなど、前作を尊重して似せてある部分がいくつも出て来ます。何度も血が流れているという点でもタイトルに恥じることはありません。

と、連続殺人であることをばらしてしまいましたが、これはプロローグ。ニーマン警部は遺族などを探しに行きます。兄弟という男が見つかり、自分たちと違い、弟(兄?)はまともな道を歩み宗教に入ったというような証言を得ます。見ようによってはこの家族はがたがたに崩壊していて、どうしようもない底辺で生きるか、宗教にのめりこむしかなかったかとも取れますがあまり深く掘り下げず次の死体へ。

ところでこの兄(弟?)、あのシルビー・バルタン(レナウンのCMは素敵だった!)の前亭、ジョニー・アリデイのようです。この名前を聞くとにやっと馬鹿にしたような笑いを浮かべるドイツ人もいるのですが、フランスではスター。俳優としては小さな役ですが、別に演技は下手でもなく、さっと登場して、ぼろは出さずさっと消えます。

ニーマンとはまったく別な場所で別な事件に関わっていたレダ。アラビア人のような名前ですが、スピードのキアヌ・リーヴスを思わせるような好青年。あまり出来の良くない同僚と一緒に麻薬捜査の真っ最中。ところがゴシカのように突然路上にさまよい出た男性とばったり。怪我をさせたかと心配になり追いかけると教会の方向に逃げる。さらに追いかけて捕まえ、病院に運ぼうとすると、怪我はレダたちのせいではなく、9ミリの銃創。わめく言葉もまともではないので、そのまま麻酔を打って入院。ゴシカと違うのはこの男幽霊でなく、人間だったという点。何かの犯罪被害者です。

病院へ僧の服装をした男が入り込んで男を殺そうとします。そう言えば担ぎ込まれた男はキリストにそっくりの姿をしています。この僧ですが、まるで日本の山伏のように身が軽く、アクションを専門にしているかのよう。ヴィドックに出てくる怪人とそっくりです。ジャンプはまるで空を飛んでいるかのように軽く、滞空時間が長い。殴られても撃たれても平気で逃げる。足は滅法速い。超人という言葉がぴったりです。僧の服装をしているので、手足は見えず、丈夫な靴を履いていて(僧侶というのはサンダルを履くものではないのか?)、顔も頭巾で隠れていて男だか女だかも分かりません。逃げる時に窓ガラスに飛び込んで・・・などというアクロバットをあっけなくやって見せ、熱血漢のレダも押され気味。取り逃がします。おかげで話は続きます。

フランスはルパン、ファントマ、ベルフェゴールに限らず物語に怪人を出すのが大好きです。しかしこれまでの怪人はどうもインパクトが弱く、私はあまり熱中しませんでした。(メロ)ドラマがあり過ぎるのです。ところがヴィドックでは妙な背景のドラマはばっさりやって、活動的な悪漢。さっと現われ、さっと逃げる姿はアクション全盛の現代にぴったりでした。その路線で今度は集団で登場する 顔の見えない悪漢。なかなかクールです。

銃に撃たれて入院したイエズスに付き添っていたレダと、自分の事件をたどってイエズスことアンドレーを探しに来たニーマンが病院ではち合わせ。2人は警察学校時代師弟だったのです。で、協力して捜査という運びに。カッセルとはまた違うキャラクターの相棒。今後は時々カッセル、時々マジメルにして、シリーズにしたらどうでしょうねえ。今回は検死官が登場するシーンがほとんど無いのですが、ベネケ氏のような仕事熱心な、ユーモアもある個性的な検死官も登場させるとか。そして毎回戦い甲斐のある悪漢を世界の名優から呼んで来る・・・などと勝手に話を膨らませては行けません。では、クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちにもどりまして、三点中の紅一点宗教の専門家というマリーも加わり、クリムゾン・リバー  深紅の衝撃と同じくトリオ。マリーは妙な十字架 を下げていて、ちょっと怪しそうな雰囲気もある点もクリムゾン・リバー  深紅の衝撃と似ています。ちょっと強引なのは、犯人でもない怪我をした入院患者に自白剤 を使う点。こんな事していいんだろうか。

ここから先はキリスト教でない私たちには自明の理とは行かず、文献や知り合いのお世話にならないと話について行けません。アマテラスと聞くとすぐ乱暴者の弟がいるなどとぱっと浮かぶのは日本人。キリストと言うと12人の使徒などとピンと来るのがヨーロッパ人。その辺のハンディーは仕方ないでしょう。まして十二使徒の職業なんか暗記しているわけはありません。

その辺は見る前にパンフレットか何かを読んでお勉強しておかないとすぐには納得できません。しかし知らなくても何とかなるのがアクションと、秘密組織という筋。ま、宗教を知らなくても楽しめる部分はたくさんあります。

十二使徒がキリストとどういう関係にあったかはメル・ギブソンの作品を見ていただくとして、アーサー王に円卓の騎士がいたように、キリストにも12 人のお連れがいました。それにそっくり似せて、イエズスと呼ばれる男を中心に12人の男たちが集まり、キリスト教の原理運動のような事をしている人たちがいました。僧に狙われ殺されて行くのはどうもその人たちのようだということが徐々に分かって来ます。十戒に従って行われる殺人とか、宗教の教えに従って殺されて行く話が西洋には多いです。日本人というのはあまりそういう発想はしませんねえ。真似をしてみたらいい?七福神殺人事件・・・?いえ、別に将来も真似しなくて結構ですから。

さて、私たち宗教的知識の無い人間が困るのは殺人現場に残された記号。源氏香の記号みたいななぞなぞ。これが何やら職業を現わすのだそうです。捜査をしているうちに殺されている人間と十二使徒の職業が一致していると言われます。フランス人が作った映画をドイツ人が見ても納得するのですが、非キリスト教国から来た外国人の観客としてはそのまま鵜呑みにするしかありません。話の途中で収税人(マタイ)、漁師(ペテロ、ヤコブ、ヨハネ)、税官吏、管理関係の人間、壁塗りなどが挙げられ、それを黒衣の僧が殺しまわっています。

イエズスに自白剤を使い、マリーの応援もあり、ニーマンたちは宗教関係の本の奪い合いがこの連続殺人と関係していることをつきとめます。9世紀に重要な古文書を盗んでどこかに隠した男がいたというのが元々の発端。それを第2次世界大戦中に発見しかけた男がクリストファー・リー演じるフォン・ガルテン。あまりらしくない名前ですが、一応ベルリン人の役。この古文書の事実を知っていたのがクリストファー・リー一人でなかったという点が殺人のきっかけ。リーは戦争当時ドイツ兵で、エルザス・ロートリンゲン地方で戦っている時に隠し場所らしき所に見当をつけました。日本の教科書に「最後の授業」というのがありましたが、あの辺の話です。しかし敗戦。その後宗教関係の権威になり、ベルリンの役人になり虎視眈々とそこへ戻り本を奪うチャンスを狙っていました。

ここで挙がるリーの役職名はいんちきで、映画の捏造です。この種の職業にはおおむねカソリックやプロテスタントの正式の牧師やそれ以上の地位を持った人が任命され、自分の宗派だけをえこひいきしないようにバランスを取りながら仕事をしています。しかし宗教を信じている人がなります。最近は外国で伝統のある宗教に加え、新興宗教もたくさん登場し、市民の間ではトラブルもあるので、こういう地位についている人はことのほかバランスを考えた政治を行います。リーの台詞でおもしろかったのは、悪い事を一緒にたくらんでいる僧侶に向かって「あまり宗教的になるな」と注意をした点。リーが欲しかったのは古文書とそれによって得られる権力で、神は信じていないと言いたかったのかも知れません。第一発見者になった僧侶も、13号室を使う時、同僚の層に「迷信は信じない」という台詞をはいています。このあたり脚本を書いたベソンの考え方が反映しているのかも知れません。

最後の方に古文書が本当に出て来ますが、宗教関係の古文書というのは本当にこういった感じです。ウンベルト・エコーのバラバラの名前にもたくさん出て来ました。私も以前ファクシミリや本物のこういう書物を時々見ましたが、きれいに装飾がしてあり、大きくて重い物です。グーテンベルクが出るまでは全て手書きで、ラテン語でもドイツ語でも略が良く使われます。羊皮紙などは当時そう簡単に文房具屋さんで買えるものではなく、手に入ってもみな節約しながら使ったため、略語などは好んで使われました。その辺はクリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちでもそれらしく見える小道具を使っています。ですから最後古文書が水に浸かってしまったシーンでは私も悲しくなりました。

さて、さらに楽しませてくれたのはセットの仕掛けなど。私はからくり人形などが大好きなのですが、クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちではトロッコのような乗り物が地下の迷路を突っ走るシーン、第1次世界大戦後フランス軍が対独戦前線を守るために築いた要塞、こちらに向けて使われると恐ろしいけれどかなり古くなった銃撃用の武器などが登場し、最後には重量に反応する破壊装置も作動します。これがレトロというか、物凄い代物。さびでぎしぎし音を立てながら機能するというところがフランス式大ロマン冒険物語の流れを汲んでいてわくわくしてしまいます。クリムゾン・リバー  深紅の衝撃とは確かに趣が違いますが、楽しめる活劇と考えるとなかなかの力作。それを1.50ユーロという申し訳無いぐらいの値段で見てしまいました。

知性を求めるドイツ人の映画評論家からは評判が悪いようです。どうやら活劇という発想はないようで。

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