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ハリウッド的殺人事件 /
Hollywood Homicide /
Hollywood Cops

Ron Shelton

2003 USA 116 Min. 劇映画

出演者

Harrison Ford
(Joe Gavilan - ロサンジェルス警察のベテラン刑事)

Josh Hartnett
(K.C. Calden - ロサンジェルス警察の新米刑事)

Lena Olin
(Ruby - 預言者、ラジオのパーソナリティー、ジョーの恋人)

Bruce Greenwood
(Bennie Macko - 警察の内部調査官、ルビーの元恋人)

Isaiah Washington
(Antoine Sartain - レコード会社の社長)

Lolita Davidovich
(Cleo Ricard - 売春組織の元締め)

Keith David
(Leon - ジョーとKCの上司)

Martin Landau
(Jerry Duran - 有名なプロデューサー)

Lou Diamond Phillips
(Wanda - 女装囮捜査官)

Meredith Scott Lynn
(Jackson - 刑事、マッコの部下)

Tom Todoroff
(Zino - 刑事、マッコの部下)

James MacDonald
(Danny Broome)

Eric Idle
(警察に捕まったセレブ)

Choppa
(殺された H2O Klick のメンバー)

Krazy
(殺された H2O Klick のメンバー)

Magic
(殺された H2O Klick のメンバー)

T-Bo
(殺された H2O Klick のメンバー)

Gladys Knight
(Olivia Robidoux - モータウンの元バックコーラス・シンガー、本職ソウル歌手)
Kurupt
(K-Ro - オリビアの息子、本職ラップ・シンガー)
Master P
(Julius Armas - クラブの持ち主、本職バスケットの選手)
Dwight Yoakam
(Leroy Wasley - 刑事、K.C.の父親の元パートナー、本職カントリー・シンガー)
André 3000
(Silk Brown - 本職歌手)
Frank Sinatra Jr.
(Marty Wheeler - 弁護士、本職歌手)
Robert Wagner
(本人役)
Johnny Grant
(本人役、本職名誉市長)
Smokey Robinson
(タクシーの運転手、本職モータウンの元副社長、ソングライター、ソウル歌手)
Shawn Woods
(殺し屋Z、ソウル歌手アナスタシアの元恋人)
Anthony Mackie
(殺し屋ジョーカー)
Kevin Law
(本人役)
Butch Cassidy
(本人役)

見た時期:2005年1月

今日はアハハと笑って過ごそうと軽い気持ちで借りたDVD。見るまではお手軽な刑事コメディー、バッド・ボーイズ路線で場所と人を変えただけの作品だろうと思っていました。というか、バッド・ボーイズより軽い内容だろうと予想していました。その予想はキャストの名前を見ただけでぶっ飛んでしまいました。とにかくまあ凄いキャストです。驚いたのはそれだけではありません。特定の人にはぜひお薦めの作品です。どういう人が特定かと言いますと、例えばうたむらさん。

要注意: ネタばれあり!

のっけ、まだストーリーが始まらないところでもう予想を良い方に裏切るシーンがありました。最近あまり調子の良くないハリソン・フォードと、政治色の強い戦争映画を終えたばかりのジョシュ・ハーネットがハリウッドが舞台のコメディーを撮ると聞いたので、全然期待していませんでした。ハーネットはイメージが戦争に固定するのを嫌って出演したのだろうぐらいに考えていました。フォードは最近ぱっとしない日々が続いていたので、この辺でちょっと潮流を変えたいのか、で、コメディーに乗り出したのだろうぐらいに考えていました。それにしては冒頭のシーンがやけに決まっていました。

主人公2人はベテラン刑事ジョーと新米刑事KC。年は親子の寸前ぐらい、最低でも15歳ぐらい違います。2人は警察の射撃訓練所で練習中。査定もあるのでしょう。大勢で標的に向かって撃ちますが、KCの弾は全然当たりません。これでは勤務評定が下がる、あるいはコンビをはずされるとの懸念でもあったのでしょうか、ジョーは親心を出して、KCの標的で心臓にバンバン当てます。自分の標的では頭にガンガン命中させます。このシーン1つでどのぐらいベテランか、どのぐらい新米かがばっちり分かります。

2人はハリウッドのクラブで起きたラップ・グループ抹殺事件の担当になります。ライブで出演を終えた4人の歌手を2人のヒットマンが射殺してしまったのです。クラブにはビデオカメラが無く、犯人はまんまと逃げおおせてしまいます。リンカーン・ライムやマーク・ベネケが見たら頭から湯気を出して怒るようなずさんな鑑識検査ですが、2人は現場でいくつかの手がかりを得ます。しかし関係者は「何も知らない」と言いたがり、捜査はなかなか進みません。

2人の私生活は非常に現実的に描かれていて、それがまたこの作品をユニークにしています。ジョーは10年前まで輝く名刑事で、手柄をどんどん立て、後輩の憧れの人でした。しかし私生活では不器用で、離婚3回、子供2人。慰謝料、養育費支払いに追われ、人生は暗転。現在は独身で、金策に追われ、不動産業を副業にしています。真昼間、仕事中に堂々とアルバイトも兼業。それも最近うまく行っておらず、かなり差し迫っています。恋人はラジオのパーソナリティーもやっている預言者。ジョーの携帯電話の着信音は、《マイ・ガール》。家に戻ってくつろいでいるシーンにはスモーキー・ロビンソンの曲がかかります。そしてジョーが番組中のルビーに電話する時のハンドル・ネームはスモーキー。きっとロビンソンのファンなのでしょう。

KCは何年も前父親が職務中に死んだ警官2世。しかし警察業より俳優になりたいという気持ちの方が強く、進路を変更しつつあります。日常生活ではやはり警察の給料だけでは食べていけず、アルバイト。ヨガの先生をやっています。商売は繁盛していて、現金はたっぷり。その上若いピチピチした女の子が列をなして迫ってくるといううれしい状況。KCの携帯の着信音は《ファンキー・タウン》です。

事件はレコード関係のゴタゴタだろうということになります。で、2人はレコード会社の社長の所へ出向きあれこれ聞いてみますが、さほど成果は上がりません。殺された H2O Klick というグループは将来性のあるグループだったそうで、殺されてしまうと会社にも損害があるかのような様子。

ジョーには警察署内に敵がいて、追いまわされています。マッコという男が過去の出来事を恨み、ジョーのキャリアをつぶすべくあら捜しをしています。ジョーは副業を勤務時間中にやっているので、探られると多少都合は悪いですが、その程度の事は全員がやっているので、あまり大きく心配していませんでした。しかしマッコは捜査令状を取って来て、ロッカーを調べたり、嫌がらせが続きます。

一方バンドを襲った男たちが礼金を受け取りに来て撃たれ、焼き殺されます。犯人はレコード会社側の人間。焼死体が運ばれて来たモルグではこの男は被害者扱いですが、前の事件では加害者だったという関連を発見したのはKC。検死をしている最中に隣に置いてあった死体の所持品が、バンド殺人事件の現場で発見した遺留品とぴったり合ってしまったのです。新米のKCはまだジョーの真似をしているだけではありますが、頭はしっかり働いているようです。

警察内には不動産業やヨガの教師のように事件と全く関係のない商売をやっている人間もいますが、中にはギャングの用心棒をやり、警察とは逆方向の商売を副業にしている人間もいます。で、ジョーたちは時々そういう男たちともめます。

KCと多少打ち解けた話をするようになったジョーは、KCから俳優になるために刑事を辞めるという話と、父親が殺された時の事情が FBI で封印されているので分からないという悩みを打ち明けられます。ベテランのジョーは FBI のコネを使って当時の書類を取り寄せます。そこに出て来た名前は何と・・・。

捜査が進むにつれ、事情が分かって来ます。バンドは見せしめのために殺されたらしいのです。唯一生き残ったバンド付きのソングライター、オリバーを追いかけているうちに元モータウンのバックコーラス・シンガーだったというオリビアに行き当たります。オリバーは犯人扱いというより証人扱いされるのですが、本人は逃げ出します。母親はしかし事情を把握していました。何曲かヒットさせた歌手はやがて独立したがる。そのためにレコード会社側と対立する。で、独立しようなどという事を他の人が考えないように、1つのバンドを犠牲にして見せたのだろうというのがオリビアの考え方でした。

うたむらさんなどがびっくりするだろうというシーンです。

《かつてモータウンのテリルズのバックをやっていた歌手オリビア》を演じているのは、グラディス・ナイト。確か彼女はモータウンにもいたことのある人で、アレサ・フランクリンの次に浮かぶ偉大な女性歌手と言えばグラディス・ナイト。その彼女が《才能はあったけれど芽が出なかったバックコーラス・シンガー》という役で出ているのです。例えばシュープリームスのダイアナ・ロス以外のメンバー、アレサ・フランクリンの姉妹を思い起こさせます。

その上グラディス・ナイトは以前バリー・ハンカーソンと結婚していたので、不可解な事情で死亡したアーリアの伯母さんにあたります。意味深な役です。

犯人の目星がついたところで追跡が始まります。しかし不動産取引に忙しく、マッコの妨害もあるので、画面上ではそう簡単に事は運びません。警察を辞めて俳優になるはずだったKCは、ジョーからもらった書類を見てからは父親の復讐をする気になり、警察稼業に励み始めます。最近不動産業であまりついていなかったジョーは、殺人のあったクラブの持ち主が《最高600万ドル程度の家を買いたい》、別な話で知り合ったディノ・ローレンティスを思わせる大プロデューサーが《それより安い値で家を売りたい》という話を聞きつけ、両方を組み合わせようとします。クラブの持ち主には「プロデューサーが700万ドルと言っている」と伝えています。ところがいざ書類にサインという段になって、言い値を誤魔化していたことがばれてしまい話はお流れ。

ここがまた凄いキャストです。老プロデューサーはスパイ大作戦のマーチン・ランドー。クラブの持ち主がマスター・P。そして弁護士がフランク・シナトラの息子です。

ランドーは以前のまま年を取り続けていますが、シナトラ・ジュニアは若い頃知っていたので(無論個人的にではなく雑誌などで)、容色の衰えにはがっかりしました。かつては父親そっくりの水も滴るいい男でした。1度歌っているところを見たことがありますが、歌は別に下手ではありません。父親の名前がキャリアの邪魔をしたのでしょうねえ。当時はこぶ平さんみたいな境遇でした。

特定のファンの方にはレナ・オリンもまたおもしろい配役です。この女性は1度フィルム・ノワールで役柄を正しく解釈して、風刺的に演じたのですが、それが他の人に理解されず、その後普通の役が来なくなってしまったという気の毒な女優さん。芸能一家の出で、イングマール・ベルイマンのファミリーの1人。ハリウッドに来る前にすでに立派な経歴があります。最近はラッセ・ハルシュトロームと結婚しているようで、マイペースでの出演をしているようです。ハリウッドでは彼女の能力をはるかに下回る役が多くて残念ですが。

さて、ルビーの予知能力の助けを借りて(?)レコード会社社長を発見した2人はカーチェースに入ります。ここからは俄然アクション映画になり、バッド・ボーイズなど他の作品に負けていません。車を乗り換え、ムチャクチャな運転をして犯人を追い詰めます。

ここで強引にハリソン・フォードに車をハイジャックされてしまう気の毒な運転手がスモーキー・ロビンソン。ラジオでスモーキーなどというハンドル・ネームを使っているジョーですから、スモーキー・ロビンソンと同じ車に乗れてさぞかし喜んでいるだろうと思いきや、彼の役は歌手のロビンソンではなく、タクシーの運ちゃん。人生は皮肉です。ロビンソンは残念ながらグラディス・ナイト同様作品中では1曲も歌ってくれません。俳優に徹しています。しかし、冒頭フォードの自宅のシーンでは彼の曲がかかります。

さて終盤2人はそれぞれ犯人を追い詰めます。1人はレコード会社の社長。彼を追ったのはジョー。もう1人は社長の手下で、元刑事のリーロイ・ウェズリー。リーロイとKCは一騎討ちになり、KCは負けてしまいます。そこで涙を流して「刑事辞めるから堪忍して、誰にも言わないから」と命乞い。KCの話につられてつい過去の話に乗ってしまい、隙を付かれて負けてしまいます。逮捕。ジョーはキャラハン刑事を思わせる非情な男ですから、犯人逮捕などというのんきなことは考えず、躊躇いも無く、屋上から突き落としてしまいます。面倒な裁判はこれで省略。KCは検死が苦手で、できるなら検死に立ち会わずに済ましたかったのです。これが犯人の生死を分けた理由。

っと、ここまで調子良く笑いながら来ますが、現職の刑事が自分や同僚、上司の都合で逮捕できる犯人を殺してしまうという話はマジ。ロン・シェルトンはコメディー専門の監督ではなく、ロサンジェルスの犯罪専門の監督なのです。硬派の作品も作っています。あちらにも警察に追われる犯人の厳しい立場がシビアに描かれていました。ハリソン・フォードはコメディーの中でそれと同じ行動を取っているのです。シェルトンは時々「自分はロサンジェルスが大好きだ。自分の町が気にかかる。だからこういう映画を作るのだ」と発言していました。私も自分が住んでいる町は好きなので、監督の気持ち分かるなあ。私は映画なんか作れないから、時々書くだけだけれど。

さて、ジョーを追い掛けまわしていたマッコですが、リーロイとの関連で悪事がばれ、ジョーを逮捕するどころか自分が逮捕されてしまいます。これでめでたし。

細かい所を見るといくらでもおもしろいエピソードが飛び出す作品です。ソウル、ラップなど音楽の世界に詳しい方は私以上にどんどんおもしろいシーンを発見するでしょう。その上この作品では珍しくハリソン・フォードが演技をしています。私がこれまで見た作品はどれも、演技ではなく、フォードの顔見世が命と言ったような作品ばかりでした。それが珍しく、フォードはここで演技を見せているのです。

これまで何度か《・・・はコメディーに向くか》という記事を書いてきましたが、フォードは向きます。というのはただ筋がおかしいと言うだけでなく、間の良さ、ポーカーフェースなど、本職のコメディアンもじっとしていられないような演技を見せています。テキストもかなり多く、しゃべりっぱなしですが、しらけません。ジョージ・クルーニー、ショーン・コネリー、ロバート・デニーロ、メル・ギブソン、ジャック・ニコルソンより乗りがずっといいです。

私は原則として《・・・2》という続編には賛成しないのですが、《ハリウッド的殺人事件 2》というのがあっても良いかと思いました。

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