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氷の微笑 2 /
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Instinto básico 2 - adicción al riesgo

Michael Caton-Jones

2006 D/Sp/UK/USA 114 Min. 劇映画

出演者

Sharon Stone
(Catherine Davis Tramell - スリラー小説家)

David Morrissey
(Michael Glass - 心理鑑定者)

Indira Varma
(Denise Glass - マイケルの前妻)

Hugh Dancy
(Adam Towers - ジャーナリスト、デニーズの愛人)

Charlotte Rampling
(Milena Gardosh - マイケルの先輩の心理学者)

David Thewlis
(Roy Washburn - 刑事)

Heathcote Williams
(Jakob Gerst - 心理学者)

Iain Robertson
(Peter Ristedes - ジャーナリスト)

Flora Montgomery
(Michelle Broadwin - マイケルの知り合い)

Kata Dobó
(Magda - カフェの従業員)

Stan Collymore
(Kevin Franks - サッカー選手)

見た時期:2006年3月

ストーリーの説明あり

一番最後のネタはばらしません。

紆余曲折というのはこういう事を言うのでしょう。

続編の制作は始まる前に揉めに揉めたそうです。第1作氷の微笑の完成後8年経った2000年に共演予定のロバート・ダウニー・ジュニアが麻薬で逮捕され、お流れ。

主演候補はストーンの他にデミ・ムーア、アシュレイ・ジャッド、監督候補はオランダの有名な監督2人。1人は続投が検討された氷の微笑の監督自身。デビッド・クローネンベルクの名が挙がったこともあります。

撮影開始予定は2001年始め。ところが2001年中頃に訴訟が起きています。原因はストーンがプロデューサーから「2000年末に予定されていた続編の制作予定は無い」と言われたこと。ストーンが交わした約束の後映画化権が違う会社に移ったのが遠因のようです。

共演者選びでも災厄続き。マイケル・ダグラスには早々と逃げられ、交渉中だったロバート・ダウニー・ジュニアは麻薬問題で忙しくなり、他に候補に上がったのはブルース・グリーンウッド、ベンジャミン・ブラット(ストーンに力量を疑われ退けられる)、アーロン・エックハルト、ヴィゴ・モーテンゼン、カート・ラッセル、ベニシオ・デル・トロ、ピアス・ブロスナン(本人が嫌がる)、ハリソン・フォードなどと上はかなりのランクの人たち。時間はどんどん経ち、ストーン嬢の年齢は限りなく50歳に近づいて行きます。

高齢になったからと言って女性の価値が下がるという考え方は古いですが、積極的に男を誘惑する、その上連続殺人をやるかも知れないと思わせる女性を演じるにはやはりそれ相当の体力が必要なので、60歳とか65歳まで待つわけには行きません。その点では男性のアーノルド・シュヴァルツェンエッガーもターミネーターで似たような問題を抱えていました。

結局彼女は出演してもしなくてもお金が支払われる契約を手にしていますが、お金だけもらって出演しないのは嫌だったらしく、見事今年公開にたどり着きました。

3作目の制作予定もあるようですが、今度は彼女が引退し、共演のデビッド・モリシーを主演に立てたらどうかという発言があります。

氷の微笑を見ていないので、おもしろさが半減しているのかも知れません。続編公開記念の懸賞に当たって急遽かけつけたのですが、会場はガラガラ。その切符を売る人も「今日は多分ガラガラのままだろう」とのたまう。業界をよくご存知だったのでしょう。予想は当たりました。

見た感想: 世間は騒ぎ過ぎた。

しかしそれは多分氷の微笑も同じだったのでしょう。氷の微笑の解説などを読むと、続編はかなりの部分を踏襲しています。そしてシャロン・ストーンは稀代のマーケティングの名手と見え、話題作りには事欠きませんでした。ですから雑誌などは彼女自身の特集や作品の紹介を盛んにやっていました。

踏襲点1: 氷の微笑を見ていないのにこういう事を言って間違っていたら恥ずかしいですが、彼女の脚は良く出て来ます。見事にすらっとしていて見る価値があります。肉体的な特徴で女性を測るのははばかられますが、固い職業の男を魅了し、職業意識を崩すという役柄なので、それなりの武器を揃えていないと行けません。それは揃っていました。氷の微笑の有名なポスターを見るとあちらも「はっとするような美人」という触れ込みが通用しそうですが。

踏襲点2: 同じ名前をもらっておきながら登場人物や設定がガラっと変わっている作品もありますが、この続編はちゃんと氷の微笑の主人公をそのまま持って来ていて、頭の切れるミステリー小説家ということになっています。

個人的には《頭の切れる女性》というイメージとシャロン・ストーンはあまりぴったり来ないのですが、頭の悪い人でないことは確かですし、同じような例はナタリー・ポートマンや有名な女性政治家などいくらでもあります。実際にはこの人たちは頭が切れないと入れないような凄い大学を卒業している人たち。ストーンはそれほど有名な大学の出ではないのですが、中学を卒業するような年齢で、大学に通っていたという人で、加えて成人の年齢に達する前にミス・コンテストに出て1位になったというのですから、インテリジェンスと美しさの両方を兼ね備えていたという見本のような人です。

踏襲点3: 聞くところによると氷の微笑では警察官を誘惑したようなのですが、今回は心理学者を誑かします。彼女の心理鑑定を担当している人です。自分が検査の対象にしている人物に恋をしたり個人的な付き合いをしては行けない職業の男性。

踏襲点4: これも写真を見ただけで氷の微笑を見ていないので違っていたら申し訳ありませんが、映画の中のシャロン・ストーンのファッションが普段よりいいです。黒のドレスが多いのですが、非常に体に合っていて、素敵に見えます。もしかして氷の微笑では白で統一していたのかなとは思いますが。

踏襲点5: ブログなどを見ただけなのですが、氷の微笑の時「一体誰が犯人だったんだ」という疑問を持つ人がいたようです。その点は続編でもやや曖昧にしてあり、彼女自身が犯人である可能性に加え、あと2人ほどやったかも知れないと思える人が出て来ます。

踏襲点6: 氷の微笑では冒頭でミュージシャンが死に、彼女に疑いがかかるそうですが、続編でも有名なサッカー選手が死に、彼女の周囲で捜査が始まります。

どうやら違うらしい点1: 氷の微笑ではそう若くないはずのシャロン・ストーンがかなりみずみずしく魅力的に見えたそうです。続編では白人版ナオミ・キャンベルと言うか、完璧なバービー人形と言うか、石嬢がプラスティック製に見えます。年齢を超越した人工美です。

どうやら違うらしい点2: 氷の微笑でどんな点が話題になったのか具体的には知りませんが、続編に出て来るセックス・シーンはさほど刺激的でもなく、彼女が見せたつもりでいる裸のシーンは欧州では他の映画でも見慣れていて、特にどうという事はありません。

これについてはいくつかの解釈が考えられます。時代が大きく変わって、この程度で驚く人はいなくなってしまったのか、あるいは彼女がインタビューで言っていたように、もっとたくさんセックス・シーンを撮影したのに、公開に当たって出し惜しみしたのかです。ドイツというのは裸だ、セックスだと言って騒ぐ人が少ない国で、アメリカのように「禁止だ」とあまり言いません。あるいは劇場には若い層も取り込みたいので、やばいシーンはカットしてあるのかも知れません。

確かに違う点: 舞台がアメリカからロンドンに移った様子。この映画1本で言うと、良い場所を選んだと言えます。ストーリーと舞台が良く溶け込んでいました。彼女1人がアメリカ人で周囲はイギリス人だとしてもセレブだという設定を考えると不自然ではありません。

共演を誰にするべきだったか: あまり有名でないデビッド・モリセイを使ったのは最悪の事態を避けるという意味でまあ何とかなったのかも知れませんが、全然候補に上がらなかったレイフ・ファインズ程度の大物を配すると大成功したかも知れません。この作品は氷の微笑の時にも主演女優として考えられていたミシェル・ファイファー、ジュリア・ロバーツなどから片っ端から断られていました。続編の共演者もなかなか決まらず、マイケル・ダグラスは一刀の元に却下。

シャーロット・ランプリングはミスキャストではないかと思いました。若い頃の彼女は当時の社会を驚かす役をいくつかやっていたので、功労賞の意味で引っ張り出されて来たのかも知れませんが、この役には向いていません。前に見たスリラーでも彼女が主演だったのに演技らしい演技を見ることができませんでした。最近調子が悪いんだろうか。それ以外の脇役はアンサンブルが良くて、このままで大丈夫と言えます。

ストーンは続編にカトリーヌ・ドヌーヴのゲスト出演を望んでいたそうですが、もしかしたらランプリングの役をドヌーヴにと考えていたのかも知れません。

さてと、人はぞろぞろ死ぬのですが、皮切りは上にも書いたように有名サッカー選手。映画で直接扱われる事件とは違いますが、彼女の周囲に死体がごろごろという例を最初に示します。180キロというスピードで市内をドライブ中にセックスっぽくなって来て、興奮。運転しているのは小説家キャサリン。車は橋から飛び出して川へ。彼女は逃げ切りますが、サッカー選手は車もろとも川底へ。死体からはドラッグが検出されます。彼は溺れ死んだのではなく、ドラッグで川へ落ちる時すでに事切れていたという検死報告。

アメリカでの(悪い)評判も耳にしているロンドンの刑事はキャサリン逮捕に全力を尽くしますが、弁護士のはからいで保釈。精神鑑定をしようという話になり、マイケル・グラスという心理学者の登場。マイケル・ダグラスではありませんのでお間違い無いように。いかにも英国というダークスーツ姿の退屈そうな男。対するキャサリンは人の目を奪う出で立ち。

キャサリンが好ましくないキャラクターの持ち主だということはマイケルも承知していますが、なぜか精神鑑定の仕事だけでなく、キャサリンの治療まで引き受けてしまいます。経験も分別もあるはずですし、先輩の心理学者、警察からも十分警告を受けていたのにです。ここで思い出したのがホラー・コメディー映画。オマージュの意味を込めて、超有名なホラー映画をパロディーにしているのですが、少年たちがテレビを見ていて「ああ、だめだよ、ここでそれやっちゃ」などと言いながらテレビの中で危機に陥る主人公に必死で話しかけているのです。それをパロディー化したような設定で、精神分析などを職業にしている男がいくら魅力的だとは言っても自分が鑑定する人間を治療するなどとは本当なら考えられません。頭のいいシャロン・ストーンは長年宿題として残っていたこの続編をもしかしたら自分を笑うカリカチュア、パロディーと解釈していたのかも知れません。

キャサリンにマイケルがつけこまれる伏線はあります。彼はちょうど離婚したばかりだったのです。元妻のデニーズはぱっとしない風采のジャーナリストと不倫をしていました。キャリアばかり気にする夫とはうまく行っていませんでした。その結婚生活に最近ケリをつけたばかりです。そして紳士然としているマイケルはパーティーで女性に軽く声をかけてベッドインしたり、英国紳士の裏の面を大いに楽しんでいます。

日本に住んでいた頃にはあまり聞こえて来ていなかったのですが、英国人はセックスに関しては表の顔と裏の顔があり、表は「ノー・セックス、俺は英国人だ」というクリーン路線。裏では大臣が売春婦と関係して職を棒に振ってしまったりするお国柄。皇太子の記事がタブロイド誌に載るようになって以来、落差は縮まったようなので、英国人は却って肩の荷が下りたのではないかと思うぐらいです。

ところが離婚したので今では大手を振って付き合えたはずのジャーナリストが殺されてしまい、恋人だったはずのデニーズからセックスの真っ最中のマイケルに緊急電話がかかって来ます。別れたとは言え、こんな事態になった時には妻に手を貸すジェントルマン。急遽デニーズを訪ね、警察を呼び、一段落して帰ります。

このジャーナリストはマイケルが数年前に担当していた事件に食いついていて、マイケルの周辺を洗っている人でした。それでマイケルは妻の口からも情報が漏れていたのではないかと怒ります。ところがその妻も間もなく殺害されてしまいます。その寸前にキャサリンといる所が目撃されています。

キャサリンはどうやって成功するのか分かりませんが、マイケルの周囲の人の間に上手に取り入って行き、彼が出席するパーティーに自分も招かれていたり、マイケルの元妻、先輩などと親しく口を利いているので、マイケルは次第にいらついて来ます。彼は大学のポストを狙っていたので、ジャーナリストに余計な事を書かれると困ります。

キャサリンが怪しいのは最初から分かっていますが、刑事も怪しくなって来ます。マイケルが前に抱えていた事件には死者が出ていますが、刑事の方には証拠捏造、証人の脅しなど良からぬ噂があり、ジャーナリストはそれにも食いついていました。

結局、人殺しを趣味にしているという噂のある小説家、前の事件で死者を出している心理学者、人を落とし入れることを屁とも思っていない刑事の3人が数軒の殺人に絡んでいて、誰にも動機が考えられます。

この先がどうなるかはばらしません。

人が何を期待して映画館に行くかによって評価は分かれるでしょう。氷の微笑との比較で見る人、セックス・シーンを期待して見る人、スリラーとして見る人、推理物として見る人などさまざまな見方ができます。刑事の取る態度はフリーズ・フレームと共通するものがありますが、あそこまでテンションを上げていません。そこまでやると男性の助演はデビッド・モリシーでなく、デビッド・シューリスになってしまいます。しかし舞台を英国に移したことで、フリーズ・フレーム的な怖さを盛り込むことに成功しています。

私はこれをヒッチコックが美人を使って撮ったスリラーと比べたいです。理路整然とした推理で犯人を当てるというタイプの犯罪映画ではなく、目立つ美人を1人中心に据え、雰囲気を盛り上げて行く方法です。ヒッチと違うのは中心人物が恐怖におののく気の毒な美人ではなく、嬉々として男を殺したがるキャリアを上り詰めた女性だと言う点。ここで時代の変化を感じるように作られています。ヒッチが使った女優に比べストーンはややノーブルさに欠けるように思いますが、どんな手でも使うという貪欲さが主人公のキャラクターだという設定になっていれば、そこは矛盾しません。そして結末はヒッチのように悪が滅びああ良かったという単純な終わり方をしません。アメリカでも最近は単純なハッピーエンドでない作品でも受け入れられることがありますから、氷の微笑の続編、続々編がその路線を走って構わないでしょう。

ですから私はスリラーとして中の上という評価をしました。理路整然、現実路線で行くとやや不満が出ます。ファッション、町の様子などを絡めた雰囲気で見ると結構行けます。ソフト・ポルノとかセックス映画のつもりで行くと、期待はずれに終わるでしょう。シャロン・ストーン執念の完成と思って見るのでしたら、リスペクト。

ストーンが3作目を狙っているというニュースが飛び込んで来ました。今度は彼女は監督をやり、主演は別の人を考えているそうです。お手並み拝見。

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