映画のページ

アンダー・サスピション /
Under Suspicion /
Suspicion /
Under Suspicion - Mörderisches Spiel

Stephen Hopkins

2000 F/USA 111 Min. 劇映画

出演者

Gene Hackman
(Henry Buchanan Hearst - 財務関係の弁護士、町の有力者)

Monica Bellucci
(Chantal Hearst - ヘンリーの妻)

Jackeline Duprey
(Maria Rodriguez - シャンタルの姉)

Luis Caballero
(Paco Rodriguez - マリアの夫、画家)

Isabel Algaze
(Camille Rodriguez - シャンタルの姪)

Morgan Freeman
(Victor Benezet - 事件担当刑事、ヘンリーの古い知り合い)

Thomas Jane
(Owens - 事件担当刑事)

Pablo Cunqueiro
(Castillo - 刑事)

Marisol Calero
(Arias - 女性刑事)

Gelian Cotto
(Paulina Valera - 最初の殺人暴行被害者の少女)

Vanessa Shenk
(Sue Ellen Huddy - 2人目の殺人暴行被害者の少女)

Myron Herrick
(Ricardi - アリバイの証人、犬の持ち主)

Sahyly Yamile
(Reina - アリバイの証人、売春婦)

見た時期:2005年11月

ストーリーの説明あり

犯人はばらしません。それでもまだ知りたくない人は目次へ。映画のリストへ。

原作はジョン・ウェインライの Brainwash といい、1度リノ・ヴァンチェラ主演、レイプ殺人事件という名で映画化されています。それをジーン・ハックマンがリメイクしようと考え、モーガン・フリーマンに話を持ちかけ、意気投合して実現の運びになったそうです。ヘビー級の重いストーリーで、意外なことに欧州制作のオリジナル版よりアメリカ人が作ったリメイクの方が深みがあるという結果になっています。

自分で見たアンダー・サスピション以外の話は伝聞なのですが、聞くところによるとオリジナル版では最後自殺者が出るそうです。アメリカ、フランスのリメイク版では事件解決後死者は出ませんが、それだけにこれから深く関わった人間がどうやって生きて行くのかがはっきりせず、それだけ現実的、複雑な余韻を残します。ベテラン俳優が2人、若手で美貌ばかりがもてはやされる女優1人が実に入り組んだ表情を見せて終わる全く大人向きの映画です。

私はモニカ・ベルッチの姿に完全に圧倒されたクチですが、彼女の役の選択の巧みさには毎回驚かされます。モデル出身だけあって、見せ所を心得ていて、アンダー・サスピションでも見事な体を見せてくれます。男性軍はこれだけでよだれをたらしてキャイ〜ンでしょう。アンダー・サスピションは彼女の美貌が大きな意味を持つ作品で、主人公が周囲の男性を一目で魅了してしまわないと筋が先に進まないのです。ですから演技が上手でも圧倒的な美しさが無いと役目を果たせません。

ベルッチという人が女優としてどのぐらい演技できるかは私にはまだ分かりません。下手でないことは確か。どこでどういう視線を送り、沈黙すべきかを心得ている人です。アル・パシーノのようにしゃべることで演技する人、ロバート・デニーロのように目つきや体つきで演技する人、クリント・イーストウッドのように沈黙で演技する人、シルベスター・スタローンやアーノルド・シュヴァルツェンエッガーのようにアクションで演技する人、アントニオ・バンデラスやアーノルド・シュヴァルツェンエッガーのように外国のアクセントで勝負する人がいます。女性の場合さらに、美貌、流し目で勝負する人も多いです。ベルッチには容姿、沈黙、流し目、外国のアクセントという道具があり、それを上手に組み合わせているかのようです。私の目に反対側の人と映るのがニコール・キッドマン。ベルッチの最も強い武器は作品の選択だと思います。

一旦出ると決めてしまうと、作品中に大胆なシーンがあってもやってしまう人で、豪胆だと感心することが時々あります。時にはやや異常なシーンもありますが、そこで品を落とさず演じることのできる珍しい女優です。日本で彼女の名前がどの作品と結び付けられているのか知りませんが、ドイツにいると色々な作品が入って来て、彼女はこういうタイプの女優だと決めつけることができません。子供でも見られるような作品に出ることもあれば、成人映画ぎりぎりの作品や、未成年お断わりの作品にも出ます。

っとまあ、レディー・ファーストでベルッチを誉めましたが、アンダー・サスピションがヘビー級だと言うのは、話がその程度で終わらないからです。重要人物としてジーン・ハックマン、モーガン・フリーマンが登場し、さらにトーマス・ジェーンが準重要人物として脇を支えています。

フリーマンとジェーンはフリーマンとピットのセヴンの焼き直しのように刑事になって出て来ます。プエルトリコの町で起きた少女暴行殺人事件の担当で、第一発見者の証言を調査しています。ジェーンの役はそのままピットに切り替えても行けそうです。そういう意味では損な役ですが、ジェーンはフリーマンと2人で《優しい警官、意地悪警官》のコンビを組んでいて、証人に嫌味をどんどん言い放ち挑発する役目です。ピットの焼き直しに見えても、とにかく台詞は多いので、俳優として売り込むにはいいチャンスです。

フリーマンは最近どんどん上昇中ですが、狂言回し的だったり、誰かを引きたてるための重要な影の役が多いです。アンダー・サスピションも考えようによってはジーン・ハックマンの引き立て役ですが、セヴンに比べると役自体に気合が入っていて、大声で罵倒するようなシーンもあります。映画には彼のような役目も必要で、ハックマンがフリーマンに話を持ちかけるぐらいにフリーマンは信頼を得ているのでしょう。サッカーの世界にゲルハルト・ミュラーのような相棒に都合のいいボールを送る選手がいて、ベッケンバウアーのようなスター選手がゴールを決めるのと同じです(話が古いねえ)。というわけでハックマンとフリーマンはこの映画を自分たちでプロデュースしています。

で、いよいよ主演のハックマン。彼はスクリーン上で知り合ってからもう長いですが、まだ若い頃からほとんど主演重要な助演。どう見ても美男でなく、女性として彼の容姿に引かれて・・・なんてことは無いように思えますが、実力でずっとここまで主演をキープしている人。ホフマン、パシーノ、マルコビッチ、ダフォーなど性格俳優とかオールラウンド俳優と言われている人がいますが、よく考えてみるとハックマンの方がずっとたくさん巾広く演じているのではという気がしないでもありません。ここ数年は出演作が特に多いような印象を受けますが、コメディーからスリラー、犯人から被害者まで何でもできてしまう人です。あの同じ顔で、さほど表情を変えているわけでもないのに説得力が出てしまうのはやはり俳優の親方(マイスター)だなあと納得してしまいます。まだ見たことが無いのは時代劇とアイドル役ぐらいですが、まだ当分行けそうな人なので、いずれはそういう役でも・・・?。アンダー・サスピションでは限りなく黒に近い容疑者役です。

ストーリーの説明に入ります。犯人はばれません。まだ知りたくない人は目次へ。映画のリストへ。

プエルトリコの町でカーニバルが行われている最中、町の有力者ヘンリー・ハーストはちょっと前に町を襲ったハリケーンの被害者救済のため寄付金を集めるチャリティー・パーティーに出席するべく準備中。10年連れ添った美しい妻シャンタルと会場に向かおうとしている時に、旧友のビクターに呼び出されます。ビクターは刑事でここ2週間に起きた小学生ぐらいの年齢の少女が殺された2つの事件を担当。ヘンリーは2人目の少女の第1発見者ですが、証言があやふやなため警察は嫌疑をかけています。

10分のはずだった話し合いは長引き、2人の担当刑事はヘンリーを犯人扱いし始めます。質問にヘンリーは最初町の有力者らしく傲慢な対応。そのため刑事たちと争いになります。証言を二転、三転させるため心証は最悪。一方警察の近くの建物にいるチャリティー・パーティーの主催者は金集めに重要なヘンリーが現われないのでやきもきし始めます。

結局取調べを中断して1度パーティーに顔を出すことで話がつき、ひどい姿でヘンリーは予定の挨拶を終え、再び警察署へ逆戻り。刑事たちはヘンリーの私生活をあれこれ詮索し始めます。ヘンリーの私生活はかなり荒れていて、夫婦仲、よそで寝る女、子供好きが行き過ぎる傾向、妻の姉に対する関心、あるいはその姉の娘に対する関心が問題にされます。またヘンリーの話ではシャンタルが異常に嫉妬深いことになっていて、シャンタルの話ではヘンリーがシャンタルと姉の夫の間を怪しんでいることになっています。

ヘンリーが取り調べられている間にシャンタルが自由意思で証言のために警察に出向いて来ます。刑事の1人の説得に応じ、家宅捜索を承諾します。すると出て来たのが、被害者少女の写真・・・。ところが事件はこれですんなりとは片付きません。

私生活の細かい所までが取調べで明らかにされ、元々は友人だったヘンリーとヴィクトルの間、ヘンリーとシャンタルの間はずたずた。姉妹の間も2年前からギクシャクしている様子。ヘンリーとシャンタルの関係はシャンタルが10歳をようやく越えた頃にヘンリーがシャンタルの父親の弁護士だった頃から始まり、シャンタルが14歳だった時に父親が死ぬと、ヘンリーがシャンタルの後見人になっています。そしてシャンタルが20歳、ヘンリーが57歳の時に結婚。それが今から10年ほど前。最初の頃2人は情熱的に愛し合った夫婦だったとシャンタルは証言。それがヘンリーが姪と一緒にいる所を見てから冷え始めたという話。

ハックマンは傲慢な有力者が痛い所を突かれ弱っていく様を繊細に演じ、ベテランの貫禄です。ヘンリーのように強い人間ですと助けを必要としてもどこにも行けず、1人で傷ついて孤独に時を過ごすしかありません。そういう場面を型にはまらず上手に表現できる有名俳優が他にいるかと聞かれるとちょっと名前が浮かびません。

犯人が判明した時にはそのあまりの意外さに関係者は全員深く傷つきます。そして1人はオリジナルの映画では自殺したそうです。しかし私にはここで自殺してしまった方が安易な解決に思えます。これからこの問題を胸に長く生きていかなければならない・・・という終わり方の方がもっと大変に思えるのです。敢えてそういう結末にしたのはあまりアメリカ的でなく、感心しました。

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