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陰謀のシナリオ /
Frøken Smillas fornemmelse for sne /
Fräulein Smillas Gespür für Schnee /
Fröken Smillas känsla för snö /
Smilla's Sense of Snow

Bille August

1997 D/DK/Schweden 121 Min. 劇映画

出演者

Julia Ormond
(Smilla Jasperson - 科学者、数学者、エスキモーとハーフのデンマーク女性)
Ida Julie Andersen
(スミラ、子供時代)

Ona Fletcher
(エスキモーの猟師)

Robert Loggia
(Moritz Jasperson - スミラの父親、医師)

Maliinannguaq Markussen-Molgard
(スミラの母親、死亡)

Emma Croft (Benja - 父親の愛人、バレリーナ)

Agga Olsen
(Juliane Christiansen - エスキモー女性、イサイアの母親)

Clipper Miano
(Isaiah Christiansen - スミラの隣人の少年)

Gabriel Byrne
(機械工、スミラの下の階に住む男)

Jim Broadbent
(Lagermann - 検死を担当した医師)

Charlotte Bradley
(ラーガーマンの妻)

Tom Wilkinson
(Loyen - 検死を引き継いだ教授)

Richard Harris
(Andreas Tork - GMの代表者)

Vanessa Redgrave
(Elsa Lubing - 修道女、元GMで経理として働いていた)

Alvin Ing
(Licht - 音声分析をする男)

Mario Adorf
(Sigmund Lukas - 船長)

Jürgen Vogel
(Nils Jakkelsen - 船員)

見た時期:2004年10月

小説の映画化。ドイツ語他のタイトルは大体「ミス・スミラの雪に関する感覚」といった意味で、主人公スミラ嬢が雪に詳しいためそういうタイトルになった様子。ザ・コアに負けるとも劣らぬ荒唐無稽ストーリーです。ミッション・トゥー・マーズより辻褄を合わせるのは難しい筋です。ところがこちらもスタッフ、キャストが力を合わせて雰囲気を盛り上げ、最後まで飽きずに見させる底力を発揮しています。ゴースト・シップスティグマータ 聖痕 でも妙な話を見られるストーリーにして見せたガブリエル・バーンが出演しています。

ここから後、筋は結末まで行きますので見る予定の方は引き返して下さい。日本では公開されなかった可能性があり、ビデオかDVDもそれほどセンセーションを起こしていません。
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★ 納得の行かない死亡事故 - CSI の真似を始めるスミラ

1859年、隕石が落ちて来て、大津波が起こり、グリーンランドで狩をしていた男が波に飲まれて死にます。

時は現代、所はコペンハーゲン。スミラが帰宅すると自宅のアパートで隣人の6歳の少年が死んでいます。屋上から飛び降りた様子。屋上に上がってみると、少年の足跡だけが一直線に屋根の端へ向かってついています。

警察は遊んでいる間に間違って落ちたと判断し、事件簿は閉じられます。当時少年は中耳炎で耳が聞こえず、さらに高所恐怖症でもあったことを知っていたスミラには納得の行かない結論。

少年の家族はエスキモーでスミラも母親がエスキモー。母親が死ぬまではグリーンランドに住んでいました。少年の母親は父親の死後アル中になっています。父親は少年と一緒にある団体の行ったグリーンランドの秘密調査に参加している時に死亡。調査を企画した研究団体 GM から未亡人年金が支給されています。

少年の母親は今度は息子を失い失意で動揺していたので、スミラが死体安置所に確認に出かけます。スミラは警察の出した結論に賛成していなかったため、応対に出た医師に質問。そこで担当だったラーガーマン医師から妙な話を聞かされます。

スミラは雪の上についた足跡の状況から、遊んでいてついた足跡とは言えない、まして、遊んでいたら一直線に屋上の端に行き、落ちたりはしない、足跡には大急ぎで走った痕跡が見られると、まるで現場検証の専門家のような意見を披露します。自分がグリーンランドの雪の中で育ったので、雪を見る目があったのです。

医者はその話に呼応するように、自分も妙な物を発見したと言います。死体の脚にはズボンの上から死後つけられた傷があり、それは細いナイフのような物で深く刺したような傷だと言うのです。使ったと思われる器具は医者が使うような物だと主張。細胞などを採取するのに使う物だとか。しかしラーガーマンがそこまで検査したところへロイエン教授が現われ、仕事を引き継いだと言うのです。 教授は偉い人物で普通はこんな単純な事故の犠牲者の検死はしないものらしい上に、事故なのに検死というのも妙。

★ 私立探偵の真似を始めるスミラ

家に戻ると下の階の機械工から話し掛けられます。一緒に弔いながら飲もうという誘いを断わり、スミラは自分の部屋に戻ります。不審を抱いたスミラは検事局に苦情の手紙を出します。するとそこから派遣されて来た男の訪問を受けます。彼女はなぜ不審に思っているかを説明。男は「調査してみる」という話になりますが、挨拶の隙にスミラは男の財布をすり取ります。警察の男ではありますが、GM というイニシャルの入った写真を持っていました。

スミラは少年が殺人事件の犠牲になったと判断。しつこく調査をし始めます。葬儀に来ていた妙な男に目をやります。少年の母親に無理に金が入っているらしい封筒を渡そうとして断わられていました。後で母親に聞くと、以前父親が死んだ時にも未亡人年金を押し付けられていることが分かります。

その時もらった手紙を手がかりに、手紙を書いた本人、当時の経理の女性を訪ねます。彼女は現在は GM の仕事はしていませんが、参考になる話を聞かせてくれます。書庫には秘密のファイルがあるのだそうです。入る鍵を貸してくれ、ファイルのある場所を教えてもらいます。

スミラは夜盗みに入り、守備良く書類を見つけますが、そこでアパートの隣人の機械工とばったり。なぜこの男にこんな所でと思いますが、彼女を気遣って後をつけていたとかいう話で誤魔化されます。警察には盗みに入ったことがばれていて、妙な事をしたら狭い部屋に閉じ込めるぞとお灸をすえられます。彼女はエスキモーなので、広い所に住む癖がついていて、普通のアパートでも狭過ぎると感じています。この脅しは効き、調査はあきらめます。

★ 新たな展開 - 無理な展開

運命はしかし彼女に調査の続行を強います。父親に会いに高級レストランへ行くと、そこで出くわすのは例の機械工。機械工が話している相手というのが GM のボス。少年の母親からは少年と父親が同じ調査旅行に参加していて、そこで何か事件が起こったという話を聞きます。そして明らかにスミラが嗅ぎまわるのを嫌がる人物がいる様子。

結局また調査を再開し、分かったのは、グリーンランドのどこかに何かがあり、悲劇が起きたこと、その時少年の父親が死んでいること、少年の脚を刺した人物は少年の体からサンプルを欲しがったこと、少年は父親の事故の状況を録音した聞き取り不能のカセットを持っていること、GM は事件全体を覆い隠そうとしていること、GM は再び調査旅行を企画していることなど。スミラは新たに調査に出発する船に潜り込む計画を立てます。

船の中では船長の息子を味方につけ、入っては行けないとされている船室に潜り込むのに成功します。そこでビデオを見て、事件全体をつかみ始めます。 GM が確保しているのは150年以上前に落ちて来た隕石。非常なエネルギーを持っていて、これで金儲けができます。しかし隕石落下の時に大昔(有史以前?)に死に絶えたはずの寄生虫が再生してしまいます。少年の父親などはそれが原因で死亡。少年も寄生虫を保持しているため、GM は毎月コペンハーゲンのラボに来させて体調のチェックをしていました。この寄生虫は非常に危険で、内臓を破壊します。この件に詳しいのがロイエン医師。

スミラは後先を考えずに行動したため、船で追いかけられることになり、《たまたま乗っていた》機械工の手引きで凍りついた海に降り立ちます。普通の人間ならこれで最後。スミラに取っては大氷原は我が家。海上の氷の上を歩いて目的地にたどり着きます。隕石のある場所に来ますが、そこで GM の男たちと揉め事になり、殴り合い、撃ち合いが起きます。逃げる GM のボスを追い、スミラは氷の上で対決。真相を聞き出した後、ボスは水に落ちて死亡。後ろでは機械工が隕石の近くに爆弾をしかけて爆破。機械工は国の命を受けてスパイしていた秘密警察だったのでめでたし。

★ 死の説明

真相はと言いますと・・・GM は寄生虫の影響を調べるため少年の体の検査をしたがり、かつカセットの行方を追っていました。ある日少年のアパートに GM のボスが現われます。少年は父親の事故の時知っていた彼の姿を見て恐怖に襲われ、屋上に逃げ、飛び降りました。そういう意味では GM のボスは殺人の犯人ではなく、自分が少年の後を追ったため、少年が逃げて自殺をしたということになります。金に物を言わせて腕利きの弁護士を雇えば罪に問われずに済むかも知れません。

少年の父親の死もボスや教授が殺害したわけではなく、事故ということになります。そういう意味ではスミラが嗅ぎまわって、ボスなどが生存して逮捕されても、間もなく保釈になってしまいます。少年を殺した組織を追うというスミラの姿勢は、真相が分かってみると、崩れてしまうのです。モラル的には少年を死に追いやった責任はボスに行きますが、殺人ではありません。

少年の母親に対して年金を払っているという意味では、父親の死の後放り出したわけではないので、これも事件にしにくい。子供の死についても慰謝料のような金を払うと葬儀の席で申し出て、封筒を手渡そうとしているので、裁判に持ち込むのすら難しいでしょう。モラルという点では金で償えるものについては援助を申し出ているのです。

だから科学者やボスが反省をしている心優しい人かと言うと、全くその反対。臭いものは金で蓋をしてしまえです。スミラが正義感を持ってしても結局事件を元に戻せないというジレンマも感じてしまいます。そういう意味ではボスが死んだのはスミラにとっては運が良かったとさえ言えるかも知れません。堂々と裁判で争って釈放される姿は見たくなかったでしょう。

結局明らかな罪は船でドイツのスター、ユルゲン・フォーゲルを殺した罪、スミラを襲った罪程度。ボス直接の罪になるか、手下の罪になるかすら分かりません。そういう手間を省こうというので、ガブリエル・バーンが最後にバーンと全てをふっ飛ばしてしまいます。ボスは自分で勝手に海に落ちて死亡。

と言う風に、事件を解決してみても、やや間が抜けているのですが、そこを最後まで持たせているのはもっぱら雰囲気。事件のプロットなどは半分を過ぎる頃までわりと良く持っています。この雰囲気はクリムゾン・リバー  深紅の衝撃クリムゾン・リバー2 黙示録の天使たちに良く踏襲されています。

★ 欧州の面目

ガブリエル・バーンは《どちらの側についているかよう分からん》という役が上手ですが、物語が何度もこっちを向いたりあっちを向いたりするため、2、3回そういう事があった後は「もう勝手にしてくれ、スミラ、こういう奴は信じるなよ」とつい思ってしまいました。彼の責任というよりストーリーがそうなっているから仕方ないという感じです。うれしいことにスミラは彼に何度も肘鉄、肩透かしを食らわせています。結局は恋の一夜というのもあるのですが、それでも彼をダーっと信用したりはしません。偉い!結局頼れるのは自分だけ。アメリカ映画だとここからが甘くなってしまい、腹が立ちますが、これは欧州の作品。そう簡単には騙されません。

ドイツ人も多少参加しています。有名どころマリオ・アドルフとユルゲン・フォーゲル。主演、助演の多くは英国から動員されています。

ストーリーは前半ミステリアスで観客の注意を引くのに十分。半分ほど行くと、スミラが1人でさっさと研究所に盗みに入ったり、どんどん怪しさを嗅ぎつけて追って行くのがやや不自然に見えて来ます。普通の市民だとこうも積極的に動くだろうかという疑問が沸きます。作者、あるいは監督はエスキモーが獲物を追っていく姿に並行させているつもりなのかも知れませんが、やや現実味を欠きます。後半は無鉄砲過ぎて現実路線から完全に逸脱。しかしここまで見てしまうと途中で放り出す気にはならず、最後まで付き合えます。

★ エスキモーの面目

多少いい加減になってしまう追跡ストーリーを持たせるのはやはり氷原の景色と、エスキモーの文化。スミラの妥協を許さない性格が周囲に問題を起こし、協調して行けないことを間接的に表現しています。警察では直接面と向かって言われます。しかしエスキモーがエスキモーとして大自然の中で生き延びていくためには、妥協などしている暇はありません。自分がしっかりしていないと、嵐に遭い、雪の中に取り残されて命を落とします。自然を見る目、見た後正しい判断を自分1人で下す、そうでないと生きて行けません。

そういう性格の人がコペンハーゲンという都市で暮らして行くとなると、大きな問題。近所の女性クリスティアンセンがアルコール依存症になってしまったのは、夫がいなくなって年金生活でする事が無いというだけでなく、自分の性に合った生活から大きく逸脱しているからという要素もあったのでしょう。デンマークではエスキモーはアル中ということで通っているらしき会話がありますが、町に住む自然人がこういう風になってしまうという話はカナダでも聞きますし、アメリカのインディアンからも聞こえて来ます。そこいら辺にちゃんと触れているため、作品の全体のトーンは町のシーンでは鬱っぽくなっています。

逆に氷原では広々として、真っ白。これがエド・ハリスのような町の人間には1人取り残される危険や寒さにやられる危険に結びつき、歓迎すべきものではありませんが、スミラにしてみれば広々してやっと自由に歩き回れるという安心感につながります。ガブリエル・バーンが彼女を大氷原の真っ只中で船から放り出すので、観客は一瞬「一体何という事をするのだ」と思うのですが、すぐ、ああ、これで彼女は助かるのだと分かります。エスキモーは飼い犬に対してもひどく厳しく当たりますが、これは犬を可愛がるなどという悠長な事をしていると、いざという時助からないからです。相手にも自分にも厳しく当たります。彼女はそういう生活を身を持って知っているので、吹雪に出会ってもちょっと引っ込んだ所にもたれて、吹雪が去るのをどうという事も無く待っています。こういったシーンが都会人には珍しく、また魅力的で、そのシーンが後半に出て来ます。それでプロットの無謀さもある程度カバーされます。

ジュリア・オーモンドという女優はずっと前、写真で姿を知っていただけで、彼女の作品は知りませんでした。巷の評判では《最初この役をもらった時はだめだろうと思った人が、すばらしい演技に脱帽した》という内容が多かったです。私も違和感無く見ていられました。脇に大物を集めて彼女をヨイショではありません。きれいにはまったという感じです。

日本でも公開になった氷の国のノイ 、この陰謀のシナリオ101 Reykjavíkクリムゾン・リバー  深紅の衝撃など雪を効果的に使った作品が時々あります。冬の好きな人にお薦めです。

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