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2005 J 108 Min. 劇映画
出演者
宮崎ますみ
(尾沢小百合、三ッ沢妙子、二役)
いしだ壱成
(田宮雄二 - 父親)
桑名里瑛
(尾沢美津子、子供時代)
高橋真唯
(尾沢美津子、子供時代)
不二子
田口トモロヲ
(編集長)
大口広司
見た時期:2006年8月
この後少ししたらもう1本韓国の作品をご紹介する予定なのですが、今年も韓国のファンタ作品は好調です。それに比べ、日本は今年は弱いという印象です。しかし私は日本がダメだと言っているのではないことをご理解下さい。ファンタに出して来ていないというだけのことです。何度か書いていますが、日本のテレビ・ドラマで犯罪部門は大好調に見えます。似たような作品がひしめくので視聴率が上だったり下だったりしますが、どれも気合の入った見ごたえのある作品だと聞いています。バリエーションも多いらしく、中にはユーモアを強調したもの、犯罪者との時間を争うレースで緊張した雰囲気の物などがあると聞いています。ひしめくということは視聴者にとってはうれしいことでしょう。
ファンタにも時々テレビ・シリーズは出ます。しかし3ヶ月とか半年間に放送される物を全部持ち込むわけに行かないので、犯罪物ですと、1時間で解決する物を2本持って来るしかありません。すると1つの話が短か過ぎ、他の作品に比べ弱いという印象になってしまいます。タモリの世にも奇妙な物語がファンタに来たことがあったのですが、アイディアは悪くなくてもテレビ風で軽いという印象でした。テレビですと時間帯によってはあまり重い物は放送したくないのかも知れません。2時間の推理ドラマは日本のローカル色を強調したものが多かったり、日本の国内事情を前提にしたものが多いような印象で、外国に出しにくいと感じます。もう長い時間が経っているので、以前とは違うタイプのドラマも生まれているのかも知れませんが。
私は犯罪物をテレビ・シリーズで放送するという考えには賛成です。2時間の劇(場用)映画にしてしまうと、主人公のキャラクターのおもしろい部分が事件捜査の方にお株を奪われて十分表現できなかったりします。その点13週、26週などのシリーズですと、主人公やコンビを組んでいる刑事のキャラクター、エピソードもまじえることができて、話に違うおもしろみができます。 犯罪物が好きな私にはちょっと皮肉な展開になりますが、主人公がおもしろいと事件のプロットが多少軽くても週1回1時間その主人公との楽しい時間を過ごすという別な魅力も出せるわけです。2時間の劇映画ですと一発勝負。大金かけて時にはスターを呼び寄せて1本撮っても、どこかで何かが上手く行かないとすぐフロップ。テレビドラマですと滑り出し好調と行かない時でもシーズン中に敗者復活戦のチャンスもあります。
今年日本からファンタに来た作品は全部劇場用だったようです。《これ1本で勝負》というタイプの作品です。1本勝負と考えると、やはり今年の勝ち組は韓国。今年は《これだ!》という日本の映画は見当たりませんでした。わざわざ日本の名作特集として古い作品を3本出してくれていますが、あまり大きなインパクトはありませんでした。好調なテレビ・ドラマの事を全く知らないドイツの観客には日本は不調に見えます。
私が日本人だということを知っている友達や知り合いは私に「今年の日本はダメだ」とは言いたくなかったようですが、それでも行間に含みを持たせた質問をしてくれた人が何人かいました。内心「よくぞ聞いてくれた」と思いました。「テレビの方にはおもしろい話があるのだが、日本中心に回っている話だったり、10時間以上の一挙上映は無理だから・・・」という説明をする機会がありました。普通なら負け惜しみと取られて仕方のないコメントですが、長年良く知っている間柄なので、額面通りに受け取ってもらえたようです。
「最近の日本映画はどうしてる?」という質問のきっかけの1つだったのが Strange Circus 奇妙なサーカス。海外で高い評価を得ている鬼才、園子温なのだそうです。こちら、海外なんだけれど、知らなかった!監督の名前を聞いたのも初めて。後で気づいてベルリン映画祭をチェックしたら載ってはいましたが。最近のドイツで知られているのは例えば北野、サブ、矢口史靖、中田秀夫など。園を知らず、自分の無知を告白したようなことになってしまいました。
Strange Circus 奇妙なサーカスのようなタイプの作品はどういう名前のついたジャンルに入るんでしょうか。まだ知らなかったので、どういう楽しみ方をしたらいいのか分かりませんでした。かなり深刻なテーマを扱っているのですが、表現の方はとてもマジで作っているとは思えないふざけ方で、一種のコメディーなのでしょう。しかしコメディーにしてはそれほどおもしろくない・・・。エロティックのジャンルに入るとも思えない・・・。ドイツ人の観客も何だか良く分からないような顔をしていました。私に楽しみ方を聞いた人もいたのですが、何しろ聞かれた本人が良く分からなかったので、答えようがありませんでした。
確か去年だったと思いますが、Survive Style 5+ という尋常の考え方ではわけの分からない作品が来ていました。しかしこの作品には1つ《人を楽しませる》というはっきりした方針がありました。そのため見終わって「ああ、エンターテイメントだった」と得をした気分でした。しかし Strange Circus 奇妙なサーカスにはそういった方針も見えて来ませんでした。
作品中扱われている事件というのはたまにはあるのでしょうか。だとすると当事者は見ても楽しくないでしょう。演じている俳優は楽しいのでしょうか。それもよく分かりませんでした。皆楽しそうな顔をしていませんでした。例えばスキャナー・ダークリーなどを見ていると、俳優も楽しそうに演じています。Strange Circus 奇妙なサーカスで扱っているテーマはえぐいのですが、映画自体はポルノではありません。
前半は実父との近親相姦を強要される小学生の娘と、娘に夫を取られた母親の話で、当然ながら2人の間がまずくなります。夫は図々しく2人の女を好きなように扱っています。争っているうちに事故で娘は母親を階段から突き落とすことになってしまい、母親は死亡。かなり金持ちの家で、連日乱交パーティーをやっていますが、嘘臭い演出です。これは監督の意図したところなのでしょう。
10年以上経ったらしいある時、世間ではこういった出来事を自分の事として書いたかのような小説が売れていました。その小説家を担当する出版社の社員が交代し、田宮というネクラな青年が作家の家に出入りするようになります。小説家は車椅子生活。センセーショナルな話題を探している編集長に促されて田宮は小説家の身辺を洗う仕事も引き受けます。
小説家は「これはあなたの自伝ですか」と聞かれると笑いながら否定。それどころか車椅子に乗っているのは趣味で、本当はちゃんと歩けるではありませんか。観客は10年以上前の話を先に見せられているので、「ははあ、これはあの少女の後の姿だな」と簡単にミスリードされてしまうのですが、最後に現われる事実はそこからは外れます。
時々妙な侘しいサーカスのシーンが盛り込まれたりし、ストーリーの方もだんだん支離滅裂になっていくため、後でドイツ人の観客に「あれ、どういう意味?」と聞かれて返事に窮したわけです。観客にこの作家が小学生の時に父親に犯された娘だと思い込ませておいて、実はアッと驚く為五郎という趣向なのですが、途中で飽きてしまって、結末はどうでもいいとという感じでした。
話題作なのだそうですが、制作側の意気込みがドイツの観客にも届いていませんでした。
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