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Civic Duty

Jeff Renfroe

2006 UK/USA/Kanada 98 Min. 劇映画

出演者

Peter Krause
(Terry Allen - 経理士)

Kari Matchett
(Marla - テリーの妻)

Khaled Abol Naga
(Gabe Hassan - アレン夫妻と同じアパートの住民)

Richard Schiff
(Hillary - FBIのエージェント)

見た時期:2006年8月

2006年 ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

誰が死ぬかまでばれます。

主演のピーター・クラウゼ、リチャード・シフはそのままドイツ人で通るような名前ですが、アメリカ人です。

以前にハーベイ・ミルク暗殺事件を映画化した作品がありました。1つはドキュメンタリーハーヴェイ・ミルク、もう1つは暗殺者ダン・ホワイトに焦点を当てた劇映画射殺でした。私は先にドキュメンタリーを見ていたので、興味がわき、劇映画も見ました。

射殺は所謂実話物なのですが、犯人がどういう風になって犯行に至ったかが、脚本家、あるいは監督の解釈で分かり易く描かれていました。本当に犯人がこうだったかは無論自殺してしまった本人以外には分からないのですが、彼の一生を研究した人がこの作品のような解釈に至ったのでしょう。

Civic Duty が実話なのかフィクションなのか分かりませんでしたが、作風は射殺に似ていて、人がどういう風に誤解に至るかが分かり易く描かれていました。偶然なのか演じている俳優の持つ雰囲気も射殺に似ています。

先日ご紹介したワールド・トレード・センターほど直接触れてはいませんが、2001年の事件以降神経過敏になってしまったアメリカ市民の様子を表わした作品で、あの事件が起きてから5年経った今年徐々に出始めている一連の事件関連の作品群の1つと見ることもできるでしょう。

あらすじは比較的単純です。中産階級の生活を楽しんでいた若い夫婦のうち、会計士だった夫がレイオフされてしまいます。まだ住宅ローンが残っているので、早速次の仕事探し。思ったほど上手く行きません。妻はそういう夫を案じながらも明るさを失わず、いつも通りに仕事に。

これまで8時間労働で家を空けていた夫はその日から《職探し》の8時間労働。職場は自宅ですから、ちょっと机から目を離すと隣近所が見えます。ある日同じ階に住む外国人に目が行きます。アラビア系。テレビからは毎日テロリストのニュースが流れています。ある日このアラビア風の隣人がゴミ箱を漁っているのを目にします。その日もいつも通りテレビからはニュースが。ついつい気になり、その後夫はその男に注意を向けるようになります。

すると出るわ出るわ怪しげなそぶりが・・・。と言うわけで市民としての義務感の強い夫はこの男を監視するのが自分の義務だと感じ、ずっと監視を続けます。ついには外から見ているだけでは足りず、アパートの中に入って・・・見ると化学の実験道具が流しの近くににおいてあります。

爆弾でも作るのか・・・!?市民としての夫は散々迷った末にFBIに連絡を入れます。その間奥さんとも時々話し合いますが、奥さんは家であれこれ考えるより直接当たった方が早いとばかりに、すぐこのアラビア人の家のドアを叩き、堂々とお互いに自己紹介。あっという間に外国から来た留学生で化学の論文を書いた人だと突き止めます。

こういう風に対照的な性格だから2人は惹かれ合い結婚したのでしょう。両方に仕事がある間は上手く行っていた様子です。問題は夫が失業してから始まったのです。

FBIの反応は夫の予想に反してかなり否定的。あまり自分の事は知られずに通報したつもりだったのですが、あっという間に夫の居所をつきとめて、しょぼ臭いエージェントのヒラーが接触して来ます。そして「あのアラビア人はまっとうな留学生だ、ちゃんと学校にも行き、論文も書いている。怪しい所は無い。チェックした」って言うじゃない・・・。しつこく食い下がった夫に次に「こういう事には手を出すな、静かにしていろ」と言います。

劇映画だったので、私はこの時には「きっと極秘捜査をやっているんだ。そこへ素人が出て来ると邪魔になるから引っ込んでいろと言っているんだ」と思っていましたが、そうではなく、本当に怪しくないアラビア人だったのです。

実はこのアラビア人の家には多数の封筒があり、何やら怪しげな送金もあったので、夫は絶対に怪しいと思い、かなり食い下がったのですが、FBIにはそれについてもちゃんとした説明がありました。

後で考えるとFBIはもう全米滞在中の全てのアラビア人をチェックし、怪しいカテゴリーと怪しくないカテゴリーに分けてあって、この人はそのチェックに合格していたのかも知れません。FBIかCIAか軍の機関かは知りませんが、アメリカは有名な大事件が起きる前からさまざまな情報を握っていた様子で、今考えてみると、事前にちゃんと予想がついていたのかとかんぐってしまうような筋の映画もいくつか作られています。

いずれにしろFBIはこの青年は怪しくないと考えているようで、一般市民の夫が出る幕は無いとの判断をしています。せっかく義務感の強い市民を自負する夫が善行をしようと思っているのに、国家機関からそっぽを向かれてしまいます。

この肩透かしが夫を暴走させるきっかけになってしまいました。こっそり忍び込むだけでは足りず、ついに銃を持って男の家に押し入り、人質に取ってしまったのです。無理にでも自白させようとして椅子に縛り付け、殴ったり家捜ししたり。

たまりかねた妻は市民の義務と思い警察に通報します。彼女と夫の間は不和ではなく、本当に夫を気遣っての行動だったようです。人質事件なので普通の警官ではなくS.W.A.T.がやって来ます。銃口は夫を狙っています。善良な市民としての義務を果たしている自分がなぜ警察に銃口を向けられなければ行けないのかを理解する事はできません。

この後犠牲者が誰かばれます。

「身分の低い地元警察にはこの大掛かりなテロ事件は理解できない」とでも思ったのか、夫はFBIの担当官を要求します。やれやれ、しかし人質事件となれば放って置けないので、エイジェントのヒラーが出て来ます。夫人とヒラーが必死で夫を説得し、ようやく事件解決かという最後の危ない綱渡りの時に夫のピストルから出た弾は妻に命中してしまいます。

フォーン・ブースなどを見ていると交渉人、人質、犯人、説得する家族のバランスは恐ろしく微妙で、ベテランの交渉人がいても必ずしも成功するものではない様子。Civic Duty では人質は助かりますが、奥さんが死んでしまいます。

と、ここで終わってもこの作品は十分な説得力があります。ところがおまけがついています。

夫は精神を病んでいるということで刑務所には入らず精神病院入り。事件を起こす前から病んでいたのか、奥さんが死んだショックで発狂し、裁判を維持できなくなったのかはこの際問題ではありません。精神病院で薬漬けになって外の事は良く分からなくなっています。

ですから精神病院のテレビでまたもやテロの報道があっても、もう何の事か頭がボーっとして分かりません。どこかでかつて知っていた話だっけ、いや違う・・・、気にするまい・・・。新手のテロは封筒に手紙と一緒に何やら良からぬものが同封されていて・・・。いや、もう気にするまい・・・。

このエピローグをつけるべきかどうかは、微妙です。というのは、アラビア人が怪しいという映画はあるのに、これまで怪しくないアラビア人の受難を扱った映画は見たことがないからです。1つぐらいそういうのを作っても良いのではないかと思うので、この作品はエピローグ抜きにしておいた方が良かったかも知れません。 その方が善良な一般市民があの事件の後追い込まれている精神状況が良く表現できたかも知れません。

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