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シューテム・アップ / Shoot 'Em Up

Michael Davis

2007 USA 86 Min. 劇映画

出演者

Clive Owen (Smith)

Monica Bellucci
(Donna Quintano - 売春婦)

Paul Giamatti
(Hertz - マフィア)

Julian Richings
(ヘルツの運転手)

Stephen McHattie
(Hammerson - 武器製造会社の社長)

Ramona Pringle
(臨月の女)

Kaylyn Yellowlees
(Oliver - 生まれたばかりの赤ん坊、3人1役)

Lucas Mende-Gibson
(Oliver - 生まれたばかりの赤ん坊、3人1役)

Sidney Mende-Gibson
(Oliver - 生まれたばかりの赤ん坊、3人1役)

Daniel Pilon
(Rutledge - 上院議員)

Greg Bryk
(上院議員の部下)

David Ury
(食堂の強盗)

見た時期:2007年1月

ストーリーの説明あり

筋はかなりばれます。しかしこの作品は筋はほんの一部で、他にもっと楽しめる部分があります。

★ 色んな物が詰まっている

86分とは思えないようなてんこ盛りの作品です。ポリティカリー・インコレクトになることをしっかり意識して作ってありながら、ポリティカリー・コレクトなシーンも飛び出すので油断がなりません。

出演はゴージャスな3人。こんな組み合わせは滅多に実現しません。クライブ・オーエンはこれまでの中で1番クールな役で、本人も大満足なのではと思えます。ベルッチは他にもゴージャスな役で登場したのを見ているのでシューテム・アップがベストとは言いませんが、思いっ切り下品な役でもすてきな女らしさを出しています。

そして私が何かと贔屓にしているポール・ジアマッティー。彼は人のいいおっさんの役が多いのですが、シューテム・アップでは思いっ切り悪い役を演じています。彼は弱小映画から出た人で、見てくれもその辺のおっさんタイプ。どこかのスターのように10キロ減量とか20キロ増量などをせず、小太りのまま。普通のおっさんに見えるので役の巾はかえって広いかも知れないと思っていたら、今回はマフィア。参考にしたのは確か狼よ静かに死ねに出ていたと思われる家族思いのマフィアのボスではないかと思われます。是非比べてみて下さい。

聞くところによるとシューテム・アップは「これ以上あり得ねえ」というぐらいいい加減な状況から生まれたそうです。それにしてははちゃめちゃにおもしろいです。たまに1本切しか作ら(れ)ないけれど、その1作だけはべらぼうにおもしろいという監督がいますが、それなのでしょうか。いずれにしろ、これ1本に限って言うと完成度が非常に高いです。

★ ご使用になる前に・・・

シューテム・アップは多分に趣味に左右される上、ちょうど今妊娠中の方には向かないテーマです。自分の身、身の上に照らして考えては行けません。個人的な事はちょっと横に置いて、狂ったシーンを見て笑い飛ばす余裕が無い時はこの作品、避けて通った方がいいです。いくらかタフな神経を持った方、あるいは映画は絵空事と割り切れる方向きです。

★ では物語へ

冒頭、一見ホームレスと見違えそうな男スミスがクライブ・オーウェン。職業は元特殊部隊のメンバーだったのかと思わせますが、現在はなぜかぶらぶらしています。自宅は倉庫で、色々な物を揃えているので、もしかしたら元は国家公務員の特殊部隊、最近は民営化が進んでいるので自営業になっているのかも知れません。金回りは映画が始まる時はまとまった現金をぱっと出せるぐらい。それにしてはひどく汚らしい格好をしています。

巻きこまれ型ストーリーです。ある日どこか大きな町。その辺に座っていたバックス・バニーのスミスが臨月の近い女が追われているのを目にします。女を助けるだけのつもりが追っていた男たちとの撃ち合いになってしまい、その最中に女は出産。男の子が生まれます。しかし女はその最中に頭を撃ち抜かれて死亡。仕方なく子供を連れてスミスは逃げます。どこの誰かも、なぜ追われているかも聞き出せなかったので、生まれたばかりの孤児を抱えた子連れ狼誕生の瞬間です。

男たちはしつこく、最初の撃ち合いで犠牲者が出ているのにさらにしつこく追って来ます。一計を案じ、というか赤ん坊を厄介払いをしようとスミスは売春宿に出向きます。そこに知り合いのキンタノという売春婦がいるので、彼女に赤ん坊を押し付けようとします。彼女はあっさり断わるのですが、そこへ追って来たのがギャングのヘルツ。演じるは我らが英雄ポール・ジアマッティー。スミスの話は全部が嘘ではなかったのか、自分の命も救ってくれたということでしぶしぶ同意。ギャングが売春宿にまで来たことを考慮してもここはトンズラが1番と3人は逃げ出します。

ギャングはその後もしつこく追って来ます。武器の調達、隠れ場所探しなどが必要になり、町中に展示中の戦車の中に女子供を隠すということを思いつきます。他方で大人2人はギャングがなぜ追って来るのか、この子は何なんだという事に考えをめぐらし、子供がヘビーメタルの音楽に慣れ親しんでいることが分かり、それを手がかりにある家にたどり着きます。

そこにあった物は驚愕の・・・、となるはずなのですが、シューテム・アップはコメディー。マジに受け取るのは半分ぐらいが適当。その半分がこの家にあります。 写真が見つかり、そこには殺された女性も含め3人の妊婦が写っています。そしてその家にあるのはドナーが同一人物の精子。そこから演繹するに、3人の女性は同一人物からの人工授精によって妊娠。2人はどうやらもうこの世の人ではないようです。そして骨髄についても何か行っている様子。どうやら上院議員が病気で骨髄が必要、そのために子供を3人製造し、その子から骨髄を取ろうとの計画だったようです。

それをなぜギャングが追っているのかが次の謎。その謎はジアマッティーの部下がまだ販売されていない銃を使っていたところからばれます。

ヘルツはハマーソンという武器製造会社の社長に頼まれて動いていただけなのです。ハマーソンにとって上院議員は許し難い敵。大統領になったら武器規制法案を通すつもりだったのです。骨髄の提供者になる赤ん坊をさらってしまえば、上院議員を脅すこともできますし、赤ん坊を殺してしまえば間接的に上院議員を殺すこともできます。この法案が没になればハマーソンの会社にとってはハッピーエンド。

スミスはそこまで探り出すと、上院議員との面会にこぎつけます。ところがそこへ現われたのがハマーソンとヘルツ。どうなっているんだろうと思っていると、何かの取引があった様子。赤ん坊と引き換えに法案は議員がつぶすことになりそうです。

しかしそこは我がスーパーヒーロー、クライブ・オーエンの活躍で全てが丸く収まります。無論大勢の犠牲者を出しての話ですが。

★ 付録がいっぱい

・・・とこれがストーリーの骨子なのですが、シューテム・アップはストーリーを追うだけでは3分の2ほど楽しみが減ります。主人公の言動に是非ご注目下さい。大人向きの漫画みたいなもので、出演者がそこを充分理解して演じています。ベルッチの胸が物凄いボリュームなのですが、それもフランスなどにある大人向けの漫画を充分意識しての見せ場。

女性を外見でコメントするとアングロ・ザクソン系の社会ではセクハラだとの掛け声が高いですが、欧州でもラテン系の社会ではちょっと解釈が違うようです。ずっと前からその傾向が強いです。女性は男性のような格好もせず、ヒステリックに声も上げずに、それでも社会には徐々に進出していました。特に注目すべきはスペイン、フランス、イタリアの女性たちの姿。女性らしさを止めることなく、それどころか充分女性らしさを生かしながら社会に進出をはかっています。私もこの方針に以前から賛成で、すてきだなあと思っていました。

その代表かと思えるのがベルッチ。彼女はかつてのソフィア・ローレンを彷彿とさせるイタリアの大スター。フランスのカッセルと結婚していますが、彼女がどんどん出世したので、カッセルが陰に隠れてしまう時期がありました。彼女は世間の目はあまり気にしていなかったようで、カッセルも徐々におもしろい作品に顔を出すようになり、どうやら安定した関係を築いた様子。カッセルはフランスの有名な俳優の息子なので、最初はベルッチが彼の名前で得をしたのかと思えたりもしました。時々2人で共演することもありますが、表情を見ていると2人の間に競争心は見えません。2人の間には子供もできています。

ベルッチが女性の武器を古いハリウッドのような形で駆使していながら、女性の問題に無関心でないことは周知の通り。カッセルと共演したアレックスでは女性にとって何が1番辛いかをよく表現していました。あの作品が映画祭で上映された時早まって席を立ってしまったジャーナリストが多く、作品を批判した人もいたようです。落ち着いて考えてみると、どのぐらいの被害かが身近に分かるので、「女性を襲う奴けしからん」という話が大きな説得力を持ちます。「強姦魔、お前が壊したのが何か知れ」とベルッチが全身で演じていました。

シューテム・アップに出演している3人は自分の役を良く考えて演じているように思えます。例えばクライブ・オーエンが時々「あいつは気に入らねえ」と言って人を殺してしまったり、大事故を起こさせたりします。そのあたりの彼の理屈に注目するのもおもしろいです。ベルッチがスミスに対して愚痴たらたらのシーンもおもしろいです。

★ パクってあってもおもしろい

そして思わず笑ってしまったのが、ジアマッティーのカンニング。と言うか、脚本家が香港映画をカンニングしたのではないかと私は疑っています。上にも少し触れましたが、ドニー・イェン他有名な俳優が出演する香港の警察とマフィアの争いの映画がありました。井上さんもご存知。太ったおっさんがキャバレーで争いになり、相撲取りかと思うような早業を見せます。そのおっさんがいつも気にしていたのが妻。しょっちゅう「ダーリン、後で行くよ、今ちょっと仕事で忙しいんだ」などと電話していました。ジアマッティーがそれに似た事をやります。「家庭がどうのと言うのならギャングになるなよ」と突っ込みたくなりますが、どうも最近のギャングは家庭との両立を目指している様子。

そして最後のシーンは考え様によってはボーン・アイデンティティー のパクリ。一軒落着してからボーンがマリーを追ってイタリアのリゾート地へ行くシーンがラストでした。それに似ていて、ベルッチがアイス・パーラーでウェイトレスをしているところへ、仕事を片付けたクライブ・オーウェンがやって来るのがラスト。そういう風に考えてみると、ベルッチが最初働いていた売春宿はタクシー・ドライバーに似ていないこともないし、とまだあれこれ出て来ます。

いずれにしろ シューテム・アップはマジに取るべき作品ではなく、漫画のようなもの。アハハと笑えばいいようです。まだ話題にできるシーンはたくさんあり、全部は取り上げていません。ご自分でご覧になって楽しんで下さい。

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