映画のページ

アメリカ版納棺師

ベン・キングスレーはコメディーに向くか - 
You Kill Me

John Dahl

2007 USA 93 Min. 劇映画

出演者

Ben Kingsley
(Frank Falenczyk - ポーランド・マフィアのヒットマン)

Te'a Leoni
(Laurel Pearson - 広告会社の女性)

Luke Wilson
(Tom - 高速道路の入場料徴収員)

Philip Baker Hall
(Roman Krzeminski - ポーランド・マフィアのボス、フランクの叔父)

Marcus Thomas
(Stef Krzeminski - ポーランド・マフィア、ローマンの息子)

Bill Pullman
(Dave - サンフランシスコの不動産屋、ローマンの知り合い)

Dennis Farina
(Edward O'Leary - アイルランド・マフィアのボス)

Scott Heindl
(James Doyle - エドワードの一味)

見た時期:2009年2月

★ ダブル副題

行きがかり上副題が2つもついてしまいました。行きがかりというのはオスカー受賞のニュース。前回ご紹介したつみきのいえに続きおくりびとも受賞しました。

ここでご紹介する You Kill Me は長年ヒットマンをやっていた主人公が無理やり納棺師にさせられてしまう話です。納棺師の職業がテーマではなく、ヒットマンの生き方の方に重点がありますが、偶然見た日の夜中にオスカーが決まりました。そっくりの職業の日本人を描いたおくりびとが受賞したそうです。

★ 偶然見た地味なコメディー

犯罪映画の佳作を時々出して来るジョン・ダールの作品。作品数は少ないのですが、私は結構見ています。まとまりの良い作品を作る人ですが、You Kill Me では撮影の良さも加わりました。規模としては小さめで、特殊撮影などは使わないのですが、見て損をしたという気持ちが湧かない作品です。

客寄せのパンダを務めているのはアカデミー賞ノミネート4回、うち受賞1回のベン・キングスレー。彼がいないと人目を引かないでしょう。彼に釣られて見てみると、おもしろい脇役や中堅俳優がゾロゾロ顔を揃えていて、演技に失敗が無いので、最後まで安心して見ていられます。

★ アルコール中毒がテーマ

日本人は全般的にお酒に弱い人が多く、非常に幸いなことです。アジア人の体質なのか、体内にアルコールを長時間キープして平静を保つことができない人が多いです。その結果路上に吐いてしまったり、よその人に絡んで迷惑をかけたりという事が多いですが、見た目が醜いだけで、健康面では良いことです。「みっともないから止めよう」と思う時期が他の国の人たちより早くやって来ますし、何よりも吐いてしまうということは体内からアルコールが速やかに出てしまうということです。日本人はすぐ顔が赤くなってしまう人も多く、それもまたいいことです。周囲に早々と《この人は酔っ払っている》と見えてしまうので、これも一種の警告。アルコールで早めに警告が出たり、醜態を晒すことはつまり早めに止めるための対策に取り掛かれるということでもあります。

欧米の人を見ているとやたらアルコールに強い人が多いです。日本人が「お酒の席でも態度が乱れず立派だ」と誉めている記事や書き込みを見たことがありますが、私は逆ではないかと思っています。態度が乱れたり吐き気をもよおしたりせず、一糸乱れぬ立派な態度が続くと対策が手遅れになると思うのです。

私自身はお酒に弱いので、深酒とか連続飲酒ができません。学生の頃は真夏に年平均1日ほど友人、知人としたたかビールを飲むなどという事をやったこともありました。ドイツに来てからも暫くそんな事をやっていました。ドイツのビールはやたらおいしく、午後10時まで明るい7月上旬などに友人とわいわいがやがややりながら野外で飲むのは楽しかったです。 値段がジュースより安いこともあって、飲む機会はいくらでもあります。

ところが暫くしてあることに気付いたのです。ドイツのビールのアルコール分は当時の日本よりはいくらか高め。ワインよりは低い程度。そのビールがおいしく飲めるのは最初の1杯だけ。ドイツには最大1リッターまで数種類のグラスがあって、瓶で注文する場合はたいてい1本半リッター。おいしいと思って飲めるビールは半リッター止まり。それを超えると舌にアルコールの感覚があるだけで、ビール本来の味や匂いを感じる感覚が私の場合麻痺してしまうのです。

つまりビール大好きの私に取って半リッター以上のビールにお金を払うと捨て銭になっているということです。これに気付いてからは1度に飲む量は半リッター止まり。つまり私は酒飲みとしては失格で、ビール飲みだったのです。

ドイツはさすがにビールの国だけあって、世界中のビールが入って来てもおいしいものだけしか生き残れません。国民の大半が地元のビールで満足しています。色々な種類を試した後私にも数種類大好きな銘柄ができました。

超安いとは言え、滅多に飲まなくなってしまい、飲む時の量もこんなありさまですから、あまり酒造産業に貢献したとは言えません。私は体質的に平均的日本人なのでちょっと飲み過ぎると吐いてしまうタイプで、体内に大量のアルコールを保つことができません。さらに後で発見したのですが、ワインを飲むと間もなく鋭い胃痛に襲われるようになりました。若い頃はそういう事は無かったのですが、現在では私がワインを買うとすれば料理用。料理に使うとアルコールが飛んでしまい、問題は起きませんがもったいない話かも知れません。

さらにちょっと前の事故以来お猪口に1杯程度の食後酒(レストランで食後に振舞ってくれる少量のアルコール)でも体内に入ると体が過剰に反応するため私のアルコール・キャリアはぶっつぶれてしまったようです。とまあ日本古来の体質や事故のおかげでアルコール中毒にならずに済んでいますが、ドイツではアルコールは大きな問題のようです。EUにはドイツ以上に大きな問題を抱えた国もあるにはあるので、最悪状態ではないでしょうが、下を見て安心するような問題ではありません。ドイツでも時々雑誌に記事が載ったりしています。素人の私には肉体的な原因は日本人より多い量を飲んでも平静な神経を保てる体質、経済的な原因は価格がかなり低くて買い易いこと、精神的な原因は核家族やシングルの抱える孤独感ではないかと思えて来ます。

アメリカがどういう事情なのかは詳しく知りません。ただ欧州系の人たちが多く住んでいるので、肉体的にはかなりの量飲んでも平静でいられるのではないかと想像しています。価格は良く知りませんが、アメリカ系の会社のバドワイザーは安いらしいと聞いています。孤独感に関してはアメリカが先進国なのではないかと思っています。日本は追うべきでない物を追ってしまったなあと感じます。

後記: 先日は酒乱の有名芸能人や、お酒で国難を救ったらしい政治家の話を耳にしました。

★ 映画のテーマ

You Kill Me にはのっけからアル中男が出て来ます。雪かきをする時にウォッカらしき瓶を手にしていて、1口飲んでは瓶を前に放り出して階段を2、3段雪かき。瓶を拾って1口ごくり、また雪かきなんて事を繰り返しています。

男の名前はフランク。職業はヒットマン。ところが度重なる失敗のため叔父でボスであるローマンからサンフランシスコへ行って断酒しろと命令を受けます。最近ライバルのアイルランド・マフィアが中国マフィアと手を組むことになり、ポーランド・マフィアのローマンの出る幕がなくなってしまいそうになり、フランクに「アイルランド・マフィアのボス、エドワードを片付けろ」と命令を出したのですが、仕事の直前に飲んでしまい、エドワードを撃つ前に眠り込んでしまいます。

本人にはアル中だという自覚が無いのですが、ローマンの厳命で強引にサンフランシスコのアパートに住まされ、お目付け役までついています。それでしぶしぶ断酒の会に出席。最初は乗り気ではなかったのですが、やがて軌道に乗って来ます。きっかけは女性。お目付け役の不動産屋に無理やり押し付けられた仕事が葬儀屋の死体化粧。ちょうど今年オスカーを取ったばかりのおくりびとです。

これまでヒットマンとして人を直接あの世に送っていたフランクは、サンフランシスコではおくりびとになって葬儀社で働くことになります。この作品にはあちらこちらにユーモアの要素が隠れているのですが、描写が渋過ぎて直接の笑いに至らないことがあります。デニス・ファリナが出ていたアウト・オブ・サイトなどですとちゃんと笑うべき所で笑えたのですが、You Kill Me のユーモアは気付くまでにちょっと時間差があります。(下記も参照)

ある死人の遺族として葬儀場を訪ねて来たローレルが気に入り、フランクは頑張ってデートに持ち込みます。その際彼女に嘘はつくまいと考え自分がアル中だと最初から明かします。付き合いは上手く行き、フランクには生きる目的ができ、断酒も暫くは上手く行きます。しかし周囲に酒を飲む雰囲気があると乗せられてしまい、ある日アイルランド人の葬儀の場でつい手を出してしまいます。おくりびととしての仕事の出来が良いということで遺族から誉められ、1杯振舞われてしまうのです。結果は悪い事になり、また最初からやり直し。断酒の会にも30年頑張って断酒していたのでいいだろうと思って1度手を出したら、元に戻ってしまったなどと報告するメンバーがいます。

人に聞いたところによるとアルコールや麻薬の中毒には2種類あって、単に精神的な原因のものと、体が引きずり込まれるものがあるそうです。単にとは言っても取る麻薬はとんでもない物で多くの国では違法となっているのですから軽い問題ではありませんが、前者の場合ですと本人が精神状態や生活を安定させれば翌日からあっさり止めることができるそうです。反対に後者ですと本人がどんなにきっちり決心しても、何かの事件があって止めようと決心しても、体の方がそれとは反対の方向に行ってしまい、30年後にお猪口1杯でも元に戻ってしまうそうです。アルコールの場合量が増えると中毒問題以外に肝臓や脳にも害が及ぶので重大問題。日本では肝臓の話は一般の人の間でもちょくちょく聞きますが、ドイツでは滅多に話題になりません。ドイツ人の肝臓は日本人より強いんだろうかと考えるこのごろです。

★ 誘惑の多い地域

欧州に住んでいるとお酒の誘惑が多いと思います。私がこちらに来てから現在までの滞在年数の半分以上お酒が断わり難い習慣でした。90年代後半からでしょうか、パーティーに行くとお酒と同じぐらいジュース、コーヒー、紅茶、水が出されるようになったり、わざわざ何を飲むか聞いてくれたりするようになりました。それまではシャンペン系、ワイン系の飲み物を勧めるのが高級、主催者側の礼儀などという雰囲気が漂い、アルコールを飲む気の無い人は勇気を持って切り出さなければならない状態。しかも言われた人はわざわざ私のために非アルコール飲料を探しに行かなければならず、こちらは相手に手間をかけたと良心が咎める仕掛けになっていました。

いつの頃からかドイツもこのまま飲み続けてはまずいと感じたのでしょうか。真昼間の会合ではお酒の方が横にひっそりするようになり、非アルコール飲料が何種類も出るようになりました。夕方、夜のパーティーにはその後もアルコールがたくさん出ましたが、それでも非アルコール飲料も横で用意されることが増え、頼みやすい状況に変わりました。

ドイツでは日本人のアル中を目にすることは少ないですが、女性が複数危なっかしい状態でした。1人は話を聞いただけで飲んでいるところを見たことはありません。しかし本人の話だったので、結構飲むのでしょう。もう1人とはアルコールのテーマで話をしたことはありませんが、グラスを手にして目が据わってしまったり、歩く時によろよろしている姿を何度か見たことがあります。女性の危ない姿を見たのはドイツに来てからで、日本では見たことがありませんでした。まだ社会が女性の飲酒をよく思わない時代でした。(おかげで私たちはアル中にならずに済んだのでしょう。社会が私の肝臓を守ってくれたんだという理屈も成り立ちます。You Kill Me の you は実はアルコールだと極解もできます)。

★ 持つべきは友達か

92分の時間制限があるので経過をいくらか端折っているのではと思いますが、フランクも少なくとも1度は挫折。断酒の会の他の人の話を交えて、たいていの人が何度かやり直しをする羽目になっていると描写されます。しかし会に入ると比較的短時間で自分はアル中だとの自覚には至るようです。大失態をする人が多いので、はっきり目に見え、自覚も得やすいのでしょう。まずは第1コーナーにたどり着いたところ。

難しいのはどうやらこの先のようです。自分ではもうお酒は止めた方がいいと考えるのですが、上に書いたようなパーティーでの社会習慣や、その人がお酒が好きだと思っている人から勧められたりした時の対処が難しく、相手を怒らせては行けないとか、せっかくの親切だからなどということでほだされてしまうのです。人間関係をギクシャクさせずにお酒を避けるのは容易ではないようです。断酒の会でなぜ断わり方のトレーニングをしないのだろうとかねてから不思議に思っていました。心理学を応用した話し方教室が多くあるのだから、上手に断わる方法や、お酒を勧められた時にさっと「紅茶の方がいい」言う戦術を教えたらいいのではと思います。ワインを飲むと胃が痛くなる人が本当にいるのだから、断酒の人もそういうのを積極的に言い訳に使ったらいいのではとも思いました。まさか相手が胃潰瘍になるかも知れない状況で無理強いはしないでしょう。

しかし断酒中の人に周囲の理解が無いのは事実のようです。サンドラ・ブロックの28日という作品がありました。大失態をやらかして断酒施設に入所したのが女性主人公、入らなかったのがボーイフレンド。大失態は本人の自覚のためには良かったようです。ボーイフレンドはそういう事が起きていなかったので、彼女の問題も重大とは取っていません。ボーイフレンドは彼女を喜ばそうと思って施設に酒瓶を《密輸》。彼女はそれで起きた失態後ますます断酒の必要性を自覚し、28日間の講習を終えて出所。

すると今度はボーイフレンドが飲み友達を引き連れて彼女の出所祝いをしようとします。勿論お酒で。そこで彼女はボーイフレンドと友人を一まとめにして一生捨てるかどうかの決心を迫られます。これが28日で片付く話ではないのは一目瞭然で、彼女は何度も失敗を重ねてから映画の最後に出るような決心をするというのが現実でしょう。1本の映画、2時間以内で話にオトシマエをつけなければ行けないので28日目に決心をしたという設定にしてあります。しかし観客にはこれが大変な、難しい事なのだということだけは伝わって来ます。

彼女にお酒を勧めている友人は彼女を苦しめようとか試そうとしてやっているのではなく、彼女を自分たちのサークルの中に留めよういう一種の友情でやっています。彼女は一歩先を行っていて、講習の後自分がどういうことになっているのかを自覚しています。本来はお酒を止めるべきという方向。ところが大失態を演じた彼女だけは事の重大さが分かって来ており、自分を冷静に見つめていますが、友人たちはまだ自分がなぜこの友達グループに集っているのか、なぜそこで大酒を飲むのか、そしてなぜサンドラ・ブロックを仲間内にキープしておきたいかが分かっていません。

You Kill Me では断酒に成功している人もミーティングに通い続け、お互いをサポートし合っています。28日だけを見た時には深く考えませんでしたが、28日の後に You Kill Me を見ると、断酒後のサポートの重要性が理解できます。映画で描かれているのはごく一部の事情なのでしょうが、私は事故に関連してこういう会に出たことがあります。

人生設計の中に含まれていない事故を経験すると一種のショック状態になってしまいます。同じ経験をした人と話した方がいいと思い出かけて行ったのですが、やはり部外者には分からない事が多く、事故後半年ほど「なぜ人が理解しないのだろう」と思っていた内容を他の人も経験していました。私の場合はこちらの事情(できる事、できない事など)が相手に伝わらず、また数ヶ月経ったところで周囲から強いプレッシャーがかかり始めました。テーマはお酒とは無関係なのですが、部外者には分からない事が多いというところは一致します。

映画を見ている限り、アルコールを助けに仮の陽気さを生んでいるけれど、実際には孤独な人間が見えて来ます。アメリカにも以前はきっと社会的なつながりが多く、コミュニケーションのいい時代はあったのでしょう。You Kill Me ではフランクがローレルとのつながりがあったため、新しい道を見出すというコンセプトにしてあります。相手がローレルという恋人であれ、家族であれ、何でもいいですが、人のつながりがあると救われる率が高いように見えます。

★ アルコールとの付き合い

You Kill Me の人たちやサンドラ・ブロックの役の女性はコントロールが利かないので断酒が最良の策です。欧州では雑誌などでお酒は止めようという記事と、ほどほどのお酒は健康に良いという記事が交互に出て来ます。これでは読者はどちらが正しいのか判断できません。当然バックには酒造産業、医療関係者、肝臓病に保険金を払う健康保険会社の事情があるのでしょう。お酒に寛容な国もあり、私の目には行き過ぎに見えることもあります。ドイツでは公私がはっきり分けられていて、職場と車運転中に飲むとアウト。それさえ守れば他はお咎め無し。

これが良いのか悪いのか私は結論を保留しています。体に悪いなら止めてしまえとばかりに禁酒法を施行したことのあるアメリカでは闇の酒が増え逆効果に終わっています。どいう人がどの程度飲むのなら大丈夫で、どこからが危険地帯なのかが見えにくいのがお酒。You Kill Me は果敢に難しいテーマに切り込んだと思います。多分にシンボル的で現実味を欠いていた28日よりきめ細かい表現です。贅沢を言えば酒とバラの日々28日を見てついでに You Kill Me も見ると問題の理解が深まるかと思います。ドイツでは超有名なエンターテイナーがお酒でキャリアも健康もそして最後には命も失いました。ベルリンが生んだ国民的英雄でした。

★ これはコメディーなのだ

元からコメディーとして企画されたらしく至る所に笑いのネタが隠れています。ところがベン・キングスレーがあまり渋い演技をするので、笑いがすぐ浮かびません。彼は去年のファンタ冷酷非道なロシア人官憲を演じていましたが、実はあの作品も大元はコメディー。ところがあまりにも気合を入れ過ぎて、本当に冷酷非道に見えてしまい、笑いが凍りついてしまいました。

長いキャリアがあり、オスカーももらい、良い役も演じ、貴族にもなったキングスレーは今ではどんな役でも選べる立場。シリアスな役を演じた後、たまにはコメディーもいいだろうと思ったのが本人なのかマネージャーなのかは分かりません。アイディアはいいと思います。演技のみならず音楽の素養もある人です。インド系の人なのでガンジーを演じたかと思いきや、ロシア人にもなれるし、You Kill Me ではポーランド人の役。ラッキーナンバー 7 ではユダヤ人にもなっています。何人にでもなれてしまい、何人にでもならせてもらえる俳優です。キングスレーに取ってコメディーはこれが初ではないのですが、まだ彼を見て笑ったことがありません。

キングスレー抜きにしても所々に笑いが隠れています。例えばポーランドのマフィア・ボスが言う事のまともさに呆れます。職業がまっとうだったら大賛成したくなってしまいます。自分の甥っ子のヒットマンがアルコールで人生をだめにすると気遣い、父親に似た厳しさでキングスレーをサンフランシスコへ行かせ、断酒しろと命令するのですから。1歩下がって中堅の脇役俳優が、英国のナイトで、オスカーも持っているキングスレーにそんな事を命令していると考えてもおかしさが出ます。ところがキングスレーがあまりにも生真面目な演じ方で、「ここは笑うべきシーンなのだ」と思い当たるのは映画を見終わってから数日後。

話が展開する町の1つバッファローでは企業乗っ取りとそっくりなシーンが暗黒街で繰り広げられます。ギャングの世界では縄張り争いと呼びますが、外国勢力が入って来て、地元で長く地道に(?)やっていた勢力が吹き飛ばされてしまうのです。新しい展開の中素早く動ける者が勝ち残り、伝統的な者が潰されて行きます。表の世界と違うのは、潰される時命の危険度がギャングの世界の方が高い点。しかしあくまでも《やや高い》のであって、表の世界でも危険はちゃんとあります。

本来1番笑いが取れそうなのは、フランクが断酒に成功して再び元の職業をまともにやれるようになったら、人を殺して回ることになるという設定。自分にも人にも嘘はつくまいと固く決心してしまったので、断酒の会でも真実を語ります。聞かされた人の反応がそれほど愉快に仕上がっていなかったので、このジョークは不発に終わっています。もったいない。こういった点はアウト・オブ・サイトの方がずっと出来が良かったです。

見終わって数日して「あれはコメディーだったのだ」と思い当たるのではちょっと遅いと思います。その原因がベン・キングスレーのあまりにも深刻な、まじめな表情。どこかで少し手を抜いた方が良かったように思います。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ