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ユナイテッド93 /
United 93 /
United vol 93 /
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Vôl United 93 /
Vol 93

Paul Greengrass

2006 F/UK/USA 111 Min. 劇映画

出演者

Khalid Abdalla
(Ziad Jarrah - テロリスト)

Lewis Alsamari
(Saeed Al Ghamdi - テロリスト)

Omar Berdouni
(Ahmed Al Haznawi - テロリスト)

Jamie Harding
(Ahmed Al Nami - テロリスト)

J.J. Johnson
(Jason Dahl - 機長)

Gary Commock
(LeRoy Homer - 一等操縦士)

Polly Adams
(Deborah Welsh - 客室乗務員)

Opal Alladin
(CeeCee Lyles - 客室乗務員)

Starla Benford
(Wanda Anita Green - 客室乗務員)

Trish Gates
(Sandra Bradshaw - 客室乗務員)

Dennis Karagovalis (クルー)

Nancy McDoniel
(Lorraine G. Bay - 客室乗務員)

Amanda Boxer (クリーヴランド監視官)

Morgan Deare (クリーヴランド監視官)

Daniel Fraser (クリーヴランド管制官)

Kevin Delaney (ニューヨーク管制官)

John Kaplun (ニューヨーク管制官)

John E. Smith (ニューヨーク管制官)

Michael Bencal (ボストン管制官)

Tom Fitzgerald (ボストン管制官)

Bard Marques (ボストン管制官)

Scott Tourin (ボストン管制官)

Carol Bento (ヘルンドン職員)

Susie Gossling Valerio (ヘルンドン管制官)

Robert Serviss (ヘルンドン職員)

Matt Siebert (ヘルンドン職員)

Peter Wong (ヘルンドン職員)

John Moraitis (監視官)

Gregg Henry
(Robert Marr - 大佐)

Karen Kirkpatrick
(Dawne Deskins - 少佐)

Patrick St. Esprit
(Kevin Nasypany - 少佐)

Curt Applegate (本人役)
Greg Callahan (本人役)
James Fox (本人役)
..
Shawna Fox (本人役)
Tobin Miller (本人役)
Jeremy Powel (本人役)
Thomas Roberts (本人役 )
Ben Sliney (本人役 )
Tony Smith (本人役)
Rich Sullivan (本人役)
Rick Tepper (本人役)

見た時期:2010年3月

ドイツ語のタイトルは訳すと《フライト93》です。他の国も似たようなタイトルになっています。

★ 駄作だとのお墨付き

グリーン・ゾーンを見たことがきっかけになり、ユナイテッド93も見てみました。世界各地で絶賛、山のように賞を取った作品です。

DVD屋さんには「見る必要も無い駄作だ」と負の推薦を受けました。私自身も大した事のない作品だろうという予想はしていました。好奇心はむしろどういう風な展開になっているんだろうとか、どういう風な結論になっているんだろうという方にありました。何しろ世紀の大事件について国を代表するような解釈がなされているからです。

★ 本人を出せばいいというものではない

ユナイテッド93には本人役で出ている人が大勢います。加えて、空港や飛行機の関係者はその職業に就いたことのある人を優先してキャスティングしてあります。その上遺族などからもたくさん聞き取り調査をして脚本ができたそうです。・・・って言うじゃない。

もう時代遅れの流行語《・・・って言うじゃない》ですが、本当にそう言われても観客は戸惑うだけです。リアルさを出そうとしたつもりなのでしょうが、なんだか素人っぽいアプローチです。この方法で足手まといになっていると言えます。ワールド・トレード・センターの方がプロフェッショナルな作りになっています。

★ 揺れの無い駄作だった

「お店の人は当を得た批評を述べた」と確認できました。カメラは同監督の他の作品に比べ、揺れがほとんどありませんでした。飛行機の墜落を扱った作品なので、墜落寸前のシーンではいくらか揺れますが、ハンドカメラで撮影して揺れるのではなく、飛行機自体が揺れます。カメラが揺れるのと違い、見ている側には負担がありません。この作品の良い点はここで終わり。

撮影はどこと無く貧乏臭く、スコット兄弟監督のような鮮明さ色の美しさがあるわけでもなく、普通の作品より貧相な仕上がりです。何人もの監督のデビュー作を見ましたが、ロー・バジェット、ノー・バジェットの作品でも、ユナイテッド93よりきれいな撮影をしている作品が圧倒的に多いです。

俳優の実力も見事なまでに控えめで、皆が競って実力を出すのを遠慮したかのようです。タイプとしてはインディペンデンス映画的な、派手な事を避ける演技の人が多かったですが、自然さを出すためにニコラス・ケイジ、ジョン・トラボルタ的な派手さを消すというのではなく、貧相な印象を残します。そのニコラス・ケイジがユナイテッド93のライバルに当たるようなワールド・トレード・センターで見事に地味な男を演じて光っていたのが対照的です。

上にもちょっと触れたように素人も使っているのだ、臨場感を出そうとしたのだという理屈は当然聞く耳を持つべきですが、それをよく交通整理して、演技に慣れていない人たちを適したシーンにはめ込むのが監督の仕事。それをこなし切れないのなら、妙なドキュメンタリー・タッチの劇映画にせず、元からきっちり劇映画にするか、あるいは完全なドキュメンタリーにして、当時の関係者のインタビューなどを2時間ほどにまとめた方が良かったと思います。

★ 事件の展開と作品の作り

ご存知のように米国に未曾有の混乱をもたらした大事件でした。犯人自身とごくわずかの事前に情報をもたらされた高官を除いては誰一人予想もできない出来事。その後の展開を見ても、現場にいた直接の関係者が大混乱を起こすのは当然に思えます。事前に予告を受けた人たちも「またいつもの警告か」という扱いだったらしく、今回に限り本当に起きるとは思わなかったようです。狼少年現象ですが、荒唐無稽な警告を受けたと感じるのも仕方の無いことだと素人目には映ります。

情報関係筋や、セキュリティー関係者にも謎の見過ごしがあったという噂があり、非常に周到に犯行が成功するように仕組まれていたという話すらあります。尾ひれがたくさんついており、事件の全容解明はケネディー事件と同じぐらい長い時間を要し、社会の状況が落ち着いてからでないと無理でしょう。まだあの事件の影響から抜け切った時代は来ていません。

混乱している人たちの状況を劇映画で描写するのにもう少し工夫ができないものかというのが見ての感想でした。撮る側の頭がもう少しすっきりしていたら良かったのにと思いました。皆が起きた事の全体像がつかめず、右往左往するのは当然です。描かれているのはハイジャックされた飛行機に乗っている人たちの飛行中から墜落までの状況、飛行機が何機も予定のコースを外れるので、何が起こっているんだろうと全体の事を考えるより前に飛行機同士が衝突しないように指令を出さなければならない東海岸側の管制センター(しかも、中の数機はセンターとの連絡を無視するので係官の背筋が凍る)、想定外の動きをキャッチし、最悪の場合一般の乗客が乗っている飛行機を撃墜しなければ行けない立場の軍関係者(しかも、命令を下せる大統領とは連絡がつかない)の3点。

★ 大きな落とし穴

ユナイテッド93最大のプロットの穴は、機内で起きた出来事に関しては全くの創作であっても誰も文句をつけられないという点です。この機は議事堂に向かう途中で墜落してしまっており、生存者はゼロ。パイロットとの直接連絡は早い時期に途絶えており、テロリストは管制塔からの呼びかけに応えていません。

機内から携帯で連絡を受けた家族があるそうなのですが、通話が本当に可能だったかについては疑問が生じており、全部の話を鵜呑みにはできないようです。ですからユナイテッド93の主要部分に当たる、機内の様子は最初から最後までどうなっていたのか確認の取りようがありません。

★ 民間の話だけでなかった - 報道の不自由

ユナイテッド93の骨子は政府発表を踏襲し、外国のテロリスト一味が数機の旅客機を乗っ取り、アメリカという国を象徴するような建物に突っ込んだということになっています。実際はどうだったかについては謎が多く、謎が増えてしまった理由の1つに政府が当時事実上報道管制をしいてしまったことがあります。

外国人の第三者の目から見ると報道管制にはいくらか理解できる点があります。ワールド・トレード・センターだけに何機もの飛行機が突っ込んだのなら民間の話と言えないこともありませんが、国防省の建物は直接被害を受けていますし、議事堂、ホワイト・ハウスも狙われたようなので、政府がターゲットになっていると見なして防衛体制に入る選択は仕方なかったでしょう。その時にセキュリティーを優先すると考えた人がいたのだとすれば、国によりますがそういう考え方があっても不思議はありません。実際アメリカ政府はこの選択をしています。私ならだらだらと制限のはっきりしない報道管制をするのではなく、メディアに緊急事態と宣言して、特定の条件を示して、限られた期間の報道協定としますが。事件直後から何だかわけの分からないままニューヨークの現場の事件前、事件後の写真がサーっと消えてしまったように記憶しています。ちょっとやり過ぎの印象を持ちました。仮にその時は緊急の措置だったとしても、せめて後から「あの時はこれこれの理由でこの種の報道は我慢してもらった」ぐらいの説明はあっても良かったのにと思います。

何だか良く分からないうちに話は戦争を始めるという方向に動き、あっと言う間に始めてしまい、あっと言う間に終わってしまいました(公式の攻撃)。ところがその後あっちちょろちょろ、こっちちょろちょろと情報が漏れ始め、素人の目から見ると国家機密ではないのかと思えるような話がリークされるようになりました。そしていつの間にか、2001年にサーっと消えてしまった写真も出るようになって来ました。私は全部をウォッチングしていたわけではないので、主観的な話になりますが、だらだらと制限がしかれ、だらだらと漏れたように感じました。

★ 解釈の自由

事件に関しては何年か経って別な解釈も出て来ており、結局は起きた事の一つ一つについて、別な解釈もあり得ると言い出す人が現われたと言っても過言ではないでしょう。ユナイテッド93は2001年の一連の事件の1つとして組み込まれていて、この日1日の出来事が2003年の戦争に発展し、2010年になってオスカーを貰った大スターが堂々とグリーン・ゾーンを演じるような事態になっています。元から謎の多い事件でした。

ただのネット雀だけでなく、数年経ってからこの事件に意外な解釈をする各方面の専門家も登場し、謎はまだ解けていません。この事件からさかのぼること数年、マーシャル・ローという作品がスターを起用して作られていることを考えると、以前から何かしら予想はついていたのかなあと思えて来ます。映画の世界は本来は虚構のはずですが、時々間もなく起こる事を予告するような作品にも出くわすことがあります。

★ ユナイテッド機の場合

後から見ると同時多発テロだったのですが、《まさに今事件が・・・》という時にその場に居合わせた人には他の事件の事まで把握する余裕はありません。テレビを見ている人はまずワールド・トレード・センターの最初の飛行機の事件だけで呆気に取られていましたが、そこへ2機目が飛び込み、唖然。呆気とか唖然という言葉ですら足りない驚き方をしました。そのニュースを見続けていた人たちはさらに数時間後関係なさそうに見えた近くの建物まで倒壊したので、ニューヨークに釘付け。

本来それ1つでも重大事件であるはずのユナイテッド93はさらに国防省の建物が一部破壊されたこともあって少し霞みます。国防省の事件の方は、セキュリティー・カメラの映像が一部公開されないため、飛行機が突っ込んだのか、全く別な攻撃だったのかという議論にまだ決着がついていません。所々まだ当時の報道管制のまま放置されている部分があり、そのために色々な憶測を呼んでいます。

グリーングラス監督はユナイテッド機が議事堂を狙っていたという解釈で作っています。勇敢な市民がテロリストに襲い掛かり、テロリストのパイロットを取り押さえようとしたが間に合わず墜落したというのが公式見解。この機についても謎が多く、当時の携帯電話では飛行機の中から家族に電話するのは無理だったという話まで出ています。わざわざ同じ高度に飛行機を出して実験する人まで出る始末。同じ状況では電話の音声は非常に聞き取りにくいそうです。

事件の状況の説明は眉唾物が多く、政府の公式見解を鵜呑みにするのも、反対意見を鵜呑みにするのだめそうです。まだ暫くは待つしか方法がありません。

★ グリーングラス式解釈

グリーングラス式ですと、こんな具合です。

小型ナイフと手製爆弾を隠し持った男たちが数人ユナイテッド93便に乗り込みます。1人は飛行機を操縦することができ、全員外国人。英語が分かるのはそのパイロットのみ。全員がモスレム系の外国人。コックピットが見える席を取り、コックピットに入る隙を狙っています。

パイロットの男が決定し決行するはずですが優柔不断で、他の男が強行します。ユナイテッド機のパイロットはすぐ殺され、テロリストの男が操縦し始めます。乗客はまだ何が起きているのか理解できず、暫くは恐怖におののくばかり。

やがて携帯電話で家族と話し、ワールド・トレード・センター事件を知り、自分たちの飛行機も同じ状況にあると理解する乗客と客室乗務員が出て来ます。パイロットが2人とも殺害された事を知り、男性の乗客が相談を始めます。中の1人がいくらか飛行機の操縦の知識があることが分かり、コックピットを襲う話がまとまります。

実行に移したところ、テロリストのパイロットも必死で抵抗したため、操縦桿を奪うに至らず、そのまま墜落し、全員死亡します。

★ いちゃもん続出

パーフェクトな美談ですが、映画ができるより前から不思議でならないのは、アメリカの捜査側の機関が発表している実行犯のうちかなりの数がまだ生存している普通の市民だという点。パスポートを盗まれた人や、事件以前から長い間海外旅行をしていない人たちです。この取り違いは未だに訂正されていないという報道記事を見たことがあります。手配を知って本人自ら「僕、まだ生きてるよ」と言い出した人もいました。その後も手配書の訂正は行われなかったそうです。

信じがたいほど犯人探しは雑で、本当に実行犯を特定する気があるのかと思わざるを得ません。挙句の果てに飛行機は自動操縦でパイロットなど必要なかったという話まで飛び出しています。

事件を任期中に経験した大統領が辞めてまだ新しい大統領は1人目。もしあの事件を第3回目の世界大戦と解釈するのなら、まだ戦後は来ていません。なのでこれが決定打という解釈も出ていないのでしょう。

★ 何が分かっているか

ユナイテッド93便に関しては離陸し、特定の時間以降管制塔との正常が連絡ができなくなり、コースをはずれ、墜落し、乗客乗員全員が死亡したという点ははっきりしています。

空港で乗客のチェックが甘かったのかはユナイテッド93便については知りませんが、あの時期に不審な行動を取り、予定のコースを外れて建物に突っ込んだりした飛行機のうちいくつかでは、搭乗する時のセキュリティー・チェックが甘かったと言われています。

ユナイテッド93便だけは目的地が明確ではありません。おそらく国会議事堂を狙ったのだろうと言われていますが、途中で墜落しているため、最終確認は取れません。もしセキュリティーのため撃墜されたのだとしたら、下が住宅の密集地でなかったりして、都合は良かったです。映画で描かれている通りの争いがコックピットであったのでしょうか。あんな風になっていて、かつ人家の少ない所に落ち、下では誰も怪我をしなかったとすればある意味強運だと言えます。

ワールド・トレード・センターはプロのベテラン俳優が揃っていて、ドキュメンタリー・タッチなどというまどろっこしい事はせず、劇映画にしていました。劇映画のスタイルを少し減らし、ドキュメンタリー・タッチにしようと試みたユナイテッド93は私の目には大失敗に見えました。それでも賞は山のように貰いました。グリーン・ゾーンは私が報道で見た内容を、スターを起用して劇映画仕立てにして描いていましたが、正直なところコンピューター・ゲームかと思いながら見ていました。あの事件が大変だったんだなという気持ちはワールド・トレード・センターから伝わりました。

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