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グリーン・ゾーン /
Green Zone /
La ciudad de las tormentas

Paul Greengrass

2010 F/USA/Spanien/UK 115 Min. 劇映画

出演者

Matt Damon
(Roy Miller - バグダッド駐留の米軍兵士)

Brendan Gleeson
(Martin Brown - CIAバグダッド主任)

Greg Kinnear
(Clark Poundstone - 国防省諜報局バグダッド担当)

Amy Ryan
(Lawrie Dayne - ウォール・ストリート・ジャーナルの記者、バグダッド勤務)

Yigal Naor
(Al-Rawi - フセイン政権の将軍、逃亡中)

Nicoye Banks (Perry)

Khalid Abdalla (Freddy - 通訳)

Said Fara
(Seyyed Hamza - アル・ラウィ元将軍の側近)

Aymen Hamdouchi
(Ayad Hamza)

見た時期:2010年3月

懸賞に当たったので見てきました。大きなホールでしたが、館内はガラガラ。私の近所に数人若い人が座っていただけです。カップルばかりでおそらく全員懸賞で当たった人たちでしょう。こういう懸賞はたいてい公開初日です。

★ 主演の因縁

主演はマット・デイモン。企画の当初から彼に決まっていたようです。助演で彼のライバルの役を貰ったのがグレッグ・キニア。グリーングラス監督は7本の作品のうち3本をデイモンで撮っています。その内の2本はボーン・シリーズ。デイモン主演の3本の明確な特徴はカメラが揺れ過ぎて船酔いしそうになる点です。

グリーングラス監督はデイモンを使わずにユナイテッド93を撮ってからデイモンでグリーン・ゾーンを撮っています。全体の作品数が少ない中、テーマとしては2001年の大事件、イラク戦争の路線を追っているようです。また、CIA など諜報機関の陰謀がらみの作品ということになると、ボーン・シリーズの2本もカウントできますから、7本のうちの4本ということになります。かなり確信犯的にテーマを選んでいるように見えます。

ずっと前にあまりおもしろくない作品を1本見ました。ヴァージン・フライトといいますが、こちらの作品は2人の人物のプライベートな関係に重心があり、諜報機関の陰謀とは縁が無かったように記憶しています。

★ シャム双子再び共演

マット・デイモンと監督の結びつきはこんなところですがグレッグ・キニアとの関係も特徴があります。何しろ2人は過去に世にも珍しい、片方が年上の二卵性シャム双生児(?!)だったのです。ファレリ兄弟のコメディーの主演を2人で務めていました。とても仲のいい思いやりのある兄弟役の後、グリーン・ゾーンでは熾烈な戦いを繰り広げる情報操作の名人とそいつのいんちきに気づき始める米兵という役です。早い話が敵役です。

★ へんてこりんな作品

脇が甘いというか、スカスカの作品です。ストーリーの軽さをハンドカメラで撮影し、めまぐるしく動き回ることで誤魔化そうとしたのかとかんぐっています。

売りは《問題作》、《驚くべき秘密》などですが、当時の報道を普通に新聞やインターネットのニュースで見ていた人なら、本当の事件の方を知っているので、結末も前半で想像がついてしまいます。それならせめて国防省と CIA の競争を強調すればよかったと思いますが、画面がめまぐるしく動くだけではなく、ストーリーも1つの線をキープしておらず、ちょっと米兵、ちょっと戦闘シーン、ちょっとグリーン・ゾーンの中の生活、ちょっとこれ、ちょっとあれという感じで、まとまりがありません。

ボーン・シリーズ以来米国謝罪大使の役を引き受けた感のあるデイモンですが、グリーン・ゾーンでも《イラクの皆さんごめんなさい。中には良心的な米兵もいるんですよ。だから許して》路線を取っています。

★ 一般の報道でネタバレ

例えば私の例を申し上げましょう。ちょうど失業して家にいる時間が増えていました。まだ事故の前でしたので、体力的にも大丈夫で、家にテレビがないこともあり、ラジオを聞き、インターネットを見ていました。収入がいきなりゼロになってしまったので、お金を使うことができず、時間を潰すにはそんな事しかできませんでした。

そんな生活にこれから慣れるかなという頃ニューヨークで前代未聞の大事件が起きました。直後からアメリカは非常事態宣言のような状態になり、極端な報道規制となりました。まあ野次馬的部外者の私から見ても、クーデターでも起きたか、初めて本土を外国から攻められたような気持ちになった人が多かったのかなと思えたので、そういう措置もありかと思いながら見ていました。私がそう考えたのは、以前に見たマーシャル・ローの影響かも知れません。映画と現実の区別が全然ついていません(笑)。

それからの2年間はアメリカはもとより世界中がヒステリー状態。そんな中イラク戦争に突入して行きました。上にも書いたように時間が余っていたので、報道には毎日目を通す余裕がありました。どういうわけか極秘情報がじゃぶじゃぶリークされ、一般の報道に出まくっていました。ですから2002年の夏にはすでに「イラクに大量破壊兵器は無いだろう、2000年より前に破壊されている」という説を唱えた人がスパイ容疑をかけられ当局から調べられているとか、アメリカが振り上げた拳を下ろす理由としてこんな事を言って来るだろ、あんな事を言って来るだろうという予想が出ていました。アメリカの中枢に2派あって、両者が大喧嘩をしているために、イラクに出る、出ないで対立している、政府高官に嘘とまでは言わないとしても、かなり怪しげで確認されていない情報が流れているなどという報道がありました。

そんな中のイラク戦争だったので、よくまあこんないい加減な根拠で一国の運命を左右するような行為に走るものだと呆れたものです。しかし始まってしまいました。幸い戦闘は長引かず、数週間で終わりました。報道を見ているとどっちもどっちという印象はありましたが、一般人がとんでもない目に遭うという視点ではイラクの方が気の毒です。戦争というのはそういうものだということは自明の理ですが。

まあ、そういったわけで、かなりいい加減な理由で、きちんと先の予定を決めずに《兎に角始めてみよう》といった感じで始まった戦争ですが、グリーン・ゾーンの事も報道で見かけたことがあります。

★ 報道をつなぎ合わせればグリーン・ゾーンになる

映画グリーン・ゾーンはフセイン政権が崩壊し、米軍が占領している2003年のバグダッドが舞台です。現実の戦争がはじまったのが3月で、マット・デイモンの顔が見えるのはその1ヵ月後ということになっているので、4月の後半あたりになります。前政権の首脳、軍人などが手配され、新しい政権が作られようとしている時ですが、国中がまだ切り替えどころの話ではなく、大混乱を起こしている時期に当たります。手配を受けた元の政府の高官や軍人たちの顔がトランプの絵として印刷され、国中に無料で配られたという話がありますが、そういうシーンも出て来ます。

★ ネタばらし映画 − 現実に時々使われる手

主人公の名前はロイ・ミラー。米兵です。意味深な名前を主人公につけています。ミラーというのは実在するジャーナリストと同じ苗字で、そのジャーナリストはまさにグリーン・ゾーンで扱われている件に関して怪しげな報道をしています。ミラーというのはかなり普通の苗字ですが、わざわざ問題の人と同じ名前を主人公につけたのでおやっと思いました。

何が怪しげな報道かと言いますと・・・ある高官が、すでに名を成している有名な新聞社のジャーナリストに重要な情報をリークし、彼女はその材料を使って記事を出してしまいます。相手が名のある高官だったため裏取りをしていません。グリーン・ゾーンの中では《マジェラン》という暗号名のニュース・ソースが存在することになっています。現実には別な名前ですが、グリーン・ゾーンに描かれているのと似たような話があったようなのです。冒頭に「この件は超極秘扱いだ」というシーンがあります。

この手はちょくちょく使われるらしく、ある時にはそうやって乗せられたノンフィクション作家が自殺をする事件にまで発展しています。

★ ストーリー

イラクが米軍に占領され、フセイン派が負け、都落ちをした後が舞台です。上にも書いたように米軍の公式戦闘が終わっる頃です。実質的なイラク戦争は2001年9月11日の事件の煽りもあり、2003年3月20日に始まり、4月末までに公式の戦闘は一応終わっています。アメリカは民主的な新政権を作るべく政治的に介入しつつ、兵士に国内安定化をさせているところです。事が上手く運ばなかったことは2010年の今世界中が知っています。

公式戦闘では双方6桁の数の兵士が戦いましたが、数の上では多めだったイラク軍が意外なほどあっさり引き、数週間で連合軍の勝ちと決まりました。戦後バグダッドには治安を守ろうとする米軍兵士が大勢(6桁の数。他の国の兵士はぐっと少なく、国の事情により4桁、3桁、2桁など)駐留しており、グリーン・ゾーンと呼ばれる地区には軍関係者、各国のジャーナリストなどが固まっています。ここで描かれている町の様子、グリーン・ゾーンの様子は日本人の目には奇妙に映りますが、敗戦直後から米軍に協力的で、全く抵抗しなかった日本の方が例外的なのかも知れません。グリーン・ゾーンの外はいつどこから弾が飛んで来るか分からない、いつ米軍に引っ張られるか分からない、停電、水不足など、戦争末期や戦争直後ならこうだろうと想像できる状態。グリーン・ゾーンの中はリゾートかと思えるようなプールサイドに人がたむろしている状態。関係者はデラックスな生活をしています。

重要人物が市内に隠れているため米軍の兵士はジープやヘリを動員して追いかけます。追われている一人がアル・ラウィ元将軍。追いかけているのがミラー准尉。彼が追いかけているのは実は軍人ではなく、大量破壊兵器。上から情報を得て捜査を繰り返していますが、これまで2回空振り。「おかしいなあ。この情報大丈夫なんだろうか」と感じ、以前はヒットマンだった今度は CIA になっているおっさんにも聞いてみます。CIAのブラウンは「今度もきっと空振りだよ」との見解。

変だと思いながらも捜査を続けるミラー。現在はアル・ラウィという元将軍を追っています。ぎりぎりのところで逃げられてしまいますが、その鬼ごっこの途中で住所録を入手します。将軍は逃亡しますが、側近のハムザは逮捕。彼が持っていた住所録をミラーは自分に取調べをさせず、ハムザを横取りした特殊部隊には渡さず、ブラウンの所に持ち込みます。2人はアル・ラウィ元将軍の側近と取引をすることを思いつきます。協力と引き換えに大金を渡し、国外に出そうという計画。ところがバッグいっぱいの金を持ってハムザが捕まっている刑務所に行って見ると、拷問を受けていて瀕死の状態。結局《ヨルダン》と一言言い残して死んでしまいます。

《ヨルダン》の意味はアル・ラウィ将軍と国防省のパウンドストーン(実はデイモン君のシャム双子の兄弟)が開戦前の2月にヨルダンで密会していたという内容。バグダッド勤務のウォール・ストリート・ジャーナルの記者、デイン。冒頭新政権の要人になるべき人物ズバディーに「マジェランと会えないか」と観客にはわけの分からない質問をしたのですが、そこと絡んで来ます。

その後ももアル・ラウィ元将軍を追い続けていたミラーですが、途中で元将軍の部下に拉致されてしまいます。そこで元将軍と直接話ができます。実は大量破壊兵器は第一次湾岸戦争の後、全て破棄してあり、パウンドストーンは自分の上司に対して嘘を言っているとの発言。

特殊部隊は夜間でも見える武装をしているため、闇に紛れて逃げている元将軍や追っているミラーの動向も見え、迫って来ます。結局元将軍ミラーの目の前で復讐心に駆られたイラク人通訳に射殺されてしまいます。

元将軍との話、死んだハムザの証言などをつなぎ合わせると、大量破壊兵器は存在せず、パウンドストーンがでっち上げていたことになります。これはイラク開戦の理由を根底から覆してしまいます。怒ったミラーはパウンドストーンと言い合いになりますが、所詮は国防省のお偉方対、ただの准尉。きちんと報告書を書いても無視。そのためその報告書を例のウォール・ストリート・ジャーナルの記者を始め、大勢の有名記者にメイルで送ってしまいます。

★ 粗い作り

これでまあ、遅ればせながら、反省しながらのハッピーエンドということになるのですが、現実はそう甘くないだろうなあと思います。上下関係が厳しい軍人がこうも簡単にCIAと重要な話ができるかとか、勝手にメディアに情報を流してお咎め無しで済むのか、それこそ命も危ないのではないかなどなど。同じデイモンが演じていたボーン・シリーズの筋を思い出すだけでも作りの甘い作品だなあと感じます。

結局この作品の意味は、脇をびっしり固めた政治アクション・スリラーを作るのではなく、世の中に「あの戦争にはいかさまがあったんだよ」とお知らせする方にあったのかも知れません。正直言って当時の報道の方がよほどスリルがあったと言えます。

ちょっと前にご紹介した英国首相の回想録の話グリーン・ゾーンに負けないぐらい現実と絡み合った話なのですが、映画の作りだけを比べると、回想録の勝ちです。駄作も出すポランスキーが久しぶりに気合を入れたためでしょう。

★ よく働くデイモン

まあよく働く人です。1970年生まれですから今年40歳。作品数は最近ちょうど50本を越えたところです。ジュリア・ロバーツの作品に端役で出たのがデビューとされていて、1988年。ミイラのブレンダン・フレーザー、兄アフレック、クリス・オドンネルと共演で上位にクレジットされていたのが、1992年。アフレック兄弟などと共演していたのが1997年。この年には主演のレインメーカーも撮っていますし、オスカーを貰った Good Will Hunting も撮っています。端役で出た作品から9年目。上位に名前が出るようになってから5年目です。一体どういう星の元に生まれたんでしょうか。

ベン・アフレック、その関係でケーシー・アフレックとの付き合いは長いですが、カッコいい主演はもっぱらデイモンの方に回って来ていました。その結果が1992年以降の恐るべき出演リスト。なので世間ではデイモンが成功したスターで、アフレックはそのおこぼれに預かっているような印象もあります。

私はこのコーナーで何度か触れていますが、カメオ出演のアフレックの演技力に圧倒されていて、演技力はデイモン=ゼロ、アフレック=溢れんばかりの才能と見ていました。弟アフレックも長い間まるで兄ちゃんのコネで仲間に入れてもらったような印象を振りまいていましたが、最近は自身の演技を見せるチャンスが増えて来ています。この兄弟の方がデイモンよりずっと才能には恵まれているようです。

とは言っても3人の間に目立ったわだかまりも無く、時々共演したり、時々独自の道を行ったりしています。デイモンの方にも感心することがあります。スターになると、賞がもらえることや、重要な賞にノミネートされることがあります。それによってギャラのランクが上がり、主演や重要な脇役の話がたくさん来るようになります。御多分に漏れずデイモンもそうなりました。すると仕事が多過ぎてそれまでとあまりにも生活が変わるため、脱線してしまう人がいます。ところがデイモンはオファーの来るありがたさはよく理解しているらしく、来る仕事来る仕事引き受けています。それで輝かしいキャリアとなるわけですが、普通の人なら疲労困憊するか、撮影ばかりに追われ普通の感覚を無くしてしまいます。デイモンはそういう脱線が無く、スキャンダルも無く、酒やドラッグに溺れたという話も無く、かなり地味なかみさんを子供と一緒に貰って、その後実子も2人でき、楽しく暮らしている様子。こういう風に脱線をしないということがどんなに難しいかは、毎日垂れ流しされるゴシップの量からも察することができます。「偉い!」の一言です。

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