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デジャヴ /
Deja Vu /
Déjà Vu

Tony Scott

2006 USA 128 Min. 劇映画

出演者

Denzel Washington
(Doug Carlin - AFTのエージェント)

Matt Craven
(Larry Minuti - ダグの同僚)

Val Kilmer
(Pryzwarra - FBIエージェント)

Adam Goldberg
(Denny - プリズワラの捜査ティームのメンバー)

Elden Henson
(Gunnars - プリズワラの捜査ティームのメンバー)

Erika Alexander
(Shanti - プリズワラの捜査ティームのメンバー)

Paula Patton
(Claire Kuchever - キャロルに殺された女性)

Enrique Castillo
(クレアの父親)

James Caviezel
(Carroll Oerstadt - テロリスト)

見た時期:2007年6月

1番肝心なネタはばらしませんが、説明は比較的詳しいです。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

最近は日本でもこの言葉が広く通用し始め、《既視感》という漢字版と両方使われているようです。欧米の人はデジャヴという言葉を日常の会話の中に挟むのが好きで、私はずいぶん前から聞いたことがありました。レコードや映画のタイトルに使われることも多いです。フランス語らしくて、つづりを見ると特殊文字が短い言葉の中に2つも入っています。片仮名で書いて気取ってみるのはいいですが、簡単に言えば、《まだ経験していないのに、もうどこかで経験したような気がする》ことです。

そういう事が日常起きるのは当たり前だと思っていたので、特別に言葉を探したりしなかったのですが、どうやら日本語ではすでに見たような感覚とということで《既視感》と呼ぶらしいです。私がなぜこの不思議であるはずの現象を不思議とも思わず毎日暮らしていたかと言うと、脳というのがそういうものだと思っていたからです。

まだ若い頃にどこかの先生が「人間の脳は10%か20%ぐらいしか使われていない」と言っているのを聞きました。数字が正しいかどうかは分かりませんが、この先生が言いたかったのは《脳の大半は使われていない》ということと、《使用場所に余裕があるのはいい事だ》ということらしいのです。同じ先生の言葉かどうかはあまり前のことで覚えていませんが、専門家の誰かが脳を100%使ったら発狂するというような事を言ったのを聞いた記憶もあります。また、別な専門家の話でこちらはわりとはっきり覚えているのですが、《人間は物忘れができるところがいい》のだそうです。

そういった話を勝手に総合して自分に都合のいい結論を出したため、私は最近起きる物忘れについてもあまり気にしていません。忘れて空いた場所はまた使える、じゃ、ってわけで新しい事を覚えるようにしています。何度もやり直さなければ行けないところが年ですが、「また覚えればいいさ」という軽い乗りです。そういう風に切り替えて何年かになるのですが、驚いたことに最近突然それまですぐ思い出せなかった俳優の名前や映画のタイトルがぱっと浮かぶようになったのです。自分より5歳以上若い人よりよく思い出せるようになりました。生涯を通して数えると4桁の数の映画を見ているので、思い出せなくても人の理解は得られます。それで「まあ、仕方ないや」と思っていたのですが、どうしたことでしょう。これと言って急に生活を変えたわけではないのに「あの映画何て言ったっけ」とか聞かれるとぱっとタイトルがひらめくのです。いったいこれはどうしたことでしょう。この予想外の現象に喜ぶと同時に、これからも忘れたらまた覚え直すという簡単な方法を続けようと思っています。元々は今後ひどくなるだろう物忘れを新しい物を覚えることで数の上でカバーしようとしただけなのですが。

ここで思い出したのが別な専門家が言っていた言葉。これも大分前の話で、その後の研究でどういう訂正が行われたのかは分かりません。その人は《人は1度覚えた物は忘れない。ただすぐに思い出せるか、倉庫の奥の方にしまったのですぐ取り出せないかの違いだ》と言っていたのです。専門家の言葉遣いが大衆向けになっていたので、《覚える》、《忘れる》という言葉を厳密に使っていたのかは分かりません。単純に考えると上に挙げた人たちの言うことは全部ひっくるめるとやや矛盾します。しかし《忘れる》という言葉を、記憶の倉庫からすぐ取り出せないが在庫はあるという風に解釈するのならそれほど矛盾しません。さらに倉庫の容積の10%か20%程度しか使っていないのなら、まだ場所はたくさんあるということになり、覚えた事をわざわざ処分しなくてもトラブルは起きないということになります。私の場合何かの理由で昔しまった倉庫への行き方が分からなくなっていたのが、急に通路を発見、そこへ行ったら昔のまま記憶が順序良く並んでいたと言うことなのでしょうかねえ。

こんな風に専門家の言う事を素人が勝手に料理すると、デジャヴは全然不思議ではないではありませんか。人は意識して記憶した事の他に通りを歩いていて目にした景色など無意識に記憶することもたくさんあります。それは倉庫に入れる時に特別に記録も取らずに管理人の前を素通りしてどこかの部屋に収まります。意識して覚えた事だけが管理人の台帳に載るわけですが、人はそれだけを《記憶》と思い込んでしまう傾向があります。ある日何かを見聞きし、それがたまたまこの素通りした記憶の1つと一致したらどうか。自分では経験が無いと思っていても実際には見聞きしていたわけで、どことなく知っているような気がしてもおかしくありません。

こんなにきっちり考えたのは映画がきっかけですが、ボーっとそんな風に思っていたので、私はデジャヴを超常現象とか、不思議という風には思っていませんでした。そこにこれまで行ったことが無いのに、前にいたような気がするなどということがあっても、以前似たようなシーンの映画を見ていたとか、たまたま雰囲気が似ていたなどという例もあると思います。そんなこんなでデジャヴの一部分は不思議でも何でもない、ドーンと落ちろ、超常現象説却下。

恐らくはそれでも残る不思議な現象があるかと思いますが、そこから先は映画監督や小説家の手にゆだねます。

マトリックスではデジャヴはソフトウエアのプログラム・ミスなのだそうです。世界がマトリックスで、私たちがチューブのついた棺おけに横たわっているとすれば、それも正しいのかも知れません。こちらの方向で考える時は私はデジャヴはPCで消去したファイルがあって、まだ上書きがされておらず、やろうと思えばリカバリーができる状態、その時に何かの手違いでリカバリーをしないのに表に出て来てしまった以前の記憶の断片などと考えています。皆さんはこんな与太話賛成しなくてもいいです。

★ ストーリー

与太話が出たところで、映画の方のデジャヴに入りましょう。短くまとめると映画も《与太話》です。中で語られている事は信じなくてもいいのです。嘘でもおもしろおかしく語られていればいいとある知り合いが言っていましたが、まさにその例。しかしずいぶんおもしろおかしく語ったものです。2時間を越えるのですが退屈しません。

冒頭500人以上の人が乗ったフェリーの出港シーンがあります。乗客の大半が海兵隊の水兵で家族と一緒です。お祭りのような明るい雰囲気。スコット家の伝統でしょうか、画面は非常にきれいで、瞬く間に引き込まれます。

楽しい雰囲気はクレジットが出ている間だけ。間もなく緊迫感が漂います。明るく楽しい雰囲気、大勢の人がうれしそうに話している中鋭い緊迫感で切り込む演出は心憎いです。男がフェリーの車の1つに爆弾を仕掛け、船を去ります。出港なので甲板の駐車場デッキは閉鎖。係員がチェックをしていると車の中にキーがぶら下がったままの不審な車が1台。ちょうどその時に流れる音楽の歌詞が「心配するなよ、大丈夫だよ」です。最近井上さんとうたむらさんの間で話題にもなっているビーチボーイズの曲。初期のアルバムに入っているドント・ウォリー・ベイビーではないかと思います。歌詞に惑わされず係員が気にしてじろじろ見ているうちに「まずい!」と気づいたその瞬間に船は吹っ飛びます。

体が炎に包まれた乗客、乗務員が吹き飛ばされ、川に落ちるシーンがあります。すぐ水に落ちるのだから火傷が少なくて済むだろうと思ったのは浅はかな考えでした。川の水が浄化された水と違うので細菌感染するだろうなどというのは運よく助かってからの問題で、爆風で肺を圧迫され一時的に窒息状態の乗客はほとんどが失神しているだろうから、川に落ちた後泳いだり息をすることができず川底に沈むだろうというのがドイツ人の知り合いの考え方。そこまでは思いつきませんでした。しかし目撃者多数、救急活動即時開始にも関わらず死者が550人弱というのはこれで説明がつきます。

ジャンボジェットの墜落に匹敵する死者が出た上、爆発だったので FBI が出て来ます。FBI というのはこのような大規模な惨事といくつかの州にまたがる犯罪の場合に出て来るらしいのですが、アメリカにはその他に CIA、軍関係などいくつかの調査機関があり、私にはいつどこが出て来るのかがあまりよく分かりません。以前は海外に渡る事件は CIA、国内の広域は FBI と単純で、軍関係は軍事に関わる時に出るのだろうぐらいに思っていましたが、今世紀に入ってからは FBI や CIA が解体に近い再編成になっていたり、FBI なのに海外に出て捜査をするという話も報道されたりするので、何がなんだか分からなくなって来ました。

そこへ時々小説などにも登場する ATF がからみます。名前は聞いたことがありました。アルコール、タバコ、火器の略らしいのですが、禁酒法があるわけでもないので、近年の捜査はもっぱら武器なのではないかと思います。そこに勤めているのがワシントン演じるところの ATF エージェントのダグ。やたら観察力とひらめきが良くて、1人で短時間に10人分ぐらいの仕事をやる名探偵です。事件の規模が大きいので FBI のサポートに送られて来ます。

ダグは暫くその辺にボーっと立っていて何かを思いつくとさっと証拠を見つけます。FBI の側のパートナーはヴァル・キルマー演じるプリズワラと彼のティーム。ハリウッドと折り合いが良くなかったキルマーですが、久しぶりにベスト・コンディションで出て来ます。あれこれ調べた結果、船の爆発は確実にテロ事件で、使われた爆発物などが徐々に分かり始めます。さらに爆発より前に死んだ女性の死体が捜査線上に浮かび、彼女の検死からおもしろい事実がいくつか浮かびます。犯人はまだどこかで生き延びているだろうとの予想。ダグは普段は ATF のパートナーのラリーと行動するのですが、この日はなぜか1人。プリズワラとダグが話をしている建物の近くにラリーの車があるのでダグが質問をしているうちに、ラリーは死んでいることが分かります。

女性の死体に残された痕跡から彼女が犯人と直接接触していたこと、犯人に口をテープでふさがれ、人質になっていたらしいことが分かります。彼女の写真を見た時と検死の時、ダグは彼女に魅せられ、生前に知っていたのではという妙な気分に陥ります。

★ 与太話

与太話開始です。ダグの観察眼の鋭さを使って FBI は事件解明に乗り出します。FBI には秘密兵器があったということで、見せられるのがサテライトを使った大掛かりな再現装置。世界中どこの出来事でも4日と6時間前までのシーンが再現できると言うじゃない・・・。嘘だ。間違いない!

しかしこのシーンにたどり着くまでの緊迫感はすばらしく、さすがはスコット家。こういう素敵なカードを出してくるのなら、嘘と分かっていても乗ってやろうじゃないかと思います。

プリズワラは、ダグに「サテライトのシーンを見て不審者、不審な出来事を突き止めて欲しい」と言うのです。そこにあるべきなのに無い事、あるいはその逆を。とりあえずは事件現場から始めます。間もなく犯人らしき男の姿を突き止めます。出港前に船を離れているので、まだ生存しているはずです。もう500人以上がが死んでしまったので今更とは思いますが、逮捕して裁判にかけるという意味では努力は報われるはず。そのためダグに「ここを見せろ、あそこを追え」と言われて、FBI はいくつか事件の経過をつかみます。

それで行きつくのがクレアという死体として上がった女性の家。彼女が犯人に襲われただろう、自宅から連れ去られただろうというのがダグの推理です。

ネタばれを避けるためあまり詳しくは言いませんが、クレアは事件の準備段階で犯人に利用された犠牲者。話はこの後かなりややこしくなります。デジャヴというのは過去の時間の流れの中の1つの切り端が頭の中に再現されたように感じることですが、その時点でその人が生きている場の時間は流れ続けます。今普通に生きている人が、4日前に映したビデオを見ているといった形です。FBI と ATF がそのビデオを見て得た内容を参考にして犯人を逮捕したら、犯人の人生の流れはサテライト画像を見た場合と見ない場合で大きく違って来ます。それだけでもご都合主義の映画だなと思いますが、あろうことかダグは事件を示唆したメモを過去の自分に送ろうと思いつくのです。

超頭のいいダグは FBI がした説明にいかさまが隠されていることを発見します。「4日と6時間前までの世界を見ることができるだけで手は出せない」と説明されているのですが、ダグは「ここに映っているクレアは生きているのか」と聞き始めます。プリズワラたちと軽く喧嘩した後、実は現在から過去の世界に行くことが可能だという話になります。ここからはタイムラインの世界です。

死体のクレアにぞっこんなダグはどうあっても彼女の命を救いたいと思い始め、タイムマシン関係の話でいつも《やっては行けないのにやってしまう》事を始めます。手始めに爆破事件前のダグ自身にメモを送って忠告をしようとします。ところがそのメモをダグではなく相棒のラリーが見てしまい犯人を追い始めるため、結局ラリーが命を落としてしまいます。こうなるかああなるかは違うが、ラリーはこの日死ぬことになっていたのだとスタッフは悲観的な結論に。

あれこれ議論、検討を重ねた結果次にダグ自身が4日前に行くことになります。もうここまで来ると子供だましで本来なら見ていられなくなります。それを上手く乗り切ったスコットはやはり職人。どうやって乗り切ったかと言うと、クレアが観客が助けたくなるようなタイプに描かれている、時間が迫っているという緊迫感、そしてあんなひどい爆発事件を起こした男は捕まえなければ行けないと感じるように描かれているという3点を使って上手に観客の共感を得たのです。

このあたりでは実話が織り込まれています。私はテレビが無いので、動かない写真を雑誌で見ただけですが、オクラホマのビルが爆破され、物凄まじい惨状でした。確か中には捜査機関の事務所も入っていたという話ですが、幼稚園もあったそうです。ワシントン、キルマー、FBI ティームの会話にオクラホマという言葉が2、3度登場します。加えて犯人役の元イエス・キリストが実際のテロリストとして死刑になった人物と似たタイプに描かれています。脚本家が仕事に取り掛かったのは事件後です。ただ実在の人物と違い、映画の犯人は落ちこぼれ風な描写になっています。

アメリカ人は2001年の事件でトラウマを負ったということになっていますが、その前にいくつかその前奏曲のような重大事件があり、ブリッジズ、ロビンス主演の映画が作られたりしています。嫌な事には触れないという癒し方もあるようですが、苦しい事に触れて理解して乗り切るという風に考える人もいるようです。監督はイギリス人ですが、この映画はアメリカ人をターゲットにしたのでしょう。

冒頭は普通の犯罪映画のように見せておいて、間もなく与太話の SF に移動します。見始めてしまったら乗るしかありません。タイムマシンの話なのだったら意外な場所に意外な物が置いてあっても不思議はありません。クレアの部屋にダグの持ち物があるのです。指紋もべたべた。電話をかけた時間、クレアの部屋にダグがいた時間などが交錯し、もう本気で捜査の事を考えても無駄です。ご都合主義の連続。

結局ダメなはずの過去を変える試みも行われ、ATF のエージェントが個人的に気に入ってしまった女性を助けるべく動き出し、もうルール違反の連続。ルールは破るためにあるのだというのは英国人の大好きな格言ですが、いずれご紹介しようと思っている SF もそういうコンセプトでできています。ルールを破らないと《出来事》が起きず、映画や小説にするようなネタが生じないからでしょう。

★ 南部が舞台

盛り上げ方も上手いですし、画面が非常にきれいなので、全体としてこの作品に好意を持っているのですが、さらにプラスの印象を残したのは、北で撮影するはずの舞台を変更してニュー・オルリンズに移した点です。制作側に取っては災難だったと思います。ちょうど運悪く大型ハリケーンが来ています。しかしニュー・オルリンズというのは古い町並み、家屋があって非常に素敵な場所です。その文化を知らせる機会は映画ではあまり多くありませんでした。やり慣れているからでしょうか、映画で舞台になるのは主としてニューヨークとカリフォルニアの2大都市。最近はシアトルとかアメリカのふりをしてカナダの大都市が使われることもあるようですが、ニュー・オルリンズはまれです。

以前知り合いがギター1つ持って何ヶ月もかけてアメリカの南部を旅行しましたが、フランス語が通じたためニュー・オルリンズでは非常に好意的に受け取られ、その辺のおじさんとブルースが奏でることができたと言っていました。70年代の話ですが、その頃から私はアメリカ映画でニュー・オルリンズが出れば見ようと思っていました。しかし機会は稀でした。そのため私はスコットの映画が与太話でも町の様子を堪能しました。観光の宣伝になるでしょう。

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