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サブウェイ123 激突 /
The Taking of Pelham 1 2 3 /
Die Entführung der U-Bahn Pelham 123 /
Опасные пассажиры поезда 123 /
Asalto al tren Pelham 1 2 3 /
Assalto ao Metro 123 /
Kapring af Metro 1 2 3 /
L'attaque du me'tro 1 2 3 /
O Sequestro do Metrô /
Pelham 1 2 3 - Ostaggi in Metropolitana /
Pelham 123 - L'ultime station /
Rescate del Metro 123

Tony Scott

2009 USA/UK 106 Min. 劇映画

出演者

Denzel Washington
(Walter Garber - ニューヨークの地下鉄コントロール・センターの職員)

Aunjanue Ellis
(Therese - ガーバーの妻)

Michael Rispoli
(John Johnson - ガーバーの上司)

Ramon Rodriguez
(Delgado - 地下鉄の運航管理員)

John Turturro
(Camonetti - 刑事、交渉人)

Frank Wood
(Sterman - 警察本部長)

James Gandolfini (市長)

John Benjamin Hickey
(LaSalle - 市長代理)

Ty Jones
(地下鉄のトンネル内で待機するスナイパー)

Gary Basaraba
(Jerry Pollard - 乗っ取られた地下鉄の運転手)

Tonye Patano
(Regina - 乗っ取られた地下鉄の車掌)

Anthony Annarumma
(地下鉄の運転手)

John Travolta
(Ryder - 元証券会社の男、地下鉄乗っ取り犯)

Luis Guzmán
(Phil Ramos - 元地下鉄運転手、地下鉄乗っ取り犯)

Victor Gojcaj
(Bashkim - 地下鉄乗っ取り犯)

Robert Vataj
(Emri - 地下鉄乗っ取り犯)

Gbenga Akinnagbe
(Wallace - 人質)

Katherine Sigismund
(人質、母親)

Jake Richard Siciliano
(人質、子供)

Alex Kaluzhsky
(George - コンピューターを持っていた人質)

Alice Kremelberg
(ジョージのガールフレンド、コンピューターで交信中)

Sean Meehan
(覆面捜査官)

見た時期:2010年4月

注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ ピカピカに輝く犯罪物ではない

井上さんからパンフレットが送られて来ました。そんな事とは露知らず、私は最近DVDを見ました。60年代、70年代をずっと善悪のはっきりした作品を見ながら過ごして来たため、サブウェイ123 激突もそういう話かと思いました。しかし2000年代風に、人間はそう単純ではないぞという描き方になっていました。

サブウェイ・パニックという元ネタになる小説があり、過去に映画化、テレビドラマ化されています。私はそのどれとも縁が無かったと先に申し上げてお きます。パンフレットを見ると今回のリメイクでは小説とも過去の作品ともかなり違っているようです。時代背景が変わって来ていることはもちろんですが、以 前の作品の真似をするだけではつまらないと考えたらしく、物語の焦点を人物の方にずらせたようです。リメイクを作る人の意図としては何かしらのバリエー ションを考えるのはいいと思います。過去の作品とぴったり同じではなぜリメイクするのか分からないですし、タネ切れして焼き直ししただけだと馬鹿にされま す。

★ 極限まで簡潔に・・・ストーリー

トラボルタ演じるライダーをボスとし、一味数人が地下鉄を乗っ取り、ニューヨークの地下鉄関係者に大金を要求します。1人は元地下鉄運転手。金額が大きいため金を用意するにも 市長の許可も必要とし、手続きの揉め事ではらはらさせたり、犯人が脅しでない事を示すため、人質を殺して見せたりと、雰囲気を盛り上げた末に犯人一味は大金を手にします。犯人側にも死者が出るような真剣勝負。

巻き込まれ型で災難だったのは収賄疑惑で平の職員になっていたウォルター。演じるはワシントン。たまたま地下鉄路線管制センターで働いていたのが不運。演じるはワシント ン。変に犯人に気に入られてしまい、周囲も本人も嫌がる中ライダーとの交渉の表に立たされます。

大金を手にして逃亡するライダー一味を機転を利かせ徒歩で追うウォルター。ウォルターは収賄事件が無ければ海外出張もさせてもらえるような管理職の頭の良い男で、最初の数回の会話でライダーについて言葉で語られる以上の情報を得、ライダー逃亡に際しても頭を使った追いかけ方をします。ライダーの方もただの身代金ギャングではなく、表の身代金の他に横でばっちり金儲けをたくらむ頭脳型。最後妙な事にこだわったライダーの負けで決着しますが、人質を助けるために人前で秘密を言わざるを得なくなったウォルターも痛手を負うという喧嘩ほぼ両成敗物語です。

★ 主演の人選

この作品だけを見ての話ですが、トラボルタが悪役として光輝くべき作品だったと思います。ニコラス・ケイジとジョン・トラボルタというフェイス・オ フで共演した2人はちょっとエキセントリックな悪役を演じさせると輝きます。今回はしかし ソードフィッシュ、フェイス・オフのトラボルタとは違い、サブウェイ123 激突はやや暗い感じで、しかも汚らしい男という印象を残します。それは主とし てメイクと髭のせいでしょう。設定が最近まで臭い飯を食っていた男なので、こういう外見が正しいですが、死に方も他の2作に比べ鮮やかなショーダウンでは なく、ちょっと惨めったらしい死に方です。トラボルタは悪役が好きで、色々なバリエーションを試したかったらしく、今回はその惨めったらしさを選んだよう に感じます。

悪玉トラボルタを追い詰める地下鉄男デンジル・ワシントンも人の共感を集める善良な市民ではなく、彼なりの欠点を備えています。小説や過去の映画化 作品との比較はしませんが、スーパーヒーロー対悪漢という単純な決めつけはやっていません。もしかしたら過去の元ネタの作品もそういう風だったのかも知れ ませんが、確かめていません。

★ 日本のへたくそな贈賄

ワシントンは新しく導入する地下鉄の機種を決めるために海外に派遣され、日本製に決めたという役。その際に収賄疑惑が発生し、現在処分を受けている身。本人曰くかわいい娘が立派な教育を受けられるようにお金を懐に入れたということになっています。ストーリーはその路線で動くのですが、ふと考えたのは、そんな直接的に分かってしまうような贈賄をするんだろうかという点。日本の地下鉄車両を作る会社がニューヨーク市に自社の製品を採用してもらいたいと思って、何か企むということは業界を知らないという前提で言うとあるかも知れないと思います。でもまさか鞄一杯の札束を帰国の土産に持たせるということは無いでしょう。堂々と大金を彼の口座に送金することもちょっと考えにくい。娘にいい教育を受けされるための費用となるとそれほど小額でもないはず。どこかの島の銀行の秘密口座にでも振り込んだのでしょうか。

日本の側から見てもそういう経費を接待交際費で落とすんでしょうか。それもちょっと考えにくい。10年以上前の法律なので変わったかも知れませんが、ドイツには貿易に際して一定の額の賄賂は経費として認められます。ドイツ側では法律が厳しくて一般に商取引で袖の下を渡しては行けないことになっています。しかし外国との取引では直接話をする相手に小額のお小遣いを渡さないと話が進まなかったり、払う国に契約を取られてしまったりします。なので特例があり、一定の金額以内ですと交渉に関する諸経費として認められます。税務署他の役所に申告する時その名目を挙げると、役人もそれがどういう類のお金か承知しています。外国の貿易相手が提供しようとする金をドイツ側の人は受け取っては行けませんが、小額を渡すのはいいようです。

ワシントン演じるウォルターが来日した時に特上のホテルに滞在させたり、豪華な観光がついていたり、ご馳走が出て来たりということは十分あり得ますが、ウォルターが帰国して後で逮捕されてしまうような方法を取ったら意味がありません。日本ならウォルターと長く良い関係が続くような便宜を図り、直接現金をドーンと渡したりはしないのではないかなどと考えながら見ていました。

★ 東京の素敵な地下鉄

これもパンフレットからの情報ですが、スコットや脚本家は大成功した1974年映画化版サブウェイ・パニックを尊重していて、2009年版に過去のシーンや設定をいくつも引っ掛けているそうです。当時(70年代)の日本とニューヨークは地下鉄路線では互角に競争できる規模だったと思われます。ちょうど大学に行っていた頃で、私は毎日東京の地下鉄を大々的に使って、23区をくの字型に横切り片道3時間以上かけて通学していました。まあとにかく時間をきっちり守り、清潔な車内、安全性など、当時まだ外国に出て比べたことはありませんでしたが、自分ではとても満足していました。当時の国鉄とは違い経営もきちんとしていました。それに比べテレビに出る外国の地下鉄や電車は危なそう、襲われそうで、私は「東京のこれでいいんだ、それ以上は望まない」と満足し切っていました。

何よりも好きだったのは営団がただで配っていた地下鉄路線図。片手に入るぐらいの小さなカードで、路線の色分けがされ、とてもきれいでした。

「世界でこれ以上の地下鉄は無い」と外国に出たことのない私は思い込んでいたのですが、ベルリンに来て世界で2番目に好きな地下鉄に出くわしました。当時は西側だけでしたが、町の規模としては十分な大きさの地下鉄路線がありました。人口が今でも東京の3分の1程度、当時は西だけなのでもう少し少なかったはずです。その人たちの需要には十分応えられるだけの規模でした。政治的に非常に特殊な状態だったこともあり、また一般的に外国の地下鉄は日本と違う所もあるので色々驚かされることがありましたが、町によく合った路線でした。そして東京とそっくりの小さな色とりどりの路線図がありました。なんとなく東京と似ていたので気に入っていました。

時間ぴったりという点ではほんの少し東京より劣りますが、さすが時間にうるさい国で、ほんの少しというのは本当にほんの少しです。この程度ならたいていの人は文句は言わないでしょう。

いくつか大きな違いを上げると、例えばドアは駅に到着しても勝手に開きません。乗り降りしたい人がドアを開けます。これは寒さが厳しい国では正解です。日本でも都内でない所でそういう電車を見たことがあります。

改札口というのはありません。外から駅に入って来て地下鉄に乗り、目的の駅についたらそのまま降りて地上に上がります。たまに検札があり、無賃乗車がばれたら罰金。

89年までは東側の地区を通る時は東の駅をほぼ無視して通過。西の人が東に入る検問所のある駅1つだけに止まりました。今は昔、フリードリッヒ通り駅の話です。通過駅では必ず兵士が銃を持って見張っていました。1日中そこに立って亡命者が出ないように見張るだけが仕事。東の人はまじめなので勤務中に漫画を読んだりするわけでもなく、さぞ退屈だっただろうと思います。

もう1つの違いは営業時間。89年より前がどうだったか忘れてしまいましたが、その後はベルリンには週末24時間通しで走る路線ができました。同じ経営のバスには以前から真夜中と週末走る路線がありましたが、その後地下鉄にも2本そういう線ができました。その後路線は増えたかも知れません。私は最悪の場合徒歩や自転車で動ける場所に住んでいるのであまり苦労しませんが、ベルリンの端に住んでいるとこういう路線は非常に助かります。東京は最近どうなんでしょう。ベルリンはコンサートや芝居、映画などエンターテイメントのために夜出歩く人が多いので、24時間通しというのはそれなりに意味があります。

ベルリンにはあまりひどいラッシュ・アワーがありません。たいていゆったり座っていられますし、1番長い路線でも大した距離でないので、立っていてもそれほど大変ではありません。極端なラッシュ・アワーが無いのは勤務時間がフレックス・タイムだったり、パートなどのため、町中が同じ時間に移動するということが無いためでしょう。

そして1番大きな違いは車内に痴漢がいないこと。背景には生活の違いと割り切り方の違いがあると思います。恥という考え方からするとむしろ日本に痴漢がいないはずですが、なぜかドイツにいません。地下鉄という場所でああ言う事をするという発想が無いようなのです。

痴漢を除けば私は今でも東京の地下鉄が世界最高と思っていますが、子供の時にホームズを読んでいたので、英国の地下鉄にも興味がありました。それで ロンドンに行った時には早速乗ってみました。印象は《深い》でした。実際の深さは調べたことが無いので分かりません。印象の話です。

ベルリンの地下鉄はごく一部例外がありますが、一般的にさほど深いという印象を受けません。実はうちの駅からちょっと先の動物園駅に行くには川の下をくぐらないと行けないので、かなり深く掘っているはずです。ベルリンは湿地帯なので、地下鉄だけではなく、ビルの工事をする時もまず飛んで来るのが、水を吸い出す装置と、その水を運び出すパイプライン。そうやって水を排除してからでないと何も始まりません。しかしベルリンの駅は地上から階段をちょっと下りるともうホーム。どこかで1度物凄く下まで行った記憶がありますが、普通は2つの路線が交差して乗り換える時ももう1つ普通の段数の階段を下がれば、ハイ、ホームという感じですぐ乗り換えられます。東京で言えば普通の駅は荻窪程度の深さ、乗り換える時は同じぐらいの階段をもう一度下へ行く程度です。

それがなぜかロンドンではエスカレーターが長く、乗りながら不安に思いました。ずっと下まで続いていて、階段が無い駅もあったように記憶しています。駅のホームもなんとなく巾が狭くてちょっと閉所恐怖症っぽく感じました。私は本来閉所恐怖症ではありません。しかし車両もなんとなく狭いように感じました。実はちょっと前のベルリンの車両の方が短かくて乗客の収容数から言うとロンドンの方が多いのではないかと思います。屋根も低いように感じました。恐らくはこういうのは全て印象で、実際に計って見るとそれほどでもないのでしょうが、なんとなくロンドンではチューブに閉じ込められたような感じがしました。そして乗っている人が鬱っぽい表情。たまに朗らかに笑っている人を見ると外国の観光客。

やっぱり東京とベルリンの方がいい。

とまあ、意外な印象のロンドンでしたが、1つおもしろかったのはレトロと SF の世界だなあという点。チューブ云々という点ですが、新しい車両、改築された駅ではそれが映画に出て来る SF 的な印象を醸し出します。

ベルリンより近代的な地下鉄路線が他の都市にありますが、モダン(新しくできた)という感じはしても SF 的ではありません。どことなくバウハウス(1919年設立)的なモダンさで、ドイツ人のメンタリティーに合っていると思います。

英国にはその一方で恐ろしく古臭い駅もあり、何よりも愕然としたのは木造エスカレーターや、信じられないぐらいレトロのエレベーター。ロバート・ダウニー・ジュニア版でない古いシャーロック・ホームズの世界に近づいたような気がしました。1度はそのエスカレーターで大火災もあったようです。人が燃えながらエスカレーターで上がって来たという恐怖の証言を聞いたことがあります。

その他に私が知っている外国の地下鉄はハンガリーとパリ。ブダペストでは乗ったのは半日だけでしたが、それなりの印象を得ました。ベルリンに近いように思いました。その後地下鉄を舞台にした物凄くおもしろい映画が作られ、思わず2度見てしまいました。この作品はお薦めです。

パリは初めて行った時は大急ぎで通り過ぎました。空港から北駅に移動する時に右も左も分からず人に聞きながらたどり着いたので、自分が乗っている地下鉄すらよく見る暇はありませんでした。後になって考えると、ベルリンと似た感じで、やや大きめの規模でした。

2度目に行った時は観光で、大々的に地下鉄を利用しました。前よりきれいになっていて、明るい感じでした。ロンドンの車両のように閉所恐怖症っぽくなく、ベルリンの規模をやや広くしたような感じです。ベルリンは元々は周囲を閉ざされた町だったため、地下鉄はこじんまりとしています。壁ができる前は東西南北に路線が走っていましたが、分断後は国境で中断。上に書いた西の様子の逆で、東は西の駅を通ってドアを開けず、東の駅まで素通りということをしていました。60年代から89年までそんな状態だったので、町の中でこじんまりとまとまる感じでした。

パリにはそういう雰囲気は無いのですが、地下鉄のザジのような古臭い期待を持っていたので、あまりに普通で明るい雰囲気にちょっと意外さもありました。

★ 推理物としての評価

話を戻して、主人公をどういう風に描くかは作家、監督、脚本家に加え演じる人の希望も盛り込まれ、その結果サブウェイ123 激突ではあまりカッコ良くない犯人、もさっとしたおっさんの地下鉄男になりました。2人ともややメタボ気味。

逆に推理物としてのプロットは犯罪物の中では優秀な方と思いました。

まずはお決まりの人質事件が起き、それなりに納得の行く現金の要求があります。ただちょっと不思議に思うのはなぜあんな逃げにくい場所で事件を起こしたのだろうということ。

地上の大通りで起こすよりはスナイパーなどに狙われにくいと思ったのかも知れませんが、犯行は地下鉄のトンネルの中。まあ、取った人質を乗せたまま高速で地下鉄を走らせたりする見せ場もあるのですが、何もわざわざあんな所でやらなくてもという印象はありました。映画を見る側としては管制センターで電車の動きを見ながらあれこれ考えたりする余地があるので、劇映画として盛り上がりはします。

後半に入ると、犯人には複数の目的があることが分かり、そうなると人の注意をそらすという点ではそれなりに意味もあるかと思います。

★ 別な時に撮っていたら

ちょっと距離を置いて考えると、主演の2人で全く同じスタッフでももう少し火花が散るような輝きを持った作品ができたかと思いました。もさっとした 外見でもです。2人のコンビ、役の解釈は悪くないと思います。もしかしたらトラボルタの息子の死亡時期と重なって元気が無かったのかとも思います。手抜き ではなく、プロの俳優としてできるだけの気合は入っています。ただトラボルタには晴れ晴れとした(悪役の)輝きがありませんでした。

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