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ゴーン・ベイビー・ゴーン /
Gone Baby Gone

Ben Affleck

2007 USA 114 Min. 劇映画

出演者

Casey Affleck
(Patrick Kenzie - 私立探偵)

Michelle Monaghan
(Angie Gennaro - 私立探偵)

Morgan Freeman
(Jack Doyle - 捜査課長)

Kippy Goldfarb
(Francine Doyle - ジャックの妻)

Ed Harris
(Remy Bressant - ベテラン刑事)

Elizabeth Duff
(レミーの妻)

John Ashton
(Nick Poole - ベテラン刑事)

Cathie Callanan
(ニックの妻)

Madeline O'Brien
(Amanda McCready - 誘拐された少女)

Amy Ryan
(Helene McCready - 少女の母親)

Titus Welliver
(Lionel McCready - 少女の叔父)

Amy Madigan
(Bea McCready - ライオネルの妻)

Sean Malone
(Ray Likanski - ヘレンの男、チンピラ)

Edi Gathegi
(Cheese - 麻薬のディーラー)

Mary Bounphasaysonh
(チーズの女)

Jimmy LeBlanc
(Chris Mullen - チーズの弟)

Matthew Maher
(Corwin Earle - 男児を専門に狙う犯罪者)

Mark Margolis
(Leon Trett - コーウィンの同居人)

Trudi Goodman
(Roberta Trett - コーウィンの同居人)

Slaine
(Bubba - パトリックの友人)

Michael K. Williams
(Devin - 警官、パトリックの知人)

Joseph Flaherty (バーテン)

見た時期:2008年12月

ストーリーの説明あり

筋がかなりばれます。1番肝心な部分はページを分けました。そこを見ると犯人もばれます。

★ 不運なタイミング

時々呆れるような不運なタイミングになることがあります。処刑人が全米で公開されようというまさにその直前に2人の主人公を思わせるような姿で銃の乱射事件を起こした若者が2人いました。そのため処刑人の公開は大々的に自粛。公開前は映画化権の争奪戦もあり、業界で大きな話題になっていました。

それと似たようなタイミングにはまってしまったのがベン・アフレックの本格的な長編監督作品。50作に近い作品に出演し、10本を越える作品を制作し、劇場映画用の脚本はオスカーを取ったデビュー作以来。満を持してという時に、欧州で子供の誘拐事件が起きました。欧州ではかなり有名になった事件です。

★ マデリン・マッカン失踪事件

マデリンは英国人で失踪当時3歳。両親、1歳下の双子の妹、弟と5人でポルトガルの左下(南西)の隅っこのリゾート地で休暇中。子供3人を部屋に残 して両親は食事に。戻って見ると2人の下の子供は残っていましたが、マデリンだけ失踪。2歳ではどんなに天才的な子供でも大人に状況を正しく説明するのは無理。何が起きているのかを理解するに至っていないかも知れません。まして関係者が英語を話さない人間だったらお手上げ。

捜査はすぐ始まりましたが、手がかりはほとんど無し。事情聴取を受けた人物は報道に出ているだけで英国人、ドイツ人、ポルトガル人、ロシア人。事情を聞いてみたものの容疑というほどの物が出ず全員無罪放免。

次に浮かんだ容疑者は両親。世間はびっくり。それまでに両親が煽った形でこの事件は世界中に知れ渡っていました。誘拐された(一応誘拐事件扱いになっていた)月に両親がローマ法王に面会したり、その後の数ヶ月の間に一時期容疑者となった人物の家の家宅捜索もあり、両親が「子供が見つかるまで家に帰らない」と言ってポルトガルに数ヶ月滞在したり、インターネットで募金を呼びかけたり、有名サッカー選手を頼んでキャンペーンをしてもらったり、果てはハリー・ポッターの作家に巨額の懸賞金をかけてもらったり、まあやる事が派手でした。夫婦共働きですが裕福な家族で、お金に困って仕組んだ狂言という線は考 えにくかったようです。

血痕も発見されていたので、すは殺人事件かとも言われましたが、その血痕がマデリンの物かどうかは報道の限りでは特定されていません。同じように事情聴取を受けた人物は現在に至るまで1人として決め手になる事が挙がっていません。

マデリンは2010年現在まだ行方不明のまま。もしかしたらゴーン・ベイビー・ゴーンのような事態になっているのかも知れませんが、その後進展がありません。

ゴーン・ベイビー・ゴーンにははっきりした結末があるのですが、マデリン・マッカン事件は2007年5月に起きており、ゴーン・ベイビー・ゴーンを大々的に公開するのははばかられると感じた人がいてもおかしくありません。そのため公開時期の変更があったようです。

さらに祟られていたのは、現実の3歳の少女でなく、映画で4歳の誘拐された少女を演じた俳優の名前がマデリンという点。

★ 事業拡大

大スターが監督業に乗り出したとか、家族を出演させた家内工業だとか聞くと普通はあまり大きな期待はしません。最近有名なスターにプロデュースをさせたり監督をさせることがありますが、それには俳優にも出資させるため、映画作りの仕組みを理解させて、スターとしてあまり滅茶苦茶な要求を出さないように仕向けるためなどの理由もあるようです。引き受ける側も経験を積んでみようと思う人が結構おり、近年俳優が監督をすることが増えています。1、2本でやめてしまう者、何本か俳優で出ては適度な間隔で監督もする者、プロデュースが自由にできるように自分の会社を作る者など様々です。

★ 俳優から監督へ

大スターであるかはともかく、中には元々は俳優で、何かの都合で監督の仕事が回って来て、その後徐々に監督業を増やし大成する人、元からいずれは監督になってやろうと思って手始めに俳優から入る人などもおり、後には専業監督になりかつて俳優だったことも忘れられてしまう人もいます。才能のある人、流れ作業式で何でも一応売れる作品にしてしまう人などいくつかのパターンがありますが、監督業を長く続けている人にはそれなりの力はあるようです。

ハリウッドでは俳優は俳優しかやっては行けないように見える時期があったことを考えると、良い傾向のように思えます。引き受けた人の反応はさまざまで、映画作りではスケジュール調整が大変な仕事だという事を学んだと言う人もいますし、やっぱり自分は俳優業に専念すると考える人もいるようです。

まだ俳優は俳優業に専念という時代に時間をかけて監督業に手をのばした人の代表格はクリント・イーストウッドでしょう。最初は師匠が手がけていたタイプの犯罪映画や自分が長く関わっていた西部劇などで始め、その後はジャンルを広げ、今では大きな賞を取るような名監督になっています。

★ アフレック

そのイーストウッドに続くかも知れないと予感させるのがベン・アフレック。子供時代から俳優業を始め、若干25歳でオスカーを取ったのですが、それが演技賞でなく脚本賞。友達だったマット・デイモンと共同執筆。私には俳優としてはデイモンよりアフレックの方がに才能があるように思えたのですが、世間ではデイモンの方がよく取り上げられ、シリーズ物の主演に抜擢されたりもしています。アフレックはどちらかと言えばデイモンの陰に隠れてしまった感がありました。話題をさらった時も映画の仕事ではなく、ジェニファー・ロペスとのロマンスでした。

デイモンもアフレックもほとんど俳優としての仕事中心で、受賞後脚本業にはあまり携わっていませんでした。ところがゴーン・ベイビー・ゴーンでは監督と脚本の両方を1人で手がけています。メキング・オブを見ましたが、手堅い仕事ぶりです。脚本のコストを節約するために自分で書いたのではなく、こういう映画を作りたいと考えて書いたようです。練れています。

★ 家内工業、兄の七光り - 大はずれ

上に書いたようにスターがたまたま監督をやったとか、弟を主演にして撮ったと思いながら見ると予想が大きく外れます。兄には監督、脚本家としてプロの中でもよい方に分類できる才能があり、たまたま主演を頼まれた弟にも俳優として凄い才能があったというサプライズのアフレック家の作品です。

全体のスタイルはいくらかミスティック・リバーに似ています。その点は争えません。しかし真似をしたというわけではないでしょう。同じ町を使って町の雰囲気を生かしながら犯罪映画を作ると、似てしまう部分が出ます。そしてもしスタイルが似ているとすれば、それはアフレックがミスティック・リバーの真似をしたからではなく、両作とも原作者がデニス・ルヘインだというところに由来しているのだと思います。町の雰囲気が良く出ているのはルヘインもアフレックも出身がボストンだからかも知れません。

★ 雰囲気を出せる監督

映画というのは物語のプロットを語るだけではなく、視覚、聴覚にも同時に訴えることのできる手段ですから、本来小説以上に力強く物語りの背景の雰囲気も観客に直接もたらすことができるはずです。ところが意外とその特色が生きず、小説を映画化して満点を貰う監督はごく僅かです。

ルヘインの原作を読んでいないので、小説がどういう雰囲気になっているのかは知りません。しかしアフレック版ゴーン・ベイビー・ゴーンは例えばエルロイ作品の映画化以上に雰囲気の出し方に成功しています。別な例を挙げると、ワシントン主演の青いドレスの女もウォルター・モズレイの小説の映画化で、雰囲気を出す努力がかなりされていますが、ゴーン・ベイビー・ゴーンに比べると「一昨日おいで」という感じです。監督が独自に醸し出した雰囲気なのか、原作に忠実なのかは本を読んでみないと分かりませんが、ゴーン・ベイビー・ゴーンの魅力は犯人探しの探偵物語の次元を超えています。

映画界はこれから不況で縮小するか質が低下すると思います。しかしアフレックはイーストウッドの直接の後継ぎと言ってもいいほど才能があり、雰囲気作りでは彼を凌ぐ力もあるので、是非生き残ってもらいたいところです。ゴーン・ベイビー・ゴーンではそれなりにお金を使っている様子で、弟に主演を頼んだのはギャラをまけてもらって予算を浮かせたかったのかとかんぐったりもしていますが、その弟に大ブレークの機会を与えた兄。実力は家族だから知っていたでしょうし、既に他の作品の助演でオスカーにノミ ネートされています。これまで見たケーシーの作品は演技を披露するチャンスの無いような役が多かったのですが(オーシャン・シリーズ3本、アメリカン・パイ2本、MONA 彼女が殺された理由200本のたばこ)、ゴーン・ベイビー・ゴーンではたっぷり見られます。

ストーリーは探偵物で、主人公は私立探偵。ミスティック・リバーとは視点が違います。探偵小説としては結構凝っているのですが、メメントのような人工的な懲り方ではないので、どんでん返しがあってもなぜその謎がショーダウン寸前まで隠れていたのかに納得が行きます。またミスティック・リバーと同じく読む者、見る者に社会の矛盾を分かりやすく説明してくれます。そうは言ってもお説教調ではなくゴーン・ベイビー・ゴーンでは謎解きの部分も十分楽しめます。

★ アフレック独特の資金源

ちなみに、こじんまりとした作品を撮りたいのならアフレックの場合ちょっとラスベガスまで足を運びポーカーをやれば映画の費用ぐらい捻り出せるので はないかと思います。ベン・アフレックの趣味はギャンブル。ハリウッド・スターがギャンブルが趣味と聞くと、あまり 深く考えずに博打打ちとかギャンブル中毒などと悪い方に考えてしまいますが、アフレックの場合とんでもない考え違い。

今年3月にベルリンはポツダム広場で開かれたポーカーの世界大会の会場に間抜けな武装強盗が入って、大金を盗み損ねる事件がありましたが、こういった世界大会にアメリカ代表で出る日も近いような本格的なポーカー・プレイヤーです。州の大会では既に優勝した経験があり、4000万円ほどせ しめています。この勝利で兄アフレックは全米選手権に出場する権利を得たのですが、全米大会で勝てば世界選手権に進めます。ちなみに2年ほど前世界一になった選手は8億 円を手にしています。この金額なら特殊撮影などお金のかかるシーンを入れなければ映画は作れるのではないかと思います。

ゴーン・ベイビー・ゴーンは大物俳優を使って1900万ドルの支出。公開後1500万ドルの黒字。プロフェッショナルにポーカーをやる人なので仕事でもきっちり計算ができています。相手の表情を見抜くのもポーカーに勝つ秘訣ですが、自分の所に来ているカードなどや対戦相手が何枚カードを交換するかを根拠に素早く確率を計算する力も必要不可欠です。アフレックはいくらかぼおっとした雰囲気を漂わせる人ですが、頭の中は非常に緻密にできているようです。

★ ストーリー

舞台はミスティック・リバー処刑人を始めマーク・ウォールバーグも関わる町ボストン。アフレックの地元で、家内工業らしく友人、知人、地元人が動員されているという点では処刑人と似ています。最近ボストンは映画の舞台に選ばれることが増えています。主人公は貧乏人専用の私立探偵ペアのパトリック・ケンジーとアンジー・ジェンナロ。アンジーはパトリックの恋人ですが、仕事も一緒にやっています。下々の階層の人の小さな依頼をせこいと思わず細々と探偵稼業をやっています。経営は帳尻が合わず、赤字なのではないかと思います。

4歳の少女アマンダがある夜自宅から誘拐されます。親戚が警察の捜査に限界を感じ、私立探偵の2人にも調査を依頼。アマンダの母親はヘレンといい、問題を抱えた人物。自分の事を中心に考え、育児放棄の傾向があります。アマンダの叔父夫婦が見るに見かねて探偵のパトリックとアンジーに相談します。警察と競合するので2人はやや不利な立場。あまりやる気は無いのですが、一応エド・ハリス演じる刑事レミーと協力体制に入ります。

娘が誘拐された時ヘレンは飲み屋で麻薬に溺れており、彼女の副業は麻薬の運び屋。ある時警察のがさ入れで予定が狂い、ヘレンの手元に大金が残ってしまいます。ヘレンのボーイフレンドで同じく運び屋だったレイは金のありかを言わなかった(言えなかった)ためギャングに消され、ヘレンは尋問後隠してあった大金を引き渡します。警察は地元の親分格のディーラーに非公式に「金は返すから子供を戻せ」と要求。「自分の所から消えた金が戻って来るのは歓迎するけれど、子供の話は知らん」というのがディーラーの言い分。ディーラーはその後考え直し、警察と交換の約束。このディーラーが捜査線上に浮かぶに当たって、警察には通話記録が残っていました。

取引の予定の場所である崖っ淵に予定の時間に出かけて行ったのは警官コンビ、私立探偵コンビ。・・・と、なぜか暗闇の中で発砲事件に発展し、子供は崖から下へ真っ逆さま。水面に残ったのはアマンダの人形のみで、生きているアマンダも死体のアマンダも見つからず。迷宮入りの様相を呈して来ます。

事件の処理は以下のようになります。

ところがこれで決着がついたはずの事件は続きます。今度は少年が誘拐されます。麻薬の世界からの情報に沿って調べを再開する私立探偵カップル。ペドフェリー(性的目的のために子供専門に狙う犯罪)が動機として浮かんでいますが、物的証拠出現。被疑者の家に踏み込む際銃撃戦になり、警察側にも被害。被害者の少年は既に死んでおり、カッとしたパトリックは武装していない犯人を射殺。

少年の事件が解決してもアマンダの失踪の謎は解けず、考え直し。もしディーラーが犯人なら少年の事件の時にはもう死んでいるので話が繋がらない。少年事件の犯人もアマンダ事件と上手く繋がらない、ひょっとしてもっと身近な所を探した方がいいのではないかと考え、探偵は視点を変えます。

ここから先はネタバレの度合いが激しいので、どうしても見たい方だけ見て下さい。

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