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ソウルメン /
Soul Men /
Cool Men /
Homens do Soul

Malcolm D. Lee

2008 USA 100 Min. 劇映画

出演者

John Legend
(Marcus Hooks - The Real Deal のリード・シンガー、死亡)

Samuel L. Jackson
(Louis Hinds - The Real Deal のサポート・シンガー)
Keenan Carter
(Louis Hinds、若い頃)

Bernie Mac
(Floyd Henderson - The Real Deal のサポート・シンガー)
Calvin Sykes
(Floyd Henderson、若い頃)

Mike Epps
(Duane Henderson - フロイドの甥、洗車の事業で成功している)

Shane Sampson
(デュアンの息子)

Dylan Sampson
(デュアンの息子)

NyaSimone Caldwell
(ヘンダーソンの娘)

Monyetta Shaw
(Odette Whitfield - フロイドがルイスから取ってしまった女性)

Sharon Leal
(Cleo - オデッタの娘)

Affion Crockett
(Lester - クレオのボーイフレンド)

Fatso-Fasano
(Pay-Pay - レスターの友達)

Jackie Long (Zig-Zag - レスターの友達)

Sean Hayes
(Danny Epstein - レコード会社の重役)

Adam Herschman
(Phillip - ダニーの会社の見習い)

Jennifer Coolidge
(Rosalee - バーにいた観客)

Paul T. Taylor
(ホテルのマネージャー)

Lara Grice
(ホテルの受付)

Isaac Hayes (本人役)

見た時期:2010年7月

映画の雑誌で知り、絶対見るぞと思っていた作品です。井上さんからも推薦を受けました。監督はアフリカ系、主人公もアフリカ系ですが、Brooklyn's Finest などとは全く違う方向の作品です。

あまり大きな話題にならず、ドイツでも間もなく消えてしまいそうですが、ソウル・ファンに取ってはそうやって見過ごすのは残念な作品です。いくつか話題に出来るエピソードがありますが、まずは訃報から。

★ そんな年ではないのに

この作品を撮り終えた直後にアイザック・ヘイズとバーニー・マックが相次いで死んでしまいました。ヘイズは心臓か脳の発作、マックは肺炎をこじらせたようです。

★ あらすじ

ソウル全盛時代トリオで歌っていたマーカス、ルイス、フロイドはその後グループを解散し、マーカスはソロで続行、ルイスは地味に貧しい暮らし、フロイドは甥が事業が成功していたので経済的には恵まれて暮らしていました。しかし喧嘩別れしていたので、3人はその後20年以上音信不通でした。

外国公演中に急死したマーカスの追悼コンサートがアポロ劇場で行われることになり、残った2人にも声がかかります。芸能界とはきっぱり縁を切って普通に働いていたルイスを訪ねてフロイドが説得を試みます。何とかその気にさせて2人は車でアポロ劇場に向かいます。劇場到着までがロードムービーになっています。

過去のいきさつがいくらか語られ、道中羽目をはずし過ぎてトラブルになったりしながらも、所々で小規模なライブをこなし、徐々に歌の勘を取り戻し始めます。とは言っても体重が増えてしまい、昔の衣装には体が入り切らなかったり、色々苦労もあります。その上忘れ形見のうら若い娘っ子が出て来たり、まあいくつかのエピソードでフィナーレまでを持たせています。

★ 修正された?

元々はこの作品は処刑人に負けずとも劣らぬ下品なコメディー仕立ての予定だったようです。なので下ネタ系の放送禁止用語が大量に使われたようです。ところが思いもよらず主演と重要な助演が死んでしまい、遺作になってしまいました。それが理由なのかは分かりませんが、かなり編集に苦労し、色々な部分が修正されたと聞きました。

アイザック・ヘイズは私の知らないうちに映画界に大進出していましたが(サウスパークに出ていることだけは知っていた)、元々は音楽界の大御所。

★ 実際のソウル界を見ながらかんぐる

私がソウルに関わったのは60年代から。当時はアメリカの情報などほとんど耳に入らず、しかも私は小学生だったので、もっぱらラジオから流れる音楽を聴いているだけでした。徐々にソウル・トレイン、エド・サリバン・ショーなどの番組も見られるようになり、白黒で見ていました。

ソウルというのは今でこそ中がたくさんのジャンルに分かれていますが、当時は陽気な曲かバラードが中心。まだザ・テンプテーションズは《親父はろくでなし》はりリースしていませんでした。そんな頃から見聞きしていたので私はマックとジャクソンを見てサム&デイヴを思い起こしました。インターネットなどを見るとザ・ミラクルズ(スモーキー・ロビンソンと密着しているボーカル・グループ)を思い浮かべる人がいるようですが、私にはリード・ボーカル抜きの2人がサム&デイヴのように見えました。

他の世界も同様かも知れませんが、ソウル界のデュエットは犬猿の仲が多いと聞きます。仲良く死が4人を分かつまで持ったのはザ・フォー・トップス。他はやれ喧嘩だ、メンバー・チェンジだ、独立だ、解散だ、再結成だ、再解散だ、再々結成だという話を聞きました。じゃ、元からソロならいいのかというとそう簡単でもなく、身内の誰かがソロで、兄弟、姉妹、従兄弟などがコーラスをやっていると、それはそれで確執が起きるようです。ま、楽な世界ではありません。

加えて巡業の多い商売なので、道中仲間内だけで固まることが多く、なぜか不倫関係になってしまったり、誰かの彼女を取ったなどという騒ぎもあります。その結果起きたトラブルもソウル・メンに盛り込まれています。

★ 最近は俳優も歌えるようになった

ハリウッドの俳優というのは使い道が無くても呼吸法、ダンス、演技、スポーツなどマルチに習うそうです。歌も必ず入っています。しかし「せっかく習っても使う機会が無い」とかつてロバート・デ・ニーロがぼやいていました。ようやく使わせてもらったのはノイローゼになったマフィアがウエスト・サイド物語の歌を絶叫するという珍妙なシーン。

しかしその後スターが主演の音楽映画で本人が歌い、サウンドトラックを出すような時代になりました。大発見だったのはユアン・マグレガー。すばらしいテノールを聞かせてくれます。まだ見ていませんがフェニックスとウィザースプーンも本人たちがカントリーを歌ったそうです。というわけで、ソウル・メンではジョン・レージェンド、サミュエル・L・ジャクソン、バーニー・マックの喉が聞けます。

3人がまだ現役時代のヒットとして出て来るのが I'm Your Puppet。覚えやすい曲です。重要な本人役で出ているアイザック・ヘイズの本当にヒットした曲も出て来ます。レージェント抜きで2人が歌うのが Boogie Ain't NothingDo Your Thing。このまま歌手で行けるのではと思えるような歌を聞かせてくれるのがルイスとフロイドがかつて知っていた女性の娘役で出て来るシャロン・リール。アジア系のアメリカ人で本職は俳優です。歌手ではありません。なのにこの上手さ。

というわけで、筋がばかばかしくて付き合っていられないという人には歌をお薦めします。

★ どちらかと言えば嫌いだったジャクソン、カッコいい、クール!

ジャクソンはノイローゼのような顔をして出て来るか、人を憎み尽くしたような顔で出て来るので、私はドン引きすることがあります。どこまで行くか分からないような狂気を感じる時もあります。つまりそれだけ演技の範囲が広いということですが、こちらは憂さ晴らしに映画館に行き、2時間アハハと笑いたいので、あまり真剣になられると困ってしまいます。なのでジャクソンが主演と聞くと避けて通る傾向があります。

しかしソウル・メンは雑誌の記事を読んでいて、大体の筋が分かっていたので、まあ、見てみようかと思っていました。ジャクソンに期待していたのではなく、久しぶりにソウルの世界に首を突っ込んでみたかっただけです。

ところがジャクソン、なかなか行けます。演技はベテランなので、もっと深く掘り下げてもいいのかも知れませんが私には匙加減がいいと思えました(この人、とんでもないアホ映画にマジで出ることがあり、その態度全体がユーモアという側面はあります)。

冒頭は太ってしまった労働者なので、しょぼくれて乾いた感じです。独身で小さなアパートに戻っても特別することは無い。このまま年を取って年金生活になるのでしょうが、経済状態ではホームレスと近い所にいます。アパートはまあまあ片付いていて清潔そうですが、質素。フロイドは甥が成功していて羽振りがいいので、ジャクソンのしょぼくれぶりが目立つようになっています。

喧嘩しながら無理やり連れ出された後は、車に乗り、言い合いをしながらアポロ劇場に向かいます。所々で舞台にも立つので舞台衣装を着ますが、腹についた脂肪が祟ってボタンがかからなかったりします。その上衣装は60年代後半、70年代頃のザ・テンプテーションズ風なので現代から見るとちょっとダサい。

それがフィナーレ、アポロの舞台に立つ時は渋いゴールドの衣装。身のこなしも当初より軽くなっており、体重を引きずるようなことはありません。恰幅のいいおじさんが2人、カッコよく踊りながら歌います。まあ、そのカッコいいことと来たら、惚れ惚れします。しかも主演の2人が自分たちで歌っています。

まあ、脚本の流れから見てもそうやって最悪の状態から最高の状態に持って来るという筋なのでこれでいいですが、ジャクソンは自分がどういう風に見えるかきっちり計算しています。しかもわざとらしく見えないようにと、そこまで計算してあります。このままソウル歌手になったら、と思ったとたんにバーニー・マックが他界。

映画界でソウルが上手い人はと言うとポール・ジアマッティーがいますが、彼はテノールなので、ユアン・マグレガーとのコンビの方が合います。ジャクソンはザ・フォートップスの曲でもこなせそうな歌いぶりですが、サム&デイヴの曲にぴったり合います。この際パートナーをずっと前に失ったサム・ムーアを呼んで来て、映画・音楽界コンビにでもしたらと思えるぐらいです。

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