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アンストッパブル /
Unstoppable /
Unstoppable - Ausser Kontrolle /
Imparable /
À fond de train /
Imparável /
Incontrolável /
Unstoppable - Fuori controllo

Tony Scott

2010 USA 98 Min. 劇映画

出演者

Denzel Washington
(Frank - 定年前解雇が決まっているベテラン機関士)

Chris Pine
(Will - 新米で周囲から浮いている機関士)

Jessy Schram
(Darcy - ウィルの別居中の妻)

Jeff Wincott
(Jesse - ウィルの兄)

Kevin Dunn
(Galvin - 運行部長)

Rosario Dawson
(Connie - 鉄道管制センターの職員)

Lew Temple
(Ned - 几帳面な溶接工)

Kevin Chapman
(Bunny - 管制センターの通信士)

Kevin Corrigan
(Werner - 連邦鉄道局員)

David Warshofsky
(Judd Stewart - ベテラン機関士、フランクの長年の友人)

Ethan Suplee
(Dewey - 事故の原因を作った機関士)

T.J. Miller
(Gilleece - デューイーの相棒)

Meagan Tandy
(Maya - フランクの娘)

Elizabeth Mathis
(Nicole - フランクの娘)

見た時期:2011年6月

★ はらはらする劇映画 ― 元ネタの方が凄い

自分の作風も確立し、大スターを使って何作も成功作を出しているトニー・スコットと、オスカーも貰い、自分で監督も始めた安定したスターのデンジル・ワシントン、しかも共同で仕事をするのも数回。安心してみていられるアクション映画です。

フィクションの劇映画ですが、大きな部分実話に基づいています。その中でも1番大きな部分は以下にご紹介する事件に基づき、その他にいくつか実話エピソードを盛り込んだようです。

☆ 元ネタ

タイトルを直訳すると《止められない》ですが、意訳するとまさに《暴走機関車》。機関士の乗っていない暴走貨物列車事件です。2001年米国オハイオ州で起きたCSX8888号暴走事故(クレイジーエイツ事故)からかなりの部分を引用しています。

原因の部分はフィクションで多少変えてある可能性もありますが、アンストッパブルでは雑な仕事をする機関士が、同僚が止めるのも聞かず、低速度で走行中の機関車を降り、ポイント切り替えをした後走れば機関車に追いつくだろうと楽観していたら、うまく行かず、列車がそのまま無人暴走を始めます。

映画と実話では事実関係は似ていますが、アンストッパブルでは関係者の性格や、タイプを変えたり、解釈を変えてある可能性もあります。そこまで詳しくはチェックできませんでした。

CSX8888号暴走事故は無人走行が始まってから3分で通報され、奇跡的にも2時間ほどで終息し、事なきを得たのですが、それを考えるとスコットがアンストッパブルの上映時間を120分にしても実話通りなわけです。スコットは手際よくシーンを編集して100分弱に収めています。

実話ではスコットの作品に出て来るような、先回りして列車に人が乗り込む試みや、人工的に脱線させる方法が試みられたのですが、映画と同じく失敗。積荷は化学薬品を含む危険な物質、それもかなり大量。そして暫くすると人口密集地があり、そこで爆発を起こすとえらい事になるとの予測。

万策尽きたと思われた時(発生後1時間30分、映画ならもう終わりそうな頃)ベテラン機関士(ワシントンの役に当たる人物)と新米機関士(同パイン)が、自分たちの乗っている機関車をバックさせながら暴走機関車を追いかけ、連結させて、後ろ向けに引っ張ろうと思い立ち、実行。嘘のような実話で、作戦が成功します。

アンストッパブルだけを見ていると、「ああ、また列車物か、どうせ劇映画だから上手く行くんだ」と思ってしまいますが、実話の発生から終息までが約2時間と考え、その間に起きたやり取り、列車に乗り込む試み、脱線の試み、住民避難がその時間内に行われたと考えると、奇跡としか思えません。いったいどれだけの人間がこの短い時間に動いたのか、決断を迫られたのか、決断したのか、実行したのか、失敗後次の計画を立てたのか、また決断したのか、実行したのか・・・どこかの VIP に DVD をプレゼントしたい・・・。

私は先に映画を見、後から実話を知ったのですが、もし逆だったり、実話を知った後でもう1度映画を見るとスリルが二乗されます。ネタバレしてから見ても色褪せません。

★ スコット監督 + ワシントン

スコット兄弟は兄弟ともおもしろい作品を作ります。弟のトニー・スコットとワシントンが組むのは5本目だそうです。と言われて数えてみると私に分かる範囲では4本目。その他に1つ兄のリドリー・スコットとの仕事があります。

トニー・スコットの作品で見たことのある物もかなり数が増えていました。本作を加えると、ざっと見渡しても8本。作った本数が多くないのでかなりの割合になります。

ワシントンは最近自分で監督もやるようになっていますが、俳優としてはかなり名のある監督に使ってもらっています。スコットはスコットでかなり名のある俳優を主演に使っています。言わばスター同士の協力と言えます。

ワシントンはオスカーを貰っていますが私の目には大根役者に映ります。ただ本人はオスカーは演技力に対して来るものではないとよ〜く理解しているらしく、受賞による精神的な負担など全く感じず、自分のチャンスを有効に生かしています。

スコット監督の方も兄弟で売れっ子監督ですが、兄弟喧嘩をしている様子は見られず、相談したり協力したりすることもあるようです。

と言うわけで八方丸く収まる主演と監督です。

★ キャスト

スターと言えばワシントンと重要な脇役のドーソン。もう1人やや名前が知られているのが準主演のクリス・パイン。鉄道一家に生まれ、新米なのに贔屓されているとねたまれ、他からやや浮いた人物を演じています。芸能一家に生まれた人なので自分の事を交えながら演じたのかとも思いますが、両親は物凄い大スターだったとかではありません。私はフェーズ6スモーキン・エース/暗殺者がいっぱいを見ていますが、顔は覚えていませんでした。この2作に比べるとアンストッパブルは顔をちゃんと覚えてもらえる役なので得ではないかと思います。

★ ストーリー

実話説明のところであらかた説明は終わっています。

事実かを確かめる術もありませんが、映画では2人の機関士の家族のエピソードがいくらか交えてあり、事故の原因となった男の性格描写があり、死亡事故を1つ挟み、あとは会社の上部と実務担当者の間の軋轢、警察や消防の配備、住民の避難の様子が交えてあります。

こういったエピソードにフィクションを挟む余地があるかとは思いますが、事件は概ね実話に沿っています。

★ 今見ると

3月11日より前に見たら、「同じスコット + ワシントンの失敗作サブウェイ123 激突の亜流か。なぜ同じような話を2度も作ったんだろう」という感想になると思います。3月11日より後で見ると、まさに「これだ!」という感想になります。

事故の内容は鉄道関係ですが、会社の上部と現場で実務をやっている人のズレがよく表現されていて、最近どこかで毎日聞かされている話と似ているなあと思わずにはいられません。実務の担当者が列車の重さや速度を素早く頭の中で計算し、「この試みは成功するわけがない」と一刀両断。それでもやってみて、やはり失敗という部分も、もしかしたら最近どこかで起きた大事故でもこういういざこざがあったのではとかんぐりたくなるような話です。

オハイオの事件は2時間後ハッピーエンドで決着がつきましたが、日本はそうは行っていないと考えると心が痛みます。アンストッパブルの中で市街地で列車と貯蔵タンクがぶつかって大爆発が予想されるところがあります。それを見て千葉県のタンク火災事故を思い出し、千葉の事故が人の少ない所で良かったと思うばかりです。オハイオの町のド真中に実際にああいうタンクがあったのかは分かりませんが、アンストッパブルでは人口密集地に急カーブがあり、その目の前に可燃性の物を入れたタンク群があるという風になっています。事件が起きる州や都市名を変えてあり、いくつかの他の事件のエピソードを盛り込んであるので、オハイオの事件 = 映画 ではありません。クライマックスを作るために危険をスタントンという町の市街地に集中させたとは思います。

この作品と日本の現実を比較してため息が出るのは、こんな普通の都市の普通の鉄道関係者でも、危険に対する自覚がきちんとできていて、これこれしかじかが重なったら、こういう結果になるという考えに即座に及び、それぞれ立場が違うので方向が違ったとしても、危機感の大きさだけは一致していた点です。ゴルフ中の社長もプレー中に電話が入って来ても怒りもせず、冷静に決断をしています。重要な部分で決断をし、他は専門の部下に任せています。部下の方は1つの作戦が失敗すると即座に次の作戦に移り、それも失敗するとまた次を試み、そのために人員を割き、警察や消防も即座に行動しています。現在の日本ではこういう系統のどこかに穴があり、せっかく働ける人たちが十分使われていないような気がします。東北では上手く行ったため事件にも話題にもならない出来事が山ほどあったとは思います。何も無いのはいい知らせで、3月11日から毎日聞かされているニュースがあること自体が状況の悪さを示しているように思います。

最近ハッピーエンドの映画を見たくなってしまうのはそのためでしょうか。

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