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USA 2011 137 Min. 劇映画
出演者
Leonardo DiCaprio
(J. Edgar Hoover - FBI 長官)
Dylan Burns
(フーバー、子供時代)
Jack Donner
(フーバーの父親)
Judi Dench
(Annie Hoover - フーバーの母親)
Joe Keyes
(フーバーの兄弟)
Sadie Calvano
(フーバーの姪)
Naomi Watts
(Helen Gandy - フーバーの秘書)
Armie Hammer
(Clyde Tolson - 捜査官、副長官、フーバーのパートナー)
Ed Westwick
(Smith - 捜査官、フーバーの伝記担当)
Josh Hamilton
(Robert Irwin)
Geoff Pierson
(Mitchell Palmer - 司法長官、自宅が爆破される)
Cheryl Lawson
(パーマーの妻)
Kaitlyn Dever
(パーマーの娘)
Brady Matthews
(監査官)
Christian Clemenson
(Schell - 監査官)
Gunner Wright
(Dwight Eisenhower - 米国大統領)
David A. Cooper
(Franklin Roosevelt - 米国大統領)
Roberta Bassin
(ルーズベルトの秘書)
Christopher Shyer
(Richard Nixon - 米国大統領)
Larkin Campbell
(H.R. Haldeman - ニクソンの側近)
Jeffrey Donovan
(Robert Kennedy - 司法長官)
Dermot Mulroney
(Schwarzkopf - 大佐)
Josh Lucas
(Charles Lindbergh - 飛行家、誘拐された子供の父親)
Josh Stamberg
(Stokes - 捜査官)
Michael James Faradie
(捜査官)
Scot Carlisle
(Williams - 捜査官)
Michael Rady
(Jones - 捜査官)
Miles Fisher
(Garrison - 捜査官)
Mike Vaughn
(捜査官)
Kelly Lester
(主任秘書)
Jordan Bridges
(法律家)
Jack Axelrod
(Caminetti)
Jessica Hecht
(Emma Goldman)
Billy Smith
(情報員)
Allen Nabors
(Appel - 捜査官)
Jamie LaBarber
(Ginger Rogers)
Emily Alyn Lind
(Shirley Temple)
Damon Herriman
(Bruno Hauptmann - 誘拐事件容疑者)
Teresa Hegji
(ハウプトマンの妻)
見た時期:2012年6月
★ 監督と主演
イーストウッドは時々誰かに頼まれて監督を引き受けたのかな、自分の興味で作ったのではないのかなと思わせる作品も撮ります。エドガーはややそういう気がしないでもありませんでしたが、半分は自分の興味があって撮ったのかなという気もしました。
フーバーという人物の作品を撮るという点では誰かに頼まれて引き受けた仕事ではないかという気がしました。しかしカプリオに青年から老人までを演じさせたところではイーストウッド自身の関心もあったのではないかと思います。
私はカプリオについては未だに成長中、訓練期間中という気がして、演技力に確信が無いのですが、スコシージのお抱え俳優であり、たまにイーストウッドなどという力のある監督の所で仕事をするなど、本人は全く焦らず経験を積むんだという意欲にあふれています。偶然なのかも知れませんが、今回またアメリカを代表すような人物の一生を演じており、前回よりは努力が実ったと思います。
★ 焦点がぼけたと言われる - ゲイ
もう何十年も前になりますが、井上さん、お友達と一緒にクイーンのインタビューに関わったことがあります。色々なクイーンと関わりのある井上さんですが、ここで言うクイーンは小説家。・・・などと言っても最近はその方面のマニアでなければ知らないと思いますが、長い間世界中で知られた探偵小説家で、今でもアガサ・クリスティー、S. S. ヴァン・インと並ぶ3大探偵小説家だと言われています。どんな人と比べられていたかで一応当時の知名度が想像できるかと思います。ま、ポップス界で言うとビートルズ、ローリングストーンズ、ビーチボーイズを比べるようなものです。
「あの頃君は若かった」と言われればその一言で片付いてしまいますが、クイーンというペン・ネームで長年活躍していた従兄弟のうちの1人が来日すると気付いた井上さんが仲間に連絡し、スパイ大作戦さながら、突撃隊と言うにふさわしい無茶をやりました。
幸いにもクイーンは通り一遍の新聞記者のインタビューに辟易していたようで、本当の読者である私たちに会ってくれると言いました。で、思いも寄らぬ長時間のインタビューに成功。通訳をすっ飛ばして直接行ったので、正味30分貰え喜びました。その時間を延焼してもらえ大喜び。話は多方面に及びましたが、今考えてもよくまああの時間内であんなにたくさん質問したものだと驚いています。
当時のクイーンは人間が年を取るということに興味を持っていて、作品もそういう方向に行っていました。ここでなぜクイーンを持ち出したかと言うと、イーストウッドも高齢になってから何度か年を取って行く人間を描いており、それがどうも監督自身の関心事のように見えるからです。
ところでクイーンはゲイではないかという噂が付きまとった作家でした。まだ若くて何も知らなかった2人の従兄弟が深く考えずにペン・ネームにクイーンという言葉を選んだことと、ペンネームの裏に2人の男性が潜んでいて、2人が仲良しだったことから出たようです。
2人は子供の頃ニューヨークに住んでいて、両親が身内だったこともあり、幼馴染み。いくらか対照的な性格で違う才能を持っていたのでコンビとしてウマが合い、不況の真っ只中筆で身を立てるようになりました。後から言われている話ですと、私たちが会った方のクイーンがプロットを立て、その時すでに他界していたもう1人のクイーンに文才があったとのことです。
2人が今日で言うゲイだったかどうかは定かではありませんが、私はどちらかと言うとそうではなかったという印象を持ちました。インタビューには再婚した夫人を伴っており、2人は仮面夫婦ではなく、よく理解し合っているような印象でした。「一緒に年を取って行こうね」と言いながら結婚したような感じの2人でした。
長い間一緒に仕事をした従兄弟なのでたまには喧嘩もしたでしょうし、意見の違いもあったのでしょうが、かなりの数の作品を残しています。活動期の前半はすぐ近所に住んで毎日会っていたようですが、後半は距離を保ち別々な活動をしていました。時には東と西海岸に別れて住んでいたようです。しかし男性が2人でつるむとゲイという疑いを持たれ、それがキャリアに悪い影響を与える時代でした。
クイーンとほぼ同じ時期に小説の犯罪ではなく、本物の犯罪と取り組んでいたのがフーバーとトールソン。2人は元々は上司と部下。トールソンが応募して来て、フーバーが採用したという関係です。トールソンは自分のキャリア、経験のために応募するだけであって、「いずれは退任する」と雇われる前から言っていました。しかし一目惚れだったらしく、結局は40年の付き合い。
伝記、報道などによると2人はゲイのパートナーだったとされていますが、実際の関係ははっきりしません。なにしろ公にできる時代ではなく、同居などもってのほかという頃です。そして日本人の目から見て欧米はややこしいなあと思えることが1つあります。アブラハムの3兄弟と言われる宗教が理由ではないかと思われるのですが、男性が特定の男性に対して信頼や友情をあまりおおっぴらにできないメンタリティーがイスラム圏からキリスト教圏に広がっていることです。
日本ですと大昔から男同士の固い友情という話はしょっちゅうあります。結婚とは別に長年の友人、知人、上司、部下など様々な人間関係があり、社会で受け入れられています。ゲイ関係ではなく一般の信頼関係ですが、強い絆も頻繁にあります。そういう気持ちを表現しても眉をしかめられたりすることはありません。欧米では肉体関係に至らない強い信頼関係でも、あまり強く表現すると社会から浮き上がってしまうことがあります。社会がリベラルになる前ですと大問題になってしまうことがありました。その種の緊張が緩和された現代では逆にやり過ぎるぐらい見せびらかす人がいて、やることが仰々しいです。日本では男同士の篤い友情などは美談の一種ですが、欧州では年を取った姉妹がよろつくので手をつないで歩いているだけでも変な噂を気にしなければ行けない時代がちょっと前までありました。
もう1つ東西を分けていると思えるのは TPO。仮にゲイのパートナーがいるとして、日本なら意思表示を人前であからさまにするかということです。最近は日本が変に欧米化して、似たような面が輸入されているような気がしないでもありませんが、日本人は以前は男女の恋愛でも人前でべたべたということはしませんでした。そういう文化と同性同士の友情が別に珍しいことではないという国柄のため、日本人はあまり神経質になりませんが、欧米ではプラトニックな関係だけでも隠していないと行けない時代が長かったようです。
イーストウッドの J. エドガーでは時たまフーバーとトールソンが接近するシーンがありますが、全体を見ると別々の家に住み、毎日昼食を一緒に取り、仕事の大部分を一緒にやっていたようで、夜になるとそれぞれ自分の家に帰っていたようです。寝る時間以外はほとんど時間を共有していた2人ですが、信頼や愛情の表現は自粛していたようです。イーストウッドはそういう風に描いています。
注目すべきは J. エドガーの精神的なバランスはフーバーの母親、トールソン、女性秘書のガンディーの間で保たれていたことです。フーバーは事によったら結婚するつもりもあった人物です。私が長い間知っていた写真ですとうるさそうな親父に見えますが、若い頃はかなりのイケメン。カプリオより美男でした。トールソンもかなりの美男で、彼の方がむしろ女性を避けていた様子。母親はゲイ関係には反対の姿勢、若い頃 J. エドガーに交際を申し込まれ断わっている秘書は全てを静かに見守る姿勢。
これだけで映画が1本撮れてしまうような関係ですが、イーストウッドは一定の重点をここに置いています。強い母親、弱い父親 → ゲイの息子という図式になっています。これだけで1本撮ったとしたら、こんな単純な図式にはならなかったのかも知れません。
★ 焦点がぼけたと言われる − 歴代大統領との確執 − 脅迫の名人
私も子供の頃からフーバーという名前、FBI という組織、フーバーの中年の頃の顔写真は知っていましたが、まさか1人でん十年も長官を務めていたとは知りませんでした。そして歴代大統領の首根っこを盗聴という手段で押さえていて、長官が大統領を脅迫できる立場にいたとは知りませんでした。J. エドガーを制作した意義はそこをちゃんと示したところにあると思います。
フーバーの脅迫作戦が成功してしまった理由は非常に少人数の人しか信頼しない性格、他の人間に対するパラノイアに近い警戒心、職人的とも言える仕事に対するきっちりした取り組み、新しい技術に対して拒否反応を示さない、若くてまだ上に上司がいた頃から物怖じせず目的を達するために次々上司に対して提案をするなどの点だったと思います。国を守るという大儀は通ると思いますが、良く見ると自分の考えに周囲を合わせるためには手段を選ばない、歴代の大統領を脅したことで1人の長官が国会などの議決と別な所で国の方針に口を挟んでおり、三権分立を無視したという問題点が浮かび上がります。
もう少し踏み込んでもらいたかったのはニクソンとの確執。ニクソン自身が警戒心の強い人物で、大統領に就任するよりはるか前から政権の中枢にいたのでフーバーの事は恐らく知っていたと思います。そのニクソンとフーバーの駆け引きはおもしろかったと思います。日本ではニクソンが共和党所属なので、保守、反共だろうという印象がありますが、ニクソンはベトナム戦争を終わらせた人物でもあり、共産中国と正面から交渉に踏み切った人。なので真性反共のフーバーとは反りが合わないはずです。
★ 焦点がぼけたと言われる - リンドバーグ事件
リンドバーグはパイロットで、大西洋単独無着陸飛行で有名になった後、まだ2歳にもならない長男を誘拐されました。J. エドガーに出て来るように身代金を払ったにも関わらず息子は死体で発見されました。この事件はフーバーも担当しています。フーバーは全体としては指紋鑑定を始めとした CIS のような科学捜査を目指しており、当時現代の CIS のような設備が整っていたらこの事件はすっきり解決したと思われます。子供は生きて発見できませんでしたが、フーバーは事件を上手に利用して、所謂リンドバーグ法を作りました。誘拐事件が州境を越えて行われた時に FBI が乗り出せるようになります。
当時この事件をめぐっては現代の視点からするとちゃんと調べられていない面がいくつか残っており、そもそも誘拐だったのか、子供はどの段階で死んだのか、初期にちゃんと子供を仁義のフォーゲル捜索のように気合を入れて捜索したのか、金を要求した人物と誘拐犯は同一人物なのか、死刑になった容疑者になぜアリバイがあるのか、なぜ長男は火葬になったのか(欧米は土葬が多い)、長男は本当に死んだのか(名乗り出た男がいるが、リンドバーグ家は鑑定に応じない)など、今でも CSI が出動できれば全く違う結果が出る可能性すらあります。
と言うわけですので、この部分だけで1本映画を撮ってファンタにでも出してくれたら私なら見に行きます。
★ 焦点がぼけたと言われる - テーマが多過ぎる
フーバー若かりし頃のアメリカは、共産主義をどのぐらい容認するかで悩まされていました。アメリカに共産主義は馴染まないという立場を支持するフーバーはそれまで大した役に立たなかった捜査機関を作り直す機会を得、FBI 作りに進んで行きます。取り敢えずは BOI という既存の組織のトップに就きます。そして特に悩まされたのが管轄に関する法律。ボニーとクライドでお馴染みのようにギャングが州境を越えると地元警察は手が出せなくなってしまうのです。そこでフーバーは特定の凶悪犯罪については FBI が全国規模で捜査するように法律を変えます。中でも有名なのは上に書いたリンドバーグ法。後には外国と国内の管轄を CIA と分け、外国からの工作でも国内で犯罪が行われれば FBI が担当、アメリカが外国に仕掛ける工作は CIA が担当と言う風に住み分けられます。また以前と同じく1つの州内の犯罪は地元警察が担当し、普通は FBI は出ません。
FBI という組織を描くだけでもかなりの事ができますし、所々にエピソードとして使われた事件もそれ1つで映画を撮ることが可能。そしてフーバーもヒューズと同じく人間に対する不信感からパラノイアと言えるほど駆り立てられて行きますのでそのキャラクターだけでも映画が1本撮れそうです。
2時間ちょっとの間にゲイ・テーマ、大統領脅迫テーマ、リンドバーグ事件他の事件を混ぜたので、1つのテーマに割く時間が限られ、焦点がぼけたという評価になっています。
★ 大根役者カプリオ
上にも書いたように私はまだカプリオをデニーロ、ニコルソン、パシーノ、ダフォーなどと比べて何でもできる完成した俳優と見ていないのですが、カプリオ作品だけを見るとこれまでに見たどの作品よりも一歩進んだような印象を受けます。ギルバート・グレイプは比較的良かったですが、その後はキャッチ・ミー・イフ・ユー・キャンの1シーンで上手いなと思っただけ。たくさんチャンスを貰っているわりに大根役者だと思いますが、今回は青年から老人までをそつなく演じたように思います。
1つ考えられるのは、ドイツ語の吹き替えをやっている俳優がタイタニックの青年カプリオのイメージのままなので、そこでマイナス・イメージが溜まってしまうのかなということ。英国などには時々この顔からどうしてこんな声が出るんだろうと思えるような、声だけで名演技のできる俳優がいます。もしカプリオにそういう才能があるのだとすれば、私は吹き替えのところでとんでもない誤解をしていることになります。今度いつかカプリオの作品を英語で見た方がいいのかも知れません。
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